研究活動の検索
研究概要(研究室ガイド)やプレスリリース・受賞・イベント情報など、マテリアルサイエンスの研究室により公開された情報の中から、興味のある情報をタグや検索機能を使って探すことができます。“量子スピンのダイナミクス”を計測・制御して応用へ繋げる


“量子スピンのダイナミクス”を
計測・制御して応用へ繋げる
量子センシング・イメージング研究室
Laboratory on Quantum Sensing and Imaging
准教授:安 東秀(AN, Toshu)
E-mail:
[研究分野]
量子スピンセンシング・イメージング、ナノMRI
[キーワード]
量子技術、ダイヤモンドNV中心、スピントロニクス、スピン波、プローブ顕微鏡、マイクロ波、共焦点顕微鏡
研究を始めるのに必要な知識・能力
固体物理、材料物性の基礎知識を習得していることが望ましいです。基礎を身につける勤勉さと新しいことにチャレンジする意欲。
この研究で身につく能力
研究活動を通して、自分で問題を設定し、これを解決し、他人や社会に成果を発信する能力を身につけます。このために、先ず、簡単な実験を通して自分で実験データの取得、装置の改良、解析、データのまとめ、研究発表ができる能力を育成します。その後、自分で新しくチャレンジングなテーマを設定し、これを解決してゆくことに取り組みます。その際には、他人と協調して研究を行うこと、英語文献の読解力や英語によるコミュニケーション力が必要で、これらの能力を身に付けることも重視します。
【就職先企業・職種】
研究内容

図1.電子や原子核の持つスピン自由度、電子スピン共鳴、スピン流

図2.ダイヤモンド中のNV中心と磁気共鳴スペクトル
電子の内部自由度であるスピンのダイナミクスを利用した新しい現象を探索し、これを応用したデバイスやセンサーを実現することを目指します。そのための基礎となるスピンダイナミクスの高感度センシングと高分解能イメージングの計測技術を重視して研究に取り組んでいます(図1)。
①ダイヤモンドNV中心を用いたナノ磁気センシング

図3.表面スピン波とダイヤモンドNV中心のスピン変換

図4.走査ダイヤモンドNV中心スピン顕微鏡
近年、ダイヤモンド中の窒素-空孔複合体中心(NV 中心)に存在する単一スピンは、高性能なスピンセンサーとして有用であることが判り(図2)、NV中心を利用したナノスピン(磁気)センシング(図3)・イメージング(図4)が注目されています。この NV 中心を走査プローブとした高感度・高分解能スピンセンサーを開発し、単一電子スピン、単一核スピンのダイナミクスをセンシングすることを目指します。
主な研究業績
- Yuta Kainuma, Kunitaka Hayashi, Chiyaka Tachioka, Mayumi Ito, Toshiharu Makino, Norikazu Mizuochi, and Toshu An "Scanning diamond NV center magnetometer probe fabricated by laser cutting and focused ion beam milling" Journal of Applied Physics 130, 243903 (2021)
- Dwi Prananto, Yuta Kainuma, Kunitaka Hayashi, Norikazu Mizuochi, Ken-ichi Uchida, and Toshu An "Probing Thermal Magnon Current Mediated by Coherent Magnon via Nitrogen-Vacancy Centers in Diamond" Phys. Rev. Applied 16, 064058 (2021).
- D. Kikuchi, D. Prananto, K. Hayashi, A. Laraoui, N. Mizuochi, M. Hatano, E. Saitoh, Y. Kim, C. A. Meriles, T. An, Long-distance excitation of nitrogen-vacancy centers in diamond via surface spin waves, Applied Physics Express, 10, 103004 1-4 (2017).
使用装置
磁気共鳴計測・制御装置(自作)、FPGA、LabVIEWによる電子制御
走査マイクロ波顕微鏡(自作)
共焦点光学的磁気共鳴顕微鏡(自作)
水晶振動子型AFMプローブ顕微鏡(自作)
超高真空・極低温走査スピン顕微鏡(自作)
研究室の指導方針
本研究室では、スピンのダイナミクスを利用してセンサーやデバイスへの応用へ繋げることを目標に、材料物性の基礎を理解し(“確かな知識”)、課題を自ら設定し(“自由な発想力”)、解決してゆく能力を育成します。毎日の研究において議論の場を多く設定し、コミュニケーション能力を高めます。課題を解決する手段としての新規計測手法の開発と工学的技術の取得にも取り組みます。意欲溢れる皆さんが研究に参加し、“わくわくする”研究の醍醐味に触れ、将来の活躍の基礎を確立する場を提供したいと考えています。
[研究室HP] URL: https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/toshuan-www/index.html
画像処理と電子顕微鏡を組み合わせて原子レベルでの物質の不思議を発見する


画像処理と電子顕微鏡を組み合わせて
原子レベルでの物質の不思議を発見する
ナノ物性顕微探索研究室
Laboratory on Microscopic Nano-Characterization
講師:麻生 浩平(ASO Kohei)
E-mail:
[研究分野]
原子スケール材料解析
[キーワード]
無機材料、固体物性、ナノ物質、ナノ計測、計測技術、画像処理、電子顕微鏡
研究を始めるのに必要な知識・能力
研究テーマと真剣に向き合う意思、周囲の声を聞き入れる素直さ、研究を進める日々を楽しむ気持ちが大切です。固体材料、電子顕微鏡、画像処理、確率統計のいずれかへの興味があると良いです。知識があればなお良いですが、必須ではありません。
この研究で身につく能力
一連の研究(材料の知識獲得、電子顕微鏡の操作技術、Pythonによる画像処理、結果の解釈、文章化、自研究室や他研究室とのディスカッション、成果としてのまとめ)を通じて、各項目の技術と知識、および研究をやり通す経験が身につきます。
一般的な技術としては、自分の考えを掘り下げて分かりやすく表現できるよう、文章力の向上に重点を置きます。進捗報告会など、日々の研究に関する交流を文章によって行います。将来的に、企業や大学において書類をまとめる際や、近年成長が目覚ましい生成AIを思い通りに動かすうえで、文章力は重要だと考えています。
【就職先企業・職種】 電気・材料メーカー、材料分析会社、大学の研究者や技術職員など
研究内容
原子レベルで起こる物質の不思議なふるまいを発見するために、画像処理と電子顕微鏡を駆使した手法開発を進めています。電子顕微鏡データは、そのままでは単なる数値の配列です。画像処理による解析を通して初めて、粒子サイズ、結晶構造、原子位置といった有益な情報が得られます1,2。また、最近では、動作中のデバイスの動画観察にも取り組んでいます3。時刻ごとの多数の画像で構成される動画を効率的に解析するうえでも、画像処理は欠かせません。
具体的な研究テーマとして、以下が挙げられます。
1. リチウムイオン電池材料の動作下ナノ解析
2. ナノ粒子を統計的・3次元的に解析する手法開発
3. 原子位置を精密解析する手法開発1−3
ここでは3に絞って紹介します。
原子位置を精密解析する手法開発
図1aは、棒状の金ナノ粒子の電子顕微鏡像です。像で明るく見える点は、奥行き方向にならぶ金原子の列です。一見すると、輝点は画像内で規則正しく並んでいるように見えますが、これが本当かを解析しました。
規則正しい周期位置からの原子のずれ、つまり原子変位を測定しました。従来の方法では、変位量が小刻みに変化して見えます (図1b)。これは原子変位の情報ではなく、解析の邪魔をする統計ノイズ成分です。
そこで、信号処理手法のひとつであるガウス過程回帰を用いることで、原子変位の情報を抽出することに成功しました(図1c)。測定可能な最小の原子変位は0.7 pm(ピコメートル、1兆分の1メートル)ときわめて小さく、材料のなかで生じる2.4 pmの原子変位を検出することに成功しました。
解析によって、粒子の先端部分に位置する原子列は、軸に沿って外側へと変位していることが発見されました。考察の結果、棒状粒子の先端と胴体で曲率が異なるため表面張力に差が生じ、局所的な変位が生じると示唆されました1。
図1 (a) 金ナノロッドの電子顕微鏡像。奥行き方向にならぶ金原子の列が明るい点として見えています。(b) 従来手法で測定した原子変位と (c) データ科学で処理した原子変位。原子が正常な位置から左にずれるほど暗い青色、右にずれるほど明るい黄色で示されます。
主な研究業績
- K. Aso, J. Maebe, XQ. Tran, T. Yamamoto, Y. Oshima, and S. Matsumura, “Subpercent Local Strains due to the Shapes of Gold Nanorods Revealed by Data-Driven Analysis”, ACS Nano 15 (2021) 12077
- K. Aso, H. Kobayashi, S. Yoshimaru, XQ. Tran, M. Yamauchi, S. Matsumura, and Y. Oshima, “Singular behaviour of atomic ordering in Pt–Co nanocubes starting from core–shell configurations”, Nanoscale 14 (2022) 9842
- J. Liu, J. Zhang, K. Aso, T. Arai, M. Tomitori, and Y. Oshima, “Estimation of local variation in Young’s modulus over a gold nanocontact using microscopic nanomechanical measurement methods”, Nanotechnology 36 (2025) 015703
使用装置
走査透過電子顕微鏡、解析用ワークステーションPC、集束イオンビームつき走査電子顕微鏡、電子顕微鏡用特殊ホルダー、電気化学測定装置、グローブボックス
研究室の指導方針
共同研究を活発に行っています。責任をもって自らの研究を進め、研究協力者も納得できる成果を挙げれば、自信につながります。加えて、自らの好みや賛否にとらわれず、多種多様な考えを受け止める幅広い視野が育まれます。個々の研究内容については、日常的に議論をおこない、必要があれば柔軟に軌道修正します。当初は想像しなかった面白いテーマが見つかるのも魅力です。学生の皆さんが大学院を終えるとき、研究を通して「ベストを尽くし、満足いく成果を挙げ、入学当初は想像もできない良い未来を迎えられた」と思えるよう、最大限サポートします。
[研究室HP] URL:https://www.jaist-oshima-labo.com/
電子顕微鏡とデータ科学の融合による新奇ナノ物性の探索


