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研究

教員インタビュー(この人に聞く)

小矢野幹夫 教授

未利用熱を回収して発電「熱電変換」で省エネ・環境問題に貢献

小矢野幹夫 教授

環境・エネルギー領域 融合科学共同専攻 小矢野幹夫 教授 Koyano Mikio

広島大学理学博士。広島大学理学部物性学科助手を経て、1994年に本学に着任。専門は固体物性、熱電材料と熱電変換技術、低次元物質および化合物半導体の電子物性。

環境・エネルギー領域の小矢野研究室では、「熱電変換」に関する研究を行っています。
熱を利用して発電する方法としては、水を蒸気に変え、蒸気の圧力でタービンを回して発電を行う火力発電や原子力発電などが知られています。これに対し、温度差があれば、熱を直接、電気に変換できる技術が熱電変換です。微小な温度差でも発電できる、CO2を排出しない、タービンのような可動部がないなどの特長があり、IoT社会における分散型電源(環境発電)や、災害時の非常用電源としての応用が期待されています。



長い歴史と新しい可能性を持つ「熱電変換」

まず、こちらのデモ用の装置を試してください。モジュールに手のひらを当てると、体温と室温の温度差で発電し、モーターが回ります。これが熱電変換現象のひとつです。

熱電変換では、熱から電気を発生させるだけでなく、電気から放熱(発熱)または吸熱(冷却)を発生させることができます。
熱電発電の応用例としては、特殊用途になりますが、NASAの無人惑星探査機ボイジャーがあります。太陽光が届かない深宇宙にまで探査に行くボイジャーは、太陽電池では電力を確保できません。そこで熱電モジュールを搭載して電気をまかない、約30年にわたって観測データを地球に送り続けました。
熱電変換による加熱・冷却の応用分野としては、光通信があります。光通信に使用する半導体レーザーを一定温度に精密に制御するため、大量の熱電モジュールが光ファイバー網に取り付けられ、土中や水中に埋められています。

熱電変換現象は1800年代前半に発見され、以来、長い研究の歴史があります。熱電変換の今後の大きなフィールドは、何といってもエネルギー分野です。体温もそうですし、世の中には温泉の熱や、工場のボイラーの熱、自動車の排気の熱など、有効利用されず廃棄されている熱がたくさんあります。今後も廃棄される熱は増加すると考えられており、これらの未利用排熱を回収して補助的な電力として使用する熱電変換は、地球温暖化防止に貢献できる技術として期待されています。
私は先週、フランスで開催された熱電変換技術の国際会議(ICT2018)に参加しました。世界中から500人を超える研究者が集まり、基礎理論から応用まで研究を発表します。熱電変換は歴史こそ古いですが、21世紀の今、新たな視点で世界の注目を集めている分野だと言えます

「さがす」「つくる」「はかる」のアプローチで研究を進める

熱電材料にはさまざまな種類がありますが、現在の主流はビスマスとテルルの合金です。いずれも埋蔵量が少ないレアメタルで、特にテルルは非常に高価です。熱電発電を普及させるには、もっと安い材料が必要です。あるいは、既存の材料を使うにしても、もっと簡単に熱電変換モジュールを製造する方法を開発するというアプローチもあります。また、ナノスケールで熱の現象を調べるための基礎技術も重要です。このため私たちの研究室では、新たな材料を「さがす」、熱電モジュールを「つくる」、ナノスケールで熱を「はかる」という、3本の柱で研究を進めています。

「さがす」という点では、身近で環境にやさしい元素である硫黄を含む鉱物に注目した熱電材料の探索を行ってきました。2012年に私たちが発表した「テトラへドライト」は、銅、硫黄、アンチモンからなる硫化物で、鉛を含まないp型硫化物の中でもっとも熱電変換性能が高いということで注目を集めました。先日のフランスの会議でも、テトラヘドライトに関する報告がひとつのセッションになっており、この材料は世界の熱電変換材料の研究開発のひとつの潮流となっています。現在は、実験と計算機によるシミュレーションを組み合わせて、テトラへドライトの性能を越える新たな材料の探索に挑戦しています。

「つくる」に関しては、ビスマスとテルルの微粒子を有機溶媒に分散させた熱電インクを開発し、インクジェット技術を用いた熱電モジュールの作製に成功しました。5 対のモジュールに12 ℃ の温度差を与えると、微小電力用 DC-DC コンバータを駆動させるのに十分な20 mV の起電力が発生します。また、1対当たり500 x 800μm2という微小サイズモジュールの作製も実現しています。この技術を活用すれば、モジュールの生産性が飛躍的に向上するとともに、モジュールの形状を自由に設計することが可能になります。
ビスマス・テルルの熱電モジュールのインクジェット描画に成功したのは、これが世界初でしたが、私たちにとってこの成果はマイルストーンのひとつです。形を作って終わりではなく、発電性能の向上についても研究を続けており、近い将来、大きな成果を発表できるのではないかと期待しています。

「はかる」という点では、ナノスケールで熱がどう流れるかという測定を行っています。これは熱電変換の基礎科学としても重要です。一方で、スマホやPCなどのデバイスが、μmオーダーのトランジスタからの発熱に由来して熱くなることを考えれば、そこでの熱のふるまいを知ることは、製品を開発する上でも重要です。これに関しては、学内外の研究者とプロジェクトを進めていこうと考えているところです。

熱電発電は、エネルギー変換効率の課題など物理的に難しい面もありますが、それでも、大規模な設備を使わず電力を得ることができるというメリットがあります。特に私は、身の回りにある微小な未利用熱を用いた発電技術に興味があります。前述のインクジェット技術を活用すれば、人の体温で身につけながら充電できるスマホや、IoTに欠かせないウェアラブル端末の実現も夢ではありません。すべての電気を熱でまかなうことは難しいですが、ある程度を補える「熱の地産地消」が実現できれば嬉しいですね。

教科書を教えるのではなく、教科書に載るような研究をしたい

熱電変換は、物理だけでなく電気、熱、理論、計算、材料など、さまざまな知識を融合させて新しいものをつくっていく総合的な科学です。ただし、研究室ではオールラウンダーの人材のみを育てるわけではありません。一人ひとりが自分の得意なところを伸ばし、不得意なところは仲間の力を借りてチームで課題に挑む力を身につけ、社会に巣立っていってほしいと思います。多様な知識が身につくことから、就職先の幅が広いのが当研究室の特徴です。

私自身はもともと教員志望で、修士二年次には採用試験も受けました。そうした試験に出題される問題は、何百年かけて学問として確立され、多くの人々が学んできたものです。それに比べて「自分が一週間前に出した実験データは、ぐちゃぐちゃのおかしなデータだったけれど、あれは世界でたったひとり、自分しか知らない事実だよな…」。そんな思いが湧き、教員ではなく研究の道に入りました。実験データが出たその一瞬の感動を、研究室で学ぶ学生の皆さんにも大切にしてほしいと思います。

平成30年7月掲載

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