研究活動の検索
研究概要(研究室ガイド)やプレスリリース・受賞・イベント情報など、マテリアルサイエンスの研究室により公開された情報の中から、興味のある情報をタグや検索機能を使って探すことができます。環境・エネルギー領域の大平准教授の研究グループの講演がPVSEC-27においてBest Paper Awardを受賞
環境・エネルギー領域の大平圭介准教授のグループと、産業技術総合研究所太陽光発電研究センターの増田淳副研究センター長(兼本学客員教授)のグループとの共同研究の成果をまとめた講演が、27th Photovoltaic Science and Engineering Conference (PVSEC-27)において、Best Paper Awardを受賞しました。
PVSECは、アジア・太平洋地域で開催される太陽光発電に関する最大級の国際学会で、今回が27回目の開催です。各種太陽電池材料やデバイス、評価技術、信頼性、市場・政策など広範囲のトピックスを対象としており、今回は10のエリアに分かれて発表が行われました。Best Paper Awardは、総発表件数750件超の中から、全エリアを通して数件程度に授与されるものです。
■受賞年月日
平成29年11月17日
■タイトル
Jsc and Voc reductions in silicon heterojunction photovoltaic modules by potential-induced degradation tests
■著者
Keisuke Ohdaira (JAIST), Seira Yamaguchi (JAIST), Chizuko Yamamoto (AIST), and Atsushi Masuda (AIST)
■発表概要
大規模太陽光発電所において、太陽電池モジュールのフレームと発電素子(セル)の間の電位差が原因で発電性能が低下する、電圧誘起劣化(potential-induced degradation: PID)の問題が顕在化しています。結晶シリコンと非晶質シリコンとのヘテロ接合からなるシリコンヘテロ接合(silicon heterojunction: SHJ)太陽電池は、高効率太陽電池としてすでに市販されており、大規模太陽光発電所への導入も進んでいますが、そのPID現象や発現機構は未解明でした。今回の研究では、SHJ太陽電池モジュールに対してPID試験を行い、1) 電流の低下に特徴づけられるPIDがまず発現すること、2) 透明導電膜の還元による光学損失がこの電流低下の原因であること、3) さらに長時間のPID試験を行うと電圧の低下も起こること、4) モジュールに用いる封止材を変更することでPIDを抑止できること、を明らかにしました。
■受賞にあたって一言
太陽光発電分野の権威ある国際学会であるPVSECでのBest Paper Awardを受賞でき、大変光栄に感じております。実験データの多くが産業技術総合研究所で取得されたものであり、共著者の皆様にも感謝いたしております。今後も引き続き、SHJ太陽電池モジュールをはじめ、n型結晶Si太陽電池モジュールのPIDの現象解明と抑止技術開発に、精力的に取り組んでいきたいと思います。本研究は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託により行っているものであり、関係各位に感謝いたします。
平成29年11月22日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2017/11/22-1.html「北陸技術交流テクノフェア2017」に出展
10月26日(木)、27日(金)の2日間、福井県産業会館(福井県福井市下六条町)にて北陸最大規模の総合技術展示会「北陸技術交流テクノフェア2017」が開催されました。
本学からは、知能ロボティクス領域のHO, Anh Van准教授が「食品の把持に好適なソフトロボットハンド」について出展し、材料の柔らかさを活かした次世代ロボットの開発について、来場者に対して分かり易く説明しました。