電子顕微鏡とデータ科学の融合による
新奇ナノ物性の探索
ナノ物性顕微探索研究室
Laboratory on Microscopic Nano-characterization
教授:大島 義文(OSHIMA Yoshifumi)
E-mail:
[研究分野]
電子顕微鏡、表面界面物性、ナノ物質
[キーワード]
オペランド観察、新計測技術、データ科学
研究を始めるのに必要な知識・能力
研究は、新しい何かを発見することです。そのなかでいちばん重要なのは「あきらめない」という強い気持ちです。能力としては、数学と物理の基礎知識を持っていることが望ましいです。
この研究で身につく能力
[基礎]:実験・学習・議論をとおして、固体物理学に対する深い理解が身につきます。
[技術]:電子顕微鏡、真空装置、3D-CADソフトの使い方を学びます。
また、Pythonプログラミングによるデータ解析を学びます。いずれも基礎から始めることができます。
[その他]:定期ミーティングでの発表をとおして、自分の研究を他者に分かりやすく伝えるスキルを学びます。
【就職先企業・職種】 電気・材料メーカー、材料分析会社、大学の技術職員など
研究内容

図1 (a) 実験の模式図。試料を保持するための装置 (試料ホルダー) は研究室で独自に開発しました。白金原子鎖の (b) コンダクタンス、(c) 剛性が測定できました。(d) 電子顕微鏡像。白金は暗く見えています。AとBにおいて、左右の白金を橋渡ししているのが単原子鎖です。

図2 (a) 金ナノロッドの電子顕微鏡像。奥行き方向にならぶ金原子の列が明るい点として見えています。(b) 従来手法で測定した原子変位と (c) データ科学で処理した原子変位。原子が正常な位置から左にずれるほど暗い青色、右にずれるほど明るい黄色で示されます。
本研究室では、ナノ材料がしめす新しい現象を探索しています。そのために、次のような研究に励んでいます。
☑ 電子顕微鏡によるナノ~原子スケールでの材料観察
☑ 材料の力や電気化学特性を測定できる新しい装置の開発
☑ データ科学の応用によって電子顕微鏡像から重要な情報を抽出
具体的な研究例を以下に示します。
よく伸びる白金原子の鎖状物質
電子顕微鏡のなかで材料を動かしながら、材料の電気伝導度、剛性、原子のならびを同時に測定できる特殊な試料ホルダーを自作しました1。このホルダーを用いて、幅が原子1個、長さが原子2~5個の白金鎖状物質の特性を調べました (図1)2。生活のなかで目にするふつうの白金は、原子が3次元的に結合しており、わずか数%しか伸びません。しかし、鎖状物質はもとの状態から+24%まで伸びました。1次元の単原子鎖にすることで、白金の結合特性が大きく変わることを発見しました。
データ科学による原子配列の解析
原子の正常な位置からのずれ(原子変位)を測定しました3。 従来の方法では、変位量が小刻みに変化して見えます (図2b)。これは原子変位の情報ではなく、解析のじゃまをするノイズ成分です。そこで、データ科学手法のガウス過程回帰を用いることで、原子変位の情報を抽出することに成功しました (図2c)。測定可能な最小の原子変位は0.7pm(ピコメートル、1兆分の1メートル)ときわめて小さく、材料のなかで生じる2.4pmの原子変位を検出することに成功しました。
主な研究業績
- J. Zhang, et al., Nanotechnology 31 (2020) 205706
- J. Zhang, et al., Nano letters 21 (2021) 3922
- K. Aso, et al., ACS Nano 15 (2021) 12077
使用装置
☑ 超高真空透過型電子顕微鏡
☑ 高度な物性測定をおこなうための電子顕微鏡ホルダー
☑ 3D-CADやデータ解析がおこなえるワークステーションPC
研究室の指導方針
研究室ミーティングを毎週おこなっています。担当の学生が、研究の進捗状況や、興味をもった論文について紹介し、みんなでディスカッションします。担当の頻度はおよそ3週間に1回です。固体物理を学ぶための読書会もあります。学生のあいだでの学びあい・教えあいや、ディスカッションを推奨しています。コミュニケーション能力を高めるために、国内外の学会で発表することも推奨しています。博士学生は、自らの研究に集中して科学雑誌に論文を投稿できるよう、最大限サポートします。
[研究室HP] URL:https://www.jaist-oshima-labo.com/
固体電子構造と局所配位環境のデザインにより所望の光機能を発現させる!


固体電子構造と局所配位環境のデザインにより所望の光機能を発現させる!
光機能無機材料化学研究室
Laboratory on Optical Functional Inorganic Materials Chemistry
准教授:上田 純平(UEDA Jumpei)
E-mail:
[研究分野]
無機化学、固体化学、光化学、ガラス
[キーワード]
蛍光体、蓄光材料、応力発光体、白色LED、レーザー励起、白色光源、近赤外蛍光体、蛍光温度計、高圧物性、有機長残光蛍光体
研究を始めるのに必要な知識・能力
知的好奇心をもち、積極的に研究に取り組み、コミュニケーションとディスカッションを通して学問の発展や新分野の開拓、自己の成長を遂げたいという意欲が必要です。必要な知識は問いませんが、無機固体化学の知識があると研究に有利です。
この研究で身につく能力
研究テーマは、材料合成、物性評価、応用展開の一連の内容を含み、研究を通して計画能力、課題把握能力、論理的思考や幅広い知見と様々な測定技術を習得できます。英語での研究発表会や最新英語学術論文を紹介する雑誌会のゼミによって、プレゼンテーション力と英語コミュニケーション力が鍛えられます。
専門的には、材料合成技術(無機固体粉末、セラミックス、透光性セラミックス、ガラス、単結晶)や物性評価技術(X線回折測定、X線吸収分光、基礎的な光学特性評価、蛍光寿命測定、光伝導度測定、真空紫外分光、蓄光材料評価手法、ダイアモンドアンビルセルによる高圧実験)など、固体化学と分光学の研究者としての能力を身に付けることができます。
【就職先企業・職種】 材料・化学メーカー、電機メーカー
研究内容

組成に伴う化学的、幾何学的変化により光物性を制御
身の回りには発光する材料やデバイスが多く存在します。例えば、白色LED照明、レーザープロジェクター、テレビやスマートフォンのディスプレイはその一例です。これらの発光デバイスには、短波長の光を吸収して長波長の光に変換する蛍光体と呼ばれる発光中心イオン(希土類や遷移金属など)を添加した無機固体材料が使われています。蛍光体の光物性は、発光中心イオンの種類やその幾何学的・化学的な配位環境、結晶ホストの固体電子構造で大きく変化します。本研究室では、これらの光物性を支配する要因を詳細に調査・特定し、高効率蛍光体や近赤外蛍光体、残光蛍光体など所望の光機能を有した固体材料をデザインしています。
◆白色光を創る!
白色LED照明やレーザー励起白色光源は、青色LED(またはレーザー)と可視蛍光体から構成されています。白色光源用蛍光体は、用途により要求される特性が異なり、最近ではディスプレイ用の発光バンドの半値幅の狭い「ナロ―バンド蛍光体」やレーザーの強励起でも消光しない「レーザー励起用蛍光体」などの開発が求められています。我々は、物理現象の解明を通し、より高い特性を有する蛍光体を戦略的に創製します。

