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研究概要(研究室ガイド)やプレスリリース・受賞・イベント情報など、マテリアルサイエンスの研究室により公開された情報の中から、興味のある情報をタグや検索機能を使って探すことができます。消化酵素で分解するナイロンを開発 ―プラスチック誤飲事故の軽減、海洋生態系維持へ―
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| 国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学 独立行政法人 環境再生保全機構 |
消化酵素で分解するナイロンを開発
―プラスチック誤飲事故の軽減、海洋生態系維持へ―
ポイント
- 海洋プラスチックごみは誤飲するなど海洋生物への悪影響がある
- 従来の生分解性プラスチックは性能が低い問題がある
- 植物由来分子であるイタコン酸とアミノ酸からナイロンの開発に成功
- 従来ナイロンよりも高性能かつ人工胃液で分解・崩壊する性質を発見
| 環境再生保全機構(ERCA)が実施する環境研究総合推進費の一環として、北陸先端科学技術大学院大学・先端科学技術研究科 環境・エネルギー領域の金子 達雄教授らは、植物由来分子であるイタコン酸とアミノ酸であるロイシンからバイオナイロンを合成する手法を見出し、従来のナイロンよりも高耐熱・高力学強度であり、かつ胃に含まれる消化酵素であるペプシンで分解するバイオナイロンを開発しました。 海洋プラスチックごみ問題が深刻化する中、鳥類やクジラ類などの海洋生物が誤ってプラスチックごみを飲み込むことによる生態系への被害が問題視されています。生分解性プラスチックの中には海洋環境で分解するものがあり、中には消化酵素で分解するものも開発されているため本問題を解決するために重要であると考えられています。しかし、そのほとんどは柔軟なポリエステルであり耐熱性や力学強度の点で問題があります。このため用途は限られ、主に使い捨て分野で使用されているのが現状です。今回、金子教授らは、麹菌などが糖を変換して生産するイタコン酸および天然分子として有名なロイシンなどを原料にして、一般的なナイロンの原料の一つであるヘキサメチレンジアミンなどを反応させることでバイオナイロンを合成する条件を見出しました。得られたバイオナイロンはガラス転移温度が100℃を超え、力学強度が85MPaを超える高性能ナイロンであることも確認されました。これはナイロン中に硬い構造であるヘテロ環が含まれることに起因します。 また、アミノ酸には右手と左手の関係のような鏡像体が存在することが知られていますが、この鏡像関係にある一対のアミノ酸を混合するとナイロンの物性が向上することも見出されました。特に、L-ロイシンから得られるナイロン樹脂は胃中の消化酵素であるペプシンの存在下で崩壊し分子量も低下することが分かりました。今後、海洋ごみの中でも被害の多い釣り糸や漁網などへの応用を目指し、さらには自動車エンジン周りなどで使用されているナイロンを代替する物質として設計する予定です。将来的には海洋ごみ問題解決への道しるべを提供するだけでなく、大気中二酸化炭素削減などへの波及効果も考えられます。 本成果は2021年4月30日に独国科学誌「Advanced Sustainable Systems」(インパクトファクター4.87(2019-2020))のオンライン版で公開されました。 |
| 本開発成果は、以下の事業・開発課題によって得られました。 研究開発期間:令和2年度~4年度(予定) 事業名 :環境再生保全機構(ERCA)環境研究総合推進費 開発課題名 :「バイオマス廃棄物由来イタコン酸からの海洋分解性バイオナイロンの開発」 チームリーダー:金子達雄(北陸先端科学技術大学院大学 教授) ERCA環境研究総合推進費は、気候変動問題への適応、循環型社会の実現、自然環境との共生、環境リスク管理等による安全の確保など、持続可能な社会構築のための環境政策の推進にとって不可欠な科学的知見の集積及び技術開発の促進を目的として、環境分野のほぼ全領域にわたる研究開発を推進しています。 |
<開発の背景と経緯>
植物などの生体に含まれる分子を用いて得られるバイオマスプラスチックは材料中に二酸化炭素を固定することにより、二酸化炭素濃度を削減し、低炭素社会構築に有効であるとされています。その中でも生分解性を有するものは、昨今深刻化する海洋プラスチックごみ問題の解決の糸口を与えるものと注目されています。特に、鳥類やクジラ類などの死骸の胃の中を調査するとプラスチックごみが蓄積している場合があり、それが原因で死に至った可能性が指摘されています。つまり、プラスチックごみの誤飲による生態系への被害が問題視されています。生分解性プラスチックの中には海洋環境で分解するものがあり、中には消化酵素で分解するものも開発されているため本問題を解決するためのキー材料となると考えられています。しかし、生分解性プラスチックのほとんどは柔軟なポリエステルで耐熱性や力学強度の点で問題があります。このため用途は限られ、主に使い捨て分野で使用されているのが現状です。たとえばPHBHと呼ばれる脂肪族ポリエステルは代表的な海洋分解性プラスチックを与えますが、その主骨格は一般的な工業用プラスチックに用いられる高分子に比べて柔軟であり、そのガラス転移温度は0℃付近であり室温での使用のためには高結晶化が余儀なくされます。また力学強度も20-30MPa付近です。(参考:ポリエチレン、塩ビ、ポリプロピレンなどの汎用プラスチックは20-70 MPa程度)
研究チームは、麹菌などが糖を変換して生産するイタコン酸を用いてバイオナイロンを開発することを目的として研究を進めていますが、アミノ酸であるロイシンなどを導入した新たなモノマーを合成し、一般的なナイロンの原料の一つであるヘキサメチレンジアミンなどを反応させることでバイオナイロンを合成する条件を見出しました(図1)。得られたバイオナイロンはガラス転移温度が100℃を超え、力学強度が85MPaを超える高性能ナイロンであることも確認されました(表1)。この高性能発現はナイロン中に硬い構造であるヘテロ環が含まれることに由来します。
最後に、L-ロイシンから得られるナイロン樹脂を合成し、これが胃中の消化酵素であるペプシンの存在下で崩壊(図2)し分子量も低下することが見いだされました(図3)。今後、海洋ごみの中でも被害の多い釣り糸や漁網などへの応用を目指し、さらには自動車エンジン周りなどで使用されているナイロンを代替する物質として設計する予定です。将来的には海洋ごみ問題解決への道しるべを提供するだけでなく、大気中二酸化炭素削減などへの波及効果も考えられます。
<代表的作成方法>
ロイシン由来のジカルボン酸1-((S)-1-カルボキシ-3-メチルブチル)-5-オキソピロリジン-3-カルボン酸とヘキサメチレンジアミン(1.3g、10mol)をそれぞれアセトニトリルに溶解させた後に溶液を混合することでナイロン塩を析出させました(収率96%)。白色のナイロン塩を真空乾燥後170-180℃、50-60 rpmで激しく攪拌しバルクで重合しました。6時間後、粘性のあるポリマー溶融物が形成されました。これをDMFに溶解しアセトンに再沈殿することで精製を行いました。
<今回の成果>
今回の成果は大きく分けて2つ示すことができます。
1)鏡像関係にあるアミノ酸を分子鎖で混合したナイロンを合成することで、結晶化度および熱的力学的物性が向上することを発見
一般に再生可能な原料から得られる高分子は、熱的力学的性能が低く製造コストも高くなります。したがって、化石ベースのリソースと比較してパフォーマンスを向上させることができる合成アプローチを開発し、バイオベースのモノマーを利用することが重要です。ここでは、再生可能なイタコン酸とアミノ酸(D-またはL-ロイシン)から派生した新規な光学活性ジカルボン酸の生産に成功しました。まず、イタコン酸由来のイタコン酸ジメチルを出発物質として、剛直な不斉中心を持つ複素環式ジカルボン酸モノマーを高純度で得ました。これらのモノマーからアモルファスでありホモキラリティーを有するD-またはL-ロイシン由来のポリアミドを合成し、かつこれらをモノマー段階で混合したもの、オリゴマー段階で混合し追重合を行ったものを対象として研究を進めました(図1)。その結果、D-ロイシン由来のポリマー鎖とL-ロイシン由来のポリマー鎖との複合体は結晶化し、その結晶化度は36%に達しました。これは、キラル相互作用に由来するものと考えられます。得られた樹脂は、ガラス転移温度Tgが約117°C、溶融温度Tmが約213°Cであり、ポリアミド11などの従来のポリアミド(Tg約57°C)よりも高い値を示しました。さらに2.2〜3.8 GPaの高いヤング率および86〜108 MPaの高い力学強度を示しました(表1)。
2)バイオナイロン樹脂がペプシンの作用により崩壊し分解することを発見
バイオナイロンの酵素分解を、哺乳類の胃の消化酵素であるペプシンを使用して調べました。少量(150 mg)のポリアミド樹脂(Mw; 24,300-26,400 g / mol)と1 wt%のペプシン(5 ml)をpH 4.0のバッファーに入れて分解試験を行いました(対照実験はペプシンなし)。サンプルをインキュベーター内で37°Cで6週間振とうした結果、時間の経過に伴い平均分子量が24,300〜26,400 g / molから14,600〜16,500 g / molに減少することがわかりました(図3)。ペプシンによるナイロンの分解中の視覚的変化も崩壊現象として確認されました(図2)。研究チームは以前に、イタコン酸由来ポリアミドのピロリドンの開環反応を報告しましたが、今回発見した酵素分解はピロリドンの開環を誘発したと考えられます。ここで発見したペプシン分解は、哺乳類が当該ナイロン系プラスチックを誤飲した場合でも、哺乳類の消化管の安全性を維持することにつながる可能性があります。
<今後の展開>
本成果によりイタコン酸由来バイオナイロンの構造的な広がりが提案できました。今後、海洋ごみの中でも被害の多い釣り糸や漁網などへの応用を目指し、さらには自動車エンジン周りなどで使用されているナイロンを代替する物質として設計する予定です。将来的には海洋ごみ問題解決への道しるべを提供するだけでなく、大気中二酸化炭素削減などへの波及効果も考えられます。
<参考図>
図1 (A)イタコン酸とアミノ酸からなるジカルボン酸モノマーの合成
(B)(A)のジカルボン酸とヘキサメチレンジアミンからのバイオナイロンの重合反応式
表1 バイオナイロンの物性表


