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モデル動物が群れをつくるメカニズムを解明
滋賀医科大学神経難病研究センターの杉 拓磨助教、西村 正樹教授、九州大学の伊藤 浩史准教授、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科/生命機能工学領域の永井 健講師は、動物集団が群れをつくる際のメカニズムを解明しました。これにより将来的に渋滞時や災害時の群衆の効率的な流動制御や、ロボットの群知能制御などへつながることが期待されます。この研究成果は、平成31年2月18日に英国科学誌「Nature Communications(ネイチャー・コミュニケーションズ)」に掲載されました。
<ポイント>
- 生物学でよく使われる線虫という動物がたくさん集まるとネットワーク状に群れることを発見。
- 線虫の群れと、人、鳥、魚の群れは共通するメカニズムで形成されることを強く示唆。
<概要>
- 半世紀近く世界中で研究されているモデル動物の線虫C. エレガンスが、集団でネットワーク状の群れをつくることを発見。世界で初めてモデル動物の集団行動の実験システムを開発。
- 人、鳥、魚の群れ形成メカニズムの理論的研究で用いられてきた数理モデルをもとに数値シミュレーションを行った。
- その結果、①ぶつかった線虫が移動方向をそろえることと②線虫1個体が弧を描くように動くことが、線虫の不思議なネットワークをつくる鍵であることを明らかにした。
- 渋滞時や災害時の人の集団行動の解析やロボットの群知能の効率的制御につながることが期待できる。
<内容詳細>
【研究背景と経緯】
夕暮れどきに浮かぶ鳥の群れや水族館のイワシの群れなど、大量の動物による組織的な行動は多くの人を魅了します。また駅などの混雑時や渋滞時の人の群衆を効率的に流動させることは重要な問題です。これまで、群れ形成について理論研究が盛んに行われ、様々な群れに共通する形成メカニズムの存在が予言される一方、実験的な証明はほとんどありませんでした。これは、野外の鳥や魚の大規模な群れを実験室に再現することが不可能という、ある意味、当然の理由によるものでした。
土壌に生息する線虫C. エレガンス(図1a)は、モデル動物として半世紀近く研究され、細胞死機構の発見や緑色蛍光タンパク質の動物応用などで数々のノーベル賞の対象となりました。われわれは、線虫の体長はわずか1 mm弱であるため、仮に一度に大量飼育できれば、コンパクトな群れ形成の解析システムを作れるのではないかと考えました。さらにモデル動物としての利点である変異体を用いた解析ができることから、過去の理論的研究で提案されたメカニズムを実験的に検証できると考えました。
滋賀医科大学の杉 拓磨助教、西村 正樹教授、九州大学の伊藤 浩史准教授、北陸先端科学技術大学院大学の永井 健講師は、線虫C. エレガンスを大量飼育する方法を確立し、集団によりネットワーク状に群れをつくることを発見しました(図1)。実験と数理シミュレーションを組み合わせた解析の結果、①隣接する線虫同士が相互作用し移動方向をそろえることと②線虫1個体が弧を描くように動くことがこの群れの形成条件であることを明らかにしました(図2)。このメカニズムは人や鳥、魚の群れ形成の理論的研究から提唱されてきたものと類似していることから、本研究は、群れ形成の根底に共通のメカニズムがあることを実験で強く示唆した初めての例となります。
【研究内容】
線虫の飼育では通常、寒天培地上に塗布した大腸菌を餌として与えますが、この従来法では餌が枯渇すると線虫の増殖は止まってしまい、大量の線虫を得ることはできません。そこで本研究では、技術的ブレークスルーの1つとして、栄養に富む「ドッグフード」を線虫の餌として利用することにより、餌の枯渇なく、大量の線虫C. エレガンスを飼育することが可能になりました。そして驚くべきことに線虫集団はガラス表面(図1b)、プラスチック表面(図1c)、寒天培地表面(図1d)でネットワーク状に群れることを発見しました。この群れ形成の意味は、1個体では乾燥状態で干からびてしまう線虫が集団で群れることにより、表面張力により水を保持し、乾燥への耐性を獲得することにあると考えられます。
次に、1個体レベルと集団レベルの線虫の観察から、図2に記載の①と②が特徴的な線虫の運動であると示されました。この単純な物理的条件は過去の人や鳥、魚の群れの理論的研究から予想されたメカニズムと類似していることから、過去のこれらの研究をもとに数理モデルを作成しました。このモデルはシミュレーションにおいて線虫のネットワーク状の群れを再現しました。
つづいて、実験とシミュレーションで数理モデルのパラメータを変えた場合のそれぞれの結果の整合性を確認し、モデルの正確性を検証しました。まず上述①と②の条件(図2)に焦点をあて、線虫周囲の湿度を変えることにより相互作用の強さを変えることや(図3)、描く弧の大きさが小さい線虫変異体を用いた実験を行いました(図3)。その結果、数理モデルのシミュレーションと実験結果はよく一致しました。さらに神経科学分野の最先端テクノロジーであるオプトジェネティクス(p4参照)を用いた実験結果も再現されました。以上の実験とシミュレーションを用いた検証から、上述2条件(図2)が線虫集団による群れ形成の基本メカニズムであると結論づけました。
【今後の展開】
本研究は、人や鳥、魚などの動物集団の群れ形成に共通するメカニズムの存在を初めて実験的に示しました。今後、まずこの独自のモデル動物を用いた実験システムを用いて、さらに数理モデルの正確性を高める予定です。このようなモデルは、避難時や渋滞時の人の動きの解析につながります。実際、国内においても企業と大学が連携して、魚の群れが協調して行動する仕組みを自動運転技術に応用し、渋滞緩和に活かすための共同研究を実施しています。また、災害時や祭典での群衆の渋滞における圧死を避けるための緊急避難方法の解析は類似のモデルを用いて行われており、今後、本研究により数理モデルによる予測精度が向上すれば、効率的な避難方法の提案などにつながります。人間以外にも羊や魚の群れの効率的な制御を行うことにより、畜産や漁業などにも有用な知見を与えることも期待できます。
また、世界中で盛んなロボット開発では、ロボット単体では困難な作業を集団で行わせるため、群知能と呼ばれるアルゴリズムの開発が進められています。例えば、スイスの会社は超小型群ロボットKilobotを開発し、群制御を通して、がれき中の生存者探索や汚染物質除去などを実現しようとしています。本研究は、これらの研究分野とも密接に関連していくことが期待されます。
【参考図】



【論文情報】
| 論文名 | C. elegans collectively forms dynamical networks |
| 著者名 | Takuma Sugi*, Hiroshi Ito*, Masaki Nishimura, Ken H. Nagai* (*は責任著者) |
| 雑誌名,巻号,DOI | Nature Communications (2019年2月18日 (日本時間) 付 電子版), doi:10.1038/s41467-019-08537-y |
【研究資金情報】
- 科学研究費補助金 基盤研究(B)、若手研究(B)、新学術領域研究
- 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業「さきがけ」
- 持田記念医学薬学振興財団
【用語説明】
- 線虫C. エレガンス
土壌に生息する非寄生性の線虫で、正式名称はセノハブダイディス・エレガンス。分子遺伝学的な解析の可能なモデル動物の1つ。半世紀近く前にシドニー・ブレナーにより利用され始め、細胞死の発見、RNA干渉の発見、緑色蛍光タンパク質の個体レベルでの応用により2002年と2006年のノーベル医学生理学賞、2008年のノーベル化学賞の対象となった。1998年には多細胞生物で初めて全ゲノム配列の解読が終了した。ヒトの遺伝子数と同程度の約2万個の遺伝子を持ち、それらの中にはヒトの遺伝子と類似したものが40%弱も含まれる。また体が透明なため、体外から体を傷つけずに蛍光観察できる。 - オプトジェネティクス
光遺伝学と呼ばれる、最先端のテクノロジー。光感受性のイオンチャネル分子を標的の神経細胞に発現させ、光刺激によりそのイオンチャネルを活性化させることで標的の神経細胞を活性化できる。線虫の場合、体が透明で光透過性が高いので、体を傷つけずに標的の神経細胞のみを活性化させることができる。本研究では、前進と後進を駆動する神経細胞にイオンチャネル分子を発現し、活性化した。