本学出展ブースには、機械部品や食品製造業を中心とした企業関係者、金融機関や公的機関等の関係者及び本学への入学希望者等、2日間で25名の方々が来訪されました。HO, Anh Van准教授は、自身の研究内容について説明しながら、来場者と活発な意見交換を行いました。
本学出展ブースにて来訪者へ説明・情報交換等を行う様子
口頭発表をするHO,Anh Van 准教授
平成29年11月7日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2017/11/07-2.html北陸技術交流テクノフェア2017に本学が出展
10月26日(木)、27日(金)の2日間、福井県産業会館(福井県福井市下六条町)にて「北陸技術交流テクノフェア2017」が開催されます。
本学からは以下の研究室が出展します。
ご来場の際にはぜひお立ち寄りください。
日 時 | 平成29年10月26日(木) 10時00分~17時00分 10月27日(金) 10時00分~17時00分 |
会 場 | 福井県産業会館(福井県福井市下六条町103) |
出展研究室 |
先端科学技術研究科 知能ロボティクス領域 HO, Anh Van 准教授 「食品の把持に好適なソフトロボットハンド」 【小間番号】 T-16 【展示概要】 http://www.technofair.jp/syutenjyouhou/Ippan50.html |
詳細はこちらをご覧ください。
・北陸技術交流テクノフェア2017公式サイト
・北陸技術交流テクノフェア2017出展者情報
エクセレントコアシンポジウム&グリーンイノベーションポリマーシンポジウム合同開催
標題について、エクセレントコアシンポジウム「The 3rd Symposium of the Center for High-performance Nature-derived Materials (Excellent Core)」及びグリーンイノベーションポリマーシンポジウム「The 4th International Symposium for Green-Innovation Polymers(GRIP2017)」を下記のとおり合同で開催しますので、ご案内いたします。
両シンポジウムは、本学のエクセレントコア「高性能天然由来マテリアル開発拠点」及び先端科学技術研究科マテリアルサイエンス系によるジョイント国際シンポジウムです。国内外からの招待講演者や本学教員による、持続可能社会の実現に向けたポリマー材料等に関する最先端の研究発表をお届けします。
参加は無料となっており、事前の参加申込み等も必要ありませんので、奮ってご参加下さい。
開催日時 | 平成29年9月26日(火)10:00~17:10 | ||||||||||||||||||||||||||||
会 場 | 知識科学系講義棟2階 中講義室 | ||||||||||||||||||||||||||||
プログラム |
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使用言語 |
英語 |
第53回J-BEANSセミナー「ロボットは、軟らかい体で良いのか?」

開催日時 | 平成29年9月21日(木) 12:40~13:20 |
会 場 | ラーニング・コモンズ「J-BEANS」(大学会館1階) |
講演題目 | ロボットは、軟らかい体で良いのか? |
講 演 者 | 知能ロボティクス領域 准教授 HO Anh-Van |
言 語 | 日本語(スライド:英語) |
● J-BEANSセミナーの趣旨・概要等については、こちらのページをご覧ください。
出典:JAIST イベント情報https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/event/2017/08/31-1.html2次元sp2炭素高分子材料の開拓に成功
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国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学 大学共同利用機関法人 分子科学研究所 |
2次元sp2炭素高分子材料の開拓に成功