開発した長残光蛍光体
◆光を蓄える!
通常、蛍光体は励起光を遮断すると、直ちに減衰し光らなくなります。しかしながら、励起電子の一部を結晶ホストに存在する電子トラップに蓄えることにより、数分から数日の時間スケールで光続ける蛍光体(長残光蛍光体または蓄光材料)を作製できます。我々は固体電子構造に着目し、光誘起電子移動機構を制御することにより、残光蛍光体を設計しています。
◆光で測る!
蛍光体の光物性は、温度や圧力により変化するので、特徴的な発光の変化を利用することにより、非接触・非侵襲型の温度センサーや圧力センサーとして使用できます。バイオ応用に向けた近赤外サーモメーターや高感度圧力センサーなどを開発しています。
◆その他研究テーマ
透光性セラミックス、フォトクロミック材料、熱ルミネッセンス蛍光体、応力発光体、アップコンバージョン蓄光、有機長残光蛍光体、太陽電池用波長変換材料、消光機構解明、圧力誘起相転移
主な研究業績
- A. Hashimoto, J. Ueda, et al., J. Phys. Chem. C. 127, 15611(2023).
- J. Ueda, et al., ACS Appl. Opt. Mater. 1, 1128(2023).
- Jumpei Ueda, Bull. Chem. Soc. Jpn. 94, 2807(2021)
使用装置
真空高温管状炉、X線回折装置
蛍光分光光度計、クライオスタット
波長可変レーザー、蓄光材料評価装置
ダイアモンドアンビル高圧セル
研究室の指導方針
当研究室では、メンバーの人数により調整しますが、1週間に一度の研究報告会と雑誌会(最新英語論文の紹介)を行います。規則正しい生活のために、コアタイムを9時から17時とします。研究テーマは、材料合成、物性評価、応用展開の一連の内容を含み、研究室での実験だけでなく、共通分析機器の利用や学外との共同研究により、幅広い専門知識と技術の修得ができます。基本的に、在籍中に国内学会や国際学会で、一度は研究発表を行って頂きます。また、得られた研究成果は、国際論文雑誌にて学生が第一著者または共著者として発表することを目指します。
[研究室HP] URL:https://uedalab.com/
第18回研究科セミナー(サスティナブルイノベーション研究領域)「サウサンプトン大学におけるサスティナブル電子技術の研究と新しい博士トレーニングセンター(CDT)の紹介」
日 時 | 令和6年10月8日(火)15:00~16:30 |
場 所 | マテリアルサイエンス研究棟4棟8階 中セミナー室 |
講演題目 | サウサンプトン大学におけるサスティナブル電子技術の 研究と新しい博士トレーニングセンター(CDT)の紹介 |
講演者 | Professor, Kees de Groot University of Southampton |
使用言語 | 英語 |
お問合せ先 | 北陸先端科学技術大学院大学 サスティナブルイノベーション研究領域 教授 水田 博(E-mail:mizuta ![]() |
● 参加申込・予約は不要です。直接会場にお越しください。
出典:JAIST イベント情報https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/event/2024/09/27-1.html精密な高分子設計による能動的電子輸送が終始可能に -高分子が触手のように電子を授受-

精密な高分子設計による能動的電子輸送が終始可能に
-高分子が触手のように電子を授受-
ポイント
- 精密に合成された高分子が能動的に電子を輸送するナノシステムを設計
- 実際の葉緑体に倣った光エネルギー変換システムの構築が期待
北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野稔、石川県能美市)、サスティナブルイノベーション研究領域の、博士前期課程大学院生 萩原礼奈、桶葭興資准教授、物質化学フロンティア研究領域の西村俊准教授らは、「電子を輸送する」高分子-金属ナノ粒子の複合組織を設計した。ここでは、三元系のヘテロ高分子が触媒ナノ粒子表面に結合しており、能動的な電子輸送システムとして機能する。従来の研究では、電子伝達には2 nm以内で著しく効率的になることが分かっていたが、この距離を制御する能動的なシステムは無かった。本研究の高分子は電子の授受に伴って相転移を起こし、能動的に触媒粒子との距離を変化させる。このようなナノシステムは、可視光エネルギーによる水の分解や水素生成の触媒作用のみならず、電池など電気化学反応を伴う系や人工酵素の系に展開することで、様々なエネルギー変換システムに有用と期待される。 |
桶葭准教授らの研究グループはこれまでに、持続可能社会の実現に向けて人工光合成[用語解説1]の高分子によるシステム構築に挑戦してきた。実際の光合成を行う葉緑体が持つ電子伝達組織、および電子移動に関するマーカス理論[用語解説2]に学び、今回、2 nm以内の電子輸送を能動的に起こす系を高分子の精密な合成を通して構築した。まず、三元系のヘテロ高分子を精密に合成し、これが結合した触媒ナノ粒子を作製した(図)。この高分子は、相転移[用語解説3]を起こす部位、ナノ粒子と結合する部位、そして電子を授受する部位から構成される。ここで、高分子中のビオロゲン分子[用語解説4]が電子を得ると、触媒の白金ナノ粒子まで迅速に運び水素生成する仕組みである。プロセスとしては、I) 電子を得たビオロゲン分子近傍の高分子が収縮する。II) この高分子の一部はナノ粒子表面に固定されているため、電子を得たビオロゲンをナノ粒子表面へ触手のように引き寄せられる。III) ビオロゲンが電子をナノ粒子に渡した後、この高分子は伸長して元に戻る。他方、このナノ粒子は水素生成の触媒として働く。このI~IIIがサイクリックに進む。従来の研究では、拡散律速に依存した受動的な電子移動が介在してしまっていたが、今回のシステムでは、高分子がナノ粒子表面に固定されたことでその能動的な電子輸送が終始可能となった。2 nm以内での電子移動において、著しく高い有効性が認められることは、理論だけでなく実証実験でも報告されていたが、この距離を制御する能動系はこれまで無かった。今回、高分子が触手の様に電子を捉えて触媒が電子を食べるような、アクティブなナノシステムが提案された。
上図:三元系のヘテロ高分子Poly(NIPAAm-co-AAm-co-Viologen) (PNAV)。相転移を起こす部位N、ナノ粒子と結合する部位A、そして電子を授受する部位Vから構成される。 下図:高分子PNAVが結合した白金ナノ粒子。光捕集分子などから電子を得たPNAV (PNAV+)は収縮し白金ナノ粒子に近づき電子を渡す。その際、PNAV2+となると伸長してナノ粒子表面から離れる。この能動的な電子の授受を繰り返す。 |
本成果は、2023年12月13日(英国時間)に科学雑誌「Chemical Communications」誌(RSC社)のオンライン版で公開された。なお、本研究は、文部科学省科研費 挑戦的研究(萌芽)(JP21K18998)の支援のもと行われた。
【論文情報】
掲載誌 | Chemical Communications (The Royal Society of Chemistry) |
論文題目 | Precise design of copolymer-conjugated nanocatalysts for active electron transfer |
著者 | Reina Hagiwara, Shun Nishimura, Kosuke Okeyoshi |
DOI | 10.1039/d3cc05242g |
掲載日 | 2023年12月13日付、オンライン版 |
【今後の展開】
高分子の相転移を用いた電子の能動輸送は、エネルギー変換系(光エネルギーから水素生成等)だけでなく、次世代バッテリーなど様々な先端材料にとって有用なナノシステムと期待される。
【用語解説】
令和5年12月13日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2023/12/14-1.html第1回ナノマテリアル・デバイス研究領域セミナー「電子顕微鏡による高空間分解能電子状態解析」
日 時 | 令和5年2月17日(金)13:30~15:00 |
場 所 | 知識科学系講義棟2階 中講義室 |
講演題目 | 電子顕微鏡による高空間分解能電子状態解析 |
講演者 | 京都大学 化学研究所 先端ビームナノ科学センター 准教授 治田 充貴 氏 |
言 語 | 日本語 |
お問合せ先 | 北陸先端科学技術大学院大学 共通事務管理課共通事務第三係 (E-mail:ms-secr@ml.jaist.ac.jp) |
● 参加申込・予約は不要です。直接会場にお越しください。
出典:JAIST イベント情報https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/event/2023/01/17-1.htmlナノ物質の強度を決める表面1層の柔らかさ ―電子顕微鏡観察下での金属ナノ接点のヤング率測定―

