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研究概要(研究室ガイド)やプレスリリース・受賞・イベント情報など、マテリアルサイエンスの研究室により公開された情報の中から、興味のある情報をタグや検索機能を使って探すことができます。リチウムイオン2次電池の急速充放電を実現する新しいナノシート系負極活物質の開発
リチウムイオン2次電池の急速充放電を実現する新しいナノシート系負極活物質の開発
ポイント
- リチウムイオン2次電池開発において、急速充放電技術の確立は急を有する課題となっている。
- TiB2(二ホウ化チタン)粉末のH2O2による酸化処理、遠心分離、凍結乾燥により簡便に得られる二ホウ化チタンナノシートをリチウムイオン2次電池の負極活物質として適用した。
- 二ホウ化チタンナノシートを負極活物質としたアノード型ハーフセルで充放電挙動を評価した結果、比較的低い充放電レートの0.025 Ag-1では約380 mAhg-1の放電容量を示した。
- 当該アノード型ハーフセルにおいて、1 Ag-1 (充電時間約10分)の電流密度では、174 mAhg-1の放電容量を1000サイクル維持した(容量維持率89.4 %)。さらに超急速充放電条件(15~20 Ag-1)を適用すると、9秒~14秒の充電で50~60 mAhg-1の放電容量を10000サイクル維持するに至り(容量維持率80%以上)、高い安定性が確認された。
- 急速放充電技術の普及を通して社会の低炭素化に寄与する技術への展開が期待される。
| 北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)(学長・寺野稔、石川県能美市)の先端科学技術研究科 松見紀佳教授(物質化学フロンティア研究領域)、ラージャシェーカル バダム元講師(物質化学フロンティア領域)、アカーシュ ヴァルマ元大学院生(博士前期課程修了)、東嶺孝一技術専門員らの研究グループとインド工科大学ガンディナガール校カビール ジャスジャ准教授、アシャ リザ ジェームス大学院生は、リチウムイオン2次電池*1において二ホウ化チタンナノシートの負極活物質への適用が急速充放電能の発現に有効であることを見出した。 |
【研究の内容と背景】
リチウムイオン2次電池開発において、急速充放電技術の確立は急を有する課題となっている。しかしながら、その実現には固体中のリチウムイオンの拡散速度の向上や電極―電解質界面の特性、活物質の多孔性などの諸ファクターの検討を要している。これまで急速充放電用途のナノ材料系負極活物質としては、チタン酸リチウムのナノシートや酸化チタン/炭素繊維コンポジットなどが検討されてきたほか、新しい2次元(2D)材料*2への関心が広がりつつあり、グラフェン誘導体や金属カーバイド系材料にも検討が及んでいる。
本研究においては、TiB2(二ホウ化チタン)のH2O2による酸化処理、遠心分離、凍結乾燥による簡便なプロセスで作製可能なTiB2ナノシートをリチウムイオン2次電池負極活物質として適用し、アノード型ハーフセルを構築して急速充放電能について検討した。
合成は、共同研究者であるインド工科大学准教授カビール氏らが報告している手法*3に従い、TiB2粉末を過酸化水素水と脱イオン水との混合溶液に懸濁させ、24時間の攪拌後に遠心分離し、上澄みを-35oCで24時間凍結させた後に72時間凍結乾燥することにより粉末状のTiB2ナノシートを得た(図1)。得られた材料のキャラクタリゼーションは前述の手法に従い、XRD、HRTEM、FT-IR、XPS等の各測定により行った。
電池セルの作製において、負極の組成としてはTiB2ナノシートを55 wt%、アセチレンブラックを35 wt%、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)を10 wt%を用い、NMP(N-メチルピロリドン)を溶媒とした懸濁液から銅箔集電体にコーティングした。電解液としては 1.0 M LiPF6 のEC/DEC (1:1 v/v)溶液を用い、対極にはリチウム箔を用いた。
TiB2ナノシートを負極活物質としたアノード型ハーフセル*4のサイクリックボルタモグラム(図2)においては、第一サイクルにおいてのみ0.65 V (vs Li/Li+)に電解液の分解ピークが現れたが、それ以降は消失した。リチウム脱離に相当するピークは2つ観測され、0.28 Vにおけるピークはリチウムが複数インターカレートしたTiB2からの脱リチウムピーク、0.45VにおけるピークはTiB2の再生に至る脱リチウムピークにそれぞれ相当する。約1.5 Vからの比較的高いリチウム挿入電位は、チタン酸リチウムやホウ素ドープTiO2とほぼ同様であった。
また、このアノード型ハーフセルの充放電挙動では、比較的低い充放電レートの0.025 Ag-1では約380 mAhg-1の放電容量を示した(図3)。
アノード型ハーフセルにおいて、1 Ag-1(充電時間約10分)の電流密度では、174 mAhg-1の放電容量を1000サイクル維持し、容量維持率は89.4 %を示した(図3)。さらに超急速充放電条件である15-20 Ag-1を適用すると、9秒~14秒の充電で50-60 mAhg-1の放電容量を10000サイクル維持するに至り、容量維持率は80%以上であった。
本成果は、ACS Applied Nano Materials (米国化学会)のオンライン版に9月19日に掲載された。なお、本研究は、文部科学省の「大学の世界展開力強化事業」採択プログラムに基づいた北陸先端科学技術大学院大学とインド工科大学ガンディナガール校(JAIST-IITGN)の協働教育プログラム(ダブルディグリープログラム)のもとで実施した。
【今後の展開】
TiB2ナノシートの積極的活用により、急速充放電能を有する次世代型リチウムイオン2次電池の発展に向けた多くの新たな取り組みにつながり、関連研究が活性化するものと期待される。
さらに活物質の面積あたりの担持量を向上させつつ電池セル系のスケールアップを図り、産業的応用への橋渡し的条件においても検討を継続する。
既に日本国内及びインドにおいて特許出願済みであり、今後は、企業との共同研究(開発パートナー募集中、サンプル提供応相談)を通して将来的な社会実装を目指す。急速充放電技術の普及を通して社会の低炭素化に寄与する技術への展開が期待される。
【論文情報】
| 雑誌名 | ACS Applied Nano Materials(米国化学会) |
| 題目 | Titanium Diboride-Based Hierarchical Nanosheets as Anode Material for Li-ion Batteries |
| 著者 | Akash Varma, Rajashekar Badam, Asha Liza James, Koichi Higashimine, Kabeer Jasuja * and Noriyoshi Matsumi* |
| WEB掲載日 | 2022年9月19日 |
| DOI | 10.1021/acsanm.2c03054 |

| 図1.TiB2ナノシートの合成とキャラクタリゼーション (a)バルクのTiB2粉末 (b)過酸化水素水(H2O2) (3% v/v)にTiB2を分散した黒色の分散液 (c) 24時間攪拌後のTiB2の溶解と遠心分離後の上澄みの使用 (d)凍結乾燥後の粉末のナノ構造 (e) FESEM像 (f) TiB2 粉末及び TiB2ナノシートのFTIRスペクトル (g)ホウ素のハニカム状平面にチタンがサンドイッチされた結晶構造 (h) Si/SiO2 ウエハに担持させたTiB2ナノシートの光学像 (i) TiB2ナノシートのHRTEM像。ポーラスなシート状構造を示す。 |

| 図2.TiB2ナノシートを負極活物質としたアノード型ハーフセルのサイクリックボルタモグラム (a) 電圧範囲0.01-2.5V ;掃引速度 0.1 mV/s (b) 電圧範囲0.5-2.5V ;掃引速度 0.1, 0.3, 0.5, 0.7, and 1 mV/s. |