図2 バイオナイロンがペプシン存在下で崩壊していく様子
図3 ペプシンを作用させたD-ロイシン由来バイオナイロンのGPC
【論文情報】
| 雑誌名 | Advanced Sustainable Systems |
| 題名 | High-performance BioNylons from Itaconic and Amino Acids with Pepsin Degradability (ペプシン分解性を示すイタコン酸とアミノ酸からの高性能バイオナイロン) |
| 著者名 | Mohammad Asif Ali,Tatsuo Kaneko* |
| 掲載日 | 2021年4月30日にオンライン版に掲載 |
| DOI | 10.1002/adsu.202100052 |
令和3年5月10日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/05/10-1.html次世代燃料電池のアニオン交換薄膜において水酸化物イオン伝導度の評価法を確立
次世代燃料電池のアニオン交換薄膜において
水酸化物イオン伝導度の評価法を確立
ポイント
- 高分子薄膜状のアニオン交換膜の水酸化物イオン伝導度と含有水分子量の評価法を確立
- サンプルの合成から評価まで、空気中の二酸化炭素の影響を排除
- 0.05 S cm-1の高い水酸化物イオン伝導性(Br-型のアニオン交換薄膜の2倍以上)
- 次世代燃料電池の性能向上への貢献が期待
| 北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野稔、石川県能美市)先端科学技術研究科 物質化学領域の長尾 祐樹准教授、オウ ホウホウ 大学院生(博士後期課程在籍)、ワン ドンジン 大学院生(博士前期課程修了)らは、次世代燃料電池で注目されるアニオン交換薄膜において、空気中の二酸化炭素の影響を受けない状態で、水酸化物イオン伝導度と含有水分子量の評価法を確立することに成功しました。長年求められてきたこの評価法の確立は、当該分野において世界初の成果になります。本成果により、次世代燃料電池の性能向上に関する研究の加速が期待されます。 本研究成果は、2021年4月29日(英国時間)にWiley社刊行のChemSusChem誌のオンライン版で公開されました。なお、本研究は日本学術振興会(JSPS)科研費基盤(C)、科研費基盤(B)、科研費 新学術領域研究「ハイドロジェノミクス」の支援を受けて行われました。 |
【研究背景と内容】
資源の少ない日本が脱炭素化を進めながら持続的な発展をするためには、多様なエネルギー資源を確保することが喫緊の課題です。長尾准教授らは、これまで水素社会に貢献する燃料電池の性能向上に関する研究を推進してきました。
長尾准教授らは、現在の燃料電池に利用されるプロトン交換膜に加え、次世代燃料電池で利用が検討されているアニオン交換膜における、水酸化物イオン伝導性の研究に取り組んでいます。この次世代燃料電池は、従来必要とされてきた白金などの貴金属触媒に依存せずに動作が可能であることから、世界的に研究報告例が増加しています。アニオン交換膜とは、陰イオンが膜の内部を移動可能な材料であり、特に水酸化物イオンが高速に移動する材料はこの燃料電池に欠かせません。水酸化物イオンが内部を移動するアニオン交換膜は、空気中の二酸化炭素と容易に反応する特徴があり、燃料電池の性能を低下させることが知られています。アニオン交換膜の水酸化物イオン伝導性を評価するためには、膜を水に浸漬することで空気中の二酸化炭素の影響を排除する必要がありました。しかし、実際の燃料電池では、アニオン交換膜は水に浸った状態で動作していないため、二酸化炭素の影響を排除した、より燃料電池の動作環境に近い加湿状態での評価法が求められてきました。
アニオン交換膜のもう一つの重要な役割は、燃料電池の反応場である電極触媒界面に薄膜状で存在することにより、アニオン交換膜から電極触媒へ水酸化物イオンを高速に輸送することです。しかし、これまでは水酸化物イオン型のアニオン交換薄膜の水酸化物イオン伝導性と含有水分子量を評価する方法がありませんでした。今回、長尾准教授らは、モデル高分子として合成したアニオン交換膜を基板上に薄膜化し、薄膜の作成から各種物性評価の終了までの間、空気中の二酸化炭素の影響を受けない評価方法を確立し、世界で初めてアニオン交換薄膜における水酸化物イオン伝導性と含有水分子量を明らかにしました。
研究成果として、水酸化物イオン型のアニオン交換薄膜(OH-型、図1)は、0.05 S cm-1と比較的高い水酸化物イオン伝導性を示すことや、臭化物イオン型のアニオン交換薄膜(Br-型)と比較すると約2倍のイオン伝導度を有することがわかりました(図2)。さらに、厚膜状のアニオン交換膜と270nmの厚さの薄膜では、水酸化物イオン伝導度が同程度であることも明らかにしました。この結果はプロトン交換膜で知られている、厚さが薄くなるにつれてイオン伝導度が低下する傾向と異なる知見となりました。
図1 アニオン交換膜(Poly[9,9-bis(6'-(N,N,N-trimethylammonium)-hexyl)-9H-fluorene)-alt-(1,4-benzene)] (PFB+), X = OH and Br)
図2 アニオン交換薄膜におけるイオン伝導度の比較
【今後の展開】
空気中の二酸化炭素の影響を受けない状態で、アニオン交換薄膜の水酸化物イオン伝導度と含有水分子量の相関に関する知見を得た例は世界初となります。これらの研究成果は、次世代燃料電池の反応場を設計する上で重要な知見となりえます。今後長尾准教授らは、確立した評価手法を利用して、分子構造の異なる複数のアニオン交換膜の評価を推進することで、得られた知見が普遍性を有するのかどうかを含め検討していく予定です。
【研究資金】
・日本学術振興会(JSPS)科研費 基盤研究(C)(JP18K05257)
・日本学術振興会(JSPS)科研費 基盤研究(B)(JP21H01997)
・日本学術振興会(JSPS)科研費 新学術領域研究「ハイドロジェノミクス」(JP21H00020)
【論文情報】
| 雑誌名 | ChemSusChem |
| 題名 | OH- Conductive Properties and Water Uptake of Anion Exchange Thin Films |
| 著者名 | Fangfang Wang, Dongjin Wang, and Yuki Nagao* |
| 掲載日 | 2021年4月29日(英国時間)にオンライン版に暫定版が掲載 |
| DOI | 10.1002/cssc.202100711 |
令和3年5月7日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/05/07-1.html環境・エネルギー領域の金子教授、高田助教らの論文がACS Applied Materials & Interfaces誌の表紙に採択
環境・エネルギー領域の金子 達雄教授、高田 健司助教、並びに村田 英幸教授(応用物理学領域)、桶葭 興資准教授(環境・エネルギー領域)との共同研究に関する論文が米国化学会(ACS)刊行のACS Applied Materials & Interfaces誌(IF=8.758)の表紙(Supplementary cover)に採択されました。
■掲載誌
ACS Applied Materials & Interfaces 2021, 13 (12), 14569-14576.
掲載日2021年3月31日
■著者
Kenji Takada, Katsuaki Yasaki, Sakshi Rawat, Kosuke Okeyoshi, Amit Kumar, Hideyuki Murata, Tatsuo Kaneko*
■論文タイトル
Photoexpansion of Biobased Polyesters: Mechanism Analysis by Time-Resolved Measurements of an Amorphous Polycinnamate Hard Film
■論文概要
本研究では、光(紫外線)によって変形するポリ桂皮酸の変形メカニズムを解明しました。桂皮酸を含む高分子は、紫外線に対して構造中の二重結合がcis-trans異性化及び[2+2]環化付加することが知られています。しかしながら、この2種類の光反応性があるためにその変形メカニズムは解明されていませんでした。本研究では時間分解赤外分光法を行うことで変形の機序を解明し、ポリ桂皮酸が結合様式(分子の形)の違いによって収縮/膨張が起きていることを明らかにしました。
論文詳細:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsami.0c22922