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国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学 国立大学法人 金沢大学 |
ナノ物質の強度を決める表面1層の柔らかさ
―電子顕微鏡観察下での金属ナノ接点のヤング率測定―
ポイント
- 金ナノ接点の物質強度(ヤング率)は接点が細くなると減少した。
- 独自開発の顕微メカニクス計測法でこの計測実験に成功。
- 最表面層のヤング率のみがバルク値の約1/4に減少。
- ナノ電気機械システム(NEMS)の開発に指針を与える成果である。
北陸先端科学技術大学院大学 ナノマテリアル・デバイス研究領域の大島義文教授、富取正彦教授、張家奇研究員、及び金沢大学 理工研究域 数物科学系の新井豊子教授は、[111]方位を軸とした金ナノ接点を引っ張る過程を透過型電子顕微鏡で観察しながら、等価ばね定数と電気伝導の同時に測定する手法(顕微メカニクス計測法)によって、金ナノ接点のヤング率がサイズに依存することを明らかにした。 金[111]ナノ接点は砂時計のようなくびれ形状を持つ。そのくびれは、0.24nm引っ張るたびに、より小さな断面積をもつ(111)原子層1層が挿入されることで段階的に細くなっていく。この観察事実を基に、挿入前後の等価ばね定数値の差分から、挿入された(111)原子層の等価ばね定数を求め、さらにこの(111)原子層の形状とサイズを考慮してヤング率を算出した。サイズが2 nm以下になると、ヤング率は約80 GPaから30 GPaへと徐々に減少した。この結果から、最外層のヤング率が約22 GPaと、バルク値(90GPa)の約1/4であることを見出した。このような材料表面での機械的強度の差は、ナノ電気機械システム(NEMS)の材料設計において考慮すべき重要な特性である。 本研究成果は、2022年4月5日(米国東部標準時間)に科学雑誌「Physical Review Letters」誌のオンライン版で公開された。なお、本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費、18H01825、18H03879、笹川科学研究助成、丸文財団交流研究助成を受けて行われた。 |
金属配線のサイズが数nmから原子スケールレベル(金属ナノワイヤ)になると、量子効果や表面効果によって物性が変化することが知られている。金属ナノワイヤの電気伝導は、量子効果によって電子は特定の決められた状態しか取れなくなるためその状態数に応じた値になること、つまり、コンダクタンス量子数(2e2/h (=12.9 kΩ-1);e: 素電荷量、h: プランク定数)の整数倍になることが明らかになっている。近年、センサーへの応用が期待されナノ機械電気システムの開発が進められており、金属ナノワイヤを含むナノ材料のヤング率などといった機械的性質の理解が課題となっている。この解決に、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)にシリコン製カンチレバーを組み込んだ装置を用いて、カンチレバーの曲がりから金属ナノワイヤに加えた力を求め、それによって生じた変位をTEM像で得ることで、ヤング率が推量されている。しかし、この測定法は、個体差があるカンチレバーのばね定数を正確に知る必要があり、かつ、サブオングストロームの精度で変位を求める必要があるため、定量性が十分でないと指摘されている。
本研究チームは、原子配列を直接観察できる透過型電子顕微鏡(TEM)のホルダーに細長い水晶振動子(長辺振動水晶振動子(LER)[*1])を組み込んで、原子スケール物質の原子配列とその機械的強度の関係を明らかにする顕微メカニクス計測法を世界で初めて開発した(図1上段)。この手法では、水晶振動子の共振周波数が、物質との接触で相互作用を感じることによって変化することを利用する。共振周波数の変化量は物質の等価バネ定数に対応するので、その変化量を精密計測すればナノスケール/原子スケールの物質の力学特性を精緻に解析できる。水晶振動子の振動振幅は27 pm(水素原子半径の約半分)で、TEMによる原子像がぼやけることはない。この手法は、上述した従来の手法の問題点を克服しており、高精度測定を実現している。
本研究では、[111]方位を軸とした金ナノ接点(金[111]ナノ接点)をLER先端と固定電極間に作製し(図1上段参照)、この金[111]ナノ接点を一定速度で引っ張りながら構造を観察し、同時に、その電気伝導、および、ばね定数を測定した(図1下段)。金[111]ナノ接点は砂時計のようなくびれをもつ形状であり、0.24nm引っ張る度により狭い断面をもつ(111)原子層1層がくびれに挿入されることで段階的に細くなることを観察した。これは、図1下段のグラフで電気伝導がほぼ0.24nm周期で階段状に変化することに対応していた。この事実から、挿入された(111)原子層の等価ばね定数を挿入前後の等価ばね定数の差分から算出することができ、さらに、この(111)原子層の形状やサイズを考慮することでヤング率を見積もった。なお、28回の引っ張り過程を測定して可能な限り多数のヤング率を見積もることで統計的にサイズ依存性を求めた(図2)。その結果、ヤング率は、サイズが2 nm以下になると、サイズが小さくなるとともに約80 GPaから30 GPaへと徐々に減少した。この結果から、最外層のヤング率が約22 GPaと、バルク値(90GPa)の約1/4であることを見出した。このような材料表面の強度は、ナノ電気機械システム(NEMS)の材料設計でも考慮すべき重要な特性である点で大きな成果である。
図1
(上段)金ナノコンタクトの等価ばね定数を計測する顕微メカニクス計測法。透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて金ナノ接点の構造観察をしながら、長辺振動水晶振動子(LER)を用いて等価ばね定数を計測できる。
(下段)(左)金ナノ接点の引っ張り過程における変位に対する電気伝導及び等価ばね定数の変化を示すグラフ。(右)変位Aと変位Bで得た金ナノ接点のTEM像と最もくびれた断面の構造モデルを示す。黄色が内部にある原子、青が最表面原子である。
図2
金[111]ナノ接点の引っ張り過程を28回測定して、統計的に求めた金[111]ナノ接点ヤング率のサイズ依存性である。横軸は、断面積である。赤丸が実験値であり、誤差は、同じ断面の金(111)原子層に対して得られたヤング率のばらつきを示す。青丸は、第一原理計算によって得た結果である。
【論文情報】
掲載誌 | Physical Review Letters |
論文題目 | Surface Effect on Young's Modulus of Sub-Two-Nanometer Gold [111] Nanocontacts |
著者 | Jiaqi Zhang, Masahiko Tomitori, Toyoko Arai, and Yoshifumi Oshima |
掲載日 | 2022年4月5日(米国東部標準時間) |
DOI | 10.1103/PhysRevLett.128.146101 |
【用語説明】
[*1] 長辺振動水晶振動子(LER)
長辺振動水晶振動子(LER、図1参照)は、細長い振動子(長さ約3 mm、幅約0.1 mm)を長辺方向に伸縮振動させることで、周波数変調法の原理で金属ナノ接点などの等価バネ定数(変位に対する力の傾き)を検出できる。特徴は、高い剛性(1×105 N/m)と高い共振周波数(1×106 Hz)である。特に、前者は、化学結合の剛性(等価バネ定数)測定に適しているだけでなく、小さい振幅による検出を可能とすることから、金属ナノ接点を壊すことなく弾性的な性質を得ることができ、さらには、原子分解能TEM像も同時に得られる点で大きな利点をもつ。
令和4年4月11日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2022/04/11-1.htmlナノ粒子中のサブパーセントの局所ひずみを捉える解析手法を開発 ―電子顕微鏡とデータ科学による究極の精密測定―

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国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学 国立大学法人 九州大学 |
ナノ粒子中のサブパーセントの局所ひずみを捉える解析手法を開発
―電子顕微鏡とデータ科学による究極の精密測定―
ポイント
- 電子顕微鏡とデータ科学を組み合わせることで、局所ひずみを高精度に測定
- 0.2%というわずかな局所ひずみをも検出できる精密さを達成
- 棒状ナノ粒子には表面形状の曲率変化に起因する約0.5%の局所膨張ひずみが生じることを発見
北陸先端科学技術大学院大学・先端科学技術研究科 応用物理学領域の麻生 浩平助教、大島 義文教授と、九州大学・大学院工学研究院のJens Maebe大学院生 (修士課程、当時)、Xuan Quy Tran研究員、山本 知一助教、松村 晶教授は、原子分解能電子顕微鏡法とデータ科学的手法であるガウス過程回帰を組み合わせることによって、ナノメートルサイズの粒子の中のわずか0.2%という局所ひずみを測定できる解析手法の開発に成功しました。開発した手法によって金のナノ粒子を解析したところ、棒状の粒子の内部では、先端付近で長さ方向に0.5%膨張したひずみを見出しました。この膨張ひずみは、粒子の先端部分で表面の形状(曲率)が変化しているために生じたこともわかりました。ナノ粒子の形状に由来して内部に局所ひずみが生じるという新たな発見と、ひずみを精密に捉える新規な手法は、ナノ物質内での原子配列と機能の理解に役立つと期待されます。 本研究成果は、2021年7月7日(米国東部標準時間)に科学雑誌「ACS Nano」誌のオンライン版で公開されました。 本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費基盤研究(B) (25289221、18H01830)と科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 ACCEL「元素間融合を基軸とする物質開発と応用展開」(研究代表者:北川 宏、研究分担者:松村 晶、プログラムマネージャー:岡部 晃博、研究開発期間:2015年8月~2021年3月、(JPMJAC1501))の支援を受けて行われました。 |
【研究背景と内容】
わずかな原子間距離の局所変化 (局所ひずみ) によって、磁性や触媒特性などといった様々な材料物性が左右されます。そのため、材料の局所ひずみを精密に測定する手法が求められてきました。ここ20年間で走査透過電子顕微鏡(STEM)の空間分解能が大きく向上して、原子状態の観察と解析が可能になりました。ナノメートルサイズの金の粒子をSTEMで観察したのが図1aです。ナノ粒子の内部に原子位置に対応した明るい点が整列して現れて見えます。原子は一見すると結晶構造を作って規則正しく周期的に配列しています。
しかし、図1aのSTEM像から原子の位置を特定して詳しく解析すると、場所によって原子は周期配列からわずかにずれて変位していることがわかりました。それをマップにしたのが図1bです。紙面左方向に大きく変位する原子が暗い青、紙面右方向に大きく変位する原子が明るい黄色でそれぞれ表されています。マップを遠目から見てみると、左から右手に向かって滑らかに、青色から黄色へと変化しているように見えます。しかし局所的には波のような細かい変化が全体を覆っています。この細かな変化は、像から原子位置を正しく特定できなかったために含まれる揺らぎノイズで、変位の変化率に相当するひずみを求めるうえで大きな障害になります。このノイズ成分を低減するには、長い時間 (カメラの露光時間に相当) をかけて計測して像質を改善するのがこれまでの一般的方法でしたが、計測時間が長くなるとその間の装置の機械的・電気的な状態のわずかな乱れの影響で像がゆがんでしまうという問題がありました。
そこで研究グループは、様々な分野で活用されているデータ科学手法のガウス過程回帰に着目しました。ガウス過程回帰では、データの真の姿は滑らかに変化すると仮定して、観測データにはこの真の姿に細かな揺らぎノイズが付加されていると考え、この順序をさかのぼることでデータの真の姿を予測します。ガウス過程回帰を図1bのマップに適用したところ、滑らかに変化する主要な成分だけを取り出すことに成功しました (図1c)。得られた変位の棒の長さ方向の変化率を求めて、局所的なひずみの分布をマップしたのが図1dです。開発した手法の精度を確かめるために、元データから直に、およびガウス過程回帰を適用して求めた場合のひずみ値の分布を比較したのが図1eです。元データでは標準偏差で1.1%の広がりがあるのに対して、ガウス過程回帰を用いることでその広がりが0.2 %に狭くなっており、ノイズ成分の除去によって有意に観測されるひずみ量の下限が大きく改善しました。
図1dに戻って見ると、棒の胴体部分と先端の半球部分の境目付近が明るい黄色になっており、この部分では棒の長さ方向に約0.5%膨張した局所ひずみが生じています。ナノ粒子では、表面積を小さくしようとして表面から内部に向かって力が作用するために、収縮ひずみが生じていると考えられていました。しかし、円筒状の胴体部と半球状の先端部からなる棒状の粒子では、2つの部分の表面曲率が異なることから内部にかかる力の向きと大きさに違いが生まれて、局所的に膨張するひずみ場が生ずることがわかりました。このように、原子位置の精密な解析が可能になって、ナノ粒子の局所形状によって内部のひずみの状態が変化することが発見できました。この新たな発見と、本成果で生み出された精密な解析手法は、ナノ構造材料の原子配置とそれによって引き起こされる機能に関する理解を深めることにつながると期待されます。
(b) 元データから得た原子変位マップ。紙面左方向への大きい変位が暗い青、紙面右方向への大きい変位が明るい黄色で表示される。細かく変化するノイズ成分が目立っている。
(c) ガウス過程回帰によって予測された真の変位。ノイズ成分の除去に成功している。
(d) 紙面横方向の変位の変化率(局所ひずみ)マップ。明るい黄色になっている両端部分では膨張ひずみが生じている。
(e) 元データとガウス過程回帰後のひずみ分布。ガウス過程回帰を用いることで、分布の広がりが1.1%から0.2%にまで狭まっており、微小な局所ひずみの検出が可能になった。
【研究資金】
・日本学術振興会(JSPS)科研費 基盤研究(B)(25289221、18H01830)
・科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業ACCEL (JPMJAC1501)
【論文情報】
雑誌名 | ACS Nano |
題名 | Subpercent Local Strains Due to the Shapes of Gold Nanorods Revealed by Data-Driven Analysis |
著者名 | Kohei Aso*, Jens Maebe, Xuan Quy Tran, Tomokazu Yamamoto, Yoshifumi Oshima,Syo Matsumura |
掲載日 | 2021年7月7日(米国東部標準時間)にオンラインで掲載 |
DOI | 10.1021/acsnano.1c03413 |
令和3年7月13日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/07/13-1.html【募集終了】平成30年度 ナノテクノロジープラットフォーム公開講座「材料の構造解析のための透過型電子顕微鏡(TEM)の基礎と実習」