| 図3.TiB2ナノシートを負極活物質としたアノード型ハーフセルの充放電挙動 (a)レート特性の検討結果 (b)充放電曲線 (c)長期サイクル特性 |
【用語説明】
電解質中のリチウムイオンが電気伝導を担う2次電池。従来型のニッケル水素型2次電池と比較して高電圧、高密度であり、各種ポータブルデバイスや環境対応自動車に適用されている。
グラフェンや遷移金属ジカルコゲニドなどの2次元(2D)層状無機ナノ材料は、その優れた物理的および化学的特性のために最近注目されている化合物で、光触媒や太陽電池、ガスセンター、リチウムイオン電池、電界効果トランジスタ、スピントロニクスなどへの応用が期待されている。
James, Asha Liza; Lenka, Manis; Pandey, Nidhi; Ojha, Abhijeet; Kumar, Ashish; Saraswat, Rohit; Thareja, Prachi; Krishnan, Venkata; Jasuja, Kabeer
Nanoscale (2020), 12 (32), 17121-17131CODEN: NANOHL; ISSN:2040-3372. (Royal Society of Chemistry)
リチウムイオン2次電池の場合には、アノード極/電解質/Liの構成からなる半電池を意味する。
令和4年9月30日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2022/09/30-1.html物質化学フロンティア研究領域の谷池教授の研究課題がJST「未来社会創造事業」に採択
物質化学フロンティア研究領域の谷池 俊明教授らが提案した研究課題が、科学技術振興機構(JST)の「未来社会創造事業」(探索加速型)に採択されました。
「未来社会創造事業」は、探索加速型と大規模プロジェクト型の2つのアプローチで構成され、科学技術により「社会・産業が望む新な価値」を実現する研究開発プログラムです。経済・社会的にインパクトのある目標を定め、基礎研究段階から実用化が可能かどうか見極められる段階(概念実証:POC)に至るまでの研究開発を実施します。
探索加速型は、研究開発を探索研究から本格研究へと段階的に進めるもので、探索ステージ(※)の研究期間は2年6か月となります。
今年度は、221件の応募の中から、26件の採択課題が決定され、谷池教授の提案は、重点公募テーマ「革新的な知や製品を創出する共通基盤システム・装置の実現」において採択されました。
※本事業では、ステージゲート方式を導入しています。これは研究開発を複数のステージに分け、各ステージでの評価に基づいて研究開発課題の続行または廃止を決定する仕組みです。
*詳しくは、JSTホームページをご覧ください。
■研究課題名
超広域材料探索を実現する材料イノベーション創出システム
■研究概要
材料開発にかつてない難度と速度が要求される現在、我が国の研究開発現場は、研究のグランドデザインを見直す基盤技術を欠いており、苦境に立たされています。本研究開発では、ハイスループット実験やデータ科学技術を基盤とし、広大な材料空間から前知見を必要とすることなくシーズを創出する超高効率な方法論、「材料イノベーション創出システム」を開発し、その社会普及やオープンイノベーションを通して我が国のあらゆる材料研究開発現場の生産性・創造性を革新します。

令和4年9月27日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2022/09/27-1.html物質化学フロンティア研究領域の松村教授らの論文がBiomacromolecules誌の表紙に採択
物質化学フロンティア研究領域の松村研究室による論文が、米国化学会(American Chemical Society :ACS)刊行のBiomacromolecules誌の表紙(Supplementary cover)に採択されました。本研究成果は、物質・材料研究機構および産業技術総合研究所との共同研究によるものです。
■掲載誌
ACS Biomacromolecules, 2022Volume 23, Issue 8
表紙掲載日2022年8月8日
■著者
Chiaki Yoshikawa, Keita Sakakibara, Punnida Nonsuwan(松村研究室修了生), Miwako Shobo, Xida Yuan(松村研究室修了生), Kazuaki Matsumura
■論文タイトル
Cellular Flocculation Driven by Concentrated Polymer Brush-Modified Cellulose Nanofibers with Different Surface Charges
■論文概要
今回の論文は、濃厚ポリマーブラシを表面グラフトしたセルロースナノファイバーが細胞と相互作用して凝集体を形成する際の表面電荷の影響について詳細に議論したものです。その結果、アニオン性のポリマーブラシをグラフトすることで良好な細胞凝集塊の形成がみられました。
本研究結果は、再生医療用三次元細胞足場材料への応用が期待できます。
本発表は、物質・材料研究機構、産業技術総合研究所との共同研究による成果です。
表紙詳細:https://pubs.acs.org/toc/bomaf6/23/8
論文詳細:https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acs.biomac.2c00294

令和4年8月9日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2022/08/09-1.html物質化学フロンティア研究領域の松見教授の論文がACS Applied Energy Materials誌の表紙に採択
物質化学フロンティア研究領域の松見 紀佳教授の論文が、米国化学会(American Chemical Society :ACS)刊行のACS Applied Energy Materials誌の表紙(Front Cover)に採択されました。
■掲載誌
ACS Applied Energy Materials 2022, 5, 7, 7977-7987 (Highlighted as Front Cover)
表紙掲載日2022年7月25日
■著者
Agman Gupta, Rajashekar Badam, Noriyoshi Matsumi*
■論文タイトル
Heavy-Duty Performance from Silicon Anodes Using Poly(BIAN)/Poly(acrylic acid)-Based Self-Healing Composite Binder in Lithium-Ion Secondary Batteries
■論文概要
本論文では、BIAN(ビスイミノアセナフテキノン)構造を有する共役系高分子とポリアクリル酸を組み合わせた自己修復性コンポジットバインダーをリチウムイオン二次電池用シリコン負極に適用することにより、シリコン負極の大幅な安定化を観測するに至った。600サイクル後にも2100 mAhg-1の放電容量を維持することに成功した。
表紙詳細:https://pubs.acs.org/toc/aaemcq/5/7
論文詳細:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsaem.2c00278

令和4年8月3日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2022/08/03-1.html超高強度シェルを有する高度安定化マイクロサイズシリコンの新規負極活物質の開発とリチウムイオン2次電池への応用
超高強度シェルを有する高度安定化マイクロサイズシリコンの
新規負極活物質の開発合成とリチウムイオン2二次電池への応用
ポイント
- 低コストながら、ナノサイズシリコンと比較して充放電に伴う体積膨張・収縮制御がより難しいマイクロサイズシリコンを用いた負極活物質に関して、シリコンオキシカーバイドの超高強度シェルを付与することにより課題の解決に成功した。
- 内部のマイクロサイズシリコンに一定の体積変化の余地を与えるために中間層としてカーボン層をスペーサーとして導入した。また、外殻層の電導性を確保するためにシリコンオキシカーバイド層にアセチレンブラック粒子を導入した。
- 本負極活物質を用いることにより、汎用のバインダー材料を用いた系であっても高放電容量と長期サイクル耐久性を同時に発現させることが容易に可能であり、優れたレート特性を有することも明らかとなった。
- 高容量放充電技術の普及を通して社会の低炭素化に寄与する技術への展開が期待される。
| 北陸先端科学技術大学院大学 (JAIST) (学長・寺野 稔、石川県能美市)の先端科学技術研究科 松見 紀佳教授(物質化学フロンティア研究領域)、バダム ラージャシェーカル講師(物質化学フロンティア研究領域)、東嶺 孝一技術専門員、Ravi Nandan研究員、高森 紀行大学院生(博士後期課程2年)らのグループは、リチウムイオン2次電池*1の安定な高容量充放電を低コストで可能にする新規負極活物質(Si/C/ABG)の開発に成功した。 |
【研究内容と背景】
リチウムイオン2次電池の負極材開発において、高容量の発現の観点から関心を集めているシリコンは充放電に伴う体積膨張・収縮制御の困難さに対応するためナノサイズシリコン粒子が広く用いられてきたが、汎用性やコスト性の観点からマイクロサイズシリコンを用いた高容量2次電池の実現が切望されている。体積膨張・収縮制御においては、マイクロサイズシリコンの適用によりさらなる困難が伴うが、新たなアプローチによる課題の克服への要求が高まっている。
本研究においては、ナノサイズシリコン粒子に代わってマイクロサイズシリコン粒子を適用しつつ、充放電に伴う大きな体積膨張・収縮を抑制するために特殊な材料設計を行った。本負極活物質の外殻には、超高強度を有することが知られるシリコンオキシカーバイド層をコーティングした。また、シリコンオキシカーバイドの不十分な電導性を補う目的でシリコンオキシカーバイド層にアセチレンブラック粒子を共存させた。また、内部のマイクロサイズシリコンに一定の体積変化の余地を与えるためにスペーサーとしてあらかじめマイクロサイズシリコン表面にカーボン層のコーティングを行い、中間層とした。
合成手順としては、マイクロサイズシリコン(~1μm)表面にpH8.5においてポリドーパミン形成させ、乾燥後焼成し、カーボンコーティングを行った。その後、アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES; シリコンオキシカーバイドの前駆体)にアセチレンブラックを混合した懸濁液で処理し、乾燥後焼成した(図1)。得られた材料をTEM、HAADF-STEM、EDSマッピング、XPS等の各測定によりキャラクタライズした(図2)。マイクロサイズシリコン上のカーボン層及び外殻層のシリコンオキシカーバイド(ブラックグラス)層が観測され、外殻層にはアセチレンブラック粒子が埋め込まれている様子が見受けられた。XPS測定からは、シリコンオキシガーバイド(ブラックグラス)層にはSi、SiC4、SiC3O、SiC2O2、SiCO3、SiO4が混在している様子が観測された。
このようなシリコンオキシカーバイドは、7.1 GPaの弾性率、13 MPaの曲げ強さ、11 MPaの圧縮強度を有することがShellemanら*2により報告されており、本負極活物質においても外殻部分に著しい力学的強度をもたらすと期待できる。
合成した負極活物質(Si/C/ABG)の評価に先立って、マイクロサイズシリコンとシリコンオキシカーバイド層との間にカーボン中間層を有さない材料に関しても合成し、これを負極活物質としたアノード型ハーフセル*3を構築して評価した。この系においては、マイクロサイズシリコンの体積変化が大幅に抑制された結果、セルの充放電能は大幅に減少した。一方、中間カーボン層を有するマイクロサイズシリコン/カーボン/シリコンオキシカーバイド型の負極活物質(Si/C/ABG)を70 wt%(アセチレンブラック15 wt%; CMC 7.5 wt%; PAA 7.5 wt%)用いた系では、750 mA/gの充放電速度において775サイクル後に1017 mAhg-1の放電容量を維持し、優れたレート特性を有することが明らかとなった (図3)。また、正極をNCA(ニッケル酸リチウム)とした場合のフルセルも良好に動作した(詳細は原著論文参照)。
さらに、充放電サイクル(65サイクル)後の負極のSEM像(断面像)より、充放電後にもクラック形成や活物質層の崩壊、層の剥離などは認められず、本負極活物質が極めて高い安定性を示していることも明らかとなった(図3)。
本成果は、Journal of Materials Chemistry A(英国王立化学会)のオンライン版に7月18日に掲載された。
なお、本研究は、科学技術振興機構(JST) 未来社会創造事業(JP18077239)の支援を受けて実施した。
【今後の展開】
マイクロサイズシリコンの外殻層に超高強度シリコンオキシカーバイドを導入した特異的な負極活物質デザインにより、次世代型リチウムイオン2次電池へのマイクロサイズシリコン活用に道が拓かれると期待される。
さらに活物質の面積あたりの担持量を向上させつつ電池セル系のスケールアップを図り、産業応用への橋渡し的条件においての検討を継続する(国内特許出願済み)。
今後は、企業との共同研究(開発パートナー募集中、サンプル提供応相談)を通して将来的な社会実装を目指す。高容量充放電技術の普及を通して社会の低炭素化に寄与する技術への展開が期待される。
【論文情報】
| 雑誌名 | Journal of Materials Chemistry A (英国王立化学会) |
| 題目 | Black glasses grafted micron silicon: a resilient anode material for high-performance lithium-ion batteries |
| 著者 | Ravi Nandan, Noriyuki Takamori, Koichi Higashimine, Rajashekar Badam, Noriyoshi Matsumi* |
| 掲載日 | 2022年7月18日 |
| DOI | 10.1039/D2TA03068C |