令和3年4月20日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2021/04/20-1.html物質化学領域の松村研究室の論文が国際学術誌の表紙に採択
物質化学領域の松村 和明教授、ラジャン ロビン助教らの論文が英国王立化学会(RSC)刊行のMaterials Advances誌の表紙(Back cover)に採択されました。
本研究は科研費および科学技術振興機構(JST)「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)」の支援により行われました。
■掲載誌
Materials Advances, 2021, 2, 1139-1176 掲載日2021年1月15日
■著者
Robin Rajan*, Sana Ahmed, Neha Sharma, Nishant Kumar, Alisha Debas, and Kazuaki Matsumura*
■論文タイトル
Review of the current state of protein aggregation inhibition from a materials chemistry perspective:special focus on polymeric materials
■論文概要
タンパク質の凝集抑制効果を持つ物質について、特に高分子化合物を中心にその合成方法や機能、応用などをまとめた総説論文です。神経変性疾患の治療や予防、バイオ医薬品の生産プロセスの効率化などに期待出来る最新の研究成果をまとめています。
表紙詳細:https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2021/ma/d1ma90025k#!divAbstract
論文詳細:https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2021/ma/d0ma00760a#!divAbstract

令和3年3月3日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2021/03/03-1.html環境・エネルギー領域の桶葭准教授の研究課題がJST「創発的研究支援事業」に採択
環境・エネルギー領域の桶葭 興資准教授が提案した研究課題が、科学技術振興機構(JST)の2020年度「創発的研究支援事業」に採択されました。
「創発的研究支援事業」は、多様性と融合によって破壊的イノベーションにつながるシーズの創出を目指す「創発的研究」を推進するため、既存の枠組みにとらわれない自由で挑戦的・融合的な多様な研究を、研究者が研究に専念できる環境を確保しつつ原則7年間(途中ステージゲート審査を挟む、最大10年間)にわたり長期的に支援するものです。
採択後は研究者の裁量を最大限に確保し、各研究者が所属する大学等の研究機関支援の下で、創発的研究の遂行にふさわしい適切な研究環境が確保されることを目指します。また、創発的研究を促進するため、個人研究者のメンタリング等を行うプログラムオフィサーの下、個人研究者の能力や発想を組み合わせる「創発の場」を設けることで、創造的・融合的な成果に結びつける取組を推進します。
*詳しくは、JSTホームページをご覧ください。
【研究者名】
環境・エネルギー領域 桶葭 興資 准教授
■研究課題名
DRY & WET:界面分割法による多糖の再組織化技術
■研究概要
本研究では多糖の再組織化技術の確立を目指し、独自に見出した「界面分割法」によって物質拡散やエネルギーの方向制御材料を創製します。特に、水との歴史が長い生体高分子「多糖」に着目し、乾燥環境下で形成する幾何学パターンについて系統的に探求するとともに、階層的な秩序化法則を解明します。21世紀のネイチャーテクノロジーを創発するためにも、材料工学、物理、化学、および数理の観点から挑戦します。
令和3年2月3日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2021/02/04-1.htmlナノテクノロジープラットフォーム公開講座「質量分析とNMRを組み合わせた構造解析の実際」
本学ナノマテリアルテクノロジーセンター主催で「質量分析とNMRを組み合わせた構造解析の実際」と題して公開講座を開催いたします。
ただいま受講者を募集しております。皆様のご参加をお待ちしております。
| 日 時 | 令和3年3月19日(金)10:00~17:00 |
| 場 所 | 北陸先端科学技術大学院大学 ナノマテリアルテクノロジーセンター 2F会議室(下記フロアマップのC1-26) キャンパスマップ フロアマップ |
| 講 師 | 大木 進野:ナノマテリアルテクノロジーセンター・教授(生命機能工学領域) 宮里 朗夫:ナノマテリアルテクノロジーセンター・主任技術職員 五十棲 規嘉:ナノマテリアルテクノロジーセンター・研究員 |
| 内 容 | 質量分析とNMRの最先端機器で「何が出来るか」、「何がわかるか」を広く知っていただくことを目的に、未知試料の測定と解析を行います。 |
| 定 員 | 5名程度(先着順) |
| 参加対象者 | 企業・他大学・高専等の研究者・技術者 |
| 受講料 | 6,200 円(税込) |
| 申込方法 | 受講希望の方は、 ①氏名(ふりがな) ②勤務先・職名 ③受講の目的 ④本講座に期待すること ⑤書類送付先 ⑥電話番号 ⑦メールアドレス を明記の上、E-mail (宛先 nano-net@ml.jaist.ac.jp)またはFAX(ポスター2ページ目参照)でお申し込みください。 |
| 申込締切 | 令和3年3月12日(金)【定員に達し次第締切】 |
| 問合せ・ 申込み先 |
北陸先端科学技術大学院大学 文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業 分子・物質合成プラットフォーム事務局 橋本 〒923-1292 石川県能美市旭台1-1 TEL:0761-51-1449 FAX:0761-51-1455 E-mail:nano-net@ml.jaist.ac.jp |
ハイスループット実験と触媒インフォマティクスが実現するゼロからの触媒設計
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北陸先端科学技術大学院大学 北海道大学 科学技術振興機構 |
ハイスループット実験と触媒インフォマティクスが実現する
ゼロからの触媒設計
ポイント
- 物質空間からの無作為なサンプリング
- ハイスループット実験による触媒ビッグデータの取得
- バイアスを含まないデータからの触媒設計指針の抽出
| 北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野稔、石川県能美市)、先端科学技術研究科物質化学領域の谷池俊明教授らは北海道大学(総長・寳金清博、北海道札幌市)の髙橋啓介准教授らと共同で、ハイスループット実験と触媒インフォマティクスを駆使して前知見に依らないゼロからの触媒設計を実現する道を示した。 ある化合物を別の化合物へと変換する化学反応は、式上では単純に見えても多くの素反応によって構成されているケースが多い。化学反応の制御とは、これらの素反応を同時に制御することであり、複数の有効成分を組み合わせる多元的な触媒の設計が鍵を握っている。しかし、組み合わせ効果の予測は非常に難しく、トライアンドエラーを通して偶発的に発見した組み合わせを段階的に発展させる経験的な方法論が、固体触媒の研究開発における常套手段であった。 谷池教授らは、日に4,000点もの触媒データを自動取得可能なハイスループット実験装置*1 と触媒インフォマティクスを用いて、前知見に依らないゼロからの触媒設計を実現した。具体的には、36,540通りもの組み合わせ(=触媒)を含む広大な物質空間から300通りの組み合わせを無作為に抽出し、これらのメタンの酸化カップリング反応(OCM)*2 における性能をハイスループット実験により評価することで、前知見や作業仮説などのバイアスを含まない触媒ビッグデータを取得した。このデータを機械学習によって分析することで、触媒の設計指針をモデル化し、高性能触媒を80%の精度で予測することに成功した(試験した80%の触媒が高性能と見做し得る収率を示した)。 本研究が見出した高性能触媒の大半は、OCMに関する過去40年の研究開発史に照らして未知とみなされる組み合わせであった。ハイスループット実験と触媒インフォマティクスは、広大な物質空間を現実的な時間単位で効率的に探索する強力な手段である。本研究が用いた方法論は多くの材料分野に適用可能であり、前知見に縛られない物質探索は予期せぬ発見を多く生み出すだろう。
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【論文情報】
| 掲載誌 | ACS Catalysis (ACS Publications) |
| 論文題目 | Learning Catalyst Design Based on Bias-Free Data Set for Oxidative Coupling of Methane |
| 著者 | Thanh Nhat Nguyen, Sunao Nakanowatari, Thuy Phuong Nhat Tran, Ashutosh Thakur, Lauren Takahashi, Keisuke Takahashi, Toshiaki Taniike |
| 掲載日 | 2021年1月22日付(米国東部標準時間)にオンライン版に掲載 |
| DOI | 10.1021/acscatal.0c04629 |
【用語解説】
*1 ハイスループット実験装置
実験の回転速度をスループットと呼ぶ。ハイスループット実験装置とは高度な並列化や自動化によってスループットを劇的に改善する装置を指す。
*2 メタンの酸化カップリング反応(OCM)
普遍的に存在するメタンはそのままでは化学的な有用性が低く、これを触媒によって別の有用化合物へ変換することが望ましい。メタンの酸化的カップリングとは、メタンと酸素分子の反応を通してエタンやエチレンを直接合成する高難度反応である。
令和3年1月27日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/01/27-1.htmlシリコン負極表面を高度に安定化するポリ(ボロシロキサン)型人工SEIの開発に成功
シリコン負極表面を高度に安定化する
ポリ(ボロシロキサン)型人工SEIの開発に成功
ポイント
- リチウムイオン2次電池のシリコン負極表面の劣化を抑制する人工SEIの開発に成功した。
- 350回の充放電サイクル時点で、ポリ(ボロシロキサン)をコーティングしたシリコン負極型セルは、PVDFコーティング系と比較して約2倍の放電容量を示した。
- 本人工SEIの好ましい特性の一つは自己修復能にあることがSEM測定から明らかになった。
- 充放電サイクル後に、本人工SEIを用いた電池系ではPVDF系と比較して大幅に低い内部抵抗が観測された。
- LiNMCを正極としたフルセルにおいても、ポリ(ボロシロキサン)コーティング系電池セルはPVDF系と比較して大幅に優れた性能を発現した。
- 低いLUMOによりポリ(ボロシロキサン)のコーティング層は初期サイクルで一部還元され、同時にリチウムイオンを含有した好ましいSEIを形成する。
- ヘキサンなどの低極性溶媒にも可溶であり、多様な系におけるコンポジット化、成膜に対応性を有している。
| 北陸先端科学技術大学院大学 (JAIST) (学長・寺野稔、石川県能美市)の先端科学技術研究科 物質化学領域の松見 紀佳教授、博士後期課程学生(当時)のサイゴウラン パトナイク、テジキラン ピンディジャヤクマールらは、リチウムイオン2次電池*1 におけるシリコン負極の耐久性を大幅に向上させる人工SEI材料の開発に成功した(図1)。 リチウムイオン2次電池負極としては多年にわたりグラファイトなどが主要な材料として採用されてきたが、次世代用負極として理論容量が極めて高いシリコンの活用が活発に研究されている。しかし、一般的な問題点としては、充放電に伴うシリコンの大幅な体積膨張・収縮によりシリコン粒子や表面被膜の破壊が起こり、さらに新たなシリコン表面から電解液の分解が起き、厚みを有する被膜が形成して電池の内部抵抗を低減させ放電容量の大幅な低下につながっていた。本研究では、自己修復型高分子ポリ(ボロシロキサン)をコーティングすることにより、シリコン表面が大幅に安定化することを見出した。 コーティングを行っていないシリコン負極、PVDFコーティングしたシリコン負極、ポリ(ボロシロキサン)コーティングしたシリコン負極をそれぞれ用いたコインセルのサイクリックボルタンメトリー測定*2 を比較すると、ポリ(ボロシロキサン)コーティングを行った系においてリチウム脱挿入ピークの可逆性が大幅に改善された。これは、ポリ(ボロシロキサン)の低いLUMOレベル*3 により初期の電気化学サイクルにおいてコーティング膜が一部還元されることにより、リチウムイオンを含有した好ましいSEIを形成した結果と考えられる。ポリ(ボロシロキサン)コーティングを行ったシリコン表面に傷をつけた後、45℃におけるモルフォロジーの経過をSEM観察したところ、30分以内に傷が修復される様子が確認された(図2)。 このようなポリ(ボロシロキサン)の自己修復能力の結果、アノード型ハーフセルの充放電試験においてポリ(ボロシロキサン)コーティング系はPVDFコーティング系と比較して350サイクル時点で約2倍程度の放電容量を示した(図3)。また、充放電サイクル後のインピーダンス測定より、好ましい界面挙動*4 によるポリ(ボロシロキサン)コーティング系の内部抵抗の低下が示された。 また、LiNMCを正極としたフルセルについても検討したところ、ポリ(ボロシロキサン)コーティング系はPVDFコーティング系と比較して大幅に優れた性能を示した。例えば、30サイクル終了時点でのポリ(ボロシロキサン)コーティング系の放電容量はPVDFコーティング系の約3倍に達した。 本研究は、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業の支援を受けて行われた。 |
本成果は、「ACS Applied Energy Materials」(米国化学会)オンライン版に1月19日に掲載された。
| 題目 | Defined Poly(borosiloxane) as an Artificial Solid Electrolyte Interphase Layer for Thin-Film Silicon Anodes |
| 著者 | Sai Gourang Patnaik, Tejkiran Pindi Jayakumar, Noriyoshi Matsumi |
| DOI | 10.1021/acsaem.0c02749 |
【今後の展開】
自己修復能以外の他のメカニズムによりシリコンを安定化する他系との組み合わせにより相乗効果が大いに期待される。
更なる改良に向けた分子レベルでの構造改変により高性能化を図る。
電極―電解質界面抵抗を大幅に低減できる各種電極用高分子コーティング剤として、リチウムイオン2次電池のみならず広範な蓄電デバイスへの応用が見込まれる。



