研究活動の検索
研究概要(研究室ガイド)やプレスリリース・受賞・イベント情報など、マテリアルサイエンスの研究室により公開された情報の中から、興味のある情報をタグや検索機能を使って探すことができます。タンパク質の「形」や「動き」をしらべて、未知の生命現象をひもとく


タンパク質の「形」や「動き」をしらべて、
未知の生命現象をひもとく
タンパク質NMR研究室 Laboratory on Protein NMR
教授:大木 進野(OHKI Shinya)
E-mail:
[研究分野]
構造生物化学、生物物理学、NMR(核磁気共鳴分光法)
[キーワード]
タンパク質、構造と機能、立体構造、ダイナミクス、相互作用、NMR、安定同位体標識
研究を始めるのに必要な知識・能力
試料調製(遺伝子工学、生化学)、NMR実験(パラメータ設定、多様な測定、データ処理)、解析(NMRデータ解析、バイオインフォマティクス)の3つの要素のうち、少なくとも1つに関しての知識・能力があれば、この分野の研究を始めやすいです。PC操作に強い人も歓迎します。
この研究で身につく能力
生命現象を分子レベルで考える能力が養われます。研究で扱っているのは生体分子ですが、境界領域とか複合領域と呼ばれる研究分野のため、物理・化学・生物の幅広い基礎知識が必要になります。そのため、自ずとこれらを勉強して身につけることになります。また、具体的な研究立案を通して、大目標へ到達するための道筋を考えた中目標や小目標の立て方を学びます。実験がうまくいかないときの工夫やデータの解析・解釈など、実際に研究を進めていく中で困難な課題を少しずつ解決し、それらを統合して目標へ向かっていく能力が養われます。さらに、研究経過報告や学会発表を経験することで、学術的な文章を書く能力や発表資料の作成能力、プレゼンテーション能力も身につきます。
【就職先企業・職種】 製薬・食品・化学系企業の研究、技術職
研究内容

図.気孔を増やすストマジェンの立体構造。

図.1H-13Cの相関をみる2次元NMR(HSQC)スペクトルのメチル基領域の拡大図。タンパク質全体が13Cで安定同位体標識されている試料(左)とバリン・ロイシンのみが標識されている試料(右)。
(1)安定同位体標識技術の開発
NMR(核磁気共鳴分光法)で測定するタンパク質は、見たい部位の炭素が13C、窒素が15Nという安定同位体で標識されていることが必要です。このような特殊なタンパク質試料は、通常、遺伝子組み換え大腸菌を使って調製されます。類似の手法として、私たちは、これまで無かった植物培養細胞を利用する安定同位体標識タンパク質調製技術を開発しています。大腸菌よりも高等な植物細胞は、大腸菌では調製が困難な複雑な構造のタンパク質を調製する潜在能力を持っています。私たちはこれまでに、このオリジナル技術を使って試料タンパク質を13Cや15Nで均一標識することや、バリン、ロイシンなどのメチル基を有するアミノ酸残基だけを特異的に安定同位体標識することに成功しています。今後は、この標識技術のさらなる高度化に取り組んでいきます。
(2)ジスルフィド結合を有するタンパク質
ジスルフィド(SS)結合を有するタンパク質を大腸菌の系で調製することは困難です。私たちは、植物培養細胞を利用してSS結合を有するタンパク質を調製し、それらの構造と機能をNMRで研究しています。幾つかの成果の例を以下に紹介します。
ストマジェンは分子内に3組のSS結合を持つペプチドホルモンで、植物の気孔の数を増やす働きをします。大腸菌ではストマジェンを大量に調製することが困難でしたが、植物培養細胞での調製に成功しました。安定同位体標識されたストマジェンを調製し、その立体構造をNMRで解明しました。その結果、ストマジェンや類縁タンパク質の特異な機能と構造との関連が明らかになりました。今では、気孔の数を増やしたり減らしたりするペプチドを設計・調製し、実際にその効果を確認することが出来るようになっています。将来、植物の光合成量や成長を人為的に自在に操ることが可能になれば、環境改善や食料問題の解決に貢献できるはずです。
分子内に4組のSS結合を持つESFは、植物の種子が出来るごく初期の段階でのみ発現するペプチドとして発見されました。ESFが働かなくなると、種子の大きさや形が不揃いになります。私たちは、ESFを植物培養細胞で調製することに成功し、その立体構造をNMRで決定しました。この結果、ESF分子表面の特別な並びをしたトリプトファン残基の側鎖がその機能に必須であることが明らかになりました。大きな種子を収穫したり、種のないフルーツを簡単に作れる日が来るかも知れません。
他にも、昆虫や爬虫類の毒ペプチドや抗菌作用を持つディフェンシンなど、SS結合を持つタンパク質は数多く存在します。これらについても構造と機能の関係を研究しています。このような生理活性を持つ生体分子についての研究は、生命現象を深く理解するだけにとどまらず、その成果が新薬開発の大きな助けとなります。
(3)シグナルを伝達するタンパク質
生体内では、タンパク質、脂質、遺伝子など多くの分子の協奏によってさまざまなシグナルが行き交っています。これらのシグナルは、メチル化、アセチル化といった修飾や、マグネシウム、亜鉛などのイオンとの結合・解離による分子構造や構造の揺らぎ具合の変化がスイッチとなって、他の分子と相互作用することで伝達されています。私たちは、カルシウムを結合するタンパク質やリン酸化されるタンパク質に焦点を絞り、それらの構造と機能をNMRで研究しています。
主な研究業績
- L.M.Costa, E.Marshall, M.Tesfaye, K.A.T.Silverstein, M.Mori, Y.Umetsu, S.L.Otterbach, R.Papareddy, H.G.Dickinson, K.Boutiller, K.A.VandenBosch, S.Ohki & J.F.Gutierrez-Marcos. (2014) “Central Cell-Derived Peptides Regulate Early Embryo Patterning in Flowering Plants” Science 344, 168-172.
- S.Zhu, S.Peigneur, B.Gao, Y.Umetsu, S.Ohki & J.Tytgat. (2014) “Experimental Conversion of a Defensin into a Neurotoxin: Implications for Origin of Toxic Function” Mol. Biol. Evol. 31(3), 546-559.
- S. Ohki, M. Takeuchi & M. Mori. (2011) “The NMR structure of stomagen reveals the basis of stomatal density regulation by plant peptide hormones” Nature Communications 2, Article number: 512 doi:10.1038/ncomms1520
使用装置
Bruker AVANCE III 800MHz-NMR装置(1H/13C/15N三重共鳴クライオプローブ付き)
研究室の指導方針
将来全く別の研究・技術の領域に飛び込んだとしても十分活躍していけるような基礎的素養を持った人材を育成したいと思います。毎日楽しみながら、こつこつと努力し、粘り強く研究に取り組みましょう。失敗でも成功でも、取得した生の実験データを見ながら議論することに重きをおきます。データの解析や考察、次の実験についての提案など、新しいアイデアを出し合うことを日頃から繰り返していきながら、論理的な思考方法を身につけましょう。また、3ヶ月に1度程度は研究室のゼミで詳細な研究経過を口頭で発表する機会があります。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/nmcenter/labs/s-ohki-www/contents/Ohki_Lab.html
機能性バイオマテリアルで難治性疾患を治療する


機能性バイオマテリアルで難治性疾患を治療する
先端ナノ医療・長寿創生研究室
Laboratory on Advanced Nanomedicine and Longevity Creation
教授:栗澤 元一(KURISAWA Motoichi)
E-mail:
[研究分野]
バイオマテリアル、ドラッグデリバリーシステム(DDS)、ナノメディシン、再生医療
[キーワード]
生体内分解性高分子、ナノ粒子、緑茶カテキン、インジェクタブルゲル、薬物徐放・ターゲッテイング、細胞治療
研究を始めるのに必要な知識・能力
高分子化学の基礎知識があれば、問題なく研究を始めることができますが、入学前に特別な知識・能力がなくても大学や企業で活躍出来るように本気で指導します。要は日々の研究活動に対する心構え次第で、いくらでも成長できます。そのためには自他共栄の精神を研究スタッフ・学生と共有できる研究室づくりが大切だと考えています。
この研究で身につく能力
栗澤研究室では、ナノ粒子やゲルの設計・合成、キャラクタリゼーションを行い、細胞実験や動物実験によって、目的とする機能が十分であるのか否かを評価します。幅広い領域を学ぶので、種々の測定装置や実験手法の基礎を身につけることができます。動物実験を完了するころには、緻密な実験計画を立てる能力、討論・プレゼンテーション能力を習得することができます。研究目的を達成することに邁進することは大事なのですが、フェアに実験結果を評価できる能力を習得できるように指導します。
【就職先企業・職種】 大学教員、博士研究員、特許審査官、化学企業、製薬企業
研究内容

図1.緑茶カテキン・ナノ粒子による疾患治療
当研究室では、高分子科学、生体材料、ドラッグデリバリーシステム(DDS)、再生医療などの学問領域を基盤とし、難治性疾患を治療可能とする機能性生体材料を開発します。昨今、遺伝子治療や再生医療などを含む先端医療が実施され、これまでに治療不可能とされてきた疾患に新しい治療法が切り拓かれてきています。このような先端医療を支える生体材料に関する研究は、難治性疾患を将来的に治療可能とする医療技術開発において益々重要な役割を果たすものと考えられます。シンガポール、韓国、米国をはじめとする海外研究機関との共同研究を展開しており、臨床応用及び産業化を目指した研究開発を推進します。
[緑茶カテキン・ナノ粒子を用いたドラックデリバリーシステム]
栗澤研究室では、タンパク質・抗体・低分子・核酸などの性質の異なる医薬品の内包を可能とする緑茶カテキン誘導体を薬物キャリアとしたナノ粒子の開発によって、癌をはじめとする難治性疾患の治療を目指したドラッグデリバリーシステム(DDS)の研究を展開します(図1)。 緑茶カテキン・ナノ粒子は、薬物を疾患部に送達することを主な目的とした従来のDDS製剤とは異なる設計指針によって開発されています。疾患部への送達に加えて、薬物キャリアの主成分である緑茶カテキンが抗癌活性を有するために、薬物と緑茶カテキンのそれぞれの抗癌活性に基づくシナジー効果によって、抗腫瘍効果を増幅することを特徴としています。

図2.インジェクタブルゲル・システムによる医療応用
[インジェクタブルゲルによるヘルスケアへの貢献]
生体内での安全なハイドロゲル形成を可能とするインジェクタブルゲルシステムの開発及びその生体機能性材料としての応用研究を展開します。従来、注射によって生体内で安全に化学架橋を誘導する事は困難でありましたが、高分子—フェノールコンジュゲートと酵素溶液の同時注入により、コンジュゲート中のフェノールの酸化カップリングを誘導し、生体内で安全にゲル化させるプラットホームテクノロジーを開発しています(図2)。この手法によって、生体内で薬物及び細胞をゲル内に固定し、長期間に及ぶ薬物徐放及び細胞増殖・分化の制御が可能となることから、様々な疾患に対して新たな治療法をDDS及び再生医療分野において確立されることが期待されます。
主な研究業績
- N. Yongvongsoontorn, J. E. Chung, S. J. Gao, K. H. Bae, M. H. Tan, J. Y. Ying, M. Kurisawa, Carrier-enhanced anticancer efficacy of sunitinib-loaded green tea-based micellar nanocomplex beyond tumor-targeted delivery, ACS Nano 13, 7591-7602 (2019).
- K. Liang, J. E. Chung, S. J. Gao, N. Yongvongsoontorn, M. Kurisawa, Highly augmented drug loading and stability of micellar nanocomplexes comprised of doxorubicin and poly(ethylene glycol)-green tea catechin conjugate for cancer therapy, Adv. Mater. 30, 1706963 (2018).
- J. E. Chung et al. Self-assembled nanocomplexes comprising green tea catechin derivatives and protein drugs for cancer therapy, Nature Nanotechnol. 9, 907-912 (2014).
使用装置
紫外可視分光光度計、NMR、動的光散乱測定装置、HPLC、レオメーター、電子顕微鏡、細胞培養装置、動物実験関連機器
研究室の指導方針
学生に寄り添うスタイルで研究室を運営することをモットーとします。研究のディスカッションや勉強会・雑誌会はできる限り、 頻繁に行い、学生の研究能力の向上に努めます。当然ながら、レベルの高い研究成果を多く創出することは重要ではありますが、学生には先ず、自身が携わっている学問や研究が開拓しうる将来の社会を楽しく想像しながら研究することを提案します。応用研究を遂行する際には、社会貢献の可能性について、学生と十分に議論し、将来に学生が社会でリーダとして活躍するべく力を養う機会にします。また、学生であっても情報受信だけではなく、情報発信ができるよう指導いたします。学生の興味や個性をよく把握し、学生の能力を伸ばします。研究室内では常に世界の最先端の研究を意識しつつ、研究室もその舞台の中であり、世界に向けて発信したいと強く学生が意識する雰囲気を創ります。
[研究室HP] URL:https://kurisawa-lab.labby.jp/
細胞・組織の機能を制御する高分子材料を創成し、医療に役立てる