平成31年2月18日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2019/02/19-1.html「日本固有資源"サクラン"の細胞を並べる機能を発見」を開発 -細胞組織工学へ新たな道-
「日本固有資源"サクラン"の細胞を並べる機能を発見」を開発
-細胞組織工学へ新たな道-
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北陸先端科学技術大学院大学(JAIST、学長・浅野 哲夫、石川県能美市)の先端科学技術研究科/環境・エネルギー領域の金子研究室らは、日本固有種微生物スイゼンジノリから抽出される超高分子サクラン(発見者:岡島麻衣子研究員)の新しい機能を発見しました。3Dプリンターで凹凸にパターン化したポリスチレン基板(武藤工業株式会社作成)の上でサクランゲルを作成することで、このパターンが転写されたゲルを得ました。ゲル内部の分子配列は特殊であり凹部のみでサクラン分子鎖が配向し、細胞をその上に播種すると細胞のほとんどがそれに沿って伸展することが見いだされました。
スイゼンジノリは日本固有種の食用藻類で福岡県、熊本県の一部で地下水を利用し養殖されています。このスイゼンジノリの主成分であるサクランは、2006年本学の岡島らによって発見され、天然分子の中で最も大きな分子量を持ち、高い保水能力(ヒアルロン酸の5倍~10倍)と抗炎症効果を持つ新機能物質として注目され、現在では化粧品を中心に幅広く用いられています。研究チームは昨年このサクランの高い保水能力に着目し、サクラン・レーヨン混紡繊維"サク・レ"を作製するなど、人体に接触する材料としての研究を進めてきました。並行してサクランが作るゲルの細胞適合性などを系統的に研究する中で、今回の発見に至りました。 このゲルは極めて低濃度で液晶構造を形成するサクラン分子鎖の自己配向性を巧みに利用した例であり、サクランがポリスチレン基板に張り付きながら乾燥していく際に、凸部から凹部に向かって重力に伴う延伸張力が働き分子配向すると考えられます。これにより膜自身にも分子配向の方向に筋状のマイクロ構造が形成され、その方向を細胞が認識して配向伸展したと考えています。これが細胞を並べるメカニズムです。また、サクランは光合成を行うラン藻(スイゼンジノリ)が作る物質であるため、空気と水と日光さえあれば作ることが可能であり、生産時に大気の二酸化炭素(CO2)削減に貢献する究極にエコな物質といえます。 ![]() 写真 パターン化サクランゲル(左:ゲル,右:ゲル上の伸展細胞) 本成果はアメリカ化学会誌 [ACS Applied Materials & Interfaces(インパクトファクター8.1)] でオンライン公開され近く印刷公開予定です。 |
<開発の背景と経緯>
藻類などの植物体に含まれる分子を用いて得られるバイオマス注1)材料の中には、材料中にCO2を長期間固定できるため、持続的低炭素社会の構築に有効であるとされています。北陸先端科学技術大学院大学の研究チームはこれまで、淡水性の藍藻であるスイゼンジノリから高保湿力を持つ繊維質である超高分子「サクランTM」注2)を開発してきました。
近年、iPS細胞の発見に端を発し、細胞組織工学の分野が活発化してきています。しかし、細胞を配向させる技術が無いと人工臓器も単なる分化細胞の塊にすぎません。そこで、細胞を適所で配向させる技術が待たれています。
<作製方法>
3Dプリンタで作成したマイクロプラスチック棒のアレイの上にサクランをキャストした。得られたフィルムはプラスチック棒の間でサクランが棒に対して垂直に配向することが分かりました(図1)。
<今回の成果>
このゲルは極めて低濃度で液晶構造を形成するサクラン分子鎖の自己配向性を巧みに利用した例であり、サクランがポリスチレン基板に張り付きながら乾燥していく際に、凸部から凹部に向かって重力に伴う延伸張力が働き分子配向すると考えられます。これにより膜自身にも分子配向の方向に筋状のマイクロ構造が形成され、その方向を細胞が認識して配向伸展したと考えています。この上に、L929マウス線維芽細胞を播種した所、細胞はサクランの配向に応じてパターン化した配向性を示すことが分かりました(図2)。
<今後の展開>
ほとんど全ての臓器は配向しており細胞を配向させるこの技術は組織工学に極めて有用と考えられる。サクランは元来緊急時の火傷治療膜、臓器癒着防止膜、湿布剤に応用できると報告してきましたが、今回人工血管、人工皮膚など、組織工学用基板へ応用展開も期待できます。
| <参考図> | ||
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| 図1 3Dプリンタで作成した基板上でキャストしたサクランの偏光顕微鏡注3)写真(530nmの鋭敏色板使用) 左2つは上からの観察、右は横からの観察 | ||
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| 図2 播種した細胞の写真(ほぼすべての細胞が左右に伸展している) | ||
<用語説明>
注1)バイオマス(例 スイゼンジノリ)
生物資源(bio)の量(mass)を表す概念で、一般的には「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」をバイオマスと呼ぶ。本研究で取り扱ったスイゼンジノリ(ラン藻の一種であり学名はAphanothece sacrum)は日本固有のバイオマスの一種であり、世界でも極めて希な食用ラン藻である。また、スイゼンジノリは江戸時代から健康維持のために食され、当時は細川藩および秋月藩における幕府への献上品とされてきた。大量養殖法が確立されている。
注2)サクラン
スイゼンジノリが作る寒天質の主成分である。硫酸化多糖類の一つでスイゼンジノリから水酸化ナトリウム水溶液により抽出される。サクランの重量平均絶対分子量は静的光散乱法で2.0 x 107 g/mol と見積もられている。現実的には原子間力顕微鏡によりサクラン分子が 13 μm の長さを持つことが直接観察されている。天然分子で 10 μm 以上の長さにも達するものを直接観察した例はこれが初めてとされる。サクランという名称はスイゼンジノリの種名の語尾を多糖類の意味の "-an" という接尾後に変換したもので、北陸先端科学技術大学院大学の岡島らによって発見され名付けられた。現在もその金属吸着性や高保水性などに関する研究が進められており、吸水高分子として応用が進められている。
注3)偏光顕微鏡
光学顕微鏡の一種。試料に偏光を照射し、偏光および複屈折特性を観察するために用いられる。偏光特性は結晶構造や分子構造と密接な関係があるため、鉱物学や結晶学の研究で多く用いられる。他、高分子繊維の研究などにも用いられる。一般には特定方向に偏波させることのできる二枚のフィルター(偏光板)をお互いに直交させて使用する。これにより光は通らなくなるが、屈折率に方向依存性のある高分子繊維などが二枚の偏光板の間に存在すると、この高分子繊維だけが観察可能となる。さらに、特殊なカラーフィルターを組み合わせることで高分子繊維内部の分子配向の方向を色調変化により判定することが可能となる。
平成31年1月21日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2019/01/21-1.html学生の鈴木さんが応用物理学会北陸・信越支部において発表奨励賞を受賞
学生の鈴木 友康さん(博士前期課程1年、環境・エネルギー領域・大平研究室)が、平成30年度応用物理学会北陸・信越支部学術講演会において発表奨励賞を受賞しました。
「応用物理学会」は、半導体、光・量子エレクトロニクス、新素材など、それぞれの時代で工学と物理学の接点にある最先端課題、学際的なテーマに次々と取り組みながら活発な学術活動を続けています。またこの賞は、応用物理学会北陸・信越支部の学術講演会において、応用物理学の発展に貢献しうる優秀な一般講演論文を発表した若手会員に対し「北陸・信越支部発表奨励賞」を授与し、その功績を称えることを目的としています。
■受賞年月日
平成30年12月1日
■講演題目
「n型フロントエミッター型太陽電池モジュールの電圧誘起劣化におけるSiO₂膜の効果」
■講演概要