【用語解説】
*1 リチウムイオン2次電池:
電解質中のリチウムイオンが電気伝導を担う2次電池。従来型のニッケル水素型2次電池と比較して高電圧、高密度であり、各種ポータブルデバイスや環境対応自動車に適用されている。
*2 サイクリックボルタンメトリー(サイクリックボルタモグラム):
電極電位を直線的に掃引し、系内における酸化・還元による応答電流を測定する手法である。電気化学分野における汎用的な測定手法である。また、測定により得られるプロファイルをサイクリックボルタモグラムと呼ぶ。
*3 LUMO:
電子が占有していない分子軌道の中でエネルギー準位が最も低い軌道を最低空軌道(LUMO; Lowest Unoccupied Molecular Orbital)と呼ぶ。
*4 電極―電解質界面抵抗:
エネルギーデバイスにおいては一般的に個々の電極の特性や個々の電解質の特性に加えて電極―電解質界面の電荷移動抵抗がデバイスのパフォーマンスにとって重要である。交流インピーダンス測定を行うことによって個々の材料自身の特性、電極―電解質界面の特性等を分離した成分としてそれぞれ観測し、解析することが可能である。
令和3年1月26日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/01/26-1.html新型コロナウイルスのアクセサリータンパク質ORF8大量合成に成功