図1.マイクロシリコンへのシリコンオキシカーバイド層導入の手順

図2.(a-c) Si/C/ABGのTEM像
(d-h) Si/C/ABGのHAADF-STEM 像及び EDS マッピング

図3.充放電後のSEM像
(a,b) マイクロシリコン 負極(断面像)、(c) Si/C/ABG 負極top view、 (d) Si/C/ABG 負極(断面像)、 (e)シリコンオキシカーバイドをコートしたマイクロシリコン(Si/C/ABG)を負極としたハーフセルの充放電サイクル特性
【用語説明】
電解質中のリチウムイオンが電気伝導を担う2次電池。従来型のニッケル水素型2次電池と比較して高電圧、高密度であり、各種ポータブルデバイスや環境対応自動車に適用されている。
リチウムイオン2次電池の場合には、アノード極/電解質/Liの構成からなる半電池を意味する。
令和4年7月28日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2022/07/28-1.html学生のJANCHAIさんとVOさんが国際会議CHEMEET 2022においてBest Poster Awardを受賞
学生のJANCHAI, Khunanyaさん(博士後期課程1年、物質化学フロンティア研究領域、山口政之研究室)とVO, Hoang Giang Daiさん(博士前期課程2年、物質化学フロンティア研究領域、山口政之研究室)が国際会議International Chemistry Conference(CHEMEET 2022)においてBest Poster Awardを受賞しました。
CHEMEET 2022は、今年から始まった化学の広い分野を対象として開催される国際会議で、令和4年6月27日から29日にかけてオンラインにて行われました。
■受賞年月日
令和4年6月29日
【JANCHAI, Khunanyaさん】
■研究題目、論文タイトル等
Effect of shear flow on the structure and properties of polypropylene film
■受賞対象となった研究の内容
Flow induced crystallization of polypropylene (PP) and the role of ultra-high molecular weight (UHMW) component on the crystallization were studied using PP having UHMW component. A polarized optical microscope attached with a parallel-plates shear device was employed to investigate the crystallization process. The addition of the UHMW component had no influence on the crystallization temperature without flow field, and spherulites were formed. However, the highly oriented structure was detected during crystallization after shear history. As a result, mechanical properties, i.e., Young's modulus, yield stress, and tensile strength of the films were significantly higher than those of the film without UHMW component.
■受賞にあたって一言
I am deeply pleased and honored to receive the "CHEMEET BEST POSTER AWARD" at the International Chemistry Conference on June 27-29, 2022. I got the benefits of attending a conference to learn, develop my research skill, and have the chance to get feedback from expert persons on my work. I would like to express my sincere gratitude to my supervisor, Professor Yamaguchi Masayuki, who gave me invaluable advice, continuous support, and the excellent opportunity to join this conference. Also, I'd like to express my sincere thanks to the laboratory members for their good cooperation.
【VO, Hoang Giang Daiさん】
■研究題目、論文タイトル等
Evaluation of flow-induced crystallization for poly (lactic acid)
■受賞対象となった研究の内容
Thermal properties and crystallization behavior of poly (lactic acid) (PLA), one of the biomass-based plastics, were investigated by in-situ polarized optical microscopy equipped with a shear stage. The results indicated that PLA cannot be crystallized at a fast cooling rate (≥30oC/min). In contrast, with shear history, the PLA chains were crystallized even at 30oC/min. A similar result was obtained also at the isothermal crystallization process after shear history.
■受賞にあたって一言
I am very honored to receive "CHEMEET BEST POSTER AWARD" at this conference. I deeply express my sincere thanks to the award committee who rated my poster as one of the best posters. This best poster award is one of the first achievements that I have in my research career. However, I must work more and try harder in the future. Lastly, I would like to express my appreciations to my supervisor - Professor Yamaguchi Masayuki, and lab-mates, who helped and encouraged me while I was making my poster.
令和4年7月8日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2022/07/08-1.htmlリチウムイオン2次電池用シリコン負極を大幅に安定化する自己修復型ポリマーコンポジットバインダーを開発
リチウムイオン2次電池用シリコン負極を大幅に安定化する
自己修復型ポリマーコンポジットバインダーを開発
ポイント
- リチウムイオン2次電池の高容量化のため、シリコン負極が注目されているが、シリコン粒子の大きな体積変化等の問題によって安定した充放電が困難となっている。
- リチウムイオン2次電池用シリコン負極を安定化する目的で、BIAN(ビスイミノアセナフテン)構造を有する共役系高分子とポリアクリル酸との水素結合ネットワークから成るコンポジットバインダーを開発した。
- アノード型ハーフセルを構築し充放電特性を評価したところ、600サイクル後に2100 mAhg-1を維持し、極めて高い安定性を示した。
- 充放電後における界面抵抗が極めて低いことや、充放電後の負極の構造的耐久性も高く、劣化は極めて軽微であることが分かった。
- 高容量放充電技術の普及を通して社会の低炭素化に寄与する技術への展開が期待される。
| 北陸先端科学技術大学院大学 (JAIST) (学長・寺野 稔、石川県能美市)の先端科学技術研究科 物質化学フロンティア研究領域の松見 紀佳教授、バダム ラージャシェーカル講師、アグマン グプタ研究員らのグループは、リチウムイオン2次電池*1用シリコン系負極を大幅に安定化するポリマーコンポジットバインダーの開発に成功した。 |
【背景と経緯】
リチウムイオン2次電池開発においては、EV車の更なる普及を見据えたエネルギー密度の向上を目的として、従来型負極であるグラファイトの理論放電容量を大幅に上回るシリコンの活用に関心が高まっており、カーボンニュートラルの見地からも高容量蓄電池の早期実用化が望まれている。また、シリコンは地殻に豊富に含まれる元素でありコスト面の利点が明白で、元素戦略の観点からも活用が期待される。
一方、シリコン負極においては、充放電時における大幅なシリコン粒子の体積変化が問題となっており、シリコン粒子の大幅な体積膨張による破断などの問題がある。また、充放電によってシリコン上に形成された界面被膜の破壊、集電体からの剥離、シリコン上に生成するクラック上の新たなシリコン面からの電解液の分解による厚いSEI被膜形成などの諸問題による大幅な内部抵抗の上昇によって、電池性能の劣化にも至っている。
【研究の内容】
本研究においては、負極の環境で還元され伝導性を発現するn型共役系高分子バインダー(ビスイミノアセナフテン骨格を有する共役系高分子、P-BIAN)と、この高分子(ポリマー)と水素結合性ネットワークを形成するポリアクリル酸(PAA)を組み合わせることにより、内部抵抗の低減と自己修復機能との相乗的な効果によりシリコン系負極を大幅に安定化できるコンポジットバインダーを開発した(図1)。両ポリマー間の水素結合形成はXPS測定(N1s)から確認された。
また、本コンポジットバインダーを用いてアノード型ハーフセル*2[アノード:Si/C/(P-BIAN/PAA)/AB =25/30/25/20 by wt%]を構築し、充放電特性を評価したところ、600サイクル後に2100 mAhg-1を維持し、極めて高い安定性を示した(図2)。さらに、サイクリックボルタンメトリー*3からは、可逆的で明瞭なリチウム脱挿入挙動や、電解液の分解抑制が示された。
次に、動的インピーダンス測定(DEIS)を行ったところ、本系における充放電後のSEI抵抗は、比較対象のポリアクリル酸バインダー系の場合の約1/6程度となった。
充放電試験後に電池セルを分解し負極を分析したところ、XPSにおいて負極内部の諸元素の環境に由来するピークが明瞭に観測されたことから、表面に形成したSEIは非常に薄いことが分かった。加えて、SEM観測においては400サイクル後においてもクラック形成は極めて軽微であり、比較対象(ポリアクリル酸)と対照的であったことから、本系においては充放電後の界面抵抗が極めて低いことが明らかとなった。また、充放電後の負極のSEMによる分析結果においても構造的耐久性が高く、有意な劣化が見られないことが分かった。
本成果は、ACS Applied Energy Materials (米国化学会)のオンライン版に4月29日に掲載された。なお、本研究は、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業(JP18077239)の支援を受けて実施した。
【今後の展開】
活物質の面積あたりの担持量をさらに向上させつつ電池セル系のスケールアップを図り、産業応用への橋渡し的条件においての検討を継続する。(国内特許出願済み)
今後は、企業との共同研究を通して将来的な社会実装を目指す。高容量充放電技術の普及を通して、社会の低炭素化に寄与する技術への展開が期待される。
【論文情報】
| 雑誌名 | ACS Applied Energy Materials |
| 題目 | Heavy-Duty Performance from Silicon Anodes Using Poly(BIAN)/Poly(acrylic acid)-Based Self-Healing Composite Binder in Lithium-Ion Secondary Batteries |
| 著者 | Agman Gupta, Rajashekar Badam, Noriyoshi Matsumi* |
| 掲載日 | 2022年4月29日 |
| DOI | 10.1021/acsaem.2c00278 |

