研究

教員インタビュー(この人に聞く)

丹康雄 教授

日常生活に役立つホームネットワークシステムの開発と国際標準化に挑む

丹康雄教授
情報科学研究科 丹康雄教授

東京工業大学博士(工学)。本学情報科学研究科助手、助教授を経て2007年から現職。専門は計算機ネットワーク、ユビキタスコンピューティング、情報家電。

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近年、地球温暖化やエネルギー危機を背景に、世界的にスマートグリッドやスマートハウスの研究が進んでいます。また東日本大震災を経て人々の意識や社会的ニーズは一変し、科学技術の方向性は消費電力の削減と再生可能エネルギーや分散電源の活用に改めて向かいつつあります。
日本では2011年12月に、スマートハウスの心臓部とされるスマートメーター・HEMS用の通信規格ECHONET Liteが公開されました。
ECHONETコンソーシアムおよび情報通信技術委員会(※1)のメンバーとしてECHONET Liteに関連する諸規格の策定に関わった丹康雄教授に、スマートハウス構築のための一連のホームネットワーク技術についてうかがいました。

※1 情報通信技術委員会
国内外の通信規格に関する活動を行う一般社団法人。丹教授は特別委員やアドバイザリグループリーダー等を務める。

高まるホームネットワークへの期待

ホームネットワークとは、家電、AV機器、住宅設備機器、情報通信機器をLANで接続し、さらにこれを外部とインターネットなどで接続してさまざまなサービスを実現するシステムです。ホームネットワークの開発は1970年代から行われており、時代ごとに新たな技術やニーズに基づき進歩してきました。現在は常時接続広域ネットワークの存在とクラウドサービスの出現を背景に、省エネや創エネを実現する「スマートハウス」に関するさまざまな議論が行われています。

スマートハウスホームネットワークシステムはエネルギーマネジメントだけでなく、生活の利便性の向上、見守り、防災など様々な分野のプラットフォームとして期待できます。ほんの一例ですが、時間と天候に応じて窓やカーテンの開け閉めを自動的に行ったり、家電の買い替え時期やリコール情報を教えてくれたり、介護サービスと連携して独居老人を見守ったり、あるいは災害時に迅速・適切に避難できる環境を確保し、家族の生存確認を家自体が行うといったことが可能になります。

スマートグリッド・スマートハウス時代を拓く新規格ECHONET Lite

ホームネットワークシステムを実現するためには、「つなげる」(コネクティブティの確保)、「感じる」(センシング)、「判断する」(制御ロジック)、「動かす」(アクチュエーション)、「記憶する」(データベース化)という5つの要素が必要となります。
このうち「つなげる」という要素に関しては古くから開発が進んでおり、「感じる」、「動かす」についても2011年にECHONETコンソーシアム(※2)が、異なるメーカーの家電機器を接続し、さまざまなサービスを提供する基盤となる通信規格ECHONET Liteを策定したことで大きな進歩を遂げました。家電の制御や消費電力量の把握はもちろん、太陽光発電システム等の発電機器の制御も可能です。現在、メーカー数社がECHONET Lite対応のHEMS(家庭向けエネルギー管理システム)を発売しており、政府も補助金を組んでHEMSの普及を後押ししています。なおECHONETは国際標準規格としても承認されています。
一方、課題が多いのが「判断する」という部分です。これについて我々は、テレビやエアコンなどの機器を制御する「ホームゲートウェイ」を家の内部に設置し、「サービスプラットフォーム」を介して外部のサービス提供事業者とつなぐ形を提唱しています。これは「サービスプラットフォーム型」と呼ばれる形態で、機器のメーカーやサービス提供事業者を問わないホームネットワークシステムの実現を可能にします。さらに前述の5つの要素のうち「記憶する」という部分も強化され、家族の嗜好や生活パターンにあったサービスの提供が可能になります。

でも、高性能なコンピュータは管理が…

p08_03.jpg私たちの研究室ではサービスプラットフォーム型のホームネットワークのあり方を検証するため、実際の住宅を模した「i-ハウス」をいしかわサイエンスパーク内に設置し、実証実験を行っています。また多数のスマートハウスから成るスマートコミュニティの可能性を探っていく上では裏付けとなるデータが重要とされることから、同パーク内にある大規模シミュレーター「StarBED3」を活用したシミュレーションも実施しています。

※2 ECHONETコンソーシアム
日本の家電メーカーや通信会社、電力会社、大学の研究者らで構成する団体。丹教授はアドバイザリフェローを務める。

日本の家電産業の強みを活かす

最近、日本の家電産業が国際競争力を失いつつあるという文脈のニュースを目にすることが増えました。日本は家電機器そのものを製造するハードの技術に優れているのですが、近年はアメリカなどに比べてネットワーク接続やソフト面での対応で遅れをとっている状況にあります。しかし日本のメーカーが得意とするものづくりの力を発揮し、国際標準規格であるECHONET Liteに対応する製品群を市場に投入すれば、スマートハウス関連の新ビジネスにおいて日本ブランドが再び世界を席巻する可能性も大いにあります。
当研究室の学生の多くはメーカーに就職しています。私が教育の面で重視しているのは「白紙に絵を描くことができる能力」を修得させることです。同時にアーキテクチャの設計からプロトタイピングまで、いわば上流から下流までを担える人材の育成を目指しています。これらは従来の日本の教育に欠けている視点です。JAISTに入学した学生には、ぜひ新しい視点に立ち、トライ&エラーを重ね、シリコンバレーで活躍する「ビジョナリー」と呼ばれるような人材を目指してほしいと思います。

平成25年3月掲載

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