研究

教員インタビュー(この人に聞く)

松見紀佳 教授

高い性能と安全性を備えた未来エネルギー材料を創出する

松見 紀佳 教授

物質化学領域 松見 紀佳 教授 Matsumi Noriyoshi

2000年、京都大学大学院工学研究科博士後期課程修了。
東京農工大学助手、名古屋大学准教授を経て2010年にJAISTに着任。専門分野は高分子合成、機能性高分子。

研究室ガイド 研究室HP

携帯電話やノートPCなどのモバイル機器や、電気自動車の電源として、また家庭用蓄電池としても脚光を浴びているリチウムイオン二次電池。世界中のメーカーがエネルギー密度の向上にしのぎを削る一方で、電池使用中の発火、爆発事故によるリコール報道が相次ぎ、安全性の向上が急務となっています。
物質化学領域の松見研究室では、安全性の確立を中心にリチウムイオン二次電池の研究開発に取り組むほか、その先を見据えた次世代電池の研究にも着手しています。



環境問題への意識が喚起された中高生時代

フロンガスの排出によるオゾン層破壊や、プラスチック汚染などの環境問題がクローズアップされていた頃に、多感な中高生時代を過ごしました。科学雑誌を読んだり、テレビのニュースなどを見聞きしたりするたびに、子ども心にも問題意識が喚起されました。
「環境問題はある意味化学産業の産物だけれど、それに対して何かできるのも化学ではないか」。そんな思いから有機合成化学、高分子合成化学の研究に取り組むようになり、そこから電気化学のフィールドに関わるようになりました。発電効率が高く、発電時に大気汚染物質が排出されない燃料電池や、再生可能エネルギー普及のキーとなるリチウムイオン二次電池など、環境とエネルギーの課題に対処する電池の研究にたどり着いたことは、偶然ではありません。
JAISTに来る以前は、名古屋大学農学部の大学院でバイオマスを活用したリチウム電池や太陽電池の研究に携わっていました。しかし、電池の科学は総合科学であると言われ、電池の中にはさまざまなケミストリーが詰まっています。たとえば電解質やバインダーは有機材料ですし、電極は無機材料です。電極と電解質、有機と無機の界面科学がそこで生まれますし、電気化学の知識も欠かせません。バイオマスだけ、高分子だけだと、どうしてもストラテジーが限られてしまいます。そんな意味で、化学も物理もバイオも抱合し、分野間の垣根が低いJAISTに新天地を求めました。



リチウムイオン二次電池の課題を解決する新規電解質を開発

リチウムイオン二次電池は、ノートPCやスマホなどのモバイル機器、あるいは電気自動車のバッテリーとして活用されています。今後は世界で車載用マーケットがさらに拡大すると予想されていますし、将来的には鉄道や航空機など他のビークルに広がっていくシナリオが考えられます。
リチウムイオン二次電池やそれを用いた蓄電システムが脚光を浴びる一方で、電池利用中に異常発熱や発火が起きるなど、安全面の課題が明らかになっています。スマートフォンの発火事故は記憶に新しいところではないでしょうか。
問題の根源は、リチウムイオン二次電池では一般的に揮発性・可燃性の液体電解質が使用されている、という点にあります。燃えやすい材料を使っている限り、発火事故は避けられません。私たちの研究室では、これを難燃性の電解質材料に置き換える研究に取り組んでいます。
具体的には、無機材料と有機材料を分子レベルで融合したハイブリッド材料の設計に取り組んでいます。すでにガラスのような難燃性と高いイオン伝導特性を兼ね備えた固体電解質材料の開発に成功しています。実際にこの難燃性電解質を用いて、優れた二次電池の充放電特性を実現しています。材料合成から評価まで一貫して行えることが当研究室の強みです。

安全性を妥協することなく、リチウムイオン二次電池のハイパフォーマンス化にも取り組んでいます。最近では、リチウムイオンの輸送選択制を大幅に高めることができる革新的な有機系固体電解質材料の開発に成功しています。



その先を見据えた、次世代電池の研究開発もスタート

リチウム空気電池、亜鉛空気電池など、リチウムイオン二次電池の先を見据えた次世代電池の研究開発にも取り組んでいます。
リチウム空気電池は、負極にリチウム金属を使い、正極には燃料電池と同じ空気極を使用するもので、理論的なパフォーマンスは、現在実用されているリチウムイオン二次電池の10倍と言われています。一度電気自動車を充電すれば、石川県から北海道までドライブできるイメージです。ポテンシャルだけで考えると次世代電池の本命のひとつに数えられますが、金属リチウムをそのまま電極として使うため、リチウムイオン二次電池以上に安全面が課題となっています。私たちが開発しているような絶対に燃えない電解質などを適用することで、デバイスの確立に貢献していきたいと考えています。
負極に亜鉛を用いる亜鉛空気電池は、リチウムイオン二次電池の約4倍のエネルギー容量が期待でき、安全面でも比較的扱いやすいことから、特にアメリカで活発に研究が進められています。日本では研究開発への参入が遅れていますが、そこに切り込んでいきたいと考えています。
このほか、新型電解質を活かすことができるような電極との界面設計にも取り組んでいますし、燃料電池用の電気化学触媒の研究も行っています。現在、燃料電池用触媒として使われているのは高価な白金です。私たちの研究グループは昨年、性能は商用触媒に匹敵しながらも、白金の使用量を15〜20分の1に減らした燃料電池の電極触媒を開発しました。前述したように電池は総合科学の産物ですから、多角的、総合的に研究に臨んでいます。



優れた研究成果と優れた人材を世に送り出すために

全学的な特徴ですが、JAISTは留学生の割合が多く、特にアジアから優秀な人材が集まっています。こうした環境にあって、日本だけでなく、アジアや世界でどんなニーズがあるのかを常に探求していく視点で研究を進めているのが当研究室の特色です。技術的にどれだけ優れていても、ニーズを踏まえた適切なアプローチをしなければ、研究が研究だけで終わってしまいます。また企業との共同研究を数多く手掛けており、学生のモチベーションにつながっています。
研究室は、優れた研究成果を世に出すと同時に、優れた人材を育てて社会に送り出す場所でもあります。教育面では、学生一人ひとりのバックグラウンドや興味に応じて、テーラーメイドの研究テーマを設計することを信念としています。当研究室の門戸を叩く学生の科学的知識レベルはさまざまですが、それぞれのレベルに応じて成長し、達成感を得ることが重要であると考えています。
学生によく言っていることは、2年ないし、3年、5年の間に思う存分研究活動を楽しみ、何かしらの足跡をここに残して自信を持って巣立っていってほしい、ということです。本研究室で成長した学生が、それぞれ希望する活躍の場、望みの仕事を得た時は、自分のことのように嬉しいものです。

平成29年4月掲載

PAGETOP