北陸先端科学技術大学院大学(学長・浅野哲夫、石川県能美市)の先端科学技術研究科/環境・エネルギー領域の江 東林教授らの研究グループと分子科学研究所の物質分子科学研究領域の中村 敏和准教授らの研究グループは、sp2炭素からなる2次元共役有機骨格構造体の開拓に成功した。
炭素材料は様々な機能を発現するプラットホームとして注目されている。その中でも、2次元炭素材料はその特異な化学・電子構造を有するため、近年各国で熾烈な研究開発が行われている。特に、グラフェンは、sp2炭素原子が2次元的に繋がって原子層を形成し、特異な電気伝導特性を示すことで、様々な分野で幅広く応用されている。しかしながら、化学的な手法でsp2炭素原子(あるいはsp2炭素ユニット)を規則正しく繋げてsp2炭素シートをつくりあげることが極めて困難で、2次元炭素材料はグラフェンに限られているのが現状である。
これに対して、本研究では、sp2炭素ユニットから2次元炭素材料を設計する原理を明らかにし、さらに、sp2炭素ユニットを規則正しく連結して2次元炭素材料を合成する手法を開拓した。この手法は従来不可能な2次元炭素材料の化学合成を可能にし、分子構造を思ったままに設計して2次元炭素をテーラーメイドで合成することを可能とする。今回合成された2次元炭素材料は、規則正しい分子配列構造を有し、拡張された2次元sp2炭素骨格構造を有し、π共役が2次元的に広がっている特徴を示す。高い結晶性と安定性を有するとともに、2ナノメートルサイズの1次元チャンネルが規則正しく内蔵されている。この2次元炭素材料は、ヨウ素でドーピングすると、電気伝導度は12桁も高くなり、室温で優れた半導体特性示した。興味深いことに、この2次元炭素材料は、極めて高い濃度の有機ラジカル種を共存させることができ、さらに、低温において、これらのラジカルスピンが同じ方向に配列するように転移し、強磁性体になることを突き止めた。今後は、様々な2次元炭素材料の設計と合成が可能となるに加え、その特異なπ電子構造に由来する新奇な機能の開発がより一層促進される。
本研究は、Scienceに2017年8月18日に公開された。
1.研究の成果
今回研究開発された2次元炭素高分子材料は2次元高分子注1)である。2次元高分子は、規則正しい分子骨格構造を有し、無数の細孔が並んでいるため、二酸化炭素吸着、触媒、エネルギー変換、半導体、エネルギー貯蔵など様々な分野で活躍し、新しい機能性材料として大いに注目されている。江教授らは、世界に先駆けて基礎から応用まで幅広い研究を展開し、この分野を先導してきた。
これまでの2次元合成高分子は、分子骨格に他の元素(例えば、ホウ素、酸素、窒素などの原子)が入っていて、sp2炭素からなる2次元炭素高分子は合成できなかった。これまでの合成手法では、sp2炭素ユニットからなる高分子を合成できるものの、アモルファス系の無秩序構造を与え、規則正しい2次元原子層及び積層構造をつくることはできなかった。今回、江教授らは、可逆的なC=C結合反応を開発し、C=C結合でsp2炭素ユニットを規則正しく繋げて、結晶性の高い2次元sp2炭素高分子の合成に成功した(図1A)。この原理は様々なトポロジーを有する2次元sp2炭素高分子を設計することができる点が特徴的である。今回合成されたsp2c-COFは、2次元sp2炭素原子層を有し(図1B)、積層することによって頂点に位置するピレンπ-カラムアレイと規則正しく並んだ1次元ナノチャンネルが生成される(図1C)。2次元sp2炭素原子層の中では、xとy方向に沿ってπ電子共役が伸びており、拡張された2次元電子系を形成する(図1D)。また、積層構造では、ピレン(丸い点)ユニットが縦方向でスタックして特異なπカラムアレイ構造と1次元ナノチャンネル構造を形成している(図1E)。X線構造解析から、2次元sp2炭素高分子は、規則正しい配列構造を有することが明らかになった。
図1.A)sp2炭素ユニットからなる2次元炭素高分子の合成。B) 2次元炭素原子層の構造。C)積層された2次元炭素構造。D)2次元炭素の網目モデル構造、xとy方向にπ共役が広がっている。E) 積層された2次元炭素の網目モデル構造。