細胞・組織の機能を制御する高分子材料
を創成し、医療に役立てる
生体制御高分子研究室 Laboratory on Biofunctional Polymers
教授:松村 和明(MATSUMURA Kazuaki)
E-mail:
[研究分野]
材料化学、高分子化学、生体材料
[キーワード]
高分子化学、バイオマテリアル、再生医療、凍結保存、ハイドロゲル
研究を始めるのに必要な知識・能力
化学をベースとして、生体に応用できる材料を目指すので、化学の基礎知識は持っていた方が望ましいです。その上で、生物学や医学に対しても必要な事を習得する姿勢を期待します。異分野からの参加は歓迎しますが、化学、高分子化学の勉強を興味を持って続けられる向上心は必要です。
この研究で身につく能力
生体材料の研究は化学・生物・医学また物理学を含んだ学際的領域の研究です。生体の持つ高度に制御された機能を学び、それを代替する材料の創成を目標として研究を続けていくことで、化学のみならず、生物学や医学、物理学などの幅広い学問分野に触れ、多角的な物の見方を獲得することが出来ます。
また、生体材料の研究は目的がはっきりしているニーズ指向型の研究のため、課題解決能力を育む事が可能です。特に博士後期課程の学生に関しては、問題発見能力も同時に身につけるように研究を進めていきます。
【就職先企業・職種】 製造業・化学メーカーなど
研究内容
機能性高分子バイオマテリアル
人工臓器やドラッグデリバリーシステム(DDS)には高分子化合物のようなソフトマテリアルが多く使用され、研究されています。バルクな材料だけでなく、コロイドやミセル、溶液なども一種のバイオマテリアルとして様々な場面での研究が展開されています。
高分子材料はそのバルク界面で、もしくは溶液状態で細胞や組織と相互作用し、機能を制御することが可能であることがわかってきました。また、様々な場面でその機能を利用したバイオマテリアルの研究開発が行われています。
凍結保護高分子
細胞を凍結保存することができる高分子を見出し、その機序を調べると共に応用を目指しています。この不思議な現象は、電荷密度の高い高分子化合物、特に両性電解質高分子に見られる特徴であることがわかってきました。細胞などの様な水を含む高次構造体をそのまま凍結すると細胞内の水の結晶化により致命的なダメージが加わり、死滅します。このような高分子化合物で細胞を凍結時のダメージから保護できるということは、これまでの常識では考えにくいことでした。従って、この現象の機序を解明することで、凍結保護だけでなく、生体組織や高次構造体の保護作用などへとつながる可能性を秘めています。我々はこの高分子をゲルにすることで、細胞保護性のハイドロゲルを作成しました。また、ナノ粒子化することでドラッグデリバリーシステムへの応用も試みています。
再生医療応用可能な高分子
再生医療や組織工学に応用可能な、生体内分解性セルロースの開発も行っています。この技術により、細胞をその中で増殖させ、生体内で細胞治療が可能な足場材料の開発が期待されます。
生体と調和する高分子バイオマテリアル
生体機能の再生を目的とした診断・治療の支援を行うために、材料工学の手法を用いた、基礎的ならびに応用的研究も目指しています。具体的には、ハイドロゲルを用いた人工関節や人工血管用材料の設計など、高分子材料の観点から生物と化学の融合を目指し、さらには生体を凌駕するような機能を探求しています。
主な研究業績
- Rajan R, Furuta T, Zhao D, Matsumura K. Molecular mechanism of protein aggregation inhibition with sulfobetaine polymers and their hydrophobic derivatives. Cell Rep. Phys. Chem. 5, 102012 (2024)
- Kumar K, Nakaji-Hirabayashi T, Kato M, Matsumura K, Rajan R. Design of Highly Selective Zn-Coordinated Polyampholyte for Cancer Treatment and Inhibition of Tumor Metastasis. Biomacromolecules 25, 1481-1490 (2024)
- Hirose T, Rajan R, Miyako E, Matsumura K. Liquid metal–polymer nano-microconjugations as an injectable and photo-activatable drug carrier. Mol. Syst. Des. Eng. 9, 781-789 (2024)
使用装置
NMR
FITR
動的粘弾性装置
細胞培養用装置
共焦点レーザー顕微鏡
研究室の指導方針
本研究室では、高分子化学の基礎から応用までを理解し、生体材料としての応用を目指しています。そのためには、化学の知識だけでなく、生物や医学、さらには機械工学などの幅広い学問領域に通じている必要があります。また、生体材料がカバーする範囲は、人工臓器、再生医療、ドラッグデリバリー、バイオセンサなど多種多様であり、それらの研究開発に必要な知識を興味を持って獲得し、多角的な視点で課題の解決を遂行できる力のある学生を育成することを目標としています。
年に数度の学会発表を通じてプレゼンテーション能力を身につけ、週一度の研究室ゼミで基礎力・ディスカッション能力を養います。
[研究室HP] URL:https://matsu-lab.info/
タンパク質分子モーターで駆動する微小機械


タンパク質分子モーターで駆動する微小機械
バイオ分子機械工学 研究室
Laboratory on Bio-Molecular Mechanical Engineering
准教授:平塚 祐一(HIRATSUKA Yuichi)
E-mail:
[研究分野]
生命分子工学、機械工学、タンパク質工学、ナノバイオテクノロジー、生物物理学
[キーワード]
分子ロボティクス、MEMS/マイクロマシン、分子モーター、遺伝子工学
研究を始めるのに必要な知識・能力
平塚研究室ではタンパク質を使って人工の機械を作るという全く新しい研究分野を開拓しています。そのため分野を超えた幅広い知識が必要となりますが最も重要なことは「新しいものを作りたい!」という強い意識と「科学的な思考」です。専門的な知識は研究室で学ぶことができます。
この研究で身につく能力
本研究室では、バイオ・化学・微細加工技術・機械工学などを組み合わせた融合的な研究を進めています。融合研究を行うためには異なった専門分野を学んでいく必要があり、多くの学生は躊躇するかもしれません。しかし本研究室での研究開発の経験を通し融合領域では新しい発見や新しい可能性がたくさんあることを学び、専門分野間の垣根が低く感じることになるでしょう。もちろん基礎的な知識なくして融合分野に取り組むことはできません。本研究室では大きさ数ナノメータのタンパク質を人類が利用できるマイクロまたはミリメータサイズの機械として組み立てる研究をしています。そのためにタンパク質や化学物質の分子レベルの構造やナノメータ空間での挙動を理解し、分子レベルから設計できる能力を身につけます。
【就職先企業・職種】 化学メーカー、機械メーカー、IT企業、公務員など
研究内容

図1.光造形可能な人工筋肉で動く微小機械

図2.モータータンパク質で駆動する世界初のディスプレイ

図3.バクテリアで駆動する回転モーター
細胞は、大きさ数ナノメートルのタンパク質がその内部で働くことでさまざまな生命現象を生み出しています。タンパク質は一般に知られているような単なる栄養素の一つではなく「非常に精巧な分子機械」であり「細胞を構成する多彩な部品」です。本研究室では、タンパク質を分子部品として使うことによって、これまで人類が作り出してきた人工機械とは全く異なる夢の微小機械(マイクロマシン、微小ロボット)の創製に挑んでいます。本研究室ではタンパク質の中でも特に「動く」という機能をもった面白いタンパク質「モータータンパク質」に注目し、モータータンパク質で駆動するさまざまな微小な機械の開発に取り組んでいます。
1)光で自在に作製可能な生体分子モーターで動く人工筋肉
筋肉のような収縮性のファイバー(人工筋肉)を、光照射した場所に自在に形成させることに成功しました。光の照射形状を変えることで自由な形状・大きさの人工筋肉が造形でき、ミリメートルスケールの微小機械の動力に利用できます。将来、マイクロロボットやソフトロボットの3Dプリンタによる製造への応用が期待されます。
2)タンパク質により駆動するバイオディスプレイ
生き物には周囲の環境に合わせて体色を変化させる「保護色機能」を持つものがいます。これらの現象はモータータンパク質によって引き起こされています。本研究では微細加工技術とタンパク質工学を組み合わせ、保護色の分子機構を模倣した人工細胞を生体外に作り、世界初のタンパク質で駆動するディスプレイの開発に成功しました。
3) モータータンパク質・バクテリアで動く回転モーター
大きさ数十μmの微小な回転モーターもモータータンパク質やバクテリアを使って作製することに成功しています。これらは従来の人工モーターとは異なり糖や ATP といった化学物質を燃料として動くユニークなモーターとして注目を集めています。
主な研究業績
- Takahiro Nitta, Yingzhe Wang, Zhao Du, Keisuke Morishima & Yuichi Hiratsuka A printable active network actuator built from an engineered biomolecular motor Nature Materials 20, 1149–1155 (2021)
- Susumu Aoyama, Masahiko Shimoike, and Yuichi Hiratsuka Self-organized optical device driven by motor proteins Proc. Nati. Acad. Sci. (PNAS) 110, 16408-16413 (2013).
- Y. Hiratsuaka, M. Miyata, T. Tada and T. Q.P. Uyeda, Micro-rotary motor powered by bacteria, Proc. Nati. Acad. Sci. (PNAS) 103, 13618-13623 (2006).
使用装置
レーザー直接描画装置フォトリソグラフィ装置
タンパク質精製および解析装置高感度
蛍光顕微鏡
細胞培養装置
研究室の指導方針
本研究室の学生には誰もが見たことがない・驚かれるような研究に挑戦してもらいたいと考えています。しかし、そのような研究を成功させるためには基礎的な知識はもちろんのこと論文による学習が必須となります。また自分自身で考え失敗にめげず何度も挑戦し、そして何よりも研究を楽しんでもらいたいと考えています。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/hiratsuka/
次世代の細胞計測技術を創り、ニューロン情報処理の秘密に迫る


次世代の細胞計測技術を創り、
ニューロン情報処理の秘密に迫る
神経情報生理学研究室
Laboratory for Neural Information Physiology
准教授:筒井 秀和(TSUTSUI Hidekazu)
E-mail:
[研究分野]
分子生物学、生理学、生物物理学、細胞計測
[キーワード]
神経細胞、分子センサー、次世代計測技術
研究を始めるのに必要な知識・能力
予備知識:分子・細胞生物学や電気回路の基礎などを理解しているとスムーズに研究を開始できますが、初学者にも丁寧に指導します。
求める人材:新しい技術を創出したい人。実験が好きで、試行錯誤や寄り道の楽しさを理解している方。
この研究で身につく能力
分子・細胞生物学、基礎生理学、生物物理学に関する基本的な研究方法や実験手技を理解し、体得します。さまざまな生命現象の仕組みや分子的基礎が詳細に解明されてきましたが、その一方で、広大な領域が未だに謎に包まれたまま残されています。本研究室では、新しい技術を創出し、今までアクセス不可能だった領域に踏み入る意義や楽しさを学びます。こうした新規技術を創り出すための創意工夫、粘り強い探求や試行錯誤を通じて身に付く能力は、学術の世界のみならず、社会や産業の発展を牽引する上で大いに役に立ちます。
【就職先企業・職種】学術、医工学・電気、情報・バイオなど
研究内容
【ニューロン回路の不思議】
柔軟さ、堅牢さ、緻密さを兼ね備えていることが細胞・組織・器官の機能の特徴の一つです。生き物の仕組みを知りたい!そんな素朴な疑問を大切に研究を行っています。具体的には、ニューロン回路における情報処理の秘密に迫るための、新しい細胞計測技術の創出に取り組んでいます。ニューロン回路は究極の生体組織です。0.1ボルト、1ミリ秒程度の電圧信号が回路網を高速に流れ、情報の表現や処理を司っています。この過程を詳細に理解することができれば、疾患の理解や新しい情報処理様式の発見のほか、想像もできない展開も期待できます。しかし、この挑戦は、数多くの障壁に阻まれています。例えば、既存の細胞計測技術では、複雑なニューロン回路の中を伝播する電気信号を十分に詳細に追跡することは困難で、実験的な立場における大きな課題の一つです。研究室では、主に二つの異なるアプローチでこの課題に取り組んでいます。
【次世代の電気生理計測法の探求】