近年、大規模太陽光発電所などで、太陽電池モジュールのアルミフレームとセル間の電位差に起因して性能が劣化する電圧誘起劣化(PID)が問題となっている。本研究では、今後の普及が期待される、基板にn型結晶Siを用い、光入射側にp型エミッター層があるn型フロントエミッター型(n-FE)結晶Si太陽電池モジュールに関し、セル中のSiO₂膜がPIDにおよぼす影響を、SiO₂膜がないn-FEセルを用いたモジュールへのPID試験との比較により検証した。SiO₂膜の無いモジュールでは、表面の窒化Si膜への正電荷蓄積に起因する初期の劣化が確認できなかったが、Na+侵入に起因するその後の劣化に関しては、劣化の程度が大きく、発現する時間も早まった。以上のことから、n-FEモジュールのSiO₂膜は、窒化Siに蓄積する正電荷のSi側への放出を抑止するため初期のPIDを引き起こす一方、Na+侵入によるPIDを遅延する効果があると考察した。
■受賞にあたって一言
この度、応用物理学会北陸・信越支部学術講演会におきまして、発表奨励賞を頂けたことを大変光栄に思います。ご指導いただいた、産業技術総合研究所増田淳様、大平圭介教授、D3山口世力氏ならびに研究室のメンバーには厚く御礼申し上げます。また、今回の実験を行うに当たり、n-FEセルを作製いただいた、豊田工業大学の中村京太郎教授にも厚く御礼申し上げます。今後もこれを励みにし、研究に精一杯取り組んでいきたいと思います。

平成30年12月12日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2018/12/12-1.html学生の重松さんがNANO-SciTech 2018において発表奨励賞を受賞
学生の重松 沙樹さん(博士前期課程2年、応用物理学領域・村田研究室)がThe 9th International Conference on Nanoscience and Nanotechnology 2018 (NANO-SciTech 2018)において発表奨励賞を受賞しました。
International Conference on Nanoscience and Nanotechnology (NANO-SciTech)は、毎年開催され国内外から最先端の研究者・技術者の方々が参加する国際的な研究発表および情報交換の場となっています。
本会議の目的は、ナノテクノロジーに関連する問題についての進歩、実践的な経験、革新的なアイデア、その他幅広いトピックを発見することです。今回の会議は、マレーシアのUniversiti Teknologi MARA (UiTM)の主催で2018年2月26日~3月1日の期間、マレーシアのUiTMにて開催されました。また、発表奨励賞 (Award of Best Oral Presentation)は、優れた発表方法で科学的知識に貢献する内容の発表に対して贈られます。
■受賞年月日
平成30年2月28日
■著者
重松沙樹、宮里朗夫、宮林恵子、酒井平祐、村田英幸
■論文タイトル
Detection of degradation products of OLED by Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance Mass Spectrometry
■論文概要
有機EL素子の劣化機構を明らかにするためには劣化反応に伴う生成物を特定することが必要です。しかし、劣化生成物が素子の発光領域のどこに、どのような構造をした劣化生成物が存在するか明らかになっていません。本研究では、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析イメージング(FT-ICR-MSI)法を劣化した有機EL素子に初めて適用しました。質量分析イメージング法は、質量分析を二次元マッピングする手法であり、注目する物質の面内分布を可視化することが可能です。劣化前後の有機EL素子をFT-ICR-MSIで解析した結果、素子の発光領域によって異なる劣化生成物が存在することを見出しました。さらに劣化程度の異なる領域で検出された劣化生成物の精密質量を用いて、その化学構造を決定し劣化反応機構を明らかにしました。
■受賞にあたって一言
The 9th International Conference on Nanoscience and Nanotechnology 2018 (NANO-SciTech 2018)におきまして発表奨励賞を頂けたこと大変光栄に思います。研究するにあたり、ご指導頂きました村田英幸教授、ナノテクノロジーセンター 宮里朗夫様、酒井平祐助教、静岡大学 宮林恵子准教授に深く御礼申し上げます。また、会議に参加するにあたりたくさんのサポートをしていただいたMohd Zaidanさん、ならびに研究室のメンバーに深くお礼申し上げます。卒業まであと残りわずかですが受賞を励みに、研究に精一杯取り組んでいきたいと思います。

平成30年3月9日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2018/03/09-2.html環境・エネルギー領域の大平准教授の研究グループの講演がPVSEC-27においてBest Paper Awardを受賞
環境・エネルギー領域の大平圭介准教授のグループと、産業技術総合研究所太陽光発電研究センターの増田淳副研究センター長(兼本学客員教授)のグループとの共同研究の成果をまとめた講演が、27th Photovoltaic Science and Engineering Conference (PVSEC-27)において、Best Paper Awardを受賞しました。
PVSECは、アジア・太平洋地域で開催される太陽光発電に関する最大級の国際学会で、今回が27回目の開催です。各種太陽電池材料やデバイス、評価技術、信頼性、市場・政策など広範囲のトピックスを対象としており、今回は10のエリアに分かれて発表が行われました。Best Paper Awardは、総発表件数750件超の中から、全エリアを通して数件程度に授与されるものです。
■受賞年月日
平成29年11月17日
■タイトル
Jsc and Voc reductions in silicon heterojunction photovoltaic modules by potential-induced degradation tests
■著者
Keisuke Ohdaira (JAIST), Seira Yamaguchi (JAIST), Chizuko Yamamoto (AIST), and Atsushi Masuda (AIST)
■発表概要
大規模太陽光発電所において、太陽電池モジュールのフレームと発電素子(セル)の間の電位差が原因で発電性能が低下する、電圧誘起劣化(potential-induced degradation: PID)の問題が顕在化しています。結晶シリコンと非晶質シリコンとのヘテロ接合からなるシリコンヘテロ接合(silicon heterojunction: SHJ)太陽電池は、高効率太陽電池としてすでに市販されており、大規模太陽光発電所への導入も進んでいますが、そのPID現象や発現機構は未解明でした。今回の研究では、SHJ太陽電池モジュールに対してPID試験を行い、1) 電流の低下に特徴づけられるPIDがまず発現すること、2) 透明導電膜の還元による光学損失がこの電流低下の原因であること、3) さらに長時間のPID試験を行うと電圧の低下も起こること、4) モジュールに用いる封止材を変更することでPIDを抑止できること、を明らかにしました。
■受賞にあたって一言
太陽光発電分野の権威ある国際学会であるPVSECでのBest Paper Awardを受賞でき、大変光栄に感じております。実験データの多くが産業技術総合研究所で取得されたものであり、共著者の皆様にも感謝いたしております。今後も引き続き、SHJ太陽電池モジュールをはじめ、n型結晶Si太陽電池モジュールのPIDの現象解明と抑止技術開発に、精力的に取り組んでいきたいと思います。本研究は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託により行っているものであり、関係各位に感謝いたします。
平成29年11月22日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2017/11/22-1.html生命機能工学領域の藤本研究室の論文がWiley社刊行 ChemBioChem誌の表紙に採択
生命機能工学領域の橋本浩寿(平成26年3月修了)、中村重孝助教、藤本健造教授の研究成果を中心とした論文が国際化学会誌の表紙に採択されました。
■掲載誌
ChemBioChem (Wiley, IF = 2.845)2017年 20巻表紙
■著者
Shigetaka Nakamura(助教), Hirokazu Hashimoto, Satoshi Kobayashi, Kenzo Fujimoto(教授).