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図1.(a) 高分子化BIAN(P-BIAN)及びポリアクリル酸(PAA)の構造式
(b) P-BIAN/PAAコンポジットバインダーの設計戦略 (c)P-BIAN/PAAのコンポジット生成に伴う強靭さ及び自己修復能による力学的特性の向上のイメージ図 |

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図2.(a) Si/C/(P-BIAN/PAA)/AB負極を有するアノード型ハーフセルのサイクリックボルタモグラム
(b) P-BIAN/PAA系バインダーとPAAバインダーを有するSi系負極を用いたアノード型ハーフセルとの500 mAg-1における充放電サイクル特性の比較 (c) Si/C/(P-BIAN/PAA)/AB負極を有するアノード型ハーフセルの充放電曲線(500 mAg-1) (d) Si/C/(P-BIAN/PAA)/AB負極を有するアノード型ハーフセルと比較系(PAAバインダー系)との容量維持率の推移の比較 |
【用語解説】
*1 リチウムイオン2次電池:
電解質中のリチウムイオンが電気伝導を担う2次電池。従来型のニッケル水素型2次電池と比較して高電圧、高密度であり、各種ポータブルデバイスや環境対応自動車に適用されている。
*2 アノード型ハーフセル:
リチウムイオン2次電池の場合には、アノード極/電解質/Liの構成からなる半電池を意味する。
*3 サイクリックボルタンメトリー(サイクリックボルタモグラム):
電極電位を直線的に掃引し、系内における酸化・還元による応答電流を測定する手法である。電気化学分野における汎用的な測定手法である。また、測定により得られるプロファイルをサイクリックボルタモグラムと呼ぶ。
令和4年5月12日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2022/05/12-1.html【3/4(金)開催】2021年度サイレントボイスセンシング国際研究拠点シンポジウム
エクセレントコア推進本部サイレントボイスセンシング国際研究拠点によるシンポジウム「サイレントボイスセンシング~自然との共感~」を下記のとおり開催しますので、ご案内いたします。
私たちを取りまくモノ、自然、地球環境、そして私たち自身は、様々な微弱な信号(サイレントボイス)を発しています。その検知は、物質の劣化、災害、病気、ストレス等の予測と早期対応を可能とします。本シンポジウムでは、自然のサイレントボイスに関する研究の最前線と、それを検出する最先端センシング技術の基礎と応用を紹介します。
| 開催日時 | 令和4年3月4日(金) 9:30~17:00 |
| 会 場 | オンライン(Zoom) |
| 講演者 | 招待講演者 鴨川 仁 静岡県立大学 特任准教授 工藤 剛史 音羽電機工業株式会社 水田 博 教授(環境・エネルギー領域) |
| 言 語 | 日本語、英語 |
| 詳細・申込み | https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSeUoTLUvGN2mx42RB0ykjVc0TqCSstF67wlJ-cTUJIr9HM-dg/viewform 申込期限:令和4年3月2日(水) アブストラクト集 |
ナノ複合化細菌を利用したがん光診断・治療技術の開発に成功
ナノ複合化細菌を利用したがん光診断・治療技術の開発に成功
ポイント
- 機能性色素を封入したナノ粒子と天然のビフィズス菌を水溶液中で一晩混合し、洗浄するだけの簡便な方法で、高い腫瘍標的能を有し、近赤外光によって様々な機能を発現するナノ複合化細菌を創出
- 当該ナノ複合化細菌の特性と近赤外レーザー光を組み合わせた、新たながん光診断・治療技術を開発
| 北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野 稔、石川県能美市)、先端科学技術研究科 物質化学領域の都 英次郎准教授とラグ シータル大学院生(博士後期課程)は、ナノ複合化細菌を使ってマウス体内のがん細胞の蛍光検出と光発熱治療を同時に可能にする技術の開発に成功した。 |
【研究背景と内容】
近年、低酸素状態の腫瘍内部で選択的に集積・生育・増殖が可能な細菌を利用したがん標的治療に注目が集まっている。なかでもビフィズス菌*1を利用するがん標的治療は、その優れた腫瘍選択性と高い安全性などの特徴から有力な微生物製剤として期待されている。しかし、ビフィズス菌に抗腫瘍作用を発現させるためには、通常、煩雑な遺伝子操作が必要である。また、ビフィズス菌を含む細菌を利用するがん標的治療は、基本的には抗がん剤の運搬という、いわゆる従来型のドラッグデリバリーシステム*2の概念を出ない。
本研究では、機能性色素のインドシアニングリーン*3を封入したポリオキシエチレンヒマシ油*4から成るナノ粒子と天然のビフィズス菌を生理食塩水中で一晩混合し、洗浄するだけで、高い腫瘍標的能を有し、生体透過性の高い近赤外レーザー光*5によって近赤外蛍光と熱を発現するナノ複合化細菌の創出に成功した(図1(a),(b))。また、当該細菌のこれらの特性を活用し近赤外レーザー光照射と組み合わせることで、体内の腫瘍を高選択的に検出し、標的部位を効果的に排除することが可能ながん光診断・治療技術を開発することに成功した(図1(c),(d))。さらに、マウスがん細胞とヒト正常細胞を用いた細胞毒性試験、ならびにマウスを用いた生体適合性試験(血液学的検査、組織学的検査など)を行った結果、いずれの検査からもナノ複合化細菌が生体に与える影響は極めて少ないことがわかった。
これらの成果は、今回開発した細菌の簡便なナノ複合化技術が、がん光診断・治療法の基礎に成り得ることを示すだけでなく、ナノ・マイクロテクノロジー、光学、微生物工学といった幅広い研究領域における材料設計の技術基盤として貢献することを十分期待させるものである。
本成果は、2022年2月18日にナノサイエンス・ナノテクノロジー分野のトップジャーナル「Nano Letters」誌(アメリカ化学会発行)のオンライン版に掲載された。なお、本研究は、日本学術振興会科研費(基盤研究A)と公益財団法人上原記念生命科学財団の支援のもと行われたものである。