(上)ニューロンの配線メカニズムを用いて作成した微小電極との接合構造
電気生理計測とは、金属やガラス管の微小電極を用いて、細胞の電気的現象を調べる手法の総称です。長い歴史のある計測法ですが、今日の最先端研究でも欠かすことのできない、強力な手法です。しかしながら、細胞認識能を原理的に備えていない、などの本質的な欠点が残されています。研究室では、脳内でニューロンが配線される分子メカニズムと微細加工技術を融合させることで、この課題の解決に取り組んでいます。これまでに、分子生物学的に人工設計したシナプス誘導因子を用いて、特定種のニューロンを特定の電極に接続する基本原理の実証など成功しています。ニューロン活動を読み取る次世代の電気生理技術の創出に向けて、皆さんと様々な工夫をこらし、探求をしていきます。
また、思いもよらぬ方向から、研究の突破口が開けることも多くあります。既成概念にとらわれず、不思議・楽しい!を大切にし、色々な技術や考え方を学際的に学び、日々の研究に活かしていくことを心掛けています。
【ニューロン活動を可視化する分子センサー】

(左)分子センサーの性能試験の様子
(中央)分子センサーを発現した神経細胞
(右)試作した次世代電気生理技術の原理実証用の微小電極
ある種の細胞には膜電位の変化(電圧信号)を感知するための分子が備わり、電圧信号を増幅し、細胞外環境に応じて細胞内の環境を変化させています。こうした分子を部品として使うことで、電圧信号を光の信号として可視化するセンサー分子を創ることが出来ます。研究室ではこれまでに単一細胞の単一スパイクを可視化することなどに成功してきています。皆さんといろいろなアイディアを持ち寄り、センサーのさらなる高速・高感度化を目指したいと考えています。また、細胞に備わるそうした分子が、そもそもどのような仕組みで電圧信号を感知しているのか?といった基礎的な問題にも興味を持って研究を進めています。
主な研究業績
- K. Sekine, et al., Neuron-microelectrode junction induced by an engineered synapse organizer, Biochem. Biophys. Res. Commun. p149935, 2024.
- W. Haga, et al., Development of artificial synapse organizers liganded with a peptide tag for molecularly inducible neuron-microelectrode interface, Biochem. Biophys. Res. Commun., vol. 699, 2024.
- S. Kim, et al., Formation of neuron-microelectrode junction mediated by a synapse organizer, Appl. Phys. Express, vol. 16, 2023.
使用装置
各種光学顕微鏡・走査型電子顕微鏡
電気生理・電気化学計測関連機器
薄膜作成・微細加工装置
細胞・組織培養関連機器
分子生物学関連機器
研究室の指導方針
研究は自由で楽しいものであるべきと考えますが、それもバックグラウンドの正しい理解や確かな実験技術に基づくはずです。まずは正確な実験や観察が行えるようになる事に努めます。研究結果の定期的な発表(プログレスレポート)および論文紹介(ジャーナルクラブ)を通じてプレゼンテーション力を身につけます。英語専門書を一つ選定して、輪読を行い、研究の背後にある概念や文化を理解する事にも重点を置きます。
[研究室HP] URL:https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/tsutsui/wordpress/
人体に学び、自然を理解し、ナノ戦略で難治性疾患や老化に挑む

人体に学び、自然を理解し、ナノ戦略で難治性疾患や老化に挑む
抗疾患ナノファイター研究室 Laboratory on Anti-Disease Nano-Fighter
教授:鄭 主恩(CHUNG, Joo Eun)
E-mail:
[研究分野]
バイオマテリアル、ドラッグデリバリーシステム(DDS)、ナノメディシン、抗がん治療、アンチエイジング
[キーワード]
生体適合性ポリマー、ナノ粒子、非侵襲的薬物送達、ターゲティング、薬効増幅、緑茶カテキン、メラトニン
研究を始めるのに必要な知識・能力
特別な専門知識や技術は必要ありません。科学への探究心があり、向上心、自他への責任感、本気で世界トップレベルの研究に取り組む意欲と覚悟が大事です。
この研究で身につく能力
バイオマテリアルの合成やナノ粒子の調製から化学物質・細胞・動物を用いた様々な手法の評価まで、学際的な知識や分析技術を経験し習得することができます。社会実装価値の高い医療技術創出を目指し世界最先端技術と競う研究を行う中、実験・ディスカッション・プレゼンテーション・論文執筆を通して、論理的思考、慎重さ、忍耐強さ、トラブルシューティング能力、洞察力、コミュニケーション能力を鍛えられるよう指導します。
【就職先企業・職種】 大学教員、博士研究員、特許審査官、化学企業、製薬企業
研究内容

図1 自然由来のナノファイターによる難治性疾患治療および健康寿命の伸長
当研究室はバイオマテリアルを用いたナノシステムを開発し、現治療法の限界を克服することを目指しています。
昨今、医療技術の発展に伴い世界中の人々の寿命が長くなっていますが、健康寿命の伸長は平均寿命より遅く、そのギャップは老化に伴う様々な疾患による生活質(QOL)の低下や個人と社会への大きな負担をもたらしています。当研究室では自然や人体由来の物質からなる新規な生体分解性バイオマテリアルを合成し、様々な難治性疾患の治療や抗老化作用を発揮するナノ粒子を開発しています。例えば、緑茶カテキンまたは脳内睡眠ホルモンであるメラトニンの誘導体を薬物キャリアとしたナノ粒子の開発により、今まで薬物送達が困難とされている疾患部位(がん・脳・後眼部など)へタンパク質・抗体・低分子・核酸などの性質の異なる様々な薬物を高濃度で疾患部位へ特異的に送達し、従来の薬物治療の大きい問題となっている正常部位への副作用を低減すると共に、緑茶カテキンやメラトニンから由来するキャリア本来の治療効能とのシナジー効果により、著しく薬効を増幅することが可能であります(図1)。このナノ粒子は薬物送達の妨げになっている様々な生体バリアを効率よく克服する高い薬物送達能力と、副作用のない低濃度の薬物を用いても高い薬効を達成する薬効増幅能力を兼ね備えた革新的なテクノロジーであり、トップジャーナルに掲載され高い国際評価を受けています。さらに国際特許(90報以上)の出願・登録および大学や企業との共同研究など臨床応用及び産業化を目指した研究開発を推進します。
従来のDDS製剤とは異なる設計指針によって開発されている当研究室のナノメディシンにより、今まで治療困難であった難治性疾患の治療や老化により蓄積する生体へのダメージの修復を可能とし、健康な生活・社会の実現や産業の活性化を目指しています。
主な研究業績
- N. Yongvongsoontorn, J. E. Chung, S. J. Gao, K. H. Bae, M. H. Tan, J. Y. Ying, M. Kurisawa, Carrier-enhanced anticancer efficacy of sunitinib-loaded green tea-based micellar nanocomplex beyond tumor-targeted delivery, ACS Nano 13, 7591-7602 (2019).
- K. Liang, J. E. Chung, S. J. Gao, N. Yongvongsoontorn, M. Kurisawa, Highly augmented drug loading and stability of micellar nanocomplexes comprised of doxorubicin and poly(ethylene glycol)-green tea catechin conjugate for cancer therapy, Advanced Materials 30, 1706963 (2018).
- J. E. Chung et al. Self-assembled nanocomplexes comprising green tea catechin derivatives and protein drugs for cancer therapy, Nature Nanotechnology. 9, 907-912 (2014).
使用装置
動的光散乱測定装置、紫外可視分光光度計、HPLC、NMR、電子顕微鏡、細胞培養装置、動物実験関連機器、IVIS動物イメージングシステム
研究室の指導方針
自分が行っている研究の科学的・社会的意義やインパクト、そして最先端技術と競うレベルの新規性をしっかり理解することで、熱意と意欲を持って研究を進めるよう鼓舞します。研究の進捗状況に関する十分なディスカッションを行い、総合・分析・判断力や問題解決能力を身につけるよう指導します。研究課題を含め学生の個性と適性に合った方法で段階的なマルチプルマイルストーンを設定し、着実に自信をつけながら成長するよう努めます。迅速な意見交換やチームワークは研究遂行において重要であるため、コアタイム(10-17時)を設けます。雑誌会、研究発表、論文執筆を通して、実力・倫理観・リーダーシップを兼ね備えた科学者として活躍できるよう育成します。
[研究室HP] 作成中
夢のマイホームを細菌が手に入れたら・・・細菌の抗がん性能が劇的に向上することを発見