■タイトル
Photochemical acceleration of DNA strand displacement using ultrafast DNA photo-cross-linking
(超高速DNA光架橋反応を用いたDNA鎖交換反応の光化学的高速化)
■概要
DNA鎖交換反応は体内においても遺伝子複製や転写の際に起こる生化学的に重要な反応であるとともに、試験管内でもPCRやチップ上での一塩基多型解析などライフサイエンス分野でも使用されている重要な反応です。しかし、反応の進行には時間を要する為、遺伝子解析のボトルネックとなっており、その高速化が求められていました。今回、超高速DNA光架橋反応を用いることにより、光照射をトリガーとしてDNA鎖交換反応を高速化することに成功しました。また、光照射のエネルギーに従い、DNA鎖交換反応の速度を制御可能であることも見出しました。
今後は高速遺伝子解析や細胞内遺伝子操作の高速化に向けた応用が期待されます。
論文詳細: http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/cbic.201700511/abstract


平成29年10月12日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2017/10/12-1.htmlミリメートルの長距離スピン情報の変換に成功 -量子情報素子やスピンセンサーの技術開発に道-
ミリメートルの長距離スピン情報の変換に成功
-量子情報素子やスピンセンサーの技術開発に道-
ポイント
- 磁気の波(スピン波)を用いて数ミリメートル離れたスピン状態へ情報を変換する基本原理を実証
- 量子情報素子やスピンセンサーの新手法として期待
北陸先端科学技術大学院大学(学長・浅野哲夫、石川県能美市)、先端科学技術研究科応用物理学領域の菊池大介研究員、安東秀准教授らは、京都大学、東京工業大学、東北大学、理化学研究所、ニューヨーク市立大学と共同で、スピン波注1)とダイヤモンド中の窒素-空孔複合体中心(NV中心(図1))注2)を組み合わせた長距離(約3.6ミリメートル)スピン信号変換に成功しました。
<背景と経緯>
近年、持続可能な社会の実現に向けた環境・エネルギー・情報通信などの問題への取組が活発化する中で、電子デバイスの省電力化やナノセンシング技術の高性能化が求められています。これまでデバイスに情報を入出力する方法として電流が用いられてきましたが、情報処理に時間がかかること、多くのエネルギーが熱として浪費され発熱によりデバイスの動作が不安定となることなど問題がありました。これらを解決する方法として、電流を用いずに電子の自由度であるスピン注3)を用いるスピントロニクス素子注4)や量子情報素子(発熱を抑えるとともに情報処理時間を飛躍的に高速化できる)の実現が期待されています。従来、これらの素子では相互作用を大きくするためにスピンとスピンの距離をナノメートル程に設計する必要がありました(図2)。今回の研究では、スピンの波(スピン波)とダイヤモンド結晶中のNV中心に存在するスピン状態とを組み合わせた手法によりミリメートルの長距離でもスピン情報を伝送できることを実証しました。
<研究の内容>
今回の研究では、図3の模式図に示した実験により、スピン波とNV中心スピンを用いた長距離スピン信号変換に成功しました。先ず、直径4ミリメートルの絶縁体である磁性ガーネット (Y3Fe5O12: YIG) 注5)多結晶円板にマイクロ波と磁場を印加して、磁気の波(スピン波)を試料左端に励起します(図3(a))。この際に、表面スピン波注6)と呼ばれる、試料表面に局在し一方向にのみ伝搬するスピン波を励起します。その後、試料左端から右端へ3.6ミリメートル伝搬した表面スピン波は、試料右端上に配置されたダイヤモンド中に用意された複数のNV中心スピンを励起します。励起されたNV中心は光学的に磁気共鳴信号(ODMR)注7)やラビ振動注8)を計測することにより検出します(図3(b), (c))。今回、スピン波の共鳴周波数とNV中心の共鳴周波数が一致する条件でODMR信号が増強され、ラビ振動の周波数が高くなることを発見しました。
<今後の展開>
本研究では、スピン波とNV中心を組み合わせることで離れたスピン状態間の信号の伝送・変換が可能なことを実証しました。今後、2つのスピン状態をスピン波で接続することで、これまで困難だった長距離(ミリメートル以上でも可能)離れた2つのスピン状態間の信号の変換を可能にし(図4)、新しい量子情報素子やナノスピンセンサーを実現する技術開発に貢献することが期待されます。
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| 図1 ダイヤモンド中の窒素(C)-空孔(V)複合体中心(NV中心)スピン状態 | 図2 従来のスピン変換の概念図 ナノメートル程の距離の2つのスピン状態、スピンAとスピンB間で信号を変換する。 |
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| 図3 スピン波とNV中心を用いた長距離スピン信号変換の原理。(a)多結晶ガーネット(YIG)磁性体試料の左端で励起された表面スピン波は右方向へ数ミリメートル伝搬した後、試料右端上のダイヤモンド中のNV中心スピンを励起する(スピン変換)。励起されたNV中心は光学的磁気共鳴検出法(ODMR)により磁気共鳴(b)やラビ振動(c)として検出される。 | |
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| 図4 今後の展開。長距離離れた2つのスピン状態、スピンAとスピンBをスピン波で接続する。 | |
<論文情報>
掲載誌:Applied Physics Express
論文題目:Long-distance excitation of nitrogen-vacancy centers in diamond via surface spin waves
著者:Daisuke Kikuchi, Dwi Prananto, Kunitaka Hayashi, Abdelghani Laraoui, Norikazu Mizuochi, Mutsuko Hatano, Eiji Saitoh, Yousoo Kim, Carlos A. Meriles, Toshu An
Vol.10, No.10, Article ID:103004
掲載日:10月2日(英国時間)公開 DOI: 10.7567/APEX.10.103004
<研究助成費>
本研究の一部は、キャノン財団研究助成プログラム、村田学術振興財団研究助成、科学研究費補助金・新学術領域研究「ナノスピン変換」公募研究、研究活動スタート支援の一環として実施されました。
<用語解説>
注1) スピン波
スピンの集団運動であり、個々のスピンの磁気共鳴によるコマ運動(歳差運動)が波となって伝わっていく現象である。
注2) NV中心
ダイヤモンド中の窒素不純物と空孔が対になった構造(窒素-空孔複合体中心)であり、室温、大気中で安定にスピン状態が存在する。
注3) スピン
電子が有する自転のような性質。電子スピンは磁石の磁場の発生源でもあり、スピンの状態には上向きと下向きという2つの状態がある。
注4) スピントロニクス
電子の持つ電荷とスピンの2つの性質を利用した新しい物理現象や応用研究をする分野
注5) 磁性ガーネット
本研究では希土類元素をイットリウム(Y)としたイットリウム鉄ガーネット(Y3Fe5O12)多結晶を用いた。スピン波の拡散長が数ミリメートル以上と長いことで知られている。
注6) 表面スピン波
スピン波の一種であり、試料の表面に局在し一方向にのみ伝搬する性質を持つ。また、表面スピン波の持つ非相反性より、試料の上面と下面では逆向きに伝搬する。
注7) 光学的磁気共鳴検出法(Optically Detected Magnetic Resonance, ODMR)
磁気共鳴現象を光学的に検出する手法。本研究では532ナノメートルのレーザー光入射により励起・生成されたマイクロ波印加による蛍光強度の変化を計測しNV中心スピンの磁気共鳴を検出する。
注8) ラビ振動
NV中心の2つのスピン状態間のエネルギーに相当するマイクロ波磁場を印加することにより状態が2準位の間を振動する現象。本研究ではマイクロ波磁場の代わりにスピン波によるマイクロ波磁場を生成してラビ振動を励起した。
平成29年10月3日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2017/10/03-1.html磁性-プラズモンハイブリッドナノ粒子を用いて、従来分離が難しかった細胞小器官(オートファゴソームなど)の新たな分離法の開発に成功
磁性-プラズモンハイブリッドナノ粒子を用いて、従来分離が難しかった
細胞小器官(オートファゴソームなど)の新たな分離法の開発に成功
ポイント
- これまで分離が難しかった細胞小器官を磁気分離するためのプローブとして、粒径約15 nmで単分散なAg/FeCo/Agコア/シェル/シェル型磁性-プラズモンハイブリッドナノ粒子を創製した。