新型コロナウイルスのアクセサリータンパク質ORF8大量合成に成功
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新型コロナウイルスのORF8タンパク質について、タバコ培養細胞を用いた植物ウイルス大量合成システムにより、均一なORF8タンパク質を大量に合成することに成功しました。
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石川県立大学 森 正之准教授、今村 智弘特任講師、東村 泰希准教授が中心となり北陸先端科学技術大学院大学 生命機能工学領域の大木 進野教授と共同で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のアクセサリータンパク質ORF8について、独自に開発したタンパク質大量合成システムを用いて均一に大量合成することに成功しました。本研究成果は、「Plant Cell Reports」に公開されました。
SARS-CoV-2が引き起こす新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、現在世界で猛威を振るっております。COVID-19の克服には、SARS-CoV-2のもつタンパク質の機能解明が必須であります。SARS-CoV-2のゲノム配列の解読により、SARS-CoV-2は、少なくとも16種類の非構造タンパク質、4種類の構造タンパク質、少なくとも6または7種類のアクセサリータンパク質を感染細胞で合成することが明らかとなっております。この中で、アクセサリータンパク質の1つであるORF8タンパク質は、近縁ウイルスのORF8タンパク質と比べ相同性が低く、SARS-CoV-2において特徴的なタンパク質であります。ORF8は、免疫や炎症に関わるタンパク質に結合する可能性が報告されております。さらに、ORF8遺伝子領域が欠失したSARS-CoV-2株は、重症化しにくいことが報告されております。このことから、ORF8タンパク質は、COVID-19の重症化に関与していることが示唆されてきております。しかし、OFR8タンパク質の機能は解明されておりません。
ORF8タンパク質の機能解明には、均一なORF8タンパク質を大量に合成することが必要です。しかし、ORF8タンパク質は分子内に3か所のジスルフィド 結合(S-S結合)を持ち、さらにS-S結合で2量体になる複雑なタンパク質です。そのため大腸菌での均一なORF8の合成は極めて困難であります。そこで、我々は、これまでにタバコ培養細胞(タバコBY-2細胞)を宿主として独自に構築した大量タンパク質合成システムを用いてORF8タンパク質の大量合成を試みました。この合成システムの特徴は、薬剤(エストラジオール)の添加によって、S-S 結合をもつ複雑な目的タンパク質を同調的に大量合成することができます(図1)。この生産システムを用いてORF8タンパク質の合成を試みたところ、培養液1 LあたりORF8タンパク質を約10 mg合成することに成功しました(図2)。合成したORF8タンパク質を核磁気共鳴(NMR)装置により解析を行ったところ、均一な構造を持つORF8タンパク質が生産されていることが明らかとなりました(図3)。
本研究成果によって、タバコBY-2細胞を用いて、均一なORF8タンパク質の大量合成に成功しました。今後、本システムで合成したORF8を用いて、ORF8の機能が明らかになることが期待されます。さらに、ORF8をターゲットにした治療薬の開発が期待できます。
【論文情報】
| タイトル | Production of ORF8 protein from SARS-CoV-2 using an inducible virus-mediated expression system in suspension-cultured tobacco BY-2 cells |
| 著者 | Tomohiro Imamura, Noriyoshi Isozumi, Yasuki Higashimura, Shinya Ohki, and Masashi Mori |
| 雑誌名 | Plant Cell Reports |
図1:植物ウイルスを利用した薬剤誘導型ORF8タンパク質合成システムの概略図
①薬剤活性型転写因子(XVE)の発現。②薬剤(エストラジオール)添加によるXVEの活性化。③XVEによるトバモウイルス-ORF8融合遺伝子の発現。④リボザイムによるmRNA3'末端の切断。⑤サブゲノムRNAのmRNAの増幅。⑥ORF8タンパク質の翻訳。⑦ORF8タンパク質の細胞外への移行。ORF8タンパク質は、二量体を形成する。
図2:タバコ培養細胞を用いたORF8タンパク質の合成
(A) ORF8タンパク質を合成するタバコBY-2細胞 (B)薬剤誘導処理を行ったタバコBY-2細胞 (C) 培養液中に放出されたORF8タンパク質。矢じり:ORF8タンパク質、M:分子量マーカー
図3:ORF8タンパク質のNMRスペクトル
(A) ORF8タンパク質の1H NMRスペクトル (B) 15NラベルをしたORF8タンパク質の二次元NMRスペクトル(1H-15N HSQC)
令和3年1月7日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/01/07-1.html学生のGUPTAさんがJAIST World Conference 2020においてBest Presentation Awardを受賞
学生のGUPTA, Agmanさん(博士後期課程3年、物質化学領域、松見研究室)がJAIST World Conference 2020においてBest Presentation Awardを受賞しました。
JAIST World Conference 2020は、本学のエクセレントコア「サスティナブルマテリアル国際研究拠点」による国際シンポジウムです。シンポジウムでは、国内外からの招待講演者や本学教員による持続可能な低炭素社会の実現に向けたポリマー材料等に関する最先端の研究発表等が行われました。
■受賞年月日
令和2年11月10日
■発表題目
Lithium Ion Secondary Batteries with Silicon Based Anode Highly Stabilized with Self-healing Polymer Binder Matrices
シリコン系負極を自己修復型高分子マインダーマトリクスで高度に安定化したリチウムイオン二次電池
■発表者
Agman Gupta、Rajashekar Badam、Noriyoshi Matsumi
■受賞対象となった研究の内容
今日、リチウムイオン二次電池開発においては理論容量が極めて高いシリコン負極の活用が期待されている。一方、充放電過程におけるシリコンの大きな膨張・収縮により安定的な充放電挙動の発現が課題となっている。本研究ではn型共役系高分子をポリ(アクリル酸)と組み合わせた水素結合性ネットワークを有する自己修復型バインダーマトリクスを用いることにより約2000 mAhg-1(Si)以上の放電容量を300サイクル以上にわたって維持できる系を見出すに至った。
■受賞にあたって一言
I would like to express my gratitude towards my research supervisor Prof. Noriyoshi Matsumi who has always supported, encouraged, and guided me ably throughout my studies. Also, I would like to thank Dr. Rajashekar Badam for motivating me to do good work. I am thankful to MEXT and JST-Mirai (Grant number: JP18077239) for providing financial support. I am thankful to all JAIST staff (teaching and non-teaching) for providing a wonderful research environment with world-class facilities to conduct good research work. I am motivated to work on the development of next-generation energy storage devices with higher energy density and affordable prices. Research is my passion as it provides me an opportunity to be of service to society and contribute to making life more comfortable.