夢のマイホームを細菌が手に入れたら・・・
細菌の抗がん性能が劇的に向上することを発見
【ポイント】
- 水槽用ろ過材を使って細菌を培養すると細菌の薬剤耐性乳腺がんモデルマウスに対する抗がん活性と生体適合性が劇的に向上することを発見
- ろ過材に含まれる微量の光触媒(酸化チタン)が細菌の抗がん性能を高めることを発見
- 酸化チタンを内包した多孔質高分子複合材料を基材とするAUNの簡便な培養方法の樹立に成功
- 大動物を用いた安全性評価によってAUNの高い生体適合性を実証
北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野 稔、石川県能美市)物質化学フロンティア研究領域の都 英次郎教授と宮原 弥夏子大学院生(博士後期課程、JAIST SPRING研究員)らは、ろ過材を使って培養した細菌の薬剤耐性乳腺がんモデルマウスに対する抗がん活性と生体適合性が向上することを発見した。また、ろ過材に含まれる微量の光触媒(酸化チタン)が細菌の抗がん性能を高めるというメカニズムを見出したことで、酸化チタンを内包した多孔質高分子複合材料を基材とするAUNの簡便な培養方法の樹立に成功した。さらに、大動物を用いた安全性評価によってAUNの高い生体適合性を実証した。 |
【研究背景と内容】
人生で一番大きな買い物といえば、家を思い浮かべる方が多いだろう。もしこの夢のマイホーム(水槽用ろ過材)を細菌に与えてみると抗がん作用がどうなるのか、本研究は、そんな遊び心からスタートした。
アクアリウム愛好家の間では、金魚や熱帯魚の飼育における水槽内の水質浄化にろ過材を使用することが多い。ろ過材の役割とは、水質を汚染するアンモニアを分解する細菌の繁殖を助ける"住処(家)"を提供することであり、様々な形や種類のろ過材がペットショップ等で安価に入手することができる。なお、これまでろ過材を使用して培養した細菌を水質浄化以外の目的で利用されることは本研究を除いて未だかつて報告がない。
近年、低酸素状態の腫瘍内部で選択的に集積・生育・増殖が可能な細菌を利用したがん標的治療に注目が集まっている。都教授の研究グループは、腫瘍組織から強力な抗腫瘍作用のある複数の細菌[A-gyo(阿形)、UN-gyo(吽形)、AUN(阿吽)と命名]の単離に世界にさきがけて成功している[プレスリリース(阿吽の呼吸で癌を倒す!-灯台下暗し:最強の薬は腫瘍の中に隠されていた-)https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2023/05/08-1.html]。なかでもAUN(A-gyoとUN-gyoからなる複合細菌)は、様々ながん腫に対して高い抗腫瘍活性を示すことを見出している。将来の臨床試験を見据えて、当該複合細菌AUNの簡便な培養方法の構築が必要不可欠である。
本研究では、当該腫瘍内複合細菌AUNの抗がん性能を高めるべく、異なる表面構造を有する複数の多孔質ろ過材[セラミック、ガラス、麦飯石、ポリプロピレン(PP)]を使用した細菌培養を試みた。なお、AUNの培養には、構成細菌の一つであるUN-gyoが光合成細菌であるため、ハロゲンランプ等を用いる光照射が必須である。
各種ろ過材を用い、光照射下で培養したAUNを、薬剤耐性乳腺がん細胞株(EMT6/AR1)を背面に移植したマウスの尾静脈に投与したところ、セラミックス製ろ過材で培養したAUNが顕著な抗がん作用と有意なマウス生存率を示すことがわかった。一方、他のろ過材(麦飯石、ガラス、PP)で培養したAUNとろ過材を用いない従来のAUNでは、3日以内にマウスが死亡した。また、コントロール群(AUN未投与群)は経時的に明らかな腫瘍体積増加を示し、すべてのマウスが13日以内に死亡した。
材料表面上の材質や多孔質構造が、細菌の活動を含む細胞生理機能に影響を与えることがよく知られているものの、「いったい何故、セラミックス製ろ過材だけがAUNの抗がん作用や生体適合性を高めるのか」、本研究では、その謎の解明に迫った。
まず、4種類のろ過材の元素分析を行ったところ、無機材料で構成されるろ過材(セラミックス、麦飯石、ガラス)では、元素組成が良く似ており、主成分が二酸化ケイ素(SiO2)であることがわかった。一方、PP製のろ過材は91%割合のPPで構成されていた。また、セラミックス製のろ過材と麦飯石には、細菌やウイルスといった病原性微生物を排除するのによく利用される光触媒[酸化チタン(TiO2)]が微量に含まれていることがわかった。従って、「このTiO2がAUNの抗がん性能の向上に寄与しているのではないか」、という仮説を立てた。
本仮説を検証するために、TiO2を内包する多孔質のポリジメチルシロキサン(PDMS)(TiO2-PDMS)から成るろ過材を調製した。予想した通り、TiO2-PDMSろ過材を用いて培養したAUN(AUN@TiO2-PDMS)は、セラミックス製ろ過材を用いて培養したAUNと同様に単回投与で腫瘍が完全に消失した(図1A、1B)。比較対象として TiO2を含有していないPDMS 製の足場材料で培養した AUN では、2日以内にマウスが死亡することがわかった。一方、コントロール群(AUN未投与群)は腫瘍退縮や生存率の改善に全く効果が見られなかった。また、AUN@TiO2-PDMSの優れた抗がん作用により、マウスの生存率も有意に延長された(図1C)。以上の結果から、光触媒TiO2を内包した多孔質高分子複合材料によってAUNの抗がん性能を大幅に改善できることがわかった。
図1.AUN@TiO2-PDMSの抗腫瘍効果に係る写真(腫瘍が完全消失)(A)、
腫瘍体積の経時変化(B)、ならびにマウス生存率(C)。
次に、何故、TiO2-PDMS複合材料がAUNの治療機能を向上できるのか、そのメカニズムを明らかにするために各種ろ過材でAUNを培養した後の細菌濃度を比較検証した(図2A)。この結果、TiO2-PDMSは、5日間培養した後のAUNの濃度を有意に減少させた。実際、TiO2を含有する3種類のろ過材(TiO2-PDMS、セラミックス製ろ過材、麦飯石)は、ハロゲンランプの光を3時間照射したところ細菌を弱体化させる効果のある活性酸素種(ROS)を検出した(図2B)。以上の結果をまとめると、光照射したTiO2-PDMS複合材料から発生するROSは、AUNの生体機能に影響を与えるため、毒性の低減化を引き起こしていると考えられる。
図2. 各種ろ過材で培養した5日後の細菌濃度(A)と各種ろ過材から発生したROS(B)
次に、このようなAUNの高い抗腫瘍メカニズムを解析するために定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)アッセイ、フローサイトメトリー解析、および免疫組織化学(IHC)染色を用いてAUN@TiO2-PDMSを静脈内投与した24時間後の固形腫瘍内の免疫細胞やサイトカインの挙動を調査した。この結果、AUN@TiO2-PDMSを投与すると腫瘍内の炎症性サイトカインTNF-αが増加し、T細胞、NK細胞、およびマクロファージが活性化されることが明らかになった(図3A、3B)。また、ヘマトキシリンとエオシン(H&E)染色では、非治療群と比較して、AUN@TiO2-PDMSの強力な抗がん効果による腫瘍組織の破壊も確認された(図3C)。さらに、AUN@TiO2-PDMS投与後の腫瘍切片におけるアポトーシスマーカー(カスパーゼ-3および末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ[TdT]を介した2'-デオキシウリジン、5'-三リン酸[dUTP]ニックエンドラベリング[TUNEL])およびTNF-α染色により、腫瘍内では大規模なアポトーシスが発現しており、強い炎症反応が誘発されていることもわかった(図3C)。以上の結果より当該薬効メカニズムを図3Dにまとめる。最後に、大型動物モデル(ビーグル犬)を用いたAUN@TiO2-PDMSの安全性評価(血液学的、組織学的検査)を実施したところ、複合細菌AUN投与による重篤な副作用は無いことがわかった。
図3. 免疫細胞と炎症系サイトカインの発現挙動に係るqPCRの結果(A)と
フローサイトメトリーの結果(B)、ならびに組織学的染色の結果(C)。(D)薬効メカニズム。
本研究は、将来の悪性乳癌の臨床治療に向けて光触媒を内包したろ過材がAUNの機能増強のための有望な材料の一つに成り得ると期待している。
本成果は、2024年10月7日に生物・化学系のトップジャーナル「Chemical Engineering Journal」誌(エルゼビア社発行)のオンライン版に掲載された。なお、本研究は、文部科学省科研費 基盤研究(A)(23H00551)、文部科学省科研費 挑戦的研究(開拓)(22K18440)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 研究成果最適展開支援プログラム (A-STEP)(JPMJTR22U1)、JST次世代研究者挑戦的研究プログラム(未来創造イノベーション研究者支援プログラム)(JPMJSP2102)、公益財団法人発酵研究所、公益財団法人上原記念生命科学財団、ならびに本学超越バイオメディカルDX研究拠点、本学生体機能・感覚研究センターの支援のもと行われたものである。
【論文情報】
掲載誌 | Chemical Engineering Journal(エルゼビア社発行) |
論文題目 | Photocatalytic scaffolds enhance anticancer performances of bacterial consortium AUN |
著者 | Mikako Miyahara, Yuki Doi, Naoki Takaya, Eijiro Miyako* |
掲載日 | 2024年10月7日にオンライン版に掲載 |
DOI | https://doi.org/10.1016/j.cej.2024.156378 |
令和6年10月9日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2024/10/09-1.html液体金属ナノ粒子を活用するがん光免疫療法の開発に成功

液体金属ナノ粒子を活用するがん光免疫療法の開発に成功
ポイント
- 免疫賦活化作用を有する多機能性の液体金属ナノ粒子の開発に成功
- 当該液体金属ナノ粒子がEPR効果により腫瘍に集積し、マウスに移植したがんの可視化と、免疫賦活化ならびに光熱変換によるがん治療が可能であることを実証
- 当該ナノ粒子と近赤外光を組み合わせた新たながん診断・治療技術の創出に期待
北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野 稔、石川県能美市)、先端科学技術研究科 物質化学フロンティア研究領域の都 英次郎准教授の研究グループは、液体金属ナノ粒子*1を活用した新しいがん光免疫療法の開発に成功した(図1)。 |
ガリウム・インジウム(Ga/In)合金からなる室温で液体の金属(液体金属)は、高い生体適合性と優れた物理化学的特性を有することが知られており、とりわけナノ粒子化した液体金属をバイオメディカル分野に応用する研究に大きな注目が集まっている。都准教授の研究チームでも、免疫賦活化作用のある物質を液体金属に組み合わせ、がん患部に選択的に送り込むことができれば、免疫による高い抗腫瘍作用の発現が期待できるだけでなく、生体透過性の高い近赤外光*2を用いることで、患部の可視化や光熱変換を利用した、新たながんの診断や治療が実現できるのではないかと考え、研究をスタートさせた。
図1. 近赤外光が液体金属ナノ粒子に当たり、免疫細胞
(T細胞と樹状細胞)を活性化している様子(イメージ)
研究チームは、液体金属をがん患部まで送り、免疫細胞を賦活化させるために、液体金属表面に免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-L1抗体*3)、免疫調整薬(イミキミド*4)、蛍光試薬(インドシアニングリーン*5)、ポリエチレングリコール-リン脂質複合体*6を吸着させたナノ粒子の作製を試みた。Ga/In液体金属、イミキミド、インドシアニングリーン、ポリエチレングリコール-リン脂質複合体の混合物に超音波照射後、抗PD-L1抗体を添加し、一晩培養するだけで、球状ナノ粒子の構造を水中で安定的に維持可能な簡便なナノ粒子を形成できることを見出した。この方法で調製した液体金属ナノ粒子は、10日以上の粒径安定性を有していること、細胞に対し高い膜浸透性を有し毒性が無いこと、近赤外光照射により発熱が起こることが確認できたため、がん患部の可視化と治療効果について試験を行った。
大腸がんを移植して1週間後のマウスに、液体金属ナノ粒子を投与し、24時間後に740~790 nmの近赤外光を当てたところ、がん患部だけが蛍光を発している画像が得られ、当該ナノ粒子がEPR効果*7によりがん組織に取り込まれていることが分かった(図2A)。そこで、当該ナノ粒子が集積した患部に対して808 nmの近赤外光を照射したところ、免疫賦活化と光熱変換による効果で14日後には、がんを完全に消失させることに成功した(図2B)。
図2.(A) 液体金属ナノ粒子の標的腫瘍内における蛍光特性
(B) 液体金属ナノ粒子による抗腫瘍効果(腫瘍は完全消失) |
さらに、液体金属ナノ粒子の細胞毒性と生体適合性を評価した。2種類の細胞[マウス大腸がん由来細胞(Colon-26)、ヒト胎児肺由来正常線維芽細胞(MRC5)]を培養する培養液中に、液体金属ナノ粒子を、添加量を変えて投与・分散させ、24時間後に細胞内小器官であるミトコンドリアの活性を指標として細胞生存率を測定した結果、細胞生存率の低下は見られず、細胞毒性はなかった。また、液体金属ナノ粒子をマウスの静脈から投与し、生体適合性を血液検査(1週間調査)と体重測定(約1ヵ月調査)により評価したが、いずれの項目でも液体金属ナノ粒子が生体に与える影響は極めて少ないことがわかった。
これらの成果は、今回開発した液体金属ナノ粒子が、がん診断・免疫療法の基礎に成り得ることを示すだけでなく、ナノテクノロジー、光学、免疫学といった幅広い研究領域における材料設計の技術基盤として貢献することを十分期待させるものである。
本成果は、ドイツの化学・生物系トップジャーナル「Advanced Functional Materials」誌(Wiley社発行)に7月28日(現地時間)に掲載された。なお、本研究は、文部科学省科研費 基盤研究(A)(23H00551)、文部科学省科研費 挑戦的研究(開拓)(22K18440)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 研究成果最適展開支援プログラム (A-STEP)(JPMJTR22U1)、公益財団法人発酵研究所、公益財団法人上原記念生命科学財団、ならびに本学超越バイオメディカルDX研究拠点、本学生体機能・感覚研究センターの支援のもと行われたものである。
【論文情報】
掲載誌 | Advanced Functional Materials(Wiley社発行) |
論文題目 | Light-Activatable Liquid Metal Immunostimulants for Cancer Nanotheranostics |
著者 | Yun Qi, Mikako Miyahara, Seigo Iwata, Eijiro Miyako* |
掲載日 | 2023年7月28日 |
DOI | 10.1002/adfm.202305886 |
【用語解説】
室温以下あるいは室温付近で液体状態を示す金属のこと。例えば、水銀(融点マイナス約39℃)、ガリウム(融点約30℃)、ガリウム-インジウム合金(融点約15℃)がある。
800~2500 nmの波長の光。とくに700~1100 nmの近赤外領域の波長の光は生体透過性が高いことが知られている。
免疫チェックポイント阻害剤の一つ。がん細胞や抗原提示細胞が発現するPD-L1に結合することによりT細胞上のPD-1との相互作用を阻害する。この結果、T細胞への抑制シグナル伝達が阻害され、T細胞の活性化が維持され、抗腫瘍作用が発現される。
樹状細胞を活性化させることが知られており、早期の基底細胞皮膚がんや特定の皮膚疾患の治療に用いられる薬物。
肝機能検査に用いられる緑色色素のこと。近赤外光を照射すると近赤外蛍光を発することができる。
ポリエチレングリコールとリンを含有する脂質(脂肪)が結合した化学物質。脂溶性の薬剤を可溶化させる効果があり、ドラッグデリバリーシステムによく利用される化合物の一つ。
100nm以下のサイズに粒径が制御された微粒子は、正常組織へは漏れ出さず、腫瘍血管からのみがん組織に到達して患部に集積させることが可能である。これをEPR効果(Enhanced Permeation and Retention Effect)という。
令和5年8月4日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2023/08/04-1.htmlマイクロロボットを"流れ"作業で迅速に作製 -生体分子モーターによる人工筋肉で自在にプリント・動的再構成可能に-