- ハイブリッドナノ粒子を哺乳動物細胞に取り込ませ、培養時間を変化させた際、ナノ粒子が細胞内のどの部分に局在するかということをAgコアのプラズモン散乱を利用して可視化することに成功した。
- 培養時間が30分~2時間の間でハイブリッドナノ粒子がオートファゴソームに局在することがわかったため、オートファゴソームをターゲットとして、適切な時間帯で細胞膜を破砕して磁気分離を行うことでオートファゴソームの分離に成功した。
- 単離したオートファゴソームをプロテオミクス/リピドミクス解析に供することで、オートファジーの機能欠損による疾患の創薬へと展開できる可能性がある。
- リガンド結合ハイブリッドナノ粒子を用いた汎用的かつ高選択的な細胞小器官分離技術へと拡張することで、基礎生物学上重要な発見を導く可能性があるほか、肥満や老化を防止する医療技術へと繋がることも期待される。
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北陸先端科学技術大学院大学(学長・浅野哲夫、石川県能美市)、物質化学領域の前之園 信也 教授らは、東京大学、金沢大学ほかと共同で、独自開発の磁性-プラズモンハイブリッドナノ粒子を用いてオートファゴソームのイメージングと磁気分離に成功しました。この手法は、これまで分離が困難であった他の細胞小器官へ拡張可能なため、新たな細胞小器官分離法としての応用が期待されます。 2013年のノーベル生理学・医学賞は、「小胞輸送の分子レベルでの解析と制御メカニズムの解明」という功績に対して、米国の3名の研究者に贈られました。また、2016年のノーベル生理学・医学賞は、「オートファジー注1)の分子レベルでのメカニズムの解明」の功績に対して、東京工業大学・大隅 良典 栄誉教授に贈られたことはまだ記憶に新しいところです。これらの研究はいずれも"細胞内物質輸送"に関するものでした。細胞内物質輸送には多種多様な細胞小器官注2)が関与しており、それらの機能は細胞小器官に存在するタンパク質や脂質によって制御されています。従って、細胞小器官の機能を理解するためには、そこに存在するタンパク質/脂質を調べることが必要不可欠です。そのための有力な手段の一つとして、タンパク質/脂質が機能している小器官ごと単離して解析するという方法があります。細胞小器官の一般的な単離法には超遠心分離注3)がありますが、比重に差が無い異種の小器官の分離は困難であることに加え、分離工程が煩雑で手間がかかるほか、表在性タンパク質注4)の脱離や変性が問題となる場合もあるため、新たな分離法の開発が望まれています。 本成果は、アメリカ化学会が発行するオープンアクセスジャーナルであるACS Omega誌に2017年8月25日に掲載されました。 |
<今後の展開>
単離したオートファゴソームをプロテオミクス/リピドミクス解析に供することで、これまでとは異なる視点からオートファジーを俯瞰でき、オートファジーの機能欠損による疾患の創薬へと展開できる可能性があります。また、ハイブリッドナノ粒子表面に所望のリガンドを結合させることによって、目的の細胞小器官への受容体を介したターゲティングが可能なナノ粒子を作製し、そのリガンド結合ナノ粒子を用いて標的細胞小器官を高選択的に単離する技術を確立することで、基礎生物学上重要な発見を導く可能性があります。さらに、肥満や老化を防止する医療技術へと繋がることも期待されます。

図1 磁性-プラズモンハイブリッドナノ粒子を哺乳動物細胞にトランスフェクションした後、培養時間(図中右に行くに従って培養時間が長いことを意味する)とともにナノ粒子の局在が初期エンドソーム(early endosome)、オートファゴソーム(autophagosome)、オートファゴリソソーム(autophagolysosome)へと移行する様子をプラズモン散乱を利用した共焦点顕微鏡イメージングで確認でき、各々の時間帯で磁気分離を行うとそれぞれ異なる種類の細胞小器官を分離することが可能であることを示した図。
<論文>
| 掲載誌: | ACS Omega |
| 論文題目: | "Magnetic Separation of Autophagosomes from Mammalian Cells using Magnetic-Plasmonic Hybrid Nanobeads"(磁性-プラズモンハイブリッドナノ粒子を用いた哺乳動物細胞からのオートファゴソームの磁気分離) |
| 著者: | Mari Takahashi,1 Priyank Mohan,1 Kojiro Mukai,2 Yuichi Takeda,3 Takeo Matsumoto,4 Kazuaki Matsumura,1 Masahiro Takakura,5 Hiroyuki Arai,2 Tomohiko Taguchi,6 Shinya Maenosono1* 1北陸先端科学技術大学院大学 2東京大学大学院薬学系研究科 衛生化学教室 3大阪大学大学院医学系研究科 4金沢大学医薬保健研究域医学系 5金沢医科大学産科婦人科 6東京大学大学院薬学系研究科 疾患細胞生物学教室 |
| DOI: | 10.1021/acsomega.7b00929 |
| 掲載日: | 2017年8月25日 |
<用語解説>
注1)オートファジー
オートファジー(Autophagy)は、細胞が持っている、細胞内のタンパク質を分解するための仕組みの一つ。自食とも呼ばれる。酵母からヒトにいたるまでの真核生物に見られる機構であり、細胞内での異常なタンパク質の蓄積を防いだり、過剰にタンパク質合成したときや栄養環境が悪化したときにタンパク質のリサイクルを行ったり、細胞質内に侵入した病原微生物を排除することで生体の恒常性維持に関与している。
注2)細胞小器官
細胞の内部で特に分化した形態や機能を持つ構造の総称。細胞内器官やオルガネラとも呼ばれる。細胞小器官が高度に発達していることが、真核細胞を原核細胞から区別している特徴の一つである。
注3)超遠心分離
数万G(重力加速度)以上の遠心力をかける遠心分離法。
注4)表在性タンパク質
疎水性相互作用、静電相互作用など共有結合以外の力によって脂質二重層または内在性膜タンパク質と一時的に結合しているタンパク質。
注5)超常磁性
強磁性体やフェリ磁性体のナノ粒子に現れる。磁性ナノ粒子では磁化の向きが温度の影響でランダムに反転しうる。この反転が起こるまでの時間をネール緩和時間という。外場の無い状態で、磁性ナノ粒子の磁化測定時間がネール緩和時間よりもずっと長い時、磁化は平均してゼロであるように見える。この状態を超常磁性という。
注6)エンドサイトーシス
細胞が細胞外の物質を取り込む過程の一つ。細胞に必要な物質のあるものは極性を持ちかつ大きな分子であるため、疎水性の物質から成る細胞膜を通り抜ける事ができない、このためエンドサイトーシスにより細胞内に輸送される。
注7)オートファゴソーム
オートファジーの過程で形成される二重膜構造を有した袋状の細胞小器官。他の細胞小器官やタンパク質などを囲い込んだ後、リソソームと融合することで内容物を消化する。
注8)プラズモン
プラズマ振動の量子であり、金属中の自由電子が集団的に振動して擬似的な粒子として振る舞っている状態をいう。金属ナノ粒子ではプラズモンが表面に局在することになるので、局在表面プラズモンとも呼ばれる。
注9)トランスフェクション
人為的にDNAやウイルスなどを細胞に取り込ませる手法。
注10)プラズモン散乱イメージング
局在表面プラズモン共鳴に起因した光散乱を利用したイメージング。共焦点顕微鏡を用いたバイオイメージングでは一般的に蛍光色素が用いられるが、長時間観察では光退色が問題となる。しかし、プラズモン散乱を用いたイメージングでは光退色の心配がない。
注11)蛍光免疫染色
抗体に蛍光色素を標識しておき、抗原抗体反応の後で励起光を照射して蛍光発光させ、共焦点顕微鏡などで観察することによって本来不可視である抗原抗体反応(免疫反応)を可視化するための組織化学的手法。
注12)初期エンドソーム
初期エンドソームは、エンドサイトーシスされた物質を選別する場として機能する細胞小器官である。エンドサイトーシスによって細胞内へと取り込まれた物質は、まず細胞辺縁部に存在する初期エンドソームへと輸送される。初期エンドソームを起点として、分解される物質は分解経路へと、細胞膜で再利用される物質はリサイクリング経路へと選別されていく。
注13)オートファゴリソソーム
オートファゴソームとリソソームの融合によってできる細胞小器官。
注14)ウェスタンブロッティング
電気泳動によって分離したタンパク質を膜に転写し、任意のタンパク質に対する抗体でそのタンパク質の存在を検出する手法。
注15)LC3-II
LC3はオートファゴソームマーカーとして広く知られている。オートファジーが開始されると、LC3はプロペプチドとして発現し、直ちにC末端が切断されて細胞質型のLC3-Ⅰとなる。LC3-ⅠのC末端にホスファチジルエタノールアミンが付加され、膜結合型のLC3- IIへ変換する。LC3- IIはオートファゴソーム膜へと取り込まれて安定に結合するため、哺乳動物におけるオートファゴソーム膜のマーカーとして用いられている。
平成29年8月25日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2017/08/25-1.html「天然繊維に新風、保湿性抜群 超!しっとり新繊維"サク・レ"」を開発 -日本固有バイオマスからの新機能繊維-