令和2年11月20日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2020/11/20-1.html学生の瀧本さんがマテリアルライフ学会第24回春季研究発表会において研究奨励賞を受賞
学生の瀧本 健さん(博士後期課程1年(発表時は本学博士前期課程2年)、物質化学領域・谷池研究室)がマテリアルライフ学会第24回春季研究発表会において研究奨励賞を受賞しました。
マテリアルライフ学会は、有機、無機、金属からなる素材およびそれらを加工して得られる各種材料と構成物・製品並びにバイオマテリアル、古文化財などの耐久性、寿命予測と制御についての科学および技術の進歩をはかり、学術、文化と産業の発展に資することを目的とした学会です。
研究奨励賞は、その中でも耐久性、寿命予測と制御についての科学および技術の進歩に資することを目的に、優れた発表を行った発表者に授与されるものです。
■受賞年月日
令和2年2月21日
■研究タイトル
マイクロプレート法と遺伝的アルゴリズムを用いたポリスチレンの光安定化
■発表者名
瀧本 健
■研究概要
高分子材料の長寿命化において、配合した安定化剤を材料に添加する手段が有効ですが、配合の最適化は光劣化試験のスループットと配合の組合せ爆発によって困難とされてきました。そこで本研究では、新規プロトコル(マイクロプレート法)を考案することで莫大なサンプル量の実験を並列・自動化し、遺伝的アルゴリズムと併用して配合探索を行うことでスループットの大幅な改善に成功しました。また、安定化剤の組み合わせ効果を解析することで相乗効果が高い組合せを含むことが配合性能において最も重要であることを明らかにしました。
■受賞にあたって一言
このような名誉ある賞をいただくことができ、大変嬉しく思います。本研究において熱心なご指導をいただきました谷池教授をはじめ、多くのご助言をいただきました研究室の皆様にこの場をお借りして心より御礼を申し上げます。
令和2年10月28日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2020/10/28-1.html史上最高耐熱のプラスチックを植物原料から開発
東京大学大学院農学生命科学研究科大西康夫教授、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科金子達雄教授、神戸大学大学院工学研究科荻野千秋教授、筑波大学生命環境系高谷直樹教授らの研究チームは、史上最高耐熱のプラスチックを植物原料から開発し、10月12日に、東京大学においてオンラインによる記者会見を行いました。
記者会見には本学環境・エネルギー領域の金子 達雄教授が出席しました。
また、本成果は、「Advanced Sustainable Systems」オンライン版にて10月14日に掲載されました。
<記者会見出席者>
本学発表者:金子 達雄(北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 環境・エネルギー領域 教授)
研究チーム代表者:大西 康夫(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命工学専攻
東京大学微生物科学イノベーション連携研究機構 教授)
<ポイント>
- 紙パルプを原料にして超高耐熱性プラスチックであるポリベンズイミダゾールを生産する新規プロセスを開発しました。
- 新しいポリマーデザインにより、プラスチック史上、最高の耐熱性を達成しました。
- 開発した超高耐熱性バイオプラスチックは、強度や軽量性にも優れており、さまざまな用途で利用が見込めるため、脱石油化・低炭素化社会の構築に貢献できると期待されます。
<研究の概要>
循環型社会の構築にはバイオマス由来のプラスチックの利用が望まれますが、従来のバイオマス由来プラスチックは耐熱性が低いため、その用途が限られていました。この度、本学環境・エネルギー領域の金子達雄教授が所属する研究チーム(代表:大西康夫教授(東京大学大学院農学生命科学研究科))は、超高耐熱性プラスチックをバイオマスから作ることに成功しました(図1)。当該チームは高耐熱性のポリベンズイミダゾール(PBI)(注1)に着目し、その原料となる芳香族化合物を効率よく生産する遺伝子組換え微生物を創成しました。また、代表的な非可食バイオマスである紙パルプを効率的に酵素糖化し、高濃度のグルコースを含む糖化液を生産するシステムを開発しました。一方、化成品を用いた検討により、PBIフィルムの作製法を開発するとともに、PBI原料とアラミド繊維(注2)原料を共重合することで耐熱性が大きく向上することを見出し、史上最高耐熱のプラスチックフィルムの作製に成功しました。また、紙パルプ糖化液を使って発酵生産した芳香族化合物から同等の性質を有するPBIフィルムを作製できることを示しました(10%重量減少温度743℃、表1)。開発した超高耐熱性バイオPBIは、強度や軽量性にも優れており、さまざまな用途で利用が見込めるため、脱石油化・低炭素化社会への貢献が期待されます。
<研究の内容>
近年、国連が採択したSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)がますます注目を集めています。脱石油化、低炭素化のためには、バイオマス由来のプラスチックの普及が重要ですが、これまでに開発されてきたバイオマス由来のプラスチック(ポリアミド11、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリ乳酸など)はいずれも脂肪族ポリマーであり、耐熱性が低いため、その用途が限られていました。芳香族系ポリマーは耐熱性が高いことで知られていますが、その原料はすべて石油由来の芳香族化合物です。天然に存在する芳香族ポリマーであるリグニン(注3)の利用も検討されていますが、リグニンは複雑な分子構造をしているため、リグニンを使って耐熱性の高いプラスチックを作るには、多くの困難があります。そのため、芳香族系ポリマーの原料となる芳香族化合物を再生可能資源から入手するというアプローチが重要であり、これには微生物を用いた発酵生産が有力です。しかしながら、実際に発酵生産させた芳香族化合物を用いて芳香族ポリマーを合成したのは、今回の研究チームのメンバーが以前に行った数例が知られているだけです(文献1、2)。また、これらの研究では、試薬として購入したグルコースを炭素源として微生物を増殖させていましたが、微生物による有用物質生産では、食料と競合する材料ではなく、非可食バイオマス(稲わら、とうもろこしの芯、サトウキビの絞りかす、紙パルプなど)の利用が求められています。
このような背景のもと、研究チームは、科学技術振興機構 (JST) 戦略的創造研究推進事業(CREST)「二酸化炭素資源化を目指した植物の物質生産力強化と生産物活用のための基盤技術の創出」において、「高性能イミダゾール系バイオプラスチックの一貫生産プロセスの開発(平成25年度から平成30年度)」に取り組み、超高耐熱性プラスチックをバイオマスから作ることに成功しました(図1)。
当該研究チームでは、代表的な非可食バイオマスである紙パルプを効率的に酵素糖化し高濃度のグルコースを含む糖化液(最高で90 g/L)を生産するシステムを開発しました(神戸大)。また、高耐熱性のポリベンズイミダゾール(PBI)に着目し、その原料となる芳香族化合物(3-アミノ-4-ヒドロキシ安息香酸:AHBA)を生産する遺伝子組換えコリネ菌を用いて、紙パルプ糖化液からAHBAを発酵生産し(3.3 g/L)、高純度に精製しました(神戸大、東大)。一方、共重合用の化合物として着目した4-アミノ安息香酸(ABA:アラミド繊維原料)を生産する遺伝子組換え大腸菌を構築し、同じく紙パルプ糖化液からABAを発酵生産し(1.6 g/L)、高純度に精製しました(筑波大)。一方、化成品を用いた検討により、まず、PBIの直接の原料となる3,4-ジアミノ安息香酸(DABA)をAHBAから簡便に合成する方法、DABAからPBIフィルムを作製する方法を開発しました(北陸先端大)。また、DABAとABAを共重合することで耐熱性が大きく向上することを見出し、これまでに存在するプラスチックの中で最高耐熱を達成しました(DABA:ABA=85:15のコポリマーの10%重量減少温度は740℃超、表1)(北陸先端大)。最終的に、紙パルプ糖化液を使って発酵生産した芳香族化合物から同等の性質を有するPBIフィルムを作製できることを示し、紙パルプから超高耐熱性PBIフィルムの一貫生産プロセスのプロトタイプを構築することに成功しました。
開発した超高耐熱性バイオPBIは、強度や軽量性にも優れており、さまざまな用途で利用が見込めます。まず、耐熱性が非常に高く、さまざまな軽量金属(アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、錫など)の融点で分解が起こらないため、これらの軽量金属と溶融複合化することができ、軽量化社会で重要となる自動車ボディ、建築部材などの社会インフラ、軽量・高耐熱性が求められる駆動部位周辺具材(電線エナメル、高耐熱絶縁紙、マニホールド、オイルパン)への応用も考えられます。超難燃性の求められる航空・宇宙機器の部品などへの活用も想定されます。これらの輸送機器はグラム単位での軽量化が要求されており、バイオPBIによりエネルギー削減、脱石油化・低炭素化社会への貢献が期待されます。また、PBIをLiイオン化し、Liイオン電池の固体電解質として利用できることを既に明らかにしており、より高耐熱の固体電解質開発も可能と考えられ(文献3)、次世代電気自動車開発に貢献できると考えています。
なお、本研究チームメンバーは内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「スマートバイオ産業・農業基盤技術」に採択され、現在も引き続きバイオPBIの社会実装に向けた研究開発に取り組んでいます。
- Tomoya Fujita, Hieu Duc Nguyen, Takashi Ito, Shengmin Zhou, Lisa Osada, Seiji Tateyama, Tatsuo Kaneko, Naoki Takaya. Microbial monomers custom-synthesized to build true bio-derived aromatic polymers. Appl. Microbiol. Biotechnol. 97(20):8887-8894. (2013) doi: 10.1007/s00253-013-5078-4.
- Yukie Kawasaki, Nag Aniruddha, Hajime Minakawa, Shunsuke Masuo, Tatsuo Kaneko, Naoki Takaya. Novel polycondensed biopolyamide generated from biomass-derived 4-aminohydrocinnamic acid. Appl. Microbiol. Biotechnol. 102(2):631-639. (2018) doi: 10.1007/s00253-017-8617-6.
- Aniruddha Nag, Mohammad Asif Ali, Ankit Singh, Raman Vedarajan, Noriyoshi Matsumi, Tatsuo Kaneko. N-Boronated Polybenzimidazole for Composite Electrolyte Design of Highly Ion Conductive Pseudo Solid State Ion Gel Electrolytes with High Li Transference Number. J. Mater. Chem. A. 7(9): 4459-4468. (2019) doi: 10.1039/c8ta10476j.
<論文情報>
| 掲載雑誌名 | 「Advanced Sustainable Systems」(オンライン版:10月14日公開) |
| Ultrahigh Thermoresistant Lightweight Bioplastics Developed from Fermentation Products of Cellulosic Feedstock | |
| 著者 | Aniruddha Nag, Mohammad Asif Ali, Hideo Kawaguchi, Shun Saito, Yukie Kawasaki, Shoko Miyazaki, Hirotoshi Kawamoto, Deddy Triyono Nugroho Adi, Kumiko Yoshihara, Shunsuke Masuo, Yohei Katsuyama, Akihiko Kondo, Chiaki Ogino, Naoki Takaya, Tatsuo Kaneko*, Yasuo Ohnishi* |
| DOI番号 | 10.1002/adsu.202000193 |
<用語解説>
(注1)ポリベンズイミダゾール
高耐熱性ポリマーであるポリベンズアゾール類の一種であり、繰り返し単位中に「ベンズイミダゾール」を含んでいる高分子の総称。
(注2)アラミド繊維
芳香族ポリアミド系樹脂の総称。耐熱性や強度に優れた合成繊維であり、様々な用途で利用されている。
(注3)リグニン
セルロース、ヘミセルロースとともに木材を構成する主要成分であり、芳香環を有する不定形な高分子化合物。
表1 新規開発バイオPBIおよびアラミド含有バイオPBIの熱分解温度の比較表
| プラスチック | 10% 熱分解温度 |
力学強度 | 弾性率 |
| (℃) | (MPa) | (GPa) | |
| Bio-PBIフィルム (100/0) |
716 | 68 | 3.3 |
| Bio-Ami-PBI (85/15)フィルム |
743 | 66 | 3.2 |
| 代表的PBO (これまで最高耐熱) |
715 | 5800 | 180 |
| 代表的アラミド | 585 | 3000 | 112 |
| 代表的ポリイミド | 580 | 231 | 2.5 |
| 既存PBI | 570 | 100 | 5 |
| ナイロン6 | 415 | 75 | 2.4 |
*Bio-Ami-PBIは、史上最高の熱分解温度で力学物性も十分に高い(ナイロンと同等)
図1 紙パルプから超高耐熱性プラスチックフィルムの一貫生産プロセス
令和2年10月14日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2020/10/14-1.html物質化学領域の松村研究室の論文が国際学術誌の表紙に採択
物質化学領域の松村研究室の論文が英国王立化学会(RSC)刊行のJournal of Materials Chemistry B誌の 表紙(inside front cover)に採択されました。
本研究成果はタイ王国チュラロンコン大学との協同教育プログラムによるものです。
■掲載誌
J. Mater. Chem. B, 2020, 8, 7904-7913 掲載日2020年8月13日
■著者
Wichchulada Chimpibul(松村研修了生), Tadashi Nakaji-Hirabayashi, Xida Yuan(松村研博士後期課程2年)and Kazuaki Matsumura*
■論文タイトル
Controlling the degradation of cellulose scaffolds with Malaprade oxidation for tissue engineering
■論文概要
再生医療では、幹細胞を体外で培養し機能化を行った後に再度移植し疾患を治療する際に細胞培養用の足場材料を使用します。一般的には動物性のコラーゲンや合成高分子などが利用されていますが、安全性や機能性に改善の余地があると言われています。
本研究では、自然界に豊富にあるセルロースを酸化することで生体内分解性を付与することに成功し、安全かつ高機能な細胞培養足場材料として再生医療分野での利用を提案しています。
表紙詳細:https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2020/tb/d0tb90155e#!divAbstract
論文詳細:https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2020/tb/d0tb01015d#!divAbstract