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図1.(A) ナノ複合化細菌を利用するがん細胞の蛍光検出と光発熱治療の概念
(B) 機能性色素を封入したナノ粒子との混合前後のビフィズス菌水溶液 (C) がん患部におけるナノ複合化細菌の可視化(近赤外蛍光を検出) (D) ナノ複合化細菌の抗腫瘍効果。蛍光検出されたがん患部に近赤外レーザー光を当てると、 光熱変換による効果によりがんが消失した。 |
【論文情報】
| 掲載誌 | Nano Letters(アメリカ化学会発行) |
| 論文題目 | Nanoengineered Bifidobacterium bifidum with Optical Activity for Photothermal Cancer Immunotheranostics |
| 著者 | Sheethal Reghu, Eijiro Miyako* |
| 掲載日 | 2022年2月18日にオンライン版に掲載 |
| DOI | 10.1021/acs.nanolett.1c04037 |
【関連研究情報】
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)、先端科学技術研究科 物質化学領域の都研究室では、近赤外レーザー光により容易に発熱するナノ材料の特性(光発熱特性)に注目し、これまでに、"三種の神器"を備えた多機能性グラフェン(2020年4月23日 JAISTからプレス発表)、ナノテクノロジーと遺伝子工学のマリアージュ(2020年8月17日 JAISTからプレス発表)、がん光細菌療法の新生(2021年2月16日JAISTからプレス発表)、ナノ粒子と近赤外レーザー光でマウス体内のがんを検出・治療できる!(2021年12月21日JAISTからプレス発表)などの光がん療法を開発している。
【用語説明】
*1 ビフィズス菌
ヨーグルトでおなじみの細菌。主にヒトなどの動物の腸内の小腸下部から大腸にかけて生息する乳酸菌の一種で、いわゆる善玉菌と呼ばれる微生物のことである。整腸作用だけではなく、病原菌の感染や腐敗物を生成する菌の増殖を抑える効果があると考えられている。
*2 ドラッグデリバリーシステム
製剤技術の一つで、疾患部位に必要な薬効成分を届ける技術のこと。
*3 インドシアニングリーン
肝機能検査に用いられる緑色色素のこと。近赤外レーザー光を照射すると近赤外蛍光と熱を発することができる。
*4 ポリオキシエチレンヒマシ油
天然ヒマシ油に由来する、安全性の高い界面活性成分のこと。各種化粧品の可溶化・透明化に使用されている。
*5 近赤外レーザー光
レーザーとは、光を増幅して放射するレーザー装置、またはその光のことである。レーザー光は指向性や収束性に優れており、発生する光の波長を一定に保つことができる。とくに700~1100 nmの近赤外領域の波長の光は生体透過性が高いことが知られている。
令和4年2月21日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2022/02/21-1.htmlリチウムイオン2次電池に高容量化と耐久性を容易にもたらす新型負極活物質(β-シリコンカーバイド系複合材料)の開発
リチウムイオン2次電池に高容量化と耐久性を容易にもたらす
新型負極活物質(β-シリコンカーバイド系複合材料)の開発
ポイント
- リチウムイオン2次電池の高容量化のためシリコン系負極が注目されているが、シリコン粒子の大きな体積膨張・収縮等の問題によって、安定した充放電が困難となっている。
- リチウム脱挿入時における体積膨張が大幅に抑制されることが知られている閃亜鉛鉱型構造を有するβ-シリコンカーバイド/窒素ドープカーボン複合材料の簡易合成法を開発し、リチウムイオン2次電池用負極活物質として検証した。
- 合成した活物質を用いたアノード型ハーフセルでは1195mAhg-1の放電容量を300サイクルまで示し、本負極活物質を用いることにより、汎用のバインダー材料を用いた系であっても、高放電容量と長期サイクル耐久性を同時に発現させることが容易に可能であると示された。
- 高容量充放電技術の普及を通して、社会の低炭素化に寄与する技術への展開が期待される。
| 北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)(学長・寺野稔、石川県能美市)、先端科学技術研究科 物質化学領域の松見 紀佳教授、バダム ラージャシェーカル講師、並びに東嶺 孝一技術専門員、Ravi Nandan研究員、高森 紀行大学院生(博士後期課程)のグループは、リチウムイオン2次電池*1の安定な高容量充放電を可能にする新規負極活物質の開発に成功した。 |
【背景と経緯】
リチウムイオン2次電池開発においては、近年、従来型負極であるグラファイトよりも大幅に大きな理論容量を示すシリコン系負極が多大な関心を集めている。一方で、シリコン粒子は充放電時の体積膨張・収縮が極めて大きく、充放電の際の粒子の破断や界面被膜の破壊、集電体からの剥離などの多様な問題により、一般に高容量を安定に発現することが非常に困難となっている。このような状況を改善するために、特殊なバインダー材料の開発などのアプローチが本研究グループも含め国内外において検討されてきた。
【研究の内容】
本研究においては、シリコン粒子に代わり、極めて安定な充放電サイクルを汎用のバインダー材料使用時においても示すシリコンカーバイド系活物質を開発した。ダイヤモンド型構造を有するシリコンにおいては、リチウム脱挿入に伴う大幅な体積膨張・収縮は避けがたいものであるが、閃亜鉛鉱型構造の無機化合物においては、リチウム脱挿入時における体積膨張が大幅に抑制されることが知られている。その挙動にヒントを得つつ、閃亜鉛鉱型構造を有するβ-シリコンカーバイドと窒素ドープカーボン*2との複合材料を合成し、新規リチウムイオン2次電池用負極活物質として検証した。
合成法としては、(3-アミノプロポキシ)トリエトキシシランに水溶液中でアスコルビン酸ナトリウムを加え、シリコンナノ粒子分散水溶液を作製した。その後pH8.5においてドーパミンを、引き続いてメラミンを加えてから遠心分離、乾燥し、600oCもしくは1050oCの二通りの条件で焼成した(図1)。
得られた材料について、HRTEM、HAADF-STEM、XPS、XRD、Raman分光法等により構造を確認した(図2)。HRTEMからは、炭素系マトリックスにβ-シリコンカーバイドの結晶が埋め込まれている様子が観測された。HAADF-STEM HRTEMからは、β-シリコンカーバイドの(111)面に相当する0.25 nmの面間距離が観測され、マトリックス内に指紋状に分布する様子が観測された(図2(c))。
次に、合成した活物質を用いて負極を構築し、アノード型ハーフセル*3(Li/電解液/β-SiC)を作製し各種電気化学的評価を行った。サイクリックボルタモグラム*4においては、シャープなリチウムインターカレーションのピークに加えて、シリコン負極の場合と形状は異なるものの0.58 Vのブロードなリチウム脱インターカレーションのピークを共に示した。
また、充放電挙動においては、1050oCの焼成処理により合成した活物質(MAD1050)を用いた系では1195 mAhg-1の放電容量を300サイクルまで示した(図3(b))。本負極活物質を用いることにより、汎用のバインダー材料を用いた系であっても高放電容量と長期サイクル耐久性を同時に発現させることが容易に可能であると示された。
本成果は、Journal of Materials Chemistry A(英国王立化学会)のオンライン版に2月16日(英国時間)に掲載された。
なお、本研究は、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業(JP18077239)の支援を受けて実施した。
【今後の展開】
活物質の面積あたりの担持量をさらに向上させつつ電池セル系のスケールアップを図り、産業応用への橋渡し的条件においての検討を継続する(国内特許出願済み)。
今後は、企業との共同研究(開発パートナー募集中、サンプル提供応相談)を通して将来的な社会実装を目指す。高容量充放電技術の普及を通して、社会の低炭素化に寄与する技術への展開が期待される。
【論文情報】
| 雑誌名 | Journal of Materials Chemistry A |
| 題目 | Zinc blende inspired rational design of β-SiC based resilient anode material for lithium-ion batteries |
| 著者 | Ravi Nandan, Noriyuki Takamori, Koichi Higashimine, Rajashekar Badam, Noriyoshi Matsumi* |
| 掲載日 | 2022年2月16日(英国時間) |
| DOI | 10.1039/D1TA08516F |