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国立大学法人 大阪大学 国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学 国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学 |
マイクロロボットを"流れ"作業で迅速に作製
-生体分子モーターによる人工筋肉で自在にプリント・動的再構成可能に-
【ポイント】
- マイクロ流路※1の中で、光に応答する材料を流しながら、マイクロロボット※2のボディと駆動源となるアクチュエータ※3を連続的に生産・組み立てを行う「マイクロロボットその場組み立て法」を開発
- 様々な機能をもつマイクロロボットの迅速な作製に成功
- より高機能なマイクロロボットの実現と、マイクロロボットの量産化に期待
【概要】
大阪大学・大学院工学研究科の森島圭祐教授、王穎哲特任研究員(常勤)は、 北陸先端科学技術大学院大学・先端科学技術研究科 バイオ機能医工学研究領域の平塚祐一准教授、岐阜大学・工学部の新田高洋教授との共同研究で、マイクロ流路内で、マイクロロボットの部品をプリント成形し、その場で組み立てることに成功しました。マイクロロボットの機械構造は光応答性ハイドロゲル※4でつくられ、アクチュエータは同じチームが開発した生体分子モーターからなる人工筋肉を利用しました。このアクチュエータと機械部品をマイクロ流路内で組み立てることにより、マイクロロボット製造の柔軟性と効率が向上しました。この方法で、様々な機能のマイクロロボットが実現されました。また、この成果により、これまで困難であった、特に柔軟な構造を持つマイクロソフトロボットの実現や、マイクロロボットの量産化が期待されます。 本研究成果は、2022年8月24日午後2時(米国時間)に発行される科学雑誌「Science Robotics」の表紙を飾りました。 |
【研究の背景】
マイクロロボット、特に柔軟な構造を持つロボットは、生物医学などの分野で非常に幅広い応用の可能性があるものの、小さなロボットにアクチュエータなど様々な機械部品を組み込むことは困難で、高機能のマイクロロボット開発の障害となっています。従来の方法では、通常、機械構造やアクチュエータなど、マイクロロボットの様々な部品を異なる場所で製造し、一つ一つ組み上げていくピック アンド プレース アセンブリによってマイクロロボットがつくられていました。この方法は時間と労力がかかり、また多くの制限があることが課題となっています。
【研究の内容】
本研究では、自然界の生体内システムの自己組織化プロセスに着想を得て、2021年に発表したプリント可能な生体分子モーターからなる人工筋肉(1)(2)に基づき、ロボット部品をその場で加工・組み立てしてマイクロロボットを製造する方法を開発しました。マイクロ流路内で、マスクレスリソグラフィー※5により、ハイドロゲル材料の機械的構造をプリントし、次に生体分子モーターからなる人工筋肉がハイドロゲル機構の狙った位置に直接プリントすることで、機構を駆動して目的の仕事を実施します(図1) 。 このその場組み立てにより、マイクロロボットを迅速に次々と生産することができます。
また、マイクロロボットに新しい人工筋肉を再プリントすることにより、アクチュエータを迅速に動的再構成し、複雑な仕事を行うマイクロロボットを実現しました(図2)。
さらに、生体分子モーターを使用する本研究とは異なる、生きた筋肉細胞を用いるアプローチとして細胞ハイブリッドロボット※6が注目されています。細胞ハイブリッドロボットは、柔軟性が高く、環境負荷が低いという利点があるものの、筋肉細胞の培養に数日かかってしまうという問題があります。本研究では、設計の柔軟性を向上させながら、製造プロセスを大幅に簡素化することに成功しました。今後のオンチッププリンティング技術の向上や人工筋肉の性能向上により、現在の細胞ハイブリッドロボットのボトルネックを打破し、実用化に向けた一歩を踏み出すことが期待される手法であると考えています。
(1) https://www.nature.com/articles/s41563-021-00969-6
(2) https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/04/20-1.html
図1 マイクロロボットその場組み立て法
図2 その場組み立て法によって製造したマイクロロボットが生体分子モーターからなる人工筋肉によって駆動する様子
【本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)】
今回の研究により、自然界の生体分子モーターによって運動が創発する自己組織化現象をオンチップ微小空間上で工学的に制御し、自在にデザインできる加工プロセスをボトムアップ的な発想でより簡便に実現できました。これにより、これまで超微小部品をトップダウン的に組み立てることが大きなボトルネックであったために遅れていた、マイクロロボットの組み立てやマイクロソフト機構のオンデマンド生産が可能になりました。今後、様々な機能を付与したマイクロロボットがオンチップ上で連続的にオンデマンド生産することが可能になり、化学エネルギーだけで駆動する超小型マイクロロボットが健康医療応用など様々な分野に展開、波及していくことが期待できます。
【特記事項】
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費 基盤研究(S)(課題番号22H04951)、基盤研究(A)(課題番号22H00196)、基盤研究(B)(課題番号19H02106)、学術変革領域研究(A)(課題番号21H05880)、挑戦的萌芽研究(課題番号21K18700)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「次世代人工知能・ロボット中核技術開発」(JPNP15009)の支援を受けて行われました。
【論文情報】
タイトル | In situ integrated microrobots driven by artificial muscles built from biomolecular motors |
著者名 | Yingzhe Wang, Takahiro Nitta, Yuichi Hiratsuka ,and Keisuke Morishima |
DOI | https://www.science.org/doi/10.1126/scirobotics.aba8212 |
【用語説明】
ガラスや高分子材料で作製した数ミリメートルから数マイクロメートルの流路で、効率的に化学反応などを起こすことができる。微小なバイオセンサーや化学分析装置に利用されている。
数ミリメートル以下のサイズのロボットで、医療などへの応用が期待されている。
モーターやエンジンなどのように電気や化学エネルギーなどを利用して、動きや力を発生する装置。
紫外線などの光を照射することでゼリー状に固まる物質。
光照射による微細加工技術で、半導体デバイスなどの製造に利用されている。
培養細胞と機械部品を融合させて作製したロボット。
【SDGs目標】
【参考URL】
森島圭祐教授 研究者総覧URL https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/90351526dc15ef59.html
生命機械融合ウェットロボティクス領域URL http://www-live.mech.eng.osaka-u.ac.jp/
令和4年8月26日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2022/08/26-1.htmlサスティナブルイノベーション研究領域の高田助教らの研究がPolymer Journal誌の表紙に採択
サスティナブルイノベーション研究領域の高田 健司助教、金子 達雄教授および物質化学フロンティア研究領域の松村 和明教授の共同研究に関する論文が、Springer Nature社刊行のPolymer Journal誌の表紙に採択されました。
■掲載誌
Polymer Journal 2022, 54 (4), 581−589.
掲載日2022年1月14日
■著者
Kenji Takada, Asuka Komuro, Mohammad Asif Ali, Maninder Singh, Maiko Okajima, Kazuaki Matsumura, Tatsuo Kaneko*
■論文タイトル
Cell-adhesive gels made of sacran/collagen complexes
■論文概要
本研究では、超高分子量多糖であるサクランとたんぱく質の一種であるコラーゲンを複合化させることで細胞接着性に優れたゲルを開発しました。
多糖サクランは化粧品分野の他にも医療用材料としての利用が期待されており、その汎用性の拡大が期待されています。中でもバイオマテリアルである細胞足場材料として利用するためには、分子配向性を有すること並びに、細胞との接着性を発揮するたんぱく質配列の存在が重要です。本研究では、サクランの配向性とコラーゲンの細胞接着性に着目してこれらコンポジット化による機能化を試みました。複合化条件を検討した結果、一様な配向性を有したサクラン/コラーゲン複合ゲルが形成される条件を見出しました。サクラン/コラーゲンゲルを用いて細胞培養を行った結果、コントロールとしての培養dishと同様の細胞接着・伸展が確認され、本複合ゲルが細胞足場材料への応用の可能性を広げるものであることが提案されました。
表紙詳細:https://www.nature.com/pj/volumes/54/issues/4
論文詳細:https://doi.org/10.1038/s41428-021-00593-w
令和4年4月27日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2022/04/27-1.html多機能ナノ粒子を用いて、無傷のリソソームを迅速かつ高純度に単離する手法を開発