本学ナノマテリアルテクノロジーセンター主催で透過型電子顕微鏡(TEM)の技術の基礎を学び、実習を行うことのできる公開講座を開催いたします。
ただいま受講者を募集しております。皆様のご参加をお待ちしております。
日 時 | 平成31年3月8日(金)10:00~17:00 |
場 所 | 北陸先端科学技術大学院大学 ナノマテリアルテクノロジーセンター 2F会議室(石川県能美市旭台1-1) URL:https://www.jaist.ac.jp/top/campusmap/ |
テーマ | 材料の構造解析のための透過型電子顕微鏡(TEM)の基礎と実習 |
講 師 | マテリアルサイエンス系 応用物理学領域 教授 大島 義文 ナノマテリアルテクノロジーセンター 技術専門員 東嶺 孝一 |
内 容 | 透過型電子顕微鏡は、金属材料、半導体デバイス、セラミックなどの欠陥や界面といった局所的な構造や組成を知るうえで欠かせない装置です。金属材料、半導体デバイス、セラミックの特性が欠陥や界面で決まることが多いことを考えると、この装置をよく知っておく必要があります。 本講座では、透過型電子顕微鏡の原理、正しい観察手法や正しいデータ解析方法などをわかりやすく解説します。デバイスや材料の研究開発に従事している多くの方に特にお勧めできる講座です。 |
定 員 | 5名(先着順) |
参加対象者 | 企業・他大学・高専等の研究者・技術者 |
受講料 | 6,200 円(税込) |
申込方法 | 受講希望の方は、 ①氏名(ふりがな) ②勤務先等・職名 ③受講の目的 ④本講座に期待すること ⑤書類送付先 ⑥電話番号 ⑦メールアドレス を明記の上、E-mail (宛先 nano-net@jaist.ac.jp)またはFAX(ポスター2ページ目参照)でお申し込みください。 |
申込締切 | 平成31年2月18日(月)まで【定員に達しましたので募集を締め切りました】 |
問合わせ先 ・申込み先 |
北陸先端科学技術大学院大学 ナノマテリアルテクノロジーセンター事務局 〒923-1292 石川県能美市旭台1-1 TEL:0761-51-1449 FAX:0761-51-1455 E-mail:nano-net@jaist.ac.jp |
新しい固体触媒プロセスの構築による資源・エネルギー問題の解決に挑む!


新しい固体触媒プロセスの構築による
資源・エネルギー問題の解決に挑む!
触媒・資源変換プロセス研究室
Laboratory on Catalyst/Resource Chemical Process
准教授:西村 俊(NISHIMURA Shun)
E-mail:
[研究分野]
触媒化学、固体触媒、合金触媒、バイオマス変換
[キーワード]
資源・エネルギーの有効利用技術、金属ナノ粒子触媒、固体酸塩基触媒、新触媒の創成、触媒作用機構の解明
研究を始めるのに必要な知識・能力
基礎的な計算・データ処理能力と仲間と安全に研究を進められる方であれば、バックグラウンドを問わずに歓迎します。物理化学、有機化学、無機化学、分析化学、触媒化学などの基礎・経験があると、よりスムーズに研究を開始できます。失敗にひるまずに挑戦する「忍耐力」や「好奇心・探究心」がより自発的に研究を進める上で役に立ちます。
この研究で身につく能力
新しい固体触媒プロセスの開発は、触媒設計→触媒調製・条件の最適化→触媒活性評価・反応条件の最適化→触媒のキャラクタリゼーション→触媒作用機構の提案→検証・再考といった多くの研究段階からなっています。また、触媒作用に関連する因子は一つであるとは限りません。従って、触媒開発プロセスを経験することで、様々な分析・評価手法の技術習得、多角的に実験データを整理・解析・統合する力を身に付けることができます。また、英語の先行研究を読み自らの研究へフィードバックする力、自分の結果を他人へより分かりやすく伝えるためのプレゼンテーション力を、日常の研究室ゼミや学会発表等を通じて向上できます。
【就職先企業・職種】 化成品・ポリマー製造や自動車触媒製造を主とした化学・材料メーカーなど。
研究内容
触媒は様々な物質変換・合成プロセスに欠かすことができない材料で、身近な生活を力強く下支えしています。そのため、高機能な触媒プロセスの開発は、日常の生活様式の劇的な改善やより低環境負荷なスタイルへと大きく変えるインパクトを持っています。例えば、空気中の窒素の人工的な固定化を実現したアンモニア合成触媒の実現(1918年ノーベル化学賞)は、窒素を含む化学品合成の発展に繋がり、その後の安定的な食料生産による人口増加や火薬製造による工業の発展へと繋がりました。
当研究室では、「従来の在来型化石資源の利用技術で培われた触媒プロセス技術を生かし、より高効率な触媒を設計するための指針の提案」や、「固体触媒を用いた高効率な次世代バイオマス資源変換プロセスの構築」から、持続可能・低環境負荷な社会形成に貢献できる触媒・資源変換プロセス技術の構築を目指しています。
・金属担持触媒の高機能化に向けた触媒設計と作用機構解明
金属活性点を固体表面に固定化した金属担持触媒は、主に1. 金属活性中心の電子状態や形状、2. 金属活性点の周囲環境、3. 担体の性質によって、その触媒作用が大きく異なります。それぞれの因子を系統的に制御し、対象とする触媒反応への性能を評価することで、求める触媒作用に対して選択的に欲しい性能を付与できる触媒調製指針の策定を目指します。例えば、異種金属を合金化させた活性サイトの構築による高活性化、保護配位剤を作用させることによる活性点周囲の環境制御による高活性・高選択性の発現、特異な構造を有する担体合成による超高活性化を実現しています。
・高効率なバイオマス資源変換を実現する固体触媒プロセス開発
バイオマス資源は再生可能でカーボンニュートラルであることから、持続可能な次世代資源としての活用が期待されています。しかし、低いLCA(ライフサイクル・アセスメント)が課題です。固体触媒を用いた高効率プロセスの実現によるバイオマス資源利用の拡大を目指しています。例えば、常圧水素によるバイオ燃料製造プロセス、非可食性グルコサミン類からの高品位化成品合成プロセス、高活性な酸- 塩基反応プロセス、バイオマス由来有機酸・脂肪酸の高効率な水素化転換を実現しています。また、バイオマス資源の連続的なフロー変換プロセスの展開に必要な課題抽出とその改善にも取り組んでいます。
主な研究業績
- S. D. Le, S. Nishimura: Selective hydrogenation of succinic acid to gamma-butyrolactone with PVP-capped CuPd catalysts. Catal. Sci. Technol. 12 (2022) 1060.
- K. Anjali, S. Nishimura: Efficient Conversion of Furfural to Succinic Acid using Cobalt-Porphyrin based Catalysts and Molecular Oxygen. J. Catal. 428 (2023) 115182
- X. Li, S. Nishimura: Synthesis of 5-Hydroxymethy-2-furfurylamine via Reductive Amination of 5-Hydroxymethyl-2-furaldehyde with Supported Ni-Co Bimetallic catalysts. Catal. Lett. 154 (2024) 237.
使用装置
触媒活性評価(GC, HPLC, GC-TOFMS, FTICR-MS, 液体 NMR)
触媒構造評価(XRD, ガス吸着 / 脱着 , SEM/TEM, XPS, 固体 NMR, FT-IR, TPR/TPD, パルス分析など)
状況に応じて、外部の共同利用研究施設(KEK-PF, SPring-8, SAGA- LS など)での XAFS 測定も行います。
研究室の指導方針
当研究室では、月1~2回の研究室ゼミ(研究進捗報告・ディスカッション)を行います。コアタイムは設けませんが、社会人生活に向け て規則正しい生活リズムを作って実験・大学院生活を送ってください。本学には様々な分析機器が共通設備として整備されており、 装置によっては専門職員からのサポートも得られる充実した環境が整っています。在籍中にこのサポート・分析体制を存分に活か し、自らのスキルアップを実現してほしいと思います。在籍中に得られた成果は、国内外での学会等で対外発表を行うことを推奨 します。また、修了生1人に対して1報以上の学術論文・国際会議プロシーディングス等を公開し、各学生の成果を残せるように努めています。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/~s_nishim/index.html
エレクトロニクスの機能的多様化を目指す化合物半導体デバイス技術