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図2.(a,b)合成した活物質(MAD1050)のTEM像
(a)β-SiC粒子のHRTEM像、(c)β-SiC粒子のHAADF-STEM像 (d,e)赤色ボックス部位のFT/IFT、(f)面間距離プロファイル (g,h)黄色ボックス部位のFT/IFT、(i,j)緑色ボックス部位のFT/IFT |

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図3.合成した各負極活物質を用いたアノード型ハーフセルの充放電特性(a/b/d)
及び比較データ(c;シリコン負極) |
【用語解説】
*1 リチウムイオン2次電池:
電解質中のリチウムイオンが電気伝導を担う2次電池。従来型のニッケル水素型2次電池と比較して高電圧、高密度であり、各種ポータブルデバイスや環境対応自動車に適用されている。
*2 窒素ドープカーボン:
典型的にはグラフェンオキシドにメラミン等の含窒素前駆体化合物を混合した後に焼成することにより作製される。従来法では可能な窒素導入量に制約があり、急速充放電用活物質の合成法としては不十分であった。一方、電気化学触媒やスーパーキャパシター用など様々なアプリケーションへの用途も広がりつつある材料群である。
*3 アノード型ハーフセル:
リチウムイオン2次電池の場合には、アノード極/電解質/Liの構成からなる半電池を意味する。
*4 サイクリックボルタンメトリー(サイクリックボルタモグラム):
電極電位を直線的に掃引し、系内における酸化・還元による応答電流を測定する手法である。電気化学分野における汎用的な測定手法である。また、測定により得られるプロファイルをサイクリックボルタモグラムと呼ぶ。
令和4年2月18日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2022/02/18-1.html【3/4(金)開催】2021年度サイレントボイスセンシング国際研究拠点シンポジウム
エクセレントコア推進本部サイレントボイスセンシング国際研究拠点によるシンポジウム「サイレントボイスセンシング~自然との共感~」を下記のとおり開催しますので、ご案内いたします。
私たちを取りまくモノ、自然、地球環境、そして私たち自身は、様々な微弱な信号(サイレントボイス)を発しています。その検知は、物質の劣化、災害、病気、ストレス等の予測と早期対応を可能とします。本シンポジウムでは、自然のサイレントボイスに関する研究の最前線と、それを検出する最先端センシング技術の基礎と応用を紹介します。
| 開催日時 | 令和4年3月4日(金) 9:30~17:00 |
| 会 場 | オンライン(Zoom) |
| 講演者 | 招待講演者 鴨川 仁 静岡県立大学 特任准教授 工藤 剛史 音羽電機工業株式会社 水田 博 教授(環境・エネルギー領域) |
| 言語 | 日本語、英語 |
| 詳細・申込み | https://forms.gle/C1oAk75Fmzhdfcub9 申込期限:令和4年2月25日(金) |
物質化学領域の松村研究室の論文がBiomacromolecules誌の表紙に採択
物質化学領域の松村 和明教授、ラジャン ロビン助教、知能ロボティクス領域のホ アン ヴァン准教授、学生のHarit Pitakjakpipopさん(博士後期課程3年、松村研究室)、Duy Dang Nguyenさん(博士後期課程1年、ホ研究室)らの論文が米国化学会(ACS)刊行のBiomacromolecules誌の表紙(Inner cover)に採択されました。
■掲載誌
Biomacromolecules 2022, Volume 23, Issue 1
掲載日2022年1月10日
■著者
Harit Pitakjakpipop, Robin Rajan, Kittipong Tantisantisom, Pakorn Opaprakasit, Duy Dang Nguyen, Van Anh Ho, Kazuaki Matsumura*, Paisan Khanchaitit*(*責任著者)
■論文タイトル
Facile Photolithographic Fabrication of Zwitterionic Polymer Microneedles with Protein Aggregation Inhibition for Transdermal Drug Delivery
■論文概要
マイクロニードルは、皮膚に貼るだけで薬物を投与することが可能であり、痛みを伴わない新規経皮吸収型製剤としての適用が期待されています。本論文では、タンパク質保護高分子をマイクロニードルに応用することで、タンパク質医薬品の機能を維持したまま投与が可能なマイクロニードルを提案しました。本論文はタイのタマサート大学との協働教育プログラムおよびホ研究室との共同研究の成果です。
論文詳細:https://doi.org/10.1021/acs.biomac.1c01325
表紙詳細:https://pubs.acs.org/toc/bomaf6/23/1

令和4年1月13日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2022/01/13-1.html物質化学領域の長尾准教授の論文がMacromolecular Rapid Communications誌の表紙に採択
物質化学領域の長尾 祐樹准教授の論文がWiley社刊行のMacromolecular Rapid Communications誌の表紙(Front cover)に採択されました。
■掲載誌
Macromol. Rapid Commun. 2022, Volume 43, Issue 1
掲載日2022年1月7日
■著者
Lipeng Zhai, Yuze Yao, Baiwei Ma, Md. Mahmudul Hasan, Yuxi Han, Liwei Mi, Yuki Nagao, Zhongping Li
■論文タイトル
Accumulation of Sulfonic Acid Groups Anchored in Covalent Organic Frameworks as an Intrinsic Proton-Conducting Electrolyte
■論文概要
スルホン酸基を結合させた共有結合性有機フレームワーク(COF)において、細孔内部の一次元チャネルを用いてプロトン伝導性電解質を合成しました。このスルホン化COFは、25℃および相対湿度(RH)95%で、1.5×10-2 S cm-1の優れたプロトン伝導性を達成しました。
論文詳細:https://doi.org/10.1002/marc.202100590
表紙詳細:https://onlinelibrary.wiley.com/toc/15213927/2022/43/1