令和2年9月18日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2020/09/18-1.html世界初 キヌアからブラッダー細胞形成遺伝子を発見

世界初 キヌアからブラッダー細胞形成遺伝子を発見
石川県立大学 森 正之准教授、今村 智弘特任講師、古賀 博則客員教授、高木 宏樹准教授、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科、生命機能工学領域の大木 進野教授らは、(公財)岩手生物工学研究センターなどの機関と共同で、塩生植物キヌア(Chenopodium quinoa)からブラッター細胞の形成に関わる遺伝子を発見しました。 本研究成果は、「Communications Biology」で公開されました。
<ポイント>
- キヌアからブラッダー細胞形成に関わる新規WD40タンパク質をコードするREBC遺伝子を発見
- REBC遺伝子は、ブラッダー細胞形成のみならず葉緑体形成にも関与していることを発見
- ブラッダー細胞の茎頂保護機能を発見
<発表論文>
| 論文タイトル | A novel WD40-repeat protein involved in formation of epidermal bladder cells in the halophyte quinoa |
| 論文著者 | Tomohiro Imamura, Yasuo Yasui, Hironori Koga, Hiroki Takagi, Akira Abe, Kanako Nishizawa, Nobuyuki Mizuno, Shinya Ohki, Hiroharu Mizukoshi, and Masashi Mori |
| 雑誌 | Communications Biology (DOI: 10.1038/s42003-020-01249-w) |
<研究の背景>
国連大学の報告によると、世界の灌漑地の約1/5が塩害にさらされています。その被害は、年間およそ273億USドルの経済損失を引き起していることが報告されており、今後さらに広がることが予想されています。一方、世界の人口は、2050年までに97億人に達することが予想されております。そのため、この人口の爆発的な増加に耐えうる食糧生産は、早急に解決すべき大きな課題となっております。しかし、主要穀物である小麦やイネなどは、塩に弱いで植物であり、これらの主要穀物に対する塩害は、食糧生産において大きな問題となります。キヌアは、非常に高い耐乾燥性と耐塩性を併せ持ち、他の植物では生育困難な厳しい環境で生育できる塩生擬似穀物です。さらに、キヌアの種子は、必須アミノ酸・ミネラル・植物繊維を豊富に含み高い栄養価を持つことから、国際連合食糧農業機関(FAO)では、世界の食糧問題解決の切り札になり得るスーパーフードとして注目されています。
キヌアを含めたアカザ属植物は、植物体の表面に球状の表皮細胞(ブラッダー細胞)を形成します(図1)。ブラッダー細胞は、通常細胞の1000倍以上の大きさがあり、細胞内に高濃度の塩を蓄積することが知られています。このブラッダー細胞の性質は、キヌアの高い塩耐性の一因と考えられています。独自の形態と機能を持つブラッダー細胞ですが、その形成メカニズムは全く分かっていませんでした。
本研究では、塩生植物のキヌアに形成されるブラッダー細胞の形成機構を明らかにするために、ブラッダー細胞の形成に関わる遺伝子の単離を試みました。その結果、EMS処理の変異原処理により、ブラッダー細胞が著しく減少したrebc変異体を獲得し、次世代シークエンサーを用いた解析により、ブラッダー細胞形成に関わるrebc変異体の原因遺伝子(REBC)の単離に成功しました。その単離したREBC遺伝子は、ブラッダー細胞を形成しない植物には存在しないことが明らかとなりました。このことから、ブラッダー細胞の形成機構は、同じ植物の表皮細胞であるトライコームの形成機構とは異なることが示唆されました。さらに、rebc変異体はブラッダー細胞の形成のみならず葉緑体の形成にも影響を及ぼしていることが明らかとなりました。また、rebc変異体を用いた環境ストレス実験により、ブラッダー細胞は、塩を蓄積するだけでなく、その細胞を密集させることにより茎頂などの組織を環境ストレスから保護していることが明らかとなりました。
<研究の内容>
1.ブラッダー細胞が減少した変異体の作出
ブラッター細胞の形成に関わる遺伝子を単離するために、約8000粒のキヌア種子ついて、EMSを用いた変異原処理を実施しました。その結果、大部分のブラッダー細胞が欠失した変異体を得ることができました(図2)。この変異体を reduced epidermal bladder cells (REBC)変異体と命名しました。rebc変異体の分離比を確認しましたところ、野生型とrebc変異の割合が3:1に分離しました。興味深いことに、キヌアは異質4倍体の植物にもかかわらず、rebcの形質は、一遺伝子支配の劣勢形質であることがわかりました。
2.環境ストレス試験
キヌアは、ブラッダー細胞に塩を高濃度に蓄積することにより、高塩環境においても正常に生育できることが知られています。そこで、大部分のブラッダーが欠失したrebc変異体について、塩ストレス実験を実施しました。その結果、rebc変異体は、野生型に比べて高濃度の塩条件において生育が阻害されていることがわかりました。さらに、別の環境ストレスとして、茎頂に風を当て続けたところ、野生型では問題なく生育したのですが、rebc変異体では風によって茎頂にダメージを受けていることが明らかとなりました(図3)。これらの実験からブラッダー細胞は、塩を蓄積する機能のほかに、茎頂などの特定の組織に密集して存在することにより、風などの環境ストレスから組織を保護していることが新たに明らかとなりました。
3.rebc変異体の原因遺伝子の特定
rebc変異体の原因遺伝子を明らかにするために、次世代シークエンサーを用いたin silico subtraction 法を利用して変異箇所の特定を試みました。その結果、rebc変異体は、新規なWD40ドメインタンパク質遺伝子の変異が原因であることを明らかにし、その遺伝子をREDUCED EPIDERMAL BLADDER CELLS (REBC)遺伝子と名付けました(図4)。他植物の表皮細胞であるトライコームでは、その形成に関与する遺伝子が同定されており、その中でWD40ドメインタンパク質としてTTG1遺伝子が重要な役割をしています。REBCとTTG1を比較したところ、これらのタンパク質は、別の機能を持つタンパク質であることが示唆されました(図5)。またトライコームを形成する植物体には、REBC遺伝子のオルソログが存在しませんでした。これらの結果より、ブラッダー細胞の形成は、トライコームとは異なる機構の存在が示唆されました。
4.rebc変異体における葉緑体形成
rebc変異体について、網羅的な発現解析を実施したところ、発現が変動した遺伝子の多くが葉緑体局在タンパク質をコードする遺伝子でありました。さらに、クロロフィル含量を測定したところ、rebc変異体のクロロフィル含量が有意に低下していることが明らかとなりました。そこで、rebc変異体の葉緑体の形態について、電子顕微鏡を用いて観察しました。その結果、rebc変異体の葉緑体は、内部構造の約1/3が欠失していることが明らかとなりました(図6)。さらに、ブラッダー細胞の葉緑体を観察した結果、rebc変異体のブラッダー細胞の中の葉緑体は、野生型に比べクロロフィルの自家蛍光の強度が低下し、さらにブラッダー細胞あたりの葉緑体数が減少していることが明らかとなりました。以上の結果より、rebc変異体は、ブラッダー細胞の形成のみならず、葉緑体の形成にも影響を及ぼしていることが明らかになりました。
<今後の展望>
本研究成果によって、キヌアのブラッダー細胞形成に関する分子メカニズムの一端を明らかにすることができました。今後、ブラッダー細胞の形成に関する分子メカニズムの全容が明らかになることが期待できます。さらに、ブラッダー細胞形成の知見を利用することによって、キヌアの塩耐性機構を組み入れた新たなコンセプトの環境ストレス耐性作物を作出することが期待できます。