この2次元sp2炭素高分子は空気中、様々な有機溶媒、水、酸、および塩基下においても安定である。また、熱的にも極めて安定であり、窒素下で400°Cまで加熱しても分解しない。この2次元sp2炭素高分子は酸化還元活性であり、有機半導体の特性を示す。エネルギーギャップは1.9 eVであり、ヨウ素でドーピングすると、電気伝導度が12桁も向上する。
電子スピン共鳴スペクトルを用いて、ヨウ素でのドーピング過程を追跡したところ、有機ラジカル種がドーピング時間とともに増えてくることが分かった。これらのラジカル種はピレンに位置し、互いに会合してバイポラロンを形成することができない。したがって、2次元炭素高分子系内では、極めて高いラジカル密度を保つことができる。超電導量子干渉計を用いた測定から、ピレンあたりのラジカル種は0.7個であることが分かった。これに対して、類似構造を有する1次元高分子および3次元アモルファス高分子系では、ラジカル密度が極めて低かった。すなわち、2次元 sp2炭素高分子はバルクの磁石であることが示唆された。
磁化率と磁場強度との関係を検討したところ、温度を下げていくと、これらのラジカル種が同じ方向に向くようになり、2次元炭素高分子は強磁性体注2)に転移することを見いだした。すなわち、隣り合うラジカル種のスピンが同じ方向に揃うことによって、スピン間のコヒーレンスが生まれる。これらの特異なスピン挙動は1次元や3次元アモルファス炭素材料には見られない。
本研究成果は、このような高度なスピンアレイを用いた超高密度データー貯蔵システムや超高密度エネルギー貯蔵システムの開拓に新しい道を開くものである。
2.今後の展開
今回の研究成果は、化学合成から2次元炭素高分子材料の新しい設計原理を確立した。また、合成アプローチも確保されており、様々な2次元炭素高分子材料の誕生に繋がるものと期待される。今後、これらの特異な2次元炭素構造をベースに、様々な革新的な材料の開発がより一層促進される。
3.用語解説
注1)2次元高分子
共有結合で有機ユニットを連結し、2次元に規定して成長した多孔性高分子シートの結晶化により積層される共有結合性有機構造体。
注2)強磁性体
隣り合うスピンが同一の方向を向いて整列し、全体として大きな磁気モーメントを持つ物質を指す。そのため、外部磁場が無くても自発磁化を示す。
4.論文情報
掲載誌:Science
論文タイトル:Two-dimensional sp2 carbon-conjugated covalent organic frameworks(2次元sp2炭素共役共有結合性有機骨格構造体)
著者:金 恩泉(北陸先端科学技術大学院大学研究員)、浅田 瑞枝(分子科学研究所特任助教)、徐 慶(北陸先端科学技術大学院大学特別研究学生)、Sasanka Dalapati(北陸先端科学技術大学院大学研究員、日本学術振興会外国人特別研究員)、Matthew A. Addicoat (イギリス ノッティンガム・トレント大学助教)、 Michael A. Brady(アメリカ ローレンス・バークレー国立研究所 研究員)、徐 宏(北陸先端科学技術大学院大学研究員)、中村 敏和(分子科学研究所准教授)、Thomas Heine (ドイツ ライプツィヒ大学教授)、陳 秋紅(北陸先端科学技術大学院大学研究員)、江 東林(北陸先端科学技術大学院大学教授)
掲載日:8月18日にオンライン掲載。 DOI: 10.1126/science.aan0202.
5.研究助成
この研究は科学研究費助成金 基盤研究(A)(17H01218)、ENEOS水素信託基金、および小笠原科学技術振興財団によって助成された。
平成29年8月21日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2017/08/21-1.html多糖が自らパーティション -光合成産物の多糖が乾燥下、センチメートルスケールの3次元空間を認識-

多糖が自らパーティション
-光合成産物の多糖が乾燥下、センチメートルスケールの3次元空間を認識-
PRポイント
- 「多糖が乾燥環境下、3次元空間を認識することを世界で初めて発見」
- 「乾燥によって析出した多糖の薄膜はナノメーターから階層的に整った構造で、新たなバイオマテリアルの設計手法が期待」