エレクトロニクスの機能的多様化を目指す
化合物半導体デバイス技術
化合物半導体エレクトロニクス研究室
Laboratory on Compound Semiconductor Electronics
教授:鈴木 寿一(SUZUKI Toshi-kazu)
E-mail:
[研究分野]
化合物半導体エレクトロニクス
[キーワード]
化合物半導体デバイス、異種材料融合技術、超高速デバイス、省エネルギーデバイス、デバイス計測技術
研究を始めるのに必要な知識・能力
必要な知識・能力ということではありませんが、ものごとの本質を理解したいという意欲、数学や物理学の基礎力とそれを支える論理性は、研究を進める際に重要であると考えています。
この研究で身につく能力
化合物半導体電子デバイスの作製技術および測定解析技術を身に付けながら、デバイス内の電子の挙動を物理的に考察して理解することができるようになると思います。こうした能力は、将来エレクトロニクスの広い分野で活躍するための素地となると考えています。また、産学連携を通じて産業界の問題意識を感じてもらうことも期待しています。さらに、日本語および英語によるプレゼンテーション能力の向上も目指します。
【就職先企業・職種】 総合電機、半導体・電子部品、半導体製造装置、通信機器、輸送機器、自動車
研究内容

化合物半導体高速トランジスタ

デバイスの周波数応答特性

異種材料基板上化合物半導体デバイス

異種材料閉じ込めによる二次元電子状態
<エレクトロニクスの機能的多様化に向けて>
現在のディジタルエレクトロニクスの主役であるSiデバイスは、微細化による性能向上を続けてきました。しかし、こうした「More Moore」の軸に沿った進歩の限界が意識されるようになっています。今後のエレクトロニクスの発展のためには、「More than Moore」の視点に基づく機能的多様化が必要であり、それに向けて重要な役割を果たすのが化合物半導体デバイスです。
<化合物半導体とは?>
III-V 族を中心とした化合物半導体は多彩な材料系であり、これまでもSi では不可能な様々な機能を有するデバイスに応用されてきました。特に、高い電子移動度と高い電子飽和速度を有する化合物半導体は高速電子デバイス応用に、また、直接遷移型の化合物半導体は光デバイス応用に好適であるため、化合物半導体を用いたデバイスは、高速アナログ・ミックスドシグナルエレクトロニクス、光エレクトロニクス分野で利用されてきました。これまで、GaAs 基板上格子整合材料が化合物半導体の第一世代として、InP 基板上格子整合材料が第二世代として大きな役割を果たしてきましたが、今後は、高In 組成InGaAs、InAs、Sb 系材料などのナローギャップ化合物半導体と、GaN、AlN などのワイドギャップ化合物半導体の重要性が高まると考えられます。これらナローギャップ半導体は中赤外光に対応するエネルギーギャップを、ワイドギャップ半導体は紫外光に対応するエネルギーギャップを有しており、それぞれの波長域における光デバイス応用に重要です。また、電子有効質量は概ねエネルギーギャップと比例関係にあり、ナローギャップ化合物半導体は小さい電子有効質量を有しています。電子有効質量が小さければ、高い電子移動度と高い電子飽和速度が得易いため、ナローギャップ半導体は超高速デバイス応用に有用です。ただし、高耐圧化に適したワイドギャップ半導体に対し、ナローギャップ半導体の耐圧は低く、充分なパワー性能を得ることが困難です。一方、GaN は電子有効質量が大きく、この点ではデバイス高速化に有利ではないように思われますが、大きい光学フォノンエネルギーと特有のバンド構造により、電子移動度こそ低いものの、高い電子飽和速度を有しているため、高速性能とパワー性能を併せ持ったデバイスへの応用が期待されます。
<本研究室の取り組み>
こうした特長を有する化合物半導体を適材適所にデバイス応用することは、エレクトロニクスの機能的多様化に向けて極めて重要です。さらに、化合物半導体と異種材料を融合集積する技術によって、より高度な機能的多様化の可能性も期待できます。こうした背景のもと、本研究室では、ナローギャップ/ ワイドギャップ化合物半導体エレクトロニクスの研究に取り組んでいます。次世代の超高速デバイスや省エネルギーデバイスを目指し、ナロー/ ワイドギャップ化合物半導体デバイス技術とそれらの異種材料融合技術の研究を進めながら、デバイス動作を深く理解するためのデバイス計測技術も開拓しています。
主な研究業績
- Low-frequency noise in AlTiO/AlGaN/GaN metal-insulator-semiconductor field-effect transistors with non-gate-recessed or partially-gate-recessed structures, D. D. Nguyen, Y. Deng, and T. Suzuki, Semicond. Sci. Technol. 38, 095010 (2023).
- Mechanism of low-temperature-annealed Ohmic contacts to Al-GaN/GaN heterostructures: A study via formation and removal of Ta-based Ohmic-metals, K. Uryu, S. Kiuchi, T. Sato, and T. Suzuki, Appl. Phys. Lett. 120, 052104 (2022).
- Electron mobility anisotropy in InAs/GaAs(001) heterostructures, S. P. Le and T. Suzuki, Appl. Phys. Lett. 118, 182101 (2021).
使用装置
分子線エピタキシー装置
電子線・紫外線リソグラフィー装置
パラメータアナライザ
ネットワークアナライザ
ダイナミックシグナルアナライザ
研究室の指導方針
・理学の心で工学を。ものごとの本質を理解することを大切にします。
・少しづつであっても、自分でよく考え、納得しながら前進することが重要であると考えています。
・学生と教員がよき共同研究者となり、お互いに成長することを目指します。
・毎週行う研究報告会・日本語輪講・英語輪講を通じ、エレクトロニクス分野で活躍するための基礎を固めます。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/nmcenter/labs/suzuki-www/
液体から高機能性材料を創成し、生体・環境の見える化へ