図1 キヌアのブラッダー細胞 (a)キヌア植物体、(b)キヌアの葉(裏側)、(c)キヌアの葉(拡大)、
(d-f) キヌアブラッダー細胞 BC:ブラッダー細胞、SC: 柄細胞

図2 rebc変異体について (a-c)キヌア芽生え (d-f)キヌア芽生え(茎頂付近)
(a, d)野生型、(b, e)rebc1変異体、(c, f)rebc2変異体

図3 風ストレス処理による影響 (a)野生型、(b)rebc1変異体、(c)rebc2変異体
・rebc変異体は風ストレスによって、茎頂が枯死している。

図4 REBC遺伝子の単離 (a) REBC遺伝子の概略図 赤矢印はrebc変異体の変異箇所
(b)rebc1×rebc2交配後代(F1)の解析
・rebc1×rebc2交配個体も、rebc変異の形質を示したことから、REBCが原因遺伝子であることが明らかとなった。

図5 (a) REBCとTTG1との比較(系統樹解析)、(b) アラビドプシスttg1変異体を用いた相補実験
上段:ベクターコントロール、中段:REBC過剰発現体、下段:AtTTG1過剰発現体
・REBCタンパク質は、TTG1タンパク質とは別のグループに属し、TTG1の機能を相補することができない。

図6 rebc変異体の葉緑体について (a-c) 走査型電子顕微鏡像 (b-f)透過型電子顕微鏡像
(a, d)野生型、(b, e)rebc1変異体、(c, f)rebc2変異体
・rebc変異体では、葉緑体の膜構造1/3が欠失している。
<用語説明>
- キヌア
ヒユ科アカザ亜科アカザ属の植物。南米アンデス原産の穀物で必須アミノ酸・ミネラル・植物繊維を豊富に含み高い栄養価を持ち、さらに、環境適応能力が高く、非常に高い耐乾燥性と耐塩性を合わせ持ち、国際連合食糧農業機関(FAO)は、世界の食糧問題解決の切り札になり得る作物として注目している。近年、我々のグループとその他のグループによってキヌアゲノムが解読され、キヌアが持つ環境ストレス耐性および高栄養価についての遺伝子研究が進められている。 - 擬似穀物
米や麦などのイネ科(禾穀類)や、大豆や小豆などのマメ科(菽穀類)ではないが、見た目がイネ科の穀物に類似した食べられる種子を形成する植物(ソバ、キヌア、アマランサスなど)を指す。 - in silico subtraction法
次世代シークエンサーのシークエンスデータを用いて、サンプル間の塩基配列の違い(多型、変異箇所)を特定する方法。異質倍数体の植物(キヌアは異質4倍体)でも検出が可能。本研究では、親から分離した後代について、野生型形質を示す個体群と、rebc変異形質を示す個体群を、それぞれまとめてゲノムを抽出し、次世代シークエンサーによって、それぞれの形質を示す個体群のシークエンスリードを獲得。その後、二形質間のシークエンスリードを比較することにより、形質を支配する遺伝子を特定した。
令和2年9月17日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2020/09/17-1.htmlナノテクノロジーと遺伝子工学のマリアージュ -ガン幹細胞制御技術に向けて-
ナノテクノロジーと遺伝子工学のマリアージュ
-ガン幹細胞制御技術に向けて-
ポイント
- ナノテクノロジーと遺伝子工学を利用し、細胞やマウス体内のガン幹細胞性を制御することに成功
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北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野 稔、石川県能美市)、先端科学技術研究科物質化学領域の都 英次郎准教授の研究グループは、ウシの角に似た炭素分子「カーボンナノホーン」(CNH)*1と遺伝子工学を使ってマウス体内のガン幹細胞性を制御する技術の開発に成功した。
再発と転移を繰り返す治療抵抗性のガン幹細胞を体内から排除可能な治療法が望まれている。本研究では、生体透過性の高い近赤外レーザー光*2でCNHが容易に発熱する性質(光発熱特性)*3と52℃以上の温度になるとカルシウムイオンを細胞内に取り込むTransient Receptor Potential Vanilloid 2(TRPV2)*4というタンパク質に着目した。遺伝子工学的手法によりTRPV2を導入したガン細胞にCNHの光発熱特性を作用させたところ、細胞内に過剰のカルシウムイオンが流入し、標的とするガン細胞が選択的かつ効果的に死滅することが明らかとなった(図1)。また、マウスを用いた実験で本手法がガン幹細胞性の制御に有用であることも分かった。本手法を利用すれば体外からレーザー光を照射し、その熱で患部を狙い撃ちできるほか、治療の難しいガン幹細胞の予防・治療法にも道が開けると期待している。 本成果は、2020年8月17日に英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載された。なお、本研究成果は日本学術振興会科研費[基盤研究A、基盤研究B、国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)]の支援のもと、国立研究開発法人産業技術総合研究所と行われた共同研究によるものである。 |

図1. 機能性CNHとTRPV2によるガン細胞殺傷メカニズム
【論文情報】
| 掲載誌 | Nature Communications |
| 論文題目 | Photothermogenetic inhibition of cancer stemness by near-infrared-light-activatable nanocomplexes |
| 著者 | Yue Yu, Xi Yang, Sheethal Reghu, Sunil C. Kaul, Renu Wadhwa, Eijiro Miyako* |
| 掲載日 | 2020年8月17日にオンライン版に掲載 |
| DOI | 10.1038/s41467-020-17768-3 |
【用語説明】
*1 カーボンナノホーン(CNH)
直径は2~5 nm、長さ40~50 nmで不規則な形状を持つ。数千本が寄り集まって直径100 nm程度の球形集合体を形成している。とりわけ、薬品の輸送用担体として期待されており、バイオメディカル分野で注目を集めている。
*2 近赤外レーザー光
レーザーとは、光を増幅して放射するレーザー装置、またはその光のことである。レーザー光は指向性や収束性に優れており、発生する光の波長を一定に保つことができる。とくに700~1100 nmの近赤外領域の波長の光は生体透過性が高いことが知られている。
*3 光発熱特性
数多くあるナノカーボン材料の特性の一つであり、レーザー光やカメラのフラッシュにより容易に発熱する特性のこと。
*4 Transient Receptor Potential Vanilloid 2(TRPV2)
細胞膜に存在するタンパク質の一種。52℃以上の温度によって活性化し、細胞内へカルシウムイオンを流入する。
令和2年8月17日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2020/08/17_2.html物質化学領域の松村研究室の論文がBiomacromolecules誌の表紙に採択
物質化学領域の松村研究室の論文がアメリカ化学会(ACS)刊行のBiomacromolecules誌の表紙に採択されました。
なお、本研究成果は日本学術振興会科研費(基盤研究A、B)、キヤノン財団産業基盤の創生、大学連携バイオバックアッププロジェクトによる支援を受け行われたものであり、また澁谷工業株式会社、農業食品産業技術総合研究機構、鹿児島大学との共同研究によるものです。
■掲載誌
Biomacromolecules, Vol. 21, No. 8 , 2020 掲載日2020年8月10日
■著者
Kazuaki Matsumura*, Sho Hatakeyama(松村研修了生), Toshiaki Naka, Hiroshi Ueda, Robin Rajan(松村研助教), Daisuke Tanaka, Suong-Hyu Hyon
■論文タイトル
Molecular Design of Polyampholytes for Vitrification-Induced Preservation of Three-Dimensional Cell Constructs without Using Liquid Nitrogen
■論文概要
本研究では、疎水性を付与することで両性電解質高分子による水の低温でのガラス状態安定化効果を向上させることに成功し、その効果を用いて三次元細胞塊であるスフェロイドを、液体窒素を用いずに冷凍庫にてガラス化保存することに成功しました。この手法により、再生組織のビルディングブロックとして注目されている幹細胞スフェロイドを安定的に簡便に長期間保存することが可能となり、組織再生のオートメーション化の第一歩として重要な技術となります。
表紙詳細:https://pubs.acs.org/toc/bomaf6/21/8
論文詳細:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.biomac.0c00293

令和2年8月11日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2020/08/11-1.html