- 「天然高分子への展開」:今回、淡水性シアノバクテリア由来の多糖類を使用したin vitro実験によって新現象が確認されており、今後、他の多糖や天然高分子などでも展開を検討
北陸先端科学技術大学院大学(学長・浅野哲夫、石川県能美市)、環境・エネルギー領域の桶葭興資助教、金子達雄教授らは、シアノバクテリア由来の多糖が自ら乾燥環境でセンチメートルスケールのパターンを形成することを発見した。多糖と乾燥環境は自然界で密接な関係にあり、今回のin vitro実験で「多糖が空間を認識する能力」が実証されただけでなく、簡便な乾燥によってバイオマテリアルの新たな設計手法が見出されると期待される。 自然界では熱帯魚の縞模様や巻貝のらせんなど様々な幾何学模様がセンチメートル以上のスケールで存在し、パターン発生原理の議論は歴史的研究の一つである。例えば、人工的に化学物質を選択してチューリングパターンやベローソフ・ジャボチンスキー反応など、パターン発生原理の研究が世界的に何世紀にも渡ってなされてきた。しかし、「自然界にある物理化学的な条件を再現して人工的にパターンを制御すること」はこれまで困難を極めていた。 これに対して研究チームは今回、シアノバクテリア由来の多糖が乾燥環境下、センチメートルスケールで空間分割パターンを形成することを発見した。多糖の水溶液を狭い間隙の制限空間から乾燥させると、1つの空間を複数の空間に分けるように多糖が析出する(図)。蒸発時、多糖は気液界面を増加させようとして界面を分割して薄膜として析出した。このように空間がパーティション化される現象はin vitro実験で確認されたもので、自然環境の多糖が乾燥と常に対面していることと密接に関係する。特に、今回使用した多糖は、シアノバクテリアが光合成によって生み出したサクランという生体適合性に優れた物質を用いているため、再生医療用材料としても有望である。 本成果は、英国科学雑誌「Scientific Reports」誌に7/21午前10時(英国時間)オンライン版で公開された。 |
<論文情報>
掲載誌:Scientific Reports
論文題目:Emergence of polysaccharide membrane walls through macro-space partitioning via interfacial instability.
著者:Kosuke Okeyoshi, Maiko K. Okajima, Tatsuo Kaneko
DOI: 10.1038/s41598-017-05883-z
掲載日:7月21日午前10時(英国時間)にオンライン掲載
本研究成果は、以下の事業・開発課題によって得られました。 |
<背景と経緯>
建築学で駆使されている3次元的な幾何構造は、自然対数を利用した橋の設計など自然界と調和した形状である。材料学においても自然界と調和する幾何形状や規則性の制御によって新しい材料設計方法が期待され続けている。しかし、「自然界にある物理化学的な条件下を再現して人工的に幾何学パターンを制御すること」はこれまで困難を極めていた。
自然界では熱帯魚の縞模様や巻貝のらせんなど様々な幾何学模様がセンチメートル以上のスケールで存在し、パターン発生の議論は歴史的研究の一つである。例えば、人工的に化学物質を選択してチューリングパターン注1)やベローソフ・ジャボチンスキー反応注2)など、パターン発生原理の研究が世界的になされてきた。さて、生物の体表などのパターンはなぜできるのか?遺伝子?天気?それとも..?果たして「人工的な実験」で、「ビーカーの中」で、科学によって再現できるのか?
<今回の成果>
1.乾燥環境下で多糖が3次元空間を認識することを発見(図1)
乾燥環境下、シアノバクテリア注3)由来の多糖注4)がセンチメートルスケールの3次元空間を認識して、自らパーティションとなるように析出膜を形成することを発見した。この現象はin vitro注5)実験で確認されたもので、高粘性の多糖「サクラン」注6)の水溶液を2枚のガラス板に挟まれた間隙の制限空間から乾燥させると、1つの空間を複数の空間に分けるように多糖が析出する。
初期状態:間隙1 mmの上面開放型セルに多糖の水溶液を満たす。セルの幅をセンチメートルスケールで様々に変えて乾燥実験を行った。