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国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 国立大学法人東北大学 |
多機能ナノ粒子を用いて、無傷のリソソームを迅速かつ高純度に単離する手法を開発
ポイント
- 磁性―プラズモンハイブリッドナノ粒子を哺乳動物細胞のリソソーム内腔へエンドサイトーシス*1経路で高効率に送達することに成功
- ハイブリッドナノ粒子の細胞内輸送過程をプラズモンイメージング*2によって精確に追跡することで、高純度にリソソームを磁気分離するための最適培養時間を容易に決定可能
- リソソーム内腔にハイブリッドナノ粒子を送達後、細胞膜を温和に破砕し、4℃で30分以内にリソソームを磁気分離することで、細胞内の状態を維持したままリソソームの高純度単離に成功
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)(学長:寺野 稔、石川県能美市) 先端科学技術研究科 前之園 信也 教授、松村 和明 教授、平塚 祐一 准教授の研究チームは、東北大学(総長:大野 英男、宮城県仙台市)大学院生命科学研究科の田口 友彦教授と共同で、磁気分離能(超常磁性)とバイオイメージング能(プラズモン散乱*3特性)を兼ね備えた多機能ナノ粒子(磁性―プラズモンハイブリッドナノ粒子)を用いて、細胞内の状態を維持したままリソソームを迅速かつ高純度に単離する技術を世界で初めて開発しました。 |
【背景と経緯】
リソソームは60を超える加水分解酵素とさまざまな膜タンパク質を含む細胞小器官(オルガネラ)で、タンパク質、炭水化物、脂質、ヌクレオチドなどの高分子の分解と再利用に主要な役割を果たします。これらの機能に加えて、最近の発見では、リソソームがアミノ酸シグナル伝達にも関与していることがわかってきています。リソソーム機能障害に由来する疾患も数多く存在します。そのため、リソソームの機能をより深く理解することは基礎生物学においても医学においても重要な課題です。
リソソームの代謝物の探索は、近年急速に関心が高まっている研究分野です。たとえば、飢餓状態と栄養が豊富な状態でリソソームの代謝物を研究することにより、アミノ酸の流出がV-ATPaseおよびmTORに依存することが示されました(M. Abu-Remaileh et al., Science, 2017, 358, 807)。このように、外部刺激に応答したリソソームの動的な性質を調べるためには、リソソームを細胞内の状態を維持したまま迅速かつ高純度に分離する必要があります。
一般的に、リソソームの単離は密度勾配超遠心分離法*4によって行われていますが、密度勾配超遠心分離法には二つの大きな問題があります。まず一つ目の問題として、細胞破砕液にはほぼ同じ大きさと密度を持ったオルガネラが多種類あるため、得られた画分にはリソソーム以外の別のオルガネラが不純物として混ざっていることがよくあります。したがって、リソソーム画分のプロテオミクス解析を行っても、完全な状態のリソソームに関する情報を得ることができません。二つ目の問題として、分離プロセスに長い時間がかかるため、リソソームに存在する不安定なタンパク質は脱離、変性、または分解される可能性があります。この問題も、リソソームに関する情報を得ることを大きく妨げます。
これらの問題を克服するために、リソソームを迅速に単離するための他の技術が開発されました。たとえば、磁気ビーズを用いた免疫沈降法*5によってリソソームを迅速に分離できることが示されました(M. Abu-Remaileh et al., Science, 2017, 358, 807)。しかし、この手法では、ウイルスベクターのトランスフェクションなどによって抗体修飾磁気ビーズが結合できるリソソーム膜貫通タンパク質を発現させる必要があります。この方法は、密度勾配超遠心分離法よりも高純度のリソソーム画分が得られますが、リソソーム膜のタンパク質組成とその後のプロテオミクス解析に悪影響を与える可能性が指摘されています(J. Singh et al., J. Proteome Res., 2020, 19, 371-381.)。
【研究の内容】
本研究では、無傷のリソソームを迅速かつ効率的に分離する新たな単離法として、アミノデキストラン(aDxt)で表面修飾したAg/FeCo/Ag コア/シェル/シェル型磁性―プラズモンハイブリッドナノ粒子(MPNPs)をエンドサイトーシス経路を介してリソソームの内腔に集積した後、細胞膜を温和に破砕し、リソソームを磁気分離するという手法を開発しました(図1)。リソソームの高純度単離のためには、エンドサイトーシス経路におけるaDxt結合MPNPs(aDxt-MPNPs)の細胞内輸送を精確に追跡することが必要となります。そこで、aDxt-MPNPsとオルガネラの共局在の時間変化を、aDxt-MPNPsのプラズモンイメージングとオルガネラ(初期エンドソーム、後期エンドソームおよびリソソーム)の免疫染色によって追跡しました(図2)。初期エンドソームおよび後期エンドソームからのaDxt-MPNPsの脱離と、リソソーム内腔へのaDxt-MPNPsの十分な蓄積に必要な最適培養時間を決定し、その時間だけ培養後、リソソームを迅速かつマイルドに磁気分離しました。細胞破砕からリソソーム単離完了までの経過時間(tdelay)と温度(T)を変化させることにより、リソソームのタンパク質組成に対するtdelayとTの影響をアミノ酸分析によって調べました。その結果、リソソームの構造は細胞破砕後すぐに損なわれることがわかり、リソソームを可能な限り無傷で高純度で分離するには、tdelay ≤ 30分およびT = 4℃という条件で磁気分離する必要があることがわかりました(図3)。これらの条件を満たすことは密度勾配超遠心分離法では原理的に困難であり、エンドサイトーシスという細胞の営みを利用して人為的にリソソームを帯磁させて迅速かつ温和に単離する本手法の優位性が明らかとなりました。
本研究成果は、2022年1月3日(米国東部標準時間)に米国化学会の学術誌「ACS Nano」のオンライン版に掲載されました。
【今後の展開】
本手法はリソソーム以外のオルガネラの単離にも応用可能な汎用性のある技術であり、オルガネラの新たな高純度単離技術としての展開が期待されます。
図1 磁性―プラズモンハイブリッドナノ粒子を用いたリソソームの迅速・高純度単離法の概念図
図2 COS-1細胞におけるaDxt-MPNPsの細胞内輸送。 (A)aDxt-MPNPsの細胞内輸送の概略図(tは培養時間)。 (B)aDxt-MPNPsとリソソームマーカータンパク質(LAMP1)の共局在を示す共焦点レーザー走査顕微鏡像 (核:青、aDxt-MPNPs:緑、リソソーム:赤)。 aDxt-MPNPsはプラズモンイメージングによって可視化。 スケールバーは20 µm。 |
図3 単離されたリソソームのウエスタンブロッティングおよびアミノ酸組成分析の結果。 (A)ネガティブセレクション(NS)およびポジティブセレクション(PS)画分。 (B)PS画分の共焦点レーザー走査顕微鏡画像(緑:aDxt-MPNPs、赤:LAMP1)。 (C)NSおよびPS画分、および細胞破砕液のウエスタンブロット結果。 (D)異なる温度でtdelayを変化した際に得られたリソソーム画分のアミノ酸含有量の変化。 水色(4℃、tdelay = 30分)、青(4℃、tdelay = 120分)、ピンク(25℃、tdelay = 30分)、 および赤(25℃、tdelay = 120分)。 |
【論文情報】
掲載誌 | ACS Nano |
論文題目 | Quick and Mild Isolation of Intact Lysosomes Using Magnetic-Plasmonic Hybrid Nanoparticles (磁性―プラズモンハイブリッドナノ粒子を用いた完全な状態のリソソームの迅速かつ温和な単離) |
著者 | The Son Le, Mari Takahashi, Noriyoshi Isozumi, Akio Miyazato, Yuichi Hiratsuka, Kazuaki Matsumura, Tomohiko Taguchi, Shinya Maenosono* |
掲載日 | 2022年1月3日(米国東部標準時間)にオンライン版に掲載 |
DOI | 10.1021/acsnano.1c08474 |
【用語説明】
*1.エンドサイトーシス:
細胞が細胞外の物質を取り込む過程の一つ
*2.プラズモンイメージング:
プラズモン散乱を用いて、光の回折限界以下のサイズの金属ナノ粒子を光学顕微鏡(蛍光顕微鏡や共焦点顕微鏡など)で可視化すること
*3.プラズモン散乱:
金属ナノ粒子表面での自由電子の集合振動である局在表面プラズモンと可視光との相互作用により、可視光が強く散乱される現象
*4.密度勾配超遠心分離法:
密度勾配のある媒体中でサンプルに遠心力を与えることで、サンプル中の構成成分がその密度に応じて分離される方法
*5.免疫沈降法:
特定の抗原を認識する抗体を表面修飾したビーズ用い、標的抗原が発現したオルガネラを細胞破砕液中から選択的に分離する免疫化学的手法
令和4年1月5日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2022/01/05-2.htmlナノ粒子と近赤外レーザー光でマウス体内のがんを検出・治療できる! ~ ガンマ線架橋したゼラチン-液体金属ナノ粒子の開発により実現 ~

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国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
ナノ粒子と近赤外レーザー光でマウス体内のがんを検出・治療できる!
~ ガンマ線架橋したゼラチン-液体金属ナノ粒子の開発により実現 ~
ポイント
- 液体金属に生体分子を吸着させた複合体へのガンマ線照射によりコア-シェル型の構造を持つナノ粒子の作製に成功
- ガンマ線架橋したゼラチン-液体金属ナノ粒子がEPR効果により腫瘍に集積し、マウスに移植したがんの可視化と、光熱変換によるがん治療が可能であることを実証
- 当該ナノ粒子と近赤外光を組み合わせた新たながん診断・治療技術の創出に期待
北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野 稔、石川県能美市)、先端科学技術研究科 物質化学領域の都 英次郎准教授とセキ ウン大学院生(博士前期課程)は、量子科学技術研究開発機構(理事長・平野 俊夫、千葉県千葉市)、高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部(群馬県高崎市)の田口 光正上席研究員(「生体適合性材料研究プロジェクト」プロジェクトリーダー)、木村 敦上席研究員と共同で、量子ビーム(ガンマ線*1)架橋技術を用いて、ガリウム-インジウム合金から成る液体金属*2 表面に様々な生体高分子(ゼラチン、DNA、レシチン、牛血清蛋白質)がコートされ、安定な状態を保つことができるコア-シェル型*3 のユニークな構造を有すナノ粒子の作製に成功した(図1)。得られたゼラチン-液体金属ナノ粒子は、EPR効果*4 によって大腸がんを移植したマウス体内の腫瘍内に集積し、生体透過性の高い近赤外レーザー光*5 により、がん患部の可視化と光熱変換による治療が可能であることを実証した。さらに、マウスがん細胞とヒト正常細胞を用いた細胞毒性試験と生体適合性試験を行い、いずれの検査からもゼラチン-液体金属ナノ粒子が生体に与える影響は極めて少ないことがわかった。当該ナノ粒子と近赤外レーザー光を組み合わせた新たながん診断・治療技術の創出が期待される。 |
【研究背景と内容】
ガリウム・インジウム(Ga/In)合金からなる室温で液体の金属(液体金属)は、高い生体適合性と優れた物理化学的特性を有することが知られており、とりわけナノ粒子化した液体金属をバイオメディカル分野に応用する研究に大きな注目が集まっている。研究チームでも、液体金属をがん患部に送り込むことができれば、生体透過性の高い近赤外レーザー光を用いることで、患部の可視化や光熱変換を利用した、新たながんの診断や治療が実現できるのではないかと考え、研究をスタートさせた。
液体金属をナノ粒子化するためには煩雑な合成プロセスが必要であり、ナノ粒子化した液体金属の構造や機能を溶媒中で安定的に保持させることは難しい。そこで、研究チームは、液体金属をがん患部まで送り、がん細胞内に取り込ませるために、液体金属表面に生体高分子(ゼラチン、DNA、レシチン、牛血清蛋白質)を吸着させたコア-シェル型ナノ粒子の作製を試みた。Ga/In液体金属と生体分子の混合物に超音波照射することで、コア-シェル型ナノ粒子を形成できることを見出したが、そのままではナノ粒子の構造を水中で安定的に維持させることはできなかった。
この問題を解決するために、ナノ粒子表面の生体高分子がバラバラにならないよう、量子ビーム(ガンマ線)架橋反応を利用すれば、架橋剤などの細胞毒性を有する薬剤を用いることなく、生体高分子の特性を保持したまま安定化できると考えた。この方法でガンマ線架橋したゼラチン-液体金属ナノ粒子は、30日以上の粒径安定性を有していること、細胞に対し高い膜浸透性を有し毒性が無いこと、近赤外レーザー光照射により発熱が起こることが確認できたため、がん患部の可視化と治療効果について試験を行った。
大腸がんを移植して10日後のマウスに、ゼラチン-液体金属ナノ粒子を投与し、4時間後に740~790 nmの近赤外光を当てたところがん患部だけが蛍光を発している画像が得られ、当該ナノ粒子がEPR効果によりがん組織に取り込まれていることが分かった(図2(左))。そこで、当該ナノ粒子が集積した患部に対して808 nmの近赤外レーザー光を照射したところ、光熱変換による効果で26日後には、がんを完全に消失させることに成功した(図2(右))。
さらに、ゼラチン-液体金属ナノ粒子の細胞毒性と生体適合性を評価した。2種類の細胞[マウス大腸がん由来細胞(Colon-26)、ヒト胎児肺由来正常線維芽細胞(MRC5)]を培養する培養液中に、ゼラチン-液体金属ナノ粒子を、添加量を変えて投与・分散させ、24時間後に細胞内小器官であるミトコンドリアの活性を指標として細胞生存率を測定した結果、細胞生存率の低下は見られず、細胞毒性はなかった(図3)。また、ゼラチン-液体金属ナノ粒子をマウスの静脈から投与し、生体適合性を血液検査(1週間調査)と体重測定(約1ヵ月調査)により評価したが、いずれの項目でもゼラチン-液体金属ナノ粒子が生体に与える影響は極めて少ないことがわかった。
これらの成果は、今回開発した生体高分子のナノ粒子コーティング技術が、革新的がん診断・治療法の基礎に成り得ることを示すだけでなく、ナノテクノロジー、光学、量子ビーム工学といった幅広い研究領域における材料設計の技術基盤として貢献することを十分期待させるものである。
本成果は、2021年12月20日に先端材料分野のトップジャーナル「Applied Materials Today」誌(Elsevier発行)のオンライン版に掲載された。なお、本研究は、日本学術振興会科研費(基盤研究A)及び総合科学技術・イノベーション会議 官民研究開発投資拡大プログラム(Public/Private R&D Investment Strategic Expansion PrograM:PRISM)の支援のもと行われたものである。
図1. ガンマ線を利用した生体分子-液体金属ナノ複合体の合成と当該ナノ粒子を活用した光がん療法の概念。
LM: 液体金属、NIR: 近赤外、FL: 蛍光。
図2. ナノ粒子をがん患部に集積・可視化(左)し、光照射によりがんを治療(右)。
図3. CCK-8法によるゼラチン-液体金属ナノ粒子の細胞毒性評価。
赤:マウスの大腸がん細胞、グレー:ヒトの正常細胞、
RIPA: Radioimmunoprecipitation Buffer(細胞や組織の溶解に
使用される緩衝液、本実験の陽性対照に利用)
【論文情報】
掲載誌 | Applied Materials Today |
論文題目 | Sonication- and γ-ray-mediated biomolecule-liquid metal nanoparticlization in cancer optotheranostics |
著者 | Qi Yun, Atsushi Kimura, Mitsumasa Taguchi, Eijiro Miyako* |
掲載日 | 2021年12月20日にオンライン版に掲載 |
DOI | 10.1016/j.apmt.2021.101302 |
【関連研究情報】
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)、先端科学技術研究科物質化学領域の都研究室では、近赤外レーザー光により容易に発熱するナノ材料の特性(光発熱特性)に注目し、これまでに、"三種の神器"を備えた多機能性グラフェン(2020年4月23日 JAISTからプレス発表)、ナノテクノロジーと遺伝子工学のマリアージュ(2020年8月17日 JAISTからプレス発表)、がん光細菌療法の新生(2021年2月16日JAISTからプレス発表)などの光がん療法を開発している。
量子科学技術研究開発機構(QST)、先端機能材料研究部プロジェクト「生体適合性材料研究」では、量子ビーム微細加工技術による先端医療デバイスの創製の一環として、これまでに、診断や創薬における微量検体の分析性能が数10倍に!(2019年6月25日 QSTからプレス発表)、平面状の細胞シートが立体的に!細胞が自分の力でシートを3次元化(2021年7月14日QSTからプレス発表)などの機能性材料作製技術を開発している。
【用語説明】
*1 ガンマ線
ガンマ線とは、放射性同位元素(コバルト60など)の崩解によって放出される量子ビームの一種。
*2 液体金属
室温以下あるいは室温付近で液体状態を示す金属のこと。例えば、水銀(融点マイナス約39℃)、ガリウム(融点約30℃)、ガリウム-インジウム合金(融点約15℃)がある。
*3 コア-シェル型
コアは核、シェルは殻を意味し、一つの粒子で核と殻の素材が異なるものをこのように呼ぶ。
*4 EPR効果
100nm以下のサイズに粒径が制御された微粒子は、正常組織へは漏れ出さず、腫瘍血管からのみがん組織に到達して患部に集積させることが可能である。これをEPR効果(Enhanced Permeation and Retention Effect)という。
*5 近赤外レーザー光
レーザーとは、光を増幅して放射するレーザー装置、またはその光のことである。レーザー光は指向性や収束性に優れており、発生する光の波長を一定に保つことができる。とくに700~1100 nmの近赤外領域の波長の光は生体透過性が高いことが知られている。
令和3年12月21日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/12/21-1.html新型コロナウイルスの重症化に関与するタンパク質ORF8の特異な性質を発見