液体から高機能性材料を創成し、生体・環境の見える化へ
プリンテッドバイオセンサー研究室
Laboratory on Printed Biosensors
講師:廣瀬 大亮(HIROSE Daisuke)
E-mail:
[研究分野]
酸化物、バイオセンサー、液体プロセス
[キーワード]
MOD法、薄膜トランジスタ、生体分子検出、バイオチップ、プリンテッドエレクトロニクス
研究を始めるのに必要な知識・能力
分野に囚われない研究を行うための好奇心・挑戦心、未解明の謎を楽しむ心。
専門知識は基礎から指導しますので、知識は問いません。どの分野からも歓迎します。一緒に頑張りましょう!
この研究で身につく能力
研究では様々な実験をすることになります。それによって分野に囚われない研究の着眼点や発想が身につきます。また、課題を解決するための論理的思考やタスクをこなす力も身につきます。学会やゼミの発表を通して、発表力・発信力も身につきます。
【就職先企業・職種】 半導体製造機器メーカー、電子部品会社、計測機器メーカー
研究内容
有機金属分解(MOD)法を基礎とした、モノづくりを行っています。この手法は“ 液体” から石(酸化物)を作製する技術であり、様々な電気的特性を示す酸化物を作り出せます。
さらに私たちはこのMOD法で作製した酸化物や中間体にこれまでにない特異的な特徴があることを発見しました。その特徴と半導体プロセスとを組み合わせることで、新たなセンシングデバイスやパターニング手法の研究・開発をしています。そして、なぜ特異的な特徴が現れるかの物性解析による解明も同時に進めています。
・高感度 - 酸化物センシングデバイス
コロナウイルスの感染拡大が世界的な問題となったことから、PCRやイムノクロマトに代わる迅速で高感度な菌・ウイルスの検査手法の需要が急速に高まってきています。
私たちは迅速で高感度に測定可能な酸化物薄膜トランジスタ型核酸センサーの研究・開発を進めています。図に、これまで作製したセンサーを示しています。この技術は核酸のみならず、多様な分子に適用可能であり、環境・衛生・農業・医療などの分野への応用も目指しています。
・MOD中間体の特性を生かしたパターニング
センサーなどの電子デバイスを作製するには、酸化物の精度の良いパターニングが必要となります。私たちはMOD法から酸化物を作製する際の中間体が変形性を示すことを発見しました。この特性を利用し、型押し成型による低エネルギー・低コストの酸化物の直接プリンティング手法を開発しました。この技術によって、簡単にサブミクロンスケールのパターンの作製が可能になりました。示した図は作製した酸化物パターンと、酸化物を積層した薄膜トランジスタアレイです。このように様々な酸化物の精度のよいパターンが作製できることがわかります。
主な研究業績
- Submicron titania pattern fabrication via thermal nanoimprint printing and Microstructural analysis of printable titania gels, D. Hirose, H. Yamada, T. Jochi, K. Ohara and Y. Takamura, Ceramics International, online,(2024)
- Rapid and Highly Sensitive Detection of Leishmania by Combining Recombinase Polymerase Amplification and Solution-Processed Oxide Thin-Film Transistor Technology, W. Wu, M. Biyani, D. Hirose and Y. Takamura, Biosensors, vol. 13, 8, p. 765,(2023).
- Origin of the thermal plasticity property of zirconium oxide gels for use in direct thermal nanoimprinting, D. Hirose, J. Li, Y. Murakami, S. Kohara and T. Shimoda, Ceramics International, vol.44, p. 17602,(2018).
使用装置
電子デバイス作製装置(フォトリソグラフィ装置、スパッタ装置ナノインプリント)、電気特性評価装置(半導体パラメータアナライザ、インピーダンスアナライザ)、形状評価装置(走査型電子顕微鏡、原子間力顕微鏡)、材料物性評価装置(TG-DTA、FT-IR,UV-vis、XRD、XPS、接触角計)
研究室の指導方針
本研究室では液体から機能性酸化物をつくるMOD技術を基礎にして、生体・環境の見える化を目指しています。身の回りのあらゆる分子をターゲットとして、社会や生活へ応用を目指しています。今まさに大きく成長している段階です。みなさんのアイデアと私たちの技術を組み合わせ、新たな見える化センサーを創成しましょう!!
研究では、個々の興味に沿ったテーマを設定します。目標に向け、課題を一つずつクリアできるように指導いたします。生活や就職活動についての不安を取り除きながら、これからの壁を乗り越える力を身につけられるようサポートします。
電磁波と原子核でナノ空間を視(み)て、制御する


電磁波と原子核でナノ空間を視(み)て、制御する
固体ナノ化学研究室 Laboratory on Solid-State Nanochemistry
教授:後藤 和馬(GOTOH Kazuma)
E-mail:
[研究分野]
物理化学、無機材料化学
[キーワード]
核磁気共鳴(NMR)、炭素材料、二次電池(リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池、次世代電池)、その場分析
研究を始めるのに必要な知識・能力
化学の基礎知識があれば研究をすみやかに始められますが、必要なことは学ぶという意欲さえあれば知識の有無は問題ありません。研究を通して自分の成長(能力的&人間的)を望み、新しいことに取り組む意思があれば大丈夫です。
この研究で身につく能力
ものづくりに始まり、測定機器による分析、得られた実験結果・測定結果の考察までを行うので、無機材料を中心とした材料合成の実験技術、電池作製および評価の技術、NMRをはじめとする各種機器分析の技術など幅広い技術が身につきます。また、研究室でのセミナーや学会発表、海外研究グループとの国際交流を通してプレゼンテーション能力、英語力なども磨かれます。しかし一番大事なことは、得られた実験・測定結果から「物質の中で何が起きているか」を総合的にとらえ考察する能力や、課題を解決し研究をまとめるための論理的な思考力など、AIにとって代わられることのない「人間」としての考える力であり、これを特に重視しています。社会に出て長くずっと第一線で活躍できる能力を持った人になってもらいたいと考えています。
【就職先企業・職種】 化学・材料メーカー、電機・電池・自動車および関連メーカー、分析機器メーカー、公設試験研究機関、教員
研究内容
ナノサイズの空間や表面などの構造、およびミクロな環境を解明することをテーマとして、細孔物質(物質の中に多数の小さな穴=細孔をもった固体材料)の内部空間や、黒鉛などの層状化合物の層間に吸蔵された分子やイオンの状態、動的挙動、内部空間の表面状態などを、核磁気共鳴(NMR)法を中心に様々な方法で研究しています。内部空間への分子やイオンの導入(インターカレーション)は電池電極反応とも密接な関連があることから、特にリチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池や今後実用化が期待される次世代電池など、各種二次電池の電極材料の研究を積極的に進めています。
【固体NMR開発と二次電池電極の状態分析】


電池のリアルタイムNMR解析(左上)*),金属リチウム析出イメージ(右上)2.
非晶質炭素の充電,過充電挙動モデル(下)2.
*) K.Gotoh et al., Carbon (2014).
・固体材料についてのNMRは、固体物質中の局所構造やダイナミクスの解析に極めて有効な分析手法です。特にナノ空間の構造や環境を調べる際には、吸着された物質中の原子やイオンを「プローブ(探針)」として利用し直接的に内部環境を調べることができます。よって、リチウムイオン電池やナトリウムイオン電池ではそれぞれリチウム、ナトリウムのNMR共鳴信号を解析することで、電池内部の微小な状態変化を検出できます。軽元素であるリチウムやナトリウムは電子顕微鏡やX線分光など他の分析手段では直接観測が非常に難しいため、NMRでリチウムやナトリウムなど電荷を担持する重要な核種の状態を観測することが、イオンの吸脱着メカニズム、すなわち電池の充放電メカニズムの解明に大きく役立ちます。
・最新のリチウムイオン電池や次世代電池であるナトリウムイオン電池、全固体電池などの電極内に吸蔵されたリチウム、ナトリウムの状態を解明しています。充放電により刻々と変化する内部環境をリアルタイムで観測するためには、電池の「その場観測(オペランド解析)」が必須となるため、電池観測のための高感度オペランドNMR法の開発を積極的に進めています。本手法により電池が過充電された際の金属析出メカニズムも解明できるため、安全性評価にも貢献できます。
・充放電メカニズムの解析から、新たな材料の設計指針を立て、それに基づいた負極材料の開発を行っています。炭素材料は以前から負極に用いられてきましたが、次世代電池用電極材料としても期待できることから、新たな炭素材料の開発を進めています。
主な研究業績
- Dynamic nuclear polarization -nuclear magnetic resonance for analyzing surface functional groups on carbonaceous materials. H. Ando, K. Suzuki, H. Kaji, T. Kambe, Y. Nishina, C. Nakano, K. Gotoh*, Carbon, 206, 84 (2023).
- Mechanisms for overcharging of carbon electrodes in lithium-ion/sodium-ion batteries analysed by operando solid-state NMR. K. Gotoh*, T. Yamakami, I. Nishimura, H. Kometani, H. Ando, K. Hashi, T. Shimizu and H. Ishida, J. Mater. Chem. A 8, 14472 (2020).
- Combination of solid state NMR and DFT calculation to elucidate the state of sodium in hard carbon electrodes. R. Morita, K. Gotoh*, M. Fukunishi, K. Kubota, S. Komaba, T. Yumura, N. Nishimura, K. Deguchi, S. Ohki, T. Shimizu and H. Ishida, J. Mater. Chem. A 4, 13183 (2016).
使用装置
Bruker AVANCE NEO 400MHz NMR(固体測定専用)拡散測定システム付, Bruker AVANCE Ⅲ500MHz-NMR(固体対応)オペランド測定用特殊プローブ付
X線回折,X線光電子分光(XPS),熱分析,電子顕微鏡,ガス吸脱着装置,電気化学測定装置(充放電試験装置等),電池作製設備(グローブボックス等),高温熱処理炉(2200℃)
研究室の指導方針
社会人としてどのような分野でも力を発揮できる基礎力と、専門家として活躍できる知識経験の、両方を持った人になってもらうことを目的として指導します。定期的な研究室でのセミナーや報告会がありますが、実験については装置の都合により個々のスケジュールがかなり異なってくるので、自分自身で研究計画を立案し、実行してもらうことになります。国内外の学会での発表のほか、海外研究グループや企業と進めている多彩な共同研究にも積極的に参加してもらい、国際的な幅広い視野を持てる機会を提供したいと考えています。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/nmcenter/labs/gotoh-www/
ナノ粒子工学:機能材料の創製から応用まで