令和4年1月12日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2022/01/12-1.html多機能ナノ粒子を用いて、無傷のリソソームを迅速かつ高純度に単離する手法を開発
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国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 国立大学法人東北大学 |
多機能ナノ粒子を用いて、無傷のリソソームを迅速かつ高純度に単離する手法を開発
ポイント
- 磁性―プラズモンハイブリッドナノ粒子を哺乳動物細胞のリソソーム内腔へエンドサイトーシス*1経路で高効率に送達することに成功
- ハイブリッドナノ粒子の細胞内輸送過程をプラズモンイメージング*2によって精確に追跡することで、高純度にリソソームを磁気分離するための最適培養時間を容易に決定可能
- リソソーム内腔にハイブリッドナノ粒子を送達後、細胞膜を温和に破砕し、4℃で30分以内にリソソームを磁気分離することで、細胞内の状態を維持したままリソソームの高純度単離に成功
| 北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)(学長:寺野 稔、石川県能美市) 先端科学技術研究科 前之園 信也 教授、松村 和明 教授、平塚 祐一 准教授の研究チームは、東北大学(総長:大野 英男、宮城県仙台市)大学院生命科学研究科の田口 友彦教授と共同で、磁気分離能(超常磁性)とバイオイメージング能(プラズモン散乱*3特性)を兼ね備えた多機能ナノ粒子(磁性―プラズモンハイブリッドナノ粒子)を用いて、細胞内の状態を維持したままリソソームを迅速かつ高純度に単離する技術を世界で初めて開発しました。 |
【背景と経緯】
リソソームは60を超える加水分解酵素とさまざまな膜タンパク質を含む細胞小器官(オルガネラ)で、タンパク質、炭水化物、脂質、ヌクレオチドなどの高分子の分解と再利用に主要な役割を果たします。これらの機能に加えて、最近の発見では、リソソームがアミノ酸シグナル伝達にも関与していることがわかってきています。リソソーム機能障害に由来する疾患も数多く存在します。そのため、リソソームの機能をより深く理解することは基礎生物学においても医学においても重要な課題です。
リソソームの代謝物の探索は、近年急速に関心が高まっている研究分野です。たとえば、飢餓状態と栄養が豊富な状態でリソソームの代謝物を研究することにより、アミノ酸の流出がV-ATPaseおよびmTORに依存することが示されました(M. Abu-Remaileh et al., Science, 2017, 358, 807)。このように、外部刺激に応答したリソソームの動的な性質を調べるためには、リソソームを細胞内の状態を維持したまま迅速かつ高純度に分離する必要があります。
一般的に、リソソームの単離は密度勾配超遠心分離法*4によって行われていますが、密度勾配超遠心分離法には二つの大きな問題があります。まず一つ目の問題として、細胞破砕液にはほぼ同じ大きさと密度を持ったオルガネラが多種類あるため、得られた画分にはリソソーム以外の別のオルガネラが不純物として混ざっていることがよくあります。したがって、リソソーム画分のプロテオミクス解析を行っても、完全な状態のリソソームに関する情報を得ることができません。二つ目の問題として、分離プロセスに長い時間がかかるため、リソソームに存在する不安定なタンパク質は脱離、変性、または分解される可能性があります。この問題も、リソソームに関する情報を得ることを大きく妨げます。
これらの問題を克服するために、リソソームを迅速に単離するための他の技術が開発されました。たとえば、磁気ビーズを用いた免疫沈降法*5によってリソソームを迅速に分離できることが示されました(M. Abu-Remaileh et al., Science, 2017, 358, 807)。しかし、この手法では、ウイルスベクターのトランスフェクションなどによって抗体修飾磁気ビーズが結合できるリソソーム膜貫通タンパク質を発現させる必要があります。この方法は、密度勾配超遠心分離法よりも高純度のリソソーム画分が得られますが、リソソーム膜のタンパク質組成とその後のプロテオミクス解析に悪影響を与える可能性が指摘されています(J. Singh et al., J. Proteome Res., 2020, 19, 371-381.)。
【研究の内容】
本研究では、無傷のリソソームを迅速かつ効率的に分離する新たな単離法として、アミノデキストラン(aDxt)で表面修飾したAg/FeCo/Ag コア/シェル/シェル型磁性―プラズモンハイブリッドナノ粒子(MPNPs)をエンドサイトーシス経路を介してリソソームの内腔に集積した後、細胞膜を温和に破砕し、リソソームを磁気分離するという手法を開発しました(図1)。リソソームの高純度単離のためには、エンドサイトーシス経路におけるaDxt結合MPNPs(aDxt-MPNPs)の細胞内輸送を精確に追跡することが必要となります。そこで、aDxt-MPNPsとオルガネラの共局在の時間変化を、aDxt-MPNPsのプラズモンイメージングとオルガネラ(初期エンドソーム、後期エンドソームおよびリソソーム)の免疫染色によって追跡しました(図2)。初期エンドソームおよび後期エンドソームからのaDxt-MPNPsの脱離と、リソソーム内腔へのaDxt-MPNPsの十分な蓄積に必要な最適培養時間を決定し、その時間だけ培養後、リソソームを迅速かつマイルドに磁気分離しました。細胞破砕からリソソーム単離完了までの経過時間(tdelay)と温度(T)を変化させることにより、リソソームのタンパク質組成に対するtdelayとTの影響をアミノ酸分析によって調べました。その結果、リソソームの構造は細胞破砕後すぐに損なわれることがわかり、リソソームを可能な限り無傷で高純度で分離するには、tdelay ≤ 30分およびT = 4℃という条件で磁気分離する必要があることがわかりました(図3)。これらの条件を満たすことは密度勾配超遠心分離法では原理的に困難であり、エンドサイトーシスという細胞の営みを利用して人為的にリソソームを帯磁させて迅速かつ温和に単離する本手法の優位性が明らかとなりました。
本研究成果は、2022年1月3日(米国東部標準時間)に米国化学会の学術誌「ACS Nano」のオンライン版に掲載されました。
【今後の展開】
本手法はリソソーム以外のオルガネラの単離にも応用可能な汎用性のある技術であり、オルガネラの新たな高純度単離技術としての展開が期待されます。

図1 磁性―プラズモンハイブリッドナノ粒子を用いたリソソームの迅速・高純度単離法の概念図

| 図2 COS-1細胞におけるaDxt-MPNPsの細胞内輸送。 (A)aDxt-MPNPsの細胞内輸送の概略図(tは培養時間)。 (B)aDxt-MPNPsとリソソームマーカータンパク質(LAMP1)の共局在を示す共焦点レーザー走査顕微鏡像 (核:青、aDxt-MPNPs:緑、リソソーム:赤)。 aDxt-MPNPsはプラズモンイメージングによって可視化。 スケールバーは20 µm。 |

| 図3 単離されたリソソームのウエスタンブロッティングおよびアミノ酸組成分析の結果。 (A)ネガティブセレクション(NS)およびポジティブセレクション(PS)画分。 (B)PS画分の共焦点レーザー走査顕微鏡画像(緑:aDxt-MPNPs、赤:LAMP1)。 (C)NSおよびPS画分、および細胞破砕液のウエスタンブロット結果。 (D)異なる温度でtdelayを変化した際に得られたリソソーム画分のアミノ酸含有量の変化。 水色(4℃、tdelay = 30分)、青(4℃、tdelay = 120分)、ピンク(25℃、tdelay = 30分)、 および赤(25℃、tdelay = 120分)。 |
【論文情報】
| 掲載誌 | ACS Nano |
| 論文題目 | Quick and Mild Isolation of Intact Lysosomes Using Magnetic-Plasmonic Hybrid Nanoparticles (磁性―プラズモンハイブリッドナノ粒子を用いた完全な状態のリソソームの迅速かつ温和な単離) |
| 著者 | The Son Le, Mari Takahashi, Noriyoshi Isozumi, Akio Miyazato, Yuichi Hiratsuka, Kazuaki Matsumura, Tomohiko Taguchi, Shinya Maenosono* |
| 掲載日 | 2022年1月3日(米国東部標準時間)にオンライン版に掲載 |
| DOI | 10.1021/acsnano.1c08474 |
【用語説明】
*1.エンドサイトーシス:
細胞が細胞外の物質を取り込む過程の一つ
*2.プラズモンイメージング:
プラズモン散乱を用いて、光の回折限界以下のサイズの金属ナノ粒子を光学顕微鏡(蛍光顕微鏡や共焦点顕微鏡など)で可視化すること
*3.プラズモン散乱:
金属ナノ粒子表面での自由電子の集合振動である局在表面プラズモンと可視光との相互作用により、可視光が強く散乱される現象
*4.密度勾配超遠心分離法:
密度勾配のある媒体中でサンプルに遠心力を与えることで、サンプル中の構成成分がその密度に応じて分離される方法
*5.免疫沈降法:
特定の抗原を認識する抗体を表面修飾したビーズ用い、標的抗原が発現したオルガネラを細胞破砕液中から選択的に分離する免疫化学的手法
令和4年1月5日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2022/01/05-2.htmlナノ粒子と近赤外レーザー光でマウス体内のがんを検出・治療できる! ~ ガンマ線架橋したゼラチン-液体金属ナノ粒子の開発により実現 ~
![]() |
国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
ナノ粒子と近赤外レーザー光でマウス体内のがんを検出・治療できる!
~ ガンマ線架橋したゼラチン-液体金属ナノ粒子の開発により実現 ~
ポイント
- 液体金属に生体分子を吸着させた複合体へのガンマ線照射によりコア-シェル型の構造を持つナノ粒子の作製に成功
- ガンマ線架橋したゼラチン-液体金属ナノ粒子がEPR効果により腫瘍に集積し、マウスに移植したがんの可視化と、光熱変換によるがん治療が可能であることを実証
- 当該ナノ粒子と近赤外光を組み合わせた新たながん診断・治療技術の創出に期待
| 北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野 稔、石川県能美市)、先端科学技術研究科 物質化学領域の都 英次郎准教授とセキ ウン大学院生(博士前期課程)は、量子科学技術研究開発機構(理事長・平野 俊夫、千葉県千葉市)、高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部(群馬県高崎市)の田口 光正上席研究員(「生体適合性材料研究プロジェクト」プロジェクトリーダー)、木村 敦上席研究員と共同で、量子ビーム(ガンマ線*1)架橋技術を用いて、ガリウム-インジウム合金から成る液体金属*2 表面に様々な生体高分子(ゼラチン、DNA、レシチン、牛血清蛋白質)がコートされ、安定な状態を保つことができるコア-シェル型*3 のユニークな構造を有すナノ粒子の作製に成功した(図1)。得られたゼラチン-液体金属ナノ粒子は、EPR効果*4 によって大腸がんを移植したマウス体内の腫瘍内に集積し、生体透過性の高い近赤外レーザー光*5 により、がん患部の可視化と光熱変換による治療が可能であることを実証した。さらに、マウスがん細胞とヒト正常細胞を用いた細胞毒性試験と生体適合性試験を行い、いずれの検査からもゼラチン-液体金属ナノ粒子が生体に与える影響は極めて少ないことがわかった。当該ナノ粒子と近赤外レーザー光を組み合わせた新たながん診断・治療技術の創出が期待される。 |
【研究背景と内容】
ガリウム・インジウム(Ga/In)合金からなる室温で液体の金属(液体金属)は、高い生体適合性と優れた物理化学的特性を有することが知られており、とりわけナノ粒子化した液体金属をバイオメディカル分野に応用する研究に大きな注目が集まっている。研究チームでも、液体金属をがん患部に送り込むことができれば、生体透過性の高い近赤外レーザー光を用いることで、患部の可視化や光熱変換を利用した、新たながんの診断や治療が実現できるのではないかと考え、研究をスタートさせた。
液体金属をナノ粒子化するためには煩雑な合成プロセスが必要であり、ナノ粒子化した液体金属の構造や機能を溶媒中で安定的に保持させることは難しい。そこで、研究チームは、液体金属をがん患部まで送り、がん細胞内に取り込ませるために、液体金属表面に生体高分子(ゼラチン、DNA、レシチン、牛血清蛋白質)を吸着させたコア-シェル型ナノ粒子の作製を試みた。Ga/In液体金属と生体分子の混合物に超音波照射することで、コア-シェル型ナノ粒子を形成できることを見出したが、そのままではナノ粒子の構造を水中で安定的に維持させることはできなかった。
この問題を解決するために、ナノ粒子表面の生体高分子がバラバラにならないよう、量子ビーム(ガンマ線)架橋反応を利用すれば、架橋剤などの細胞毒性を有する薬剤を用いることなく、生体高分子の特性を保持したまま安定化できると考えた。この方法でガンマ線架橋したゼラチン-液体金属ナノ粒子は、30日以上の粒径安定性を有していること、細胞に対し高い膜浸透性を有し毒性が無いこと、近赤外レーザー光照射により発熱が起こることが確認できたため、がん患部の可視化と治療効果について試験を行った。
大腸がんを移植して10日後のマウスに、ゼラチン-液体金属ナノ粒子を投与し、4時間後に740~790 nmの近赤外光を当てたところがん患部だけが蛍光を発している画像が得られ、当該ナノ粒子がEPR効果によりがん組織に取り込まれていることが分かった(図2(左))。そこで、当該ナノ粒子が集積した患部に対して808 nmの近赤外レーザー光を照射したところ、光熱変換による効果で26日後には、がんを完全に消失させることに成功した(図2(右))。
さらに、ゼラチン-液体金属ナノ粒子の細胞毒性と生体適合性を評価した。2種類の細胞[マウス大腸がん由来細胞(Colon-26)、ヒト胎児肺由来正常線維芽細胞(MRC5)]を培養する培養液中に、ゼラチン-液体金属ナノ粒子を、添加量を変えて投与・分散させ、24時間後に細胞内小器官であるミトコンドリアの活性を指標として細胞生存率を測定した結果、細胞生存率の低下は見られず、細胞毒性はなかった(図3)。また、ゼラチン-液体金属ナノ粒子をマウスの静脈から投与し、生体適合性を血液検査(1週間調査)と体重測定(約1ヵ月調査)により評価したが、いずれの項目でもゼラチン-液体金属ナノ粒子が生体に与える影響は極めて少ないことがわかった。
これらの成果は、今回開発した生体高分子のナノ粒子コーティング技術が、革新的がん診断・治療法の基礎に成り得ることを示すだけでなく、ナノテクノロジー、光学、量子ビーム工学といった幅広い研究領域における材料設計の技術基盤として貢献することを十分期待させるものである。
本成果は、2021年12月20日に先端材料分野のトップジャーナル「Applied Materials Today」誌(Elsevier発行)のオンライン版に掲載された。なお、本研究は、日本学術振興会科研費(基盤研究A)及び総合科学技術・イノベーション会議 官民研究開発投資拡大プログラム(Public/Private R&D Investment Strategic Expansion PrograM:PRISM)の支援のもと行われたものである。