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石川県公立大学法人 石川県立大学 国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学 |
新型コロナウイルスの重症化に関与するタンパク質ORF8の特異な性質を発見
新型コロナウイルスの重症化に関与するタンパク質ORF8は、過酷な環境下でも高い安定性、復元力を保つという特異な性質を持つことを発見しました。ORF8は、70度においても天然状態を保持し、70度以上で変性させても、温度が下がると天然状態に戻ること、酸性条件で変性するが、弱アルカリ条件にすると天然状態に戻ることを明らかにしました。 |
【概要】
石川県立大学 森正之准教授が中心となり、今村智弘講師、東村泰希准教授、松本健司教授および北陸先端科学技術大学院大学 生命機能工学領域の大木進野教授と共同で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の重症化関与タンパク質ORF8の特異な性質を発見しました。本研究成果は、速報誌「Biochemical and Biophysical Research Communications」に公開されました。
SARS-CoV-2が引き起こす新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、基礎疾患や肥満の罹患者が重篤化しやすく、全世界で大問題となっています。新型コロナウイルスが持つORF8タンパク質は、SARS-CoV-2において特徴的なタンパク質です。これまでの解析により、ORF8は、免疫機能に重要な役割を持つMHCクラスIタンパク質の働きを抑え、細胞障害性T細胞を介した免疫応答を損なう働きがあることが報告されております。さらに、ORF8遺伝子領域が欠失したSARS-CoV-2株や1つのアミノ酸残基が変異したORF8(L84S)を持つウイルス株では、重症化しにくいことが報告されています。このことから、ORF8タンパク質は、COVID-19の重症化に関与することが示唆されています。
ORF8タンパク質は分子内に3か所のジスルフィド結合(S-S結合)を持ち、さらにS-S結合で二量体になる複雑なタンパク質です。そのため大腸菌での均一なORF8の合成は極めて困難です。しかし、我々は、タバコ培養細胞(タバコBY-2細胞)を用いて均一なORF8タンパク質の大量合成に成功しました(図1)。
タンパク質は一般的に、熱や酸、アルカリの影響を受けると、ひもが絡まったような変性という状態になって沈殿します。通常は、生卵が加熱されるとタンパク質が変性しゆで卵になるように、いったん変性したタンパク質は元の状態に戻りません。ORF8タンパク質がどのような条件で変性するかはその機能を知るうえで重要です。そこで、本研究では、タバコBY-2細胞で合成した野性型ORF8と変異型ORF8(L84S)の温度およびpHを変化させORF8の状態変化を核磁気共鳴(NMR)装置で解析しました。その結果、ORF8は耐熱性がとても高く70度付近まで天然状態を保持し、70度以上で変性しました。しかし、一般的なタンパク質と異なり、温度を下げると天然状態に戻ることがわかりました(図2)。またORF8は、弱酸性条件で変性してしまうこと、中性条件に戻すと元の天然状態に戻ることがわかりました。これらの結果は、ORF8が特別安定なタンパク質であることを意味します。また、興味深いことに、変異型ORF8(L84S)はORF8に比べて熱および酸への耐性がより高いことがわかりました(図2)。これらの特異な性質は、OFR8の機能と関係していることが予想されます。今後、この知見をもとにした解析を行うことにより、COVID-19の重症化をおさえる治療法が確立する可能性が期待されます。
【発表論文】
論文タイトル | Similarities and differences in the conformational stability and reversibility of ORF8, an accessory protein of SARS-CoV-2, and its L84S variant |
論文著者 | Shinya Ohki; Tomohiro Imamura; Yasuki Higashimura; Kenji Matsumoto; Masashi Mori |
雑誌 | Biochemical and Biophysical Research Communications |
図1 タバコ培養細胞を用いたORF8タンパク質の大量生産
タバコBY-2細胞で生産したORF8タンパク質は全て二量体を形成する。(A) ORF8タンパク質を合成するタバコBY-2細胞 (B)タバコBY-2細胞の大量培養 (C)培養液中に放出されたORF8タンパク質 (D)精製しNMR解析に用いたORF8タンパク質。WT:野生型ORF8タンパク質、L84S: 変異型ORF8タンパク質、矢じり:ORF8タンパク質、M:分子量マーカー
図2 ORF8 (wild type)とその変異体L84Sの各温度での1H-NMRスペクトルのメチル基領域の拡大図 *印は、昇温後に再びその温度に戻したことを表す。
ORF8、L84Sともに70度くらいまではスペクトルに大きな変化が見られない。これは、立体構造が保持されていることを示している。ORF8では70度、L84Sでは75度のときにピークが広幅化し、特に0 ppm付近ではピークが消失しかかっている。これは、試料が多量体化もしくは会合により熱変性状態になったことを示している。ところが、両試料ともに温度を下げたときのスペクトルは実験開始時のスペクトルと一致している。これは、変性状態の試料が天然状態に戻ったことを示している。
【用語説明】
細胞傷害性T細胞:リンパ球T細胞の一種。異物となる異常細胞(ウイルス感染細胞、がん細胞など)を認識し、それらを攻撃して破壊する細胞。
MHCクラスIタンパク質:免疫応答に関わるタンパク質。細胞内のタンパク質に由来するペプチド断片を細胞表面に輸送し、細胞障害性T細胞に提示するタンパク質。
ジスルフィド結合(S-S結合):2つのシステインによって形成される共有結合で、タンパク質の立体構造形成に重要な役割をはたす。
二量体:2個のタンパク質が、物理的・化学的な力によって形成した分子。
核磁気共鳴(NMR)装置:強力な磁場中に置いた試料に電磁波を照射して応答信号を得る装置。信号を解析することで、試料の構造や運動性を知ることができる。
令和3年6月9日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/06/09-1.html新型コロナウイルスのアクセサリータンパク質ORF8大量合成に成功

新型コロナウイルスのアクセサリータンパク質ORF8大量合成に成功
新型コロナウイルスのORF8タンパク質について、タバコ培養細胞を用いた植物ウイルス大量合成システムにより、均一なORF8タンパク質を大量に合成することに成功しました。
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石川県立大学 森 正之准教授、今村 智弘特任講師、東村 泰希准教授が中心となり北陸先端科学技術大学院大学 生命機能工学領域の大木 進野教授と共同で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のアクセサリータンパク質ORF8について、独自に開発したタンパク質大量合成システムを用いて均一に大量合成することに成功しました。本研究成果は、「Plant Cell Reports」に公開されました。
SARS-CoV-2が引き起こす新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、現在世界で猛威を振るっております。COVID-19の克服には、SARS-CoV-2のもつタンパク質の機能解明が必須であります。SARS-CoV-2のゲノム配列の解読により、SARS-CoV-2は、少なくとも16種類の非構造タンパク質、4種類の構造タンパク質、少なくとも6または7種類のアクセサリータンパク質を感染細胞で合成することが明らかとなっております。この中で、アクセサリータンパク質の1つであるORF8タンパク質は、近縁ウイルスのORF8タンパク質と比べ相同性が低く、SARS-CoV-2において特徴的なタンパク質であります。ORF8は、免疫や炎症に関わるタンパク質に結合する可能性が報告されております。さらに、ORF8遺伝子領域が欠失したSARS-CoV-2株は、重症化しにくいことが報告されております。このことから、ORF8タンパク質は、COVID-19の重症化に関与していることが示唆されてきております。しかし、OFR8タンパク質の機能は解明されておりません。
ORF8タンパク質の機能解明には、均一なORF8タンパク質を大量に合成することが必要です。しかし、ORF8タンパク質は分子内に3か所のジスルフィド 結合(S-S結合)を持ち、さらにS-S結合で2量体になる複雑なタンパク質です。そのため大腸菌での均一なORF8の合成は極めて困難であります。そこで、我々は、これまでにタバコ培養細胞(タバコBY-2細胞)を宿主として独自に構築した大量タンパク質合成システムを用いてORF8タンパク質の大量合成を試みました。この合成システムの特徴は、薬剤(エストラジオール)の添加によって、S-S 結合をもつ複雑な目的タンパク質を同調的に大量合成することができます(図1)。この生産システムを用いてORF8タンパク質の合成を試みたところ、培養液1 LあたりORF8タンパク質を約10 mg合成することに成功しました(図2)。合成したORF8タンパク質を核磁気共鳴(NMR)装置により解析を行ったところ、均一な構造を持つORF8タンパク質が生産されていることが明らかとなりました(図3)。
本研究成果によって、タバコBY-2細胞を用いて、均一なORF8タンパク質の大量合成に成功しました。今後、本システムで合成したORF8を用いて、ORF8の機能が明らかになることが期待されます。さらに、ORF8をターゲットにした治療薬の開発が期待できます。
【論文情報】
タイトル | Production of ORF8 protein from SARS-CoV-2 using an inducible virus-mediated expression system in suspension-cultured tobacco BY-2 cells |
著者 | Tomohiro Imamura, Noriyoshi Isozumi, Yasuki Higashimura, Shinya Ohki, and Masashi Mori |
雑誌名 | Plant Cell Reports |
図1:植物ウイルスを利用した薬剤誘導型ORF8タンパク質合成システムの概略図
①薬剤活性型転写因子(XVE)の発現。②薬剤(エストラジオール)添加によるXVEの活性化。③XVEによるトバモウイルス-ORF8融合遺伝子の発現。④リボザイムによるmRNA3'末端の切断。⑤サブゲノムRNAのmRNAの増幅。⑥ORF8タンパク質の翻訳。⑦ORF8タンパク質の細胞外への移行。ORF8タンパク質は、二量体を形成する。
図2:タバコ培養細胞を用いたORF8タンパク質の合成
(A) ORF8タンパク質を合成するタバコBY-2細胞 (B)薬剤誘導処理を行ったタバコBY-2細胞 (C) 培養液中に放出されたORF8タンパク質。矢じり:ORF8タンパク質、M:分子量マーカー
図3:ORF8タンパク質のNMRスペクトル
(A) ORF8タンパク質の1H NMRスペクトル (B) 15NラベルをしたORF8タンパク質の二次元NMRスペクトル(1H-15N HSQC)
令和3年1月7日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/01/07-1.html物質化学領域の松村研究室の論文が国際学術誌の表紙に採択
物質化学領域の松村研究室の論文が英国王立化学会(RSC)刊行のJournal of Materials Chemistry B誌の 表紙(inside front cover)に採択されました。
本研究成果はタイ王国チュラロンコン大学との協同教育プログラムによるものです。
■掲載誌
J. Mater. Chem. B, 2020, 8, 7904-7913 掲載日2020年8月13日
■著者
Wichchulada Chimpibul(松村研修了生), Tadashi Nakaji-Hirabayashi, Xida Yuan(松村研博士後期課程2年)and Kazuaki Matsumura*
■論文タイトル
Controlling the degradation of cellulose scaffolds with Malaprade oxidation for tissue engineering
■論文概要
再生医療では、幹細胞を体外で培養し機能化を行った後に再度移植し疾患を治療する際に細胞培養用の足場材料を使用します。一般的には動物性のコラーゲンや合成高分子などが利用されていますが、安全性や機能性に改善の余地があると言われています。
本研究では、自然界に豊富にあるセルロースを酸化することで生体内分解性を付与することに成功し、安全かつ高機能な細胞培養足場材料として再生医療分野での利用を提案しています。
表紙詳細:https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2020/tb/d0tb90155e#!divAbstract
論文詳細:https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2020/tb/d0tb01015d#!divAbstract
令和2年9月18日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2020/09/18-1.html磁性-プラズモンハイブリッドナノ粒子を用いて、従来分離が難しかった細胞小器官(オートファゴソームなど)の新たな分離法の開発に成功