ナノ粒子工学:機能材料の創製から応用まで
ナノ粒子工学研究室 Laboratory on Nanoparticle Engineering
教授:前之園 信也(MAENOSONO Shinya)
E-mail:
[研究分野]
ナノ材料化学、ナノ材料物性、コロイド化学
[キーワード]
半導体ナノ粒子、磁性体ナノ粒子、金属ナノ粒子、バイオ医療、エネルギー変換、センシング
研究を始めるのに必要な知識・能力
基礎学力、コミュニケーション能力、知的好奇心、柔軟な思考
この研究で身につく能力
修士課程では、(1) ナノ材料の化学合成技術、(2) 各種分析機器(透過型電子顕微鏡、X 線回折装置、X 線光電子分光、組成分析装置など)の操作スキル、(3) 基礎学問の知識(無機材料化学、結晶学、コロイド化学、固体物性など)、(4) ナノ材料に関する先端専門知識を身につけて頂きます。博士課程では、1-4に加え、英語によるプレゼンテーション能力、英語論文執筆能力、研究課題設定能力、共同研究遂行能力など、研究者に必要なあらゆる能力を身につけて頂きます。
【就職先企業・職種】 製造業(化学、精密機器、電気機器、ガラス・土石製品、繊維製品、その他製品など)
研究内容
物質をナノメートルサイズまで細かくしていくと、種々の物性がサイズに依存する新奇な材料となります。このような新奇材料を一般に「ナノ材料」と呼びますが、我々はその中でも特に「ナノ粒子」に興味を持ち、ナノ粒子に関する基礎から応用に亘る研究を行っています。半導体、磁性体、金属などのナノ粒子を化学合成し、その表面をさまざまな配位子によって機能化し、さらにそれらナノ粒子の高次構造を制御することによって、バイオ・医療分野あるいは環境・エネルギー分野で新たな応用を開拓することを目指しています。
1.磁性体ナノ粒子の合成とバイオ医療分野への応用
超常磁性体のナノ粒子を独自の方法によって合成し、その表面を自在に修飾することによって、バイオ医療分野での様々な応用の道を開拓しています。具体的には、細胞やタンパクの磁気分離、MRI 造影剤、ドラッグデリバリーシステムなどのナノ磁気医療に応用するための技術開発を行っています。
2.半導体ナノ粒子の合成とエネルギー変換素子への応用
狭ギャップ化合物半導体から広ギャップ酸化物半導体のナノ粒子まで、幅広い種類の半導体ナノ粒子を化学合成し、それらを用いて低炭素社会の実現を志向したナノ構造エネルギー変換素子の創製に関する研究を行っています。特に、ナノ構造熱電素子や光機能素子などに興味を持っています。
3.金属ナノ粒子を用いたバイオセンシング技術の開発
近年、金ナノ粒子を用いた様々なバイオセンサが開発され、簡便かつ迅速に DNA 配列検出やタンパク質機能解析などが可能となってきています。我々は、ナノ粒子プローブを用いたバイオセンシング技術の更なる高度化を目指し、異種金属元素からなるヘテロ構造ナノ粒子や合金ナノ粒子のプローブの開発を進めています。
主な研究業績
- T. S. Le, M. Takahashi, N. Isozumi, A. Miyazato, Y. Hiratsuka, K. Matsumura, T. Taguchi, and S. Maenosono, “Quick and Mild Isolation of Intact Lysosomes Using Magnetic-Plasmonic Hybrid Nanoparticles”, ACS Nano 16 (2022) 885
- J. Hao, B. Liu, S. Maenosono, and J. Yang, “One-Pot Synthesis of Au-M@SiO2 (M = Rh, Pd, Ir, Pt) Core-Shell Nanoparticles as Highly Efficient Catalysts for the Reduction of 4-Nitrophenol”, Sci. Rep. 12 (2022) 7615
- T. S. Le, S. He, M. Takahashi, Y. Enomoto, Y. Matsumura, and S. Maenosono, “Enhancing the Sensitivity of Lateral Flow Immunoassay by Magnetic Enrichment Using Multifunctional Nanocomposite Probes”, Langmuir 37 (2021) 6566
使用装置
透過型電子顕微鏡 (TEM) 超伝導量子干渉磁束計 (SQUID)
過型電子顕微鏡 (STEM) 動的光散乱測定装置 (DLS)
X 線回折装置 (XRD) 共焦点レーザー顕微鏡 (CLSM)
X 線光電子分光装置 (XPS) 核磁気共鳴装置 (NMR)
研究室の指導方針
就職希望者には、基礎・専門知識はもちろん、コミュニケーション能力、英会話力、論理的思考力および柔軟な対応力を涵養し、不確実性の時代を生き抜くことができる人材となってもらうための指導を行います。企業経験を活かした実践的就職指導も行っています。
博士後期課程への進学希望者については、先端的かつ国際的な研究環境を提供することによって、将来的に大学教員や企業研究者として活躍できるグローバル研究人材を育成します。
[Website] URL:https://www.jaist.ac.jp/~shinya/
ナノバイオテクノロジー


ナノバイオテクノロジー
ナノバイオ研究室 Laboratory on Nanobiotechnology
講師:高橋 麻里(TAKAHASHI Mari)
E-mail:
[研究分野]
ナノ材料科学、細胞生物学
[キーワード]
ナノ粒子、バイオ医療応用
研究を始めるのに必要な知識・能力
探求心があり、努力することを厭わず、向上心がある方ならバックグランドが違っていても研究を楽しむことができます。研究テーマに対して、自分がこの研究を進めるんだという主体的な立場にたつことが必要です。共同研究をすることが多いため、協調性やコミュニケーション能力も必要となります。
この研究で身につく能力
ナノ粒子の合成法、構造・特性評価及び解析方法に関する幅広い知識。金属・磁性・半導体材料とナノ粒子にすることで現れる特徴的な性質に関する一般的な知識。細胞生物学に関する一般的な知識。新たな課題に対して取り組むチャレンジ精神。
【就職先企業・職種】 製造業(化学、精密機器、ガラス・土石製品、繊維製品、その他製品など)
研究内容
ナノ粒子のバイオ医療応用に関する注目は年々高まっています。私達は金属・半導体・磁性体をナノサイズにすることで現れるバルクとは異なる性質を利用して、ナノ粒子のバイオ医療応用に関する研究を行っています。応用先は様々ですが、主に下記に示す3つの内容に力を入れており、それぞれの用途に合わせたナノ粒子の合成から構造解析、特性評価、応用までの一連の流れを一人の学生が担当して研究を進めます。
1. 磁性体ナノ粒子を用いた細胞内小器官の磁気分離
正常細胞と機能欠損細胞から細胞内小器官を分離し、タンパク質を解析し比較することは、疾患の分子機構の解明において重要です。超常磁性体ナノ粒子を合成し、表面を生体分子で機能化した粒子を用い、細胞内小器官を迅速かつ温和に磁気分離し、生化学的手法による解析を行います。種々の細胞内小器官の磁気分離法の構築や機能欠損細胞のタンパク質解析を通して、最終的には創薬分野への貢献を目指します。
2. 磁気粒子分光を用いたイムノアッセイ
人生100年時代と言われる現代、私達が健康に長生きするためには、疾病の早期発見のための診断技術・精度の向上がますます重要となります。磁気粒子分光(MPS)を用いたイムノアッセイ(抗原抗体反応を用いた抗原の検出)では、種々の磁性体ナノ粒子を合成しMPSで評価し、感度が高いプローブを複数選択することで同時多抗原検出を目指します。
3. アップコンバージョンナノ粒子による光遺伝学的研究
アップコンバージョンナノ粒子とは、波長が長い入射光を照射した際に波長が短い発光を示す蛍光体ナノ粒子です。光遺伝学とは光受容タンパク質を遺伝学的に細胞に発現させ、光で細胞の応答を制御する技術で、この2つを組わせることで、光による生体組織の制御を行う研究をしております。
主な研究業績
- D. Maemura, T. S. Le, M. Takahashi, K. Matsumura, and S. Maenosono: "Optogenetic Calcium Ion Influx in Myoblasts and Myotubes by Near-Infrared Light Using Upconversion Nanoparticles" ACS Appl. Mater. Interfaces 15 (2023) 42196
- T. S. Le, M. Takahashi, N. Isozumi, A. Miyazato, Y. Hiratsuka, K. Matsumura, T. Taguchi, S. Maenosono: "Quick and Mild Isolation of Intact Lysosomes Using Magnetic–Plasmonic Hybrid Nanoparticles" ACS Nano 16 (2022) 885
- T. S. Le, S. He, M. Takahashi, Y. Enomoto, Y. Matsumura, and S. Maenosono: "Enhancing the Sensitivity of Lateral Flow Immunoassay by Magnetic Enrichment Using Multifunctional Nanocomposite Probes" Langmuir 37 (2021) 6566
使用装置
透過型電子顕微鏡(TEM) 超伝導量子干渉磁束計(SQUID)
走査透過型電子顕微鏡(STEM) 動的光散乱測定装置(DLS)
X線回折装置(XRD) 共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)
X線光電子分光装置(XPS) 核磁気共鳴装置(NMR)
研究室の指導方針
常に新しい内容の研究を行っており、研究内容に関しては教員が学生へ毎回指示を与えるのではなく、学生自身にも実験と論文調査から次の方向性を決めるといった、一緒に研究を進めていくスタンスで研究を行います。その過程で卒業後の進路(就職希望か進学希望)に合わせて必要な基礎知識と研究力が身につくように指導します。また、分野外の方でも最前線の研究が行えるように効率的な努力の仕方や学習法を身に着けられるように指導しますので、心配なことや研究に関する疑問等は積極的に相談してください。そのためにはコミュニケーション能力も重要であり、卒業後の社会人にとって必要不可欠なスキルが身につくようにサポートします。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/~shinya/