「天然繊維に新風、保湿性抜群 超!しっとり新繊維"サク・レ"」を開発
-日本固有バイオマスからの新機能繊維-
ポイント
- 従来の機能性繊維には乾燥肌には痒みを与えるなどの問題点があった
- 独自の技術でサクランとレーヨンを混合紡糸することに成功
- 新繊維は従来のレーヨン繊維の抱水率を遥かに上回る抱水性・保湿性を示すことが分かった
- サクランの導入によりレーヨンの表面構造が変化することを発見
- 新機能繊維として高い保湿性能を持つ「しっとり」とした下着やベビー服の実用化へ期待
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北陸先端科学技術大学院大学(JAIST、学長・浅野哲夫、石川県能美市)の先端科学技術研究科/環境・エネルギー領域の金子達雄教授らは、グリーンサイエンスマテリアル株式会社(GSM、社長金子慎一郎、熊本県熊本市)およびオーミケンシ株式会社(社長石原美秀、大阪市中央区)とともに、レーヨンに日本固有種微生物スイゼンジノリから抽出される超高分子サクラン(発見者:岡島麻衣子研究員)を練り込む独自技術を開発し、従来のレーヨンより抱水性を26%も向上させる新素材の作製に成功しました。伊藤忠商事子会社の株式会社ロイネ(社長・木下昌彦、大阪府箕面市)が主に乾燥肌・ベビー向け下着として製品化・販売を目指します。 ![]() ![]() 写真 サク・レ(左:実体像、右:走査型電子顕微鏡像「レーヨンのスムーズな表面がサクランでおおわれている」) そこで、衣料品製造販売会社のロイネがこのサク・レ30%と綿混紡ベア天竺を試作したところ、その吸放湿性は綿ベア天竺よりも20%高まることが分かりました。この吸放湿性は肌と衣服間の保湿性と関係するため、サク・レを用いることで高い保湿性能を持つ「しっとり」とした下着やベビー服の実用化を目指します。肌と接触する衣類の保湿性は快適な着心地の実現のため非常に重要であるため、サク・レは、今後特に乾燥肌や肌の弱い乳幼児の中でニーズが高まると期待されます。 |
<開発の背景と経緯>
藻類などの植物体に含まれる分子を用いて得られるバイオマス注1)材料の中には、材料中にCO2を長期間固定できるため、持続的低炭素社会の構築に有効であるとされています。北陸先端科学技術大学院大学の研究チームはこれまで、淡水性の藍藻であるスイゼンジノリから高保湿力を持つ繊維質である超高分子「サクランTM」注2)を開発してきました。
近年、従来化学繊維を改良することで開発される新機能繊維が注目され我々のQOL向上に役立っています。しかし化学繊維は敏感肌や乾燥肌の痒みの原因となる場合もあり天然素材、例えば綿やレーヨン注3)、シルク等の優れた保湿性能が見直されています。しかし、従来のレーヨンの保湿力は限界があり、これが下着や裏地に使用された場合、乾燥肌や敏感肌の方々に更に心地よく着用してもらうためには保湿力向上の改善が望まれています。
<作製方法>
「セルロースをビスコース法で溶解した原液に独自技術でサクランを混合し、レーヨン繊維にサクランを練り込みます。
<今回の成果>
レーヨン繊維にサクランを練り込む条件の最適化を行い混紡糸を作製しました。これにより、レーヨン繊維の表面構造がサクランの導入により変化し、ナノスケールの凹凸が発生していることが走査型電子顕微鏡注4)により分かりました(参考図1)。これから、もともとスムーズであったレーヨンの表面にサクランが存在していることが確認できます。さらに、このサク・レ(0.1%)に水を少量添加したところ水を2.78倍程度吸収することが偏光顕微鏡注5)観察により分かりました。この値はレーヨンのみの観察結果2.16倍と比較すると、サクラン添加により28%程度吸水量が向上したということとなります(参考図2)。
実際に、従来のレーヨン繊維の抱水率を遥かに上回る抱水性・保湿性を持つことが分かりました。またサクランはレーヨン繊維中に練り込まれているためレーヨン繊維の持つ独特なソフトな風合いは損なわれず、かつサクランの超保水機能によって、従来品より遥かにしっとりとした感触が付与され、洗濯耐久性も維持されました。そこで、衣料品製造販売会社のロイネがこのサク・レ30%と綿混紡ベア天竺を混編したところ、その吸放湿性はベア天竺よりも20%高まることが分かりました。
<今後の展開>
この吸放湿性は肌と衣服間の保湿性と関係するため、サク・レを用いることで高い保湿性能を持つ「しっとり」とした下着やベビー服の実用化を目指します。肌と接触する衣類の保湿性は快適な着心地の実現のため非常に重要であるため、サク・レは、今後特に乾燥肌や肌の弱い乳幼児の中でニーズが高まると期待されます。
<参考図>
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| サク・レの実体像 |
| 従来レーヨン | 0.1% サクラン+レーヨン |
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図1 サク・レの走査型電子顕微鏡像 レーヨンのスムーズな表面(左図)がサクランでおおわれている(右図)
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図2 サク・レの偏光顕微鏡像 水添加により繊維の直径が平均約15ミクロン(左図)から平均約25ミクロン(右図)に増加したことが分かる。また、水添加後も分子配向による繊維の着色が維持されていることが分かる。
<用語説明>
注1)バイオマス(例 スイゼンジノリ)
生物資源(bio)の量(mass)を表す概念で、一般的には「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」をバイオマスと呼ぶ。本研究で取り扱ったスイゼンジノリ(ラン藻の一種であり学名はAphanothece sacrum)は日本固有のバイオマスの一種であり、世界でも極めて希な食用ラン藻である。また、スイゼンジノリは江戸時代から健康維持のために食され、当時は細川藩および秋月藩における幕府への献上品とされてきた。大量養殖法が確立されている。
注2)サクラン
スイゼンジノリが作る寒天質の主成分である。硫酸化多糖類の一つでスイゼンジノリから水酸化ナトリウム水溶液により抽出される。サクランの重量平均絶対分子量は静的光散乱法で2.0 x 107 g/mol と見積もられている。現実的には原子間力顕微鏡によりサクラン分子が13μm の長さを持つことが直接観察されている。天然分子で10μm 以上の長さにも達するものを直接観察した例はこれが初めてとされる。サクランという名称はスイゼンジノリの種名の語尾を多糖類の意味の "-an" という接尾後に変換したもので、北陸先端科学技術大学院大学の岡島麻衣子によって発見され名付けられた。現在もその金属吸着性や高保水性などに関する研究が進められており、吸水高分子として応用が進められている。
注3)レーヨン
絹に似せて作った再生繊維であり光線(英:ray)と綿 (cotton) を組み合わせた言葉である。パルプなどのセルロースを水酸化ナトリウムなどのアルカリと二硫化炭素に溶かしてビスコースにし、酸の中で紡糸(湿式紡糸)して製造する。ポリエステルなど石油を原料とした化学繊維と異なり、加工処理したあと埋めると土に還る。そのため、レーヨン自体は環境に負荷をかけない繊維とされる。絹に似た光沢・手触りが特徴。洋服の裏地などに用いられる。
注4)走査型電子顕微鏡
電子顕微鏡の一種。電子線を絞って電子ビームとしてサンプルに照射し、そこから放出される二次電子、反射電子等を検出する事でサンプルの表面の構造を微細に観察できる。細い電子線で試料を走査(scan)し、電子線を当てた座標の情報から像を構築して表示する。観察試料は高真空中(10-3Pa以上)に置かれ、この表面を電界や磁界で絞った電子線(焦点直径1-100nm程度)で走査する。走査は直線的だが、走査軸を順次ずらしていくことで試料表面全体の情報を得る。
注5)偏光顕微鏡
光学顕微鏡の一種。試料に偏光を照射し、偏光および複屈折特性を観察するために用いられる。偏光特性は結晶構造や分子構造と密接な関係があるため、鉱物学や結晶学の研究で多く用いられる。他、高分子繊維の研究などにも用いられる。一般には特定方向に偏波させることのできる二枚のフィルター(偏光板)をお互いに直交させて使用する。これにより光は通らなくなるが、屈折率に方向依存性のある高分子繊維などが二枚の偏光板の間に存在すると、この高分子繊維だけが観察可能となる。さらに、特殊なカラーフィルターを組み合わせることで高分子繊維内部の分子配向の方向を色調変化により判定することが可能となる。
平成29年7月7日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2017/07/07-1.html環境・エネルギー領域の桶葭助教らの開発した技術が米国ビデオ誌JoVEにて紹介
環境・エネルギー領域の桶葭興資助教らの開発した技術が米国ビデオ誌JoVEにて紹介されました。
■掲載誌
Journal of Visualized Experiments (JoVE) 2017, 122, e55274.