磁性-プラズモンハイブリッドナノ粒子を用いて、従来分離が難しかった
細胞小器官(オートファゴソームなど)の新たな分離法の開発に成功
ポイント
- これまで分離が難しかった細胞小器官を磁気分離するためのプローブとして、粒径約15 nmで単分散なAg/FeCo/Agコア/シェル/シェル型磁性-プラズモンハイブリッドナノ粒子を創製した。
- ハイブリッドナノ粒子を哺乳動物細胞に取り込ませ、培養時間を変化させた際、ナノ粒子が細胞内のどの部分に局在するかということをAgコアのプラズモン散乱を利用して可視化することに成功した。
- 培養時間が30分~2時間の間でハイブリッドナノ粒子がオートファゴソームに局在することがわかったため、オートファゴソームをターゲットとして、適切な時間帯で細胞膜を破砕して磁気分離を行うことでオートファゴソームの分離に成功した。
- 単離したオートファゴソームをプロテオミクス/リピドミクス解析に供することで、オートファジーの機能欠損による疾患の創薬へと展開できる可能性がある。
- リガンド結合ハイブリッドナノ粒子を用いた汎用的かつ高選択的な細胞小器官分離技術へと拡張することで、基礎生物学上重要な発見を導く可能性があるほか、肥満や老化を防止する医療技術へと繋がることも期待される。
北陸先端科学技術大学院大学(学長・浅野哲夫、石川県能美市)、物質化学領域の前之園 信也 教授らは、東京大学、金沢大学ほかと共同で、独自開発の磁性-プラズモンハイブリッドナノ粒子を用いてオートファゴソームのイメージングと磁気分離に成功しました。この手法は、これまで分離が困難であった他の細胞小器官へ拡張可能なため、新たな細胞小器官分離法としての応用が期待されます。 2013年のノーベル生理学・医学賞は、「小胞輸送の分子レベルでの解析と制御メカニズムの解明」という功績に対して、米国の3名の研究者に贈られました。また、2016年のノーベル生理学・医学賞は、「オートファジー注1)の分子レベルでのメカニズムの解明」の功績に対して、東京工業大学・大隅 良典 栄誉教授に贈られたことはまだ記憶に新しいところです。これらの研究はいずれも"細胞内物質輸送"に関するものでした。細胞内物質輸送には多種多様な細胞小器官注2)が関与しており、それらの機能は細胞小器官に存在するタンパク質や脂質によって制御されています。従って、細胞小器官の機能を理解するためには、そこに存在するタンパク質/脂質を調べることが必要不可欠です。そのための有力な手段の一つとして、タンパク質/脂質が機能している小器官ごと単離して解析するという方法があります。細胞小器官の一般的な単離法には超遠心分離注3)がありますが、比重に差が無い異種の小器官の分離は困難であることに加え、分離工程が煩雑で手間がかかるほか、表在性タンパク質注4)の脱離や変性が問題となる場合もあるため、新たな分離法の開発が望まれています。 本成果は、アメリカ化学会が発行するオープンアクセスジャーナルであるACS Omega誌に2017年8月25日に掲載されました。 |
<今後の展開>
単離したオートファゴソームをプロテオミクス/リピドミクス解析に供することで、これまでとは異なる視点からオートファジーを俯瞰でき、オートファジーの機能欠損による疾患の創薬へと展開できる可能性があります。また、ハイブリッドナノ粒子表面に所望のリガンドを結合させることによって、目的の細胞小器官への受容体を介したターゲティングが可能なナノ粒子を作製し、そのリガンド結合ナノ粒子を用いて標的細胞小器官を高選択的に単離する技術を確立することで、基礎生物学上重要な発見を導く可能性があります。さらに、肥満や老化を防止する医療技術へと繋がることも期待されます。
図1 磁性-プラズモンハイブリッドナノ粒子を哺乳動物細胞にトランスフェクションした後、培養時間(図中右に行くに従って培養時間が長いことを意味する)とともにナノ粒子の局在が初期エンドソーム(early endosome)、オートファゴソーム(autophagosome)、オートファゴリソソーム(autophagolysosome)へと移行する様子をプラズモン散乱を利用した共焦点顕微鏡イメージングで確認でき、各々の時間帯で磁気分離を行うとそれぞれ異なる種類の細胞小器官を分離することが可能であることを示した図。
<論文>
掲載誌: | ACS Omega |
論文題目: | "Magnetic Separation of Autophagosomes from Mammalian Cells using Magnetic-Plasmonic Hybrid Nanobeads"(磁性-プラズモンハイブリッドナノ粒子を用いた哺乳動物細胞からのオートファゴソームの磁気分離) |
著者: | Mari Takahashi,1 Priyank Mohan,1 Kojiro Mukai,2 Yuichi Takeda,3 Takeo Matsumoto,4 Kazuaki Matsumura,1 Masahiro Takakura,5 Hiroyuki Arai,2 Tomohiko Taguchi,6 Shinya Maenosono1* 1北陸先端科学技術大学院大学 2東京大学大学院薬学系研究科 衛生化学教室 3大阪大学大学院医学系研究科 4金沢大学医薬保健研究域医学系 5金沢医科大学産科婦人科 6東京大学大学院薬学系研究科 疾患細胞生物学教室 |
DOI: | 10.1021/acsomega.7b00929 |
掲載日: | 2017年8月25日 |
<用語解説>
注1)オートファジー
オートファジー(Autophagy)は、細胞が持っている、細胞内のタンパク質を分解するための仕組みの一つ。自食とも呼ばれる。酵母からヒトにいたるまでの真核生物に見られる機構であり、細胞内での異常なタンパク質の蓄積を防いだり、過剰にタンパク質合成したときや栄養環境が悪化したときにタンパク質のリサイクルを行ったり、細胞質内に侵入した病原微生物を排除することで生体の恒常性維持に関与している。
注2)細胞小器官
細胞の内部で特に分化した形態や機能を持つ構造の総称。細胞内器官やオルガネラとも呼ばれる。細胞小器官が高度に発達していることが、真核細胞を原核細胞から区別している特徴の一つである。
注3)超遠心分離
数万G(重力加速度)以上の遠心力をかける遠心分離法。
注4)表在性タンパク質
疎水性相互作用、静電相互作用など共有結合以外の力によって脂質二重層または内在性膜タンパク質と一時的に結合しているタンパク質。
注5)超常磁性
強磁性体やフェリ磁性体のナノ粒子に現れる。磁性ナノ粒子では磁化の向きが温度の影響でランダムに反転しうる。この反転が起こるまでの時間をネール緩和時間という。外場の無い状態で、磁性ナノ粒子の磁化測定時間がネール緩和時間よりもずっと長い時、磁化は平均してゼロであるように見える。この状態を超常磁性という。
注6)エンドサイトーシス
細胞が細胞外の物質を取り込む過程の一つ。細胞に必要な物質のあるものは極性を持ちかつ大きな分子であるため、疎水性の物質から成る細胞膜を通り抜ける事ができない、このためエンドサイトーシスにより細胞内に輸送される。
注7)オートファゴソーム
オートファジーの過程で形成される二重膜構造を有した袋状の細胞小器官。他の細胞小器官やタンパク質などを囲い込んだ後、リソソームと融合することで内容物を消化する。
注8)プラズモン
プラズマ振動の量子であり、金属中の自由電子が集団的に振動して擬似的な粒子として振る舞っている状態をいう。金属ナノ粒子ではプラズモンが表面に局在することになるので、局在表面プラズモンとも呼ばれる。
注9)トランスフェクション
人為的にDNAやウイルスなどを細胞に取り込ませる手法。
注10)プラズモン散乱イメージング
局在表面プラズモン共鳴に起因した光散乱を利用したイメージング。共焦点顕微鏡を用いたバイオイメージングでは一般的に蛍光色素が用いられるが、長時間観察では光退色が問題となる。しかし、プラズモン散乱を用いたイメージングでは光退色の心配がない。
注11)蛍光免疫染色
抗体に蛍光色素を標識しておき、抗原抗体反応の後で励起光を照射して蛍光発光させ、共焦点顕微鏡などで観察することによって本来不可視である抗原抗体反応(免疫反応)を可視化するための組織化学的手法。
注12)初期エンドソーム
初期エンドソームは、エンドサイトーシスされた物質を選別する場として機能する細胞小器官である。エンドサイトーシスによって細胞内へと取り込まれた物質は、まず細胞辺縁部に存在する初期エンドソームへと輸送される。初期エンドソームを起点として、分解される物質は分解経路へと、細胞膜で再利用される物質はリサイクリング経路へと選別されていく。
注13)オートファゴリソソーム
オートファゴソームとリソソームの融合によってできる細胞小器官。
注14)ウェスタンブロッティング
電気泳動によって分離したタンパク質を膜に転写し、任意のタンパク質に対する抗体でそのタンパク質の存在を検出する手法。
注15)LC3-II
LC3はオートファゴソームマーカーとして広く知られている。オートファジーが開始されると、LC3はプロペプチドとして発現し、直ちにC末端が切断されて細胞質型のLC3-Ⅰとなる。LC3-ⅠのC末端にホスファチジルエタノールアミンが付加され、膜結合型のLC3- IIへ変換する。LC3- IIはオートファゴソーム膜へと取り込まれて安定に結合するため、哺乳動物におけるオートファゴソーム膜のマーカーとして用いられている。
平成29年8月25日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2017/08/25-1.html