乾燥過程:セルの幅が0.7 cm 程度であると、2枚のガラス板を橋掛けするような析出膜は形成されず、底に析出するだけであった。これに対して、1.5 cm 容器の幅を広げると、2枚のガラス板を橋掛けするような析出膜が形成された。高分子のサイズからすれば、1 mm の間隙は著しく大きいにもかかわらず、橋掛けできることは驚異に値する。これは、多糖が自己集合的に20 µm以上の長さのファイバー状となっていることが関係する。さらにセルの幅を広げると垂直に析出する膜の数は増え、3次元空間が複数に分けられた。幅が10 cmの場合でもこの現象は確認され、多糖が乾燥時に自らパーティションとなる析出膜を形成し、センチメートル空間を認識可能であることを裏付けている。
2.垂直に析出した膜は、高分子がナノメータースケールから3次元的に揃っている(図2)
さらに、この析出膜を偏光顕微鏡や電子顕微鏡で観察すると、2枚のガラス板を結ぶ方向に、高分子が整然と揃っていることが判明した。多糖の水溶液を乾燥するだけで高分子が3次元的に方向制御されることは極めて驚異である。
この析出膜に架橋構造を導入したあと水に再び戻すと、遮光用ブラインドのように一方向に大きく伸びる。図2中の青いまま伸びている様子は、高分子の3次元的な整列を保ったまま一方向に伸びていることを示す。
なお、研究チームはこれまでにも、層状構造を持つ膜から一次元膨潤するゲルの作製に成功している。今回の新たな膜作製技術と合わせてバイオマテリアルへの応用が期待できる。
<今後の展開>
パーティション現象を他の天然高分子へ展開
物理化学的な条件と幾何学的な条件を整えることで、他の多糖や高分子へ展開可能である。特に「乾燥環境」に注目して、パターンの形成法則を系統的に解明することで、陸上進出する多糖の進化を紐解けるかもしれない。
パターンが多糖で構成されているため、新たなバイオマテリアル設計手法が期待される
センチメートル以上の空間パターンを自発的に形成する構造には、リーゼガング現象やチューリング現象など自己組織化による「散逸構造」が挙げられる。しかしこれらの現象は、生体が存在し得る自然界の物理化学条件から遠く離れた環境でのみ可能で、材料分野への適用は困難を極めていた。
一般に、多糖、DNAおよび骨格タンパク質などの剛直な生体高分子はナノメートルやマイクロメートルスケールのパターンを形成することが知られている。ポリペプチドのαヘリックスやβシート、DNAの螺旋構造はその代表例である。これに対して研究チームが発見したパーティション現象は、光合成産物の多糖を使って発見したセンチメートルスケールの空間パターンであり、散逸構造を用いた材料学の道が一気に開かれる。さらに、DDSなど医療用材料に期待の大きい多糖を使用していることから、臓器の再生医療などに向けた新たな材料設計手法として有望である。
図1. 多糖の乾燥実験とパーティション現象
A. 上面開放型セルから多糖の水溶液を乾燥させる実験の概念図。
B. 様々な幅からの乾燥過程を2枚の偏光子を介して観察した画像。白色部分は高分子が配向している(揃っている)。
C. 幅10 cmの上面開放型セルから乾燥させたあとに現れる空間分割パターン。
図2. 析出した垂直膜の顕微鏡観察と瞬時に一方向へ膨らむゲル
乾燥実験後に析出した垂直膜を特殊な光学フィルターが入った偏光顕微鏡で観察すると、2枚のガラス板を結ぶ方向に高分子が整然と配向していることが分かる。さらにこの乾燥した膜を水にもどすと、「窓のブラインド」のように瞬時に一方向へ膨らむことが分かった。
<用語解説>(Wikipedia より)
注1)チューリングパターン:
イギリスの数学者アラン・チューリングによって1952年に理論的存在が示された自発的に生じる空間的パターンである。
注2)ベローソフ・ジャボチンスキー反応:
系内に存在するいくつかの物質の濃度が周期的に変化する非線型的振動反応の代表的な例として知られている。この反応などの振動反応は平衡熱力学の理論が成り立たない非平衡熱力学分野の代表例である。
注3)シアノバクテリア:
ラン藻細菌のこと。光合成によって酸素と多糖を生み出す。
注4)多糖:
グリコシド結合によって単糖分子が多数重合した物質の総称である。デンプンなどのように構成単位となる単糖とは異なる性質を示すようになる。広義としては、単糖に対し、複数個(2分子以上)の単糖が結合した糖も含むこともある。