■著者
Kosuke Okeyoshi*, Kensuke Osada, Maiko K. Okajima, Tatsuo Kaneko
■タイトル
Methods for the self-integration of megamolecular biopolymers on the drying air-LC interface
■概要
米国マサチューセッツ州のビデオ誌において、著者らが開発した偏光システム導入型の光学的観察法が取り上げられた。実験デモンストレーションとして、乾燥環境下にある生体高分子の水溶液が気液界面で自己配向・自己集積する様子が紹介されている。液晶性を示す生体高分子(天然多糖類、骨格タンパク質、DNAなど)水溶液の蒸発面と垂直な方向から光学的に観察する技術を構築することで、集積の経時変化を可視化することに成功している。この技術によって、生体高分子の乾燥環境下にあるユニークな振る舞いを理解できるだけでなく、人工的な材料の設計指針が得られると期待される。
参考: https://www.jove.com/video/55274/methods-for-self-integration-megamolecular-biopolymers-on-drying-air

平成29年5月25日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2017/05/25-2.html多糖類から「ゼロ複屈折ポリマー」の開発に成功
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多糖類から「ゼロ複屈折ポリマー」の開発に成功
| 1. 発表者 |
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| 檀上 隆寛 (東京大学 大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 博士課程) ロジャース 榎本 有希子 (東京大学 大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 特任助教(当時)/ 国立研究開発法人産業技術総合研究所 構造材料研究部門 主任研究員(現在)) 島田 光星 (北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス研究科 博士課程) 信川 省吾 (北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス研究科 助教(当時)/ 名古屋工業大学 大学院物質工学専攻 有機分野 助教(現在)) 山口 政之 (北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科マテリアルサイエンス学系 教授) 岩田 忠久 (東京大学大学院農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 教授/JST-ALCA ホワイトバイオテクノロジー・岩田チーム 研究代表者) |
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| 2. 発表のポイント |
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| 3. 発表概要 |
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多糖類の1つであるプルランを出発原料とし、プルランの持つ特徴的な分子構造を保持したまま、簡単なエステル化により、光学特性に非常に優れたゼロ複屈折ポリマーの開発に成功しました。開発したゼロ複屈折ポリマーは、添加剤を一切加えることなくゼロ複屈折を発現するとともに、全ての可視光領域に対して、複屈折がゼロである優れた光学特性を持ち、機械物性、耐熱性、耐水性、成形加工性にも優れています。また、置換するエステル基の種類を変えることにより、ゼロ複屈折から高複屈折を持つさまざまな光学フィルムを作製することも可能であることから、偏光板保護フィルム(注4)や位相差フィルム(注5)として、多方面での利用が期待されます。
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| 4. 発表内容 |
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液晶ディスプレイは、スマートフォン、タブレットPC、液晶テレビなどに広く用いられています。液晶ディスプレイの基本構成材料の1つである偏光板を保護する目的で、さまざまなポリマー保護フィルムが使われています。一般的なポリマー保護フィルムは、セルローストリアセテート、シクロオレフィン樹脂、アクリル系樹脂などのポリマーから製造されていますが、その複屈折をゼロに近づけるために、多くの添加剤が混ぜられています。
本研究グループは今回、多糖類の一種であるプルランから、添加剤を全く必要としない「ゼロ複屈折ポリマー」の開発に成功しました。 原料として用いたプルランは、微生物によって生合成される水溶性多糖類の1つで、グルコースが2つのα-1,4結合と1つのα-1,6結合を規則正しく繰り返すことにより長くつながった、階段状の非常に珍しい分子構造を持っています(図1)。プルランは主に、食品添加剤、可食性フィルムや医療用カプセルなどとして利用されていますが、これまでプラスチックの原料として用いられることはありませんでした。 今回、プルランの特徴的な分子構造に着目し、分子構造中に存在する3つの水酸基(-OH)をエステル基に置換してプルランアセテートに変えることにより、特徴的な分子構造を残したままで、ゼロ複屈折を発現させることに成功しました(図2)。 開発したゼロ複屈折ポリマーは、ゼロ複屈折の発現に、添加剤を一切必要としません。これは、プルランの持つ特徴的な階段状の分子構造のため、分子配向が抑制されたためであると考えられます。また、熱延伸を施しても、分子配向の緩和が容易に起こることから、ゼロ複屈折の延伸フィルムも得られることがわかりました。さらに、このゼロ複屈折ポリマーは、全ての可視光領域(波長=380~750nm)において、ゼロ複屈折を示すことも発見しました。機械物性、耐熱性、耐水性、成形加工性にも優れていることから偏光板保護フィルムや位相差フィルムとして、さまざまな分野での利用が期待されます。 今後は、溶融押出成形などの工業手法により、ゼロ複屈折フィルムの作製を行いたいと考えています。自然界には、人工的には決して作り出すことができない、さまざまな特徴的な分子構造を持つ多糖類が存在します。今後は、それらの特徴的な構造を保持したまま、新規な高機能・高性能ポリマーの開発を行いたいと考えています。今回の成果を糸口として、石油由来の原料を使用しない、バイオベースのプラスチック創出技術を確立することで、二酸化炭素の排出削減につながることが期待されます。 本研究は、JST戦略的創造研究推進事業先端的低炭素化技術開発(ALCA)と文部科学省科学研究費補助金 基盤研究A(研究代表者:岩田忠久)の一環として行われました。深く感謝いたします。 |
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| 5. 発表雑誌 |
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| 雑誌名:Scientific Reports 論文タイトル:Zero birefringence films of pullulan ester derivatives 著者:Takahiro Danjo, Yukiko Enomoto-Rogers, Hikaru Shimada, Shogo Nobukawa, Masayuki Yamaguchi and Tadahisa Iwata* (*責任著者) DOI番号:10.1038/srep46342 URL: www.nature.com/articles/srep46342 日本時間4月18日(火)午後6時(イギリス時間18日(火)午前10時)に公開されました。 |
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| 6. 用語解説 |
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| 注1 プルラン デンプンを原料として黒酵母によって生合成される水溶性多糖類。グルコースが2つのα-1,4結合と1つのα-1,6結合を規則正しく繰り返した分子構造を持つ(図1)。 注2 エステル化 多糖類の水酸基(-OH)を、アセチル基(-OCOCH3)やプロピオニル基(-OCOCH2CH3)などのエステル基に化学的手法により置換すること。 注3 ゼロ複屈折ポリマー 物体中を光が透過する際、光の振動方向によって進む速度が異なる現象を複屈折と呼ぶ。一般にポリマーフィルムにおいても、分子が配向することにより複屈折が生じる。ゼロ複屈折ポリマーとは、種々の方法により複屈折をなくしたポリマーのこと。 注4 偏光板保護フィルム 液晶ディスプレイなどに用いられる偏光板を保護するために貼られるポリマーフィルム。このフィルムの複屈折は、可能な限りゼロであることが望ましい。 注5 位相差フィルム 光学補償フィルムの1つで、複屈折による光学的な歪みや視角方向による変調が原因で起こる表示の着色等を防止するために貼られるポリマーフィルムのこと。 |
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| 7. 添付資料 |
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平成29年4月19日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2017/04/19-1.htmlシリセン上へのケイ素の蒸着により金属的な二次元状ケイ素を形成
シリセン上へのケイ素の蒸着により金属的な二次元状ケイ素を形成
-シリセンと良好な界面をもつ金属的な新コンタクト材料として期待-
ポイント
- シリセンはグラフェンのケイ素版と言える原子層物質。このシリセンにケイ素を蒸着した結果、構造と電子状態の異なる層が新たに形成された。
- 新たに形成された二次元状ケイ素は、シリセンとは異なる金属的な性質をもつ。
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北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)(学長・浅野 哲夫、石川県能美市)の先端科学技術研究科応用物理学領域の高村 由起子准教授、アントワーヌ・フロランス助教らは、UCL-JAIST協働研究指導プログラムの修了生であるトバイアス・ギル博士とともに、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)、ブルックヘヴン国立研究所と共同で、二ホウ化物上のシリセンにケイ素を蒸着することで金属的な電子状態をもつ新しい二次元状のケイ素の同素体が形成されることを発見しました。 |

<今後の展開>
シリセンにケイ素を付与することで形成された金属的な新しい二次元状ケイ素は、隣接するシリセンの電子状態に影響を与えることなく、原子レベルで急峻な界面を形成しており、シリセンをデバイス化する際のコンタクト材料として期待されます。今後は、伝導特性の測定などを通して実際にどのような電気的コンタクトが形成されているのかを調べたいと考えています。
<論文>
"Metallic atomically-thin layered silicon epitaxially grown on silicene/ZrB2"( 二ホウ化ジルコニウム上シリセンの上にエピタキシャル成長された金属的なケイ素の原子層物質)
DOI: http://iopscience.iop.org/article/10.1088/2053-1583/aa5a80
Tobias G Gill, Antoine Fleurence, Ben Warner, Henning Prüser, Rainer Friedlein, Jerzy T Sadowski, Cyrus F Hirjibehedin, and Yukiko Yamada-Takamura
2D Materials 4, 021015 (2017).