図1. ガンマ線を利用した生体分子-液体金属ナノ複合体の合成と当該ナノ粒子を活用した光がん療法の概念。
LM: 液体金属、NIR: 近赤外、FL: 蛍光。

図2. ナノ粒子をがん患部に集積・可視化(左)し、光照射によりがんを治療(右)。

図3. CCK-8法によるゼラチン-液体金属ナノ粒子の細胞毒性評価。
赤:マウスの大腸がん細胞、グレー:ヒトの正常細胞、
RIPA: Radioimmunoprecipitation Buffer(細胞や組織の溶解に
使用される緩衝液、本実験の陽性対照に利用)
【論文情報】
| 掲載誌 | Applied Materials Today |
| 論文題目 | Sonication- and γ-ray-mediated biomolecule-liquid metal nanoparticlization in cancer optotheranostics |
| 著者 | Qi Yun, Atsushi Kimura, Mitsumasa Taguchi, Eijiro Miyako* |
| 掲載日 | 2021年12月20日にオンライン版に掲載 |
| DOI | 10.1016/j.apmt.2021.101302 |
【関連研究情報】
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)、先端科学技術研究科物質化学領域の都研究室では、近赤外レーザー光により容易に発熱するナノ材料の特性(光発熱特性)に注目し、これまでに、"三種の神器"を備えた多機能性グラフェン(2020年4月23日 JAISTからプレス発表)、ナノテクノロジーと遺伝子工学のマリアージュ(2020年8月17日 JAISTからプレス発表)、がん光細菌療法の新生(2021年2月16日JAISTからプレス発表)などの光がん療法を開発している。
量子科学技術研究開発機構(QST)、先端機能材料研究部プロジェクト「生体適合性材料研究」では、量子ビーム微細加工技術による先端医療デバイスの創製の一環として、これまでに、診断や創薬における微量検体の分析性能が数10倍に!(2019年6月25日 QSTからプレス発表)、平面状の細胞シートが立体的に!細胞が自分の力でシートを3次元化(2021年7月14日QSTからプレス発表)などの機能性材料作製技術を開発している。
【用語説明】
*1 ガンマ線
ガンマ線とは、放射性同位元素(コバルト60など)の崩解によって放出される量子ビームの一種。
*2 液体金属
室温以下あるいは室温付近で液体状態を示す金属のこと。例えば、水銀(融点マイナス約39℃)、ガリウム(融点約30℃)、ガリウム-インジウム合金(融点約15℃)がある。
*3 コア-シェル型
コアは核、シェルは殻を意味し、一つの粒子で核と殻の素材が異なるものをこのように呼ぶ。
*4 EPR効果
100nm以下のサイズに粒径が制御された微粒子は、正常組織へは漏れ出さず、腫瘍血管からのみがん組織に到達して患部に集積させることが可能である。これをEPR効果(Enhanced Permeation and Retention Effect)という。
*5 近赤外レーザー光
レーザーとは、光を増幅して放射するレーザー装置、またはその光のことである。レーザー光は指向性や収束性に優れており、発生する光の波長を一定に保つことができる。とくに700~1100 nmの近赤外領域の波長の光は生体透過性が高いことが知られている。
令和3年12月21日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/12/21-1.html物質化学領域の松村教授、都准教授、ラジャン助教らの論文がMaterials Today誌の表紙に採択
物質化学領域の松村 和明教授、都 英次郎准教授、ラジャン ロビン助教、研究員のSajid Fazalさん(松村研究室)、学生のNishant Kumarさん(博士後期課程2年、松村研究室)らの総説論文が材料科学の最高峰雑誌の一つであるエルゼビア社刊行のMaterials Today誌の表紙(Inner cover)に採択されました。
■掲載誌
Materials Today, Volume 51
掲載日2021年12月
■著者
Nishant Kumar, Sajid Fazal, Eijiro Miyako*, Kazuaki Matsumura*, Robin Rajan*(*責任著者)
■論文タイトル
Avengers against cancer: A new era of nano-biomaterial-based therapeutics
■論文概要
今回の論文は、抗がん治療に利用される様々なナノ材料、高分子材料を系統的に整理し、抗がん高分子化合物や免疫治療、バクテリア療法にいたるまで幅広い材料化学の観点から抗がん治療の最前線および将来展望をまとめた総説論文です。 表紙では各材料をイメージした戦士達がそれぞれの必殺技を用いてガンに立ち向かう様子を表しています。本発表は、科研費基盤研究(A)および本学の超越バイオ医工学研究拠点 リサーチコアの支援による成果です。
論文詳細:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1369702121003321
表紙詳細:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1369702121004028

令和3年12月16日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2021/12/16-2.html