LCN(London Centre for Nanotechnology)ニュース
https://www.london-nano.com/research-and-facilities/highlight/metallic-atomically-thin-layered-silicon
平成29年2月21日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2017/02/21-1.html環境・エネルギー領域の江東林教授が日本化学会において学術賞を受賞
環境・エネルギー領域の江東林教授が日本化学会において学術賞を受賞しました。
学術賞は、化学の基礎または応用のそれぞれの分野において先導的・開拓的な研究業績をあげた者で、優れた業績をあげた日本化学会会員に授与されるものです。今回は「2次元共有接合によって形成される有機骨格構造材料の設計と機能開拓」の業績が評価されての受賞となります。江教授の研究は、独創性が極めて高く、その業績は国際的にも高く評価されています。
表彰式は、日本化学会の第97春季年会会期中の3月17日、慶應義塾大学日吉キャンパスで行われます。また、江教授による受賞講演が年会中の3月18日に行われます。
■受賞年月日
平成29年1月17日
■タイトル
「2次元共有接合によって形成される有機骨格構造材料の設計と機能開拓」
■概要
2次元有機高分子は、共有結合で有機ユニットを連結し、結晶性原子層を生成し、積層して共有結合性有機骨格構造を形成します。2次元共有結合性有機骨格構造は、これまでに困難であった合成高分子の高次構造制御を可能とする新型高分子として、また、規則正しく並んだナノ細孔が内蔵されているため、設計可能な多孔材料としても大いに注目されています。江教授は、世界に先駆けて設計原理を確立するとともに、合成反応の開拓と材料の創製を通じて、この分野の基礎を築き上げました。周期的な骨格配列および規則正しい1次元多孔構造を持ち合わせているという構造特徴を明らかにし、骨格および細孔構造を精密制御できる手法を開拓しました。特異な分子空間における光子、エキシトン、電子、ホール、スピン、イオンおよび分子との相互作用をいち早く解明し、それらに基づいた機能開拓を行い、世界で分野の発展を先導しました。これまでに、半導体や発光、光電導、光誘起子移動、電荷分離、光電変換、エネルギー貯蔵、不斉触媒、二酸化炭素吸着など2次元ならではの様々な優れた機能を開拓しました。これらの成果は、2次元共有結合性有機骨格構造が環境・エネルギー問題に挑戦できる次世代革新材料としての高い潜在能を示唆しております。
参考: http://www.jaist.ac.jp/ms/labs/jiang/
■受賞にあたって一言
長年にわたる基礎研究の斬新さ、重要さが評価されてうれしい。私一人の研究でなく、日々一緒に頑張ってくれた院生や共同研究者に深く感謝を伝えたい。これからも学生とともに2次元物質に秘められている世界を開拓していきたい。
平成29年1月25日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2017/01/25-1.html学生の乾さんが第21回(2016年度)応用物理学会 北陸・信越支部において発表奨励賞を受賞
学生の乾京介さん(博士前期課程1年、環境・エネルギー領域・下田研究室)が第21回(2016年度)応用物理学会 北陸・信越支部において発表奨励賞を受賞しました。
応用物理学会は、半導体、光・量子エレクトロニクス、新素材など、それぞれの時代で工学と物理学の接点にある最先端課題、学際的なテーマに次々と取り組みながら活発な学術活動を続けております。この発表奨励賞は、北陸・信越支部が毎年開催する学術講演会において、応用物理学の発展に貢献しうる優秀な一般講演論文を発表した若手支部会員に対し、その功績を称えることを目的としています。
■受賞年月日
平成28年12月10日
■講演題目
「感光型シルセスキオキサンを用いたTFT用ゲート絶縁膜の低温形成」
■講演概要
二段階UV照射という方法を考案し、優れた絶縁膜として知られる熱酸化SiO2膜に相当する絶縁性を持つ膜の低温形成に成功した。さらに、その絶縁膜をTFTの絶縁膜に用いることで低リーク特性の低温酸化物TFTの作製にも成功した。この成果により高絶縁性膜の低温形成が可能となり、フレキシブルな基板への高絶縁膜の応用が可能となった。
■受賞にあたって一言
この度、応用物理学会北陸・信越支部学術講演会におきまして、発表奨励賞を頂けたことを大変光栄に思います。本研究を進めるにあたり材料を提供いただきましたメルク株式会社様に深く感謝いたします。また、ご指導頂きました下田達也教授、井上特任教授、ならびに研究室のメンバー及びスタッフの方々にも深く感謝いたします。

平成28年12月19日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2016/12/19-1.html学生の重松さんが第21回(2016年度)応用物理学会 北陸・信越支部において発表奨励賞を受賞
学生の重松沙樹さん(博士前期課程1年、応用物理学領域・村田研究室)が第21回(2016年度)応用物理学会 北陸・信越支部において発表奨励賞を受賞しました。
応用物理学会は、半導体、光・量子エレクトロニクス,新素材など、それぞれの時代で工学と物理学の接点にある最先端課題、学際的なテーマに次々と取り組みながら活発な学術活動を続けております。この発表奨励賞は、北陸・信越支部が毎年開催する学術講演会において、応用物理学の発展に貢献しうる優秀な一般講演論文を発表した若手支部会員に対し、その功績を称えることを目的としています。
■受賞年月日
平成28年12月10日
■講演題目
「有機EL材料のフーリエ変換イオンサイクロトロン質量分析」
■講演概要
有機EL素子は、励起状態やラジカルカチオンに起因した発光層中での化学反応の進行によって劣化すると考えられています。しかし、劣化反応による生成物の量が極めて微量であるため具体的な劣化反応の特定には至っていないのが現状です。本研究では、超高分解能の質量分析が可能なフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量計(FT-ICR-MS)を有機EL素子の劣化解析に初めて適用することで劣化反応の推定を試みました。有機EL材料を異なるイオン化方法(LDI法及びESI法)を用いて質量分析を行ったところ、異なった質量スペクトルが得られました。このイオン化方法の違いによる生成物の違いを利用することで素子中で生じる劣化反応の推定が可能になることを明らかにしました。
■受賞にあたって一言
応用物理学会・信越支部 発表奨励賞を頂けたことを大変光栄に思います。研究するにあたり、ご指導頂きました村田英幸教授、技術サービス部 技術職員 宮里朗夫様、酒井平祐助教、ならびに研究室のメンバーに深く御礼申し上げます。受賞を励みに、これからも研究に精一杯取り組んでいきたいと思います。

平成28年12月14日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2016/12/14-2.html博士研究員の中村重孝さんが日本核酸医薬学会2016において優秀発表者賞(川原賞)を受賞
博士研究員の中村重孝さん(生命機能工学領域・藤本研究室) が、日本核酸医薬学会年会において、優秀発表者賞(川原賞)を受賞しました。
本学会は核酸医薬の創出を第一の目的として、化学、生物、DDS、医学(臨床)および規制科学の5つのサイエンス部門と広報と国際部門から構成されています。企業研究者が学会運営の一翼を担うなど基礎研究から産学連携まで統合された学会となっています。化学、生物、DDS、医学(臨床)といった複合領域にまたがる約140件ある発表の中から5件優秀発表者賞が選ばれています。
■受賞年月日
平成28年11月17日
■論文タイトル
Photoinduced double duplex formation using ultrafast photo-cross-linker toward for antigene method
(光誘起型ダブル2重鎖形成を用いた新規アンチジーン法の開発)
■論文概要
従来、安定な2本鎖DNAをターゲットとした核酸医薬開発は困難とされていたが、超高速光架橋分子を用いることで光照射により安定なダブル2重鎖形成可能であることを見出した。今までにない新規アンチジーン法を提唱している。
■受賞にあたって一言
核酸医薬は、分子を標的とした次世代の医薬として注目を集めており、化学、生物、DDS、医学、薬学といった学問の融合研究領域としてもさらなる飛躍が期待されており、その核酸医薬学会でこのような賞を頂いたことに心から感謝いたします。また本研究の遂行にあたりご指導頂きました藤本先生、ならびに共同研究者の先生方、研究室のメンバーに深くお礼申し上げます。

平成28年11月28日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2016/11/28-1.html

