注5)in vitro:
"試験管内で"という意味で、試験管や培養器などの中でヒトや動物の組織を用いて、体内と同様の環境を人工的に作り、薬物の反応を検出する試験のことを指す。in vitroの語源はラテン語で「ガラスの中で」という意味。
注6)サクラン:
硫酸化多糖類の一つで、シアノバクテリア日本固有種のスイゼンジノリ (学名:Aphanothece sacrum) から抽出され、重量平均分子量は2.0 x 107g/mol とみつもられている。
平成29年7月21日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2017/07/21-1.html「天然繊維に新風、保湿性抜群 超!しっとり新繊維"サク・レ"」を開発 -日本固有バイオマスからの新機能繊維-
「天然繊維に新風、保湿性抜群 超!しっとり新繊維"サク・レ"」を開発
-日本固有バイオマスからの新機能繊維-
ポイント
- 従来の機能性繊維には乾燥肌には痒みを与えるなどの問題点があった
- 独自の技術でサクランとレーヨンを混合紡糸することに成功
- 新繊維は従来のレーヨン繊維の抱水率を遥かに上回る抱水性・保湿性を示すことが分かった
- サクランの導入によりレーヨンの表面構造が変化することを発見
- 新機能繊維として高い保湿性能を持つ「しっとり」とした下着やベビー服の実用化へ期待
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST、学長・浅野哲夫、石川県能美市)の先端科学技術研究科/環境・エネルギー領域の金子達雄教授らは、グリーンサイエンスマテリアル株式会社(GSM、社長金子慎一郎、熊本県熊本市)およびオーミケンシ株式会社(社長石原美秀、大阪市中央区)とともに、レーヨンに日本固有種微生物スイゼンジノリから抽出される超高分子サクラン(発見者:岡島麻衣子研究員)を練り込む独自技術を開発し、従来のレーヨンより抱水性を26%も向上させる新素材の作製に成功しました。伊藤忠商事子会社の株式会社ロイネ(社長・木下昌彦、大阪府箕面市)が主に乾燥肌・ベビー向け下着として製品化・販売を目指します。 ![]() ![]() 写真 サク・レ(左:実体像、右:走査型電子顕微鏡像「レーヨンのスムーズな表面がサクランでおおわれている」) そこで、衣料品製造販売会社のロイネがこのサク・レ30%と綿混紡ベア天竺を試作したところ、その吸放湿性は綿ベア天竺よりも20%高まることが分かりました。この吸放湿性は肌と衣服間の保湿性と関係するため、サク・レを用いることで高い保湿性能を持つ「しっとり」とした下着やベビー服の実用化を目指します。肌と接触する衣類の保湿性は快適な着心地の実現のため非常に重要であるため、サク・レは、今後特に乾燥肌や肌の弱い乳幼児の中でニーズが高まると期待されます。 |
<開発の背景と経緯>
藻類などの植物体に含まれる分子を用いて得られるバイオマス注1)材料の中には、材料中にCO2を長期間固定できるため、持続的低炭素社会の構築に有効であるとされています。北陸先端科学技術大学院大学の研究チームはこれまで、淡水性の藍藻であるスイゼンジノリから高保湿力を持つ繊維質である超高分子「サクランTM」注2)を開発してきました。
近年、従来化学繊維を改良することで開発される新機能繊維が注目され我々のQOL向上に役立っています。しかし化学繊維は敏感肌や乾燥肌の痒みの原因となる場合もあり天然素材、例えば綿やレーヨン注3)、シルク等の優れた保湿性能が見直されています。しかし、従来のレーヨンの保湿力は限界があり、これが下着や裏地に使用された場合、乾燥肌や敏感肌の方々に更に心地よく着用してもらうためには保湿力向上の改善が望まれています。
<作製方法>
「セルロースをビスコース法で溶解した原液に独自技術でサクランを混合し、レーヨン繊維にサクランを練り込みます。
<今回の成果>
レーヨン繊維にサクランを練り込む条件の最適化を行い混紡糸を作製しました。これにより、レーヨン繊維の表面構造がサクランの導入により変化し、ナノスケールの凹凸が発生していることが走査型電子顕微鏡注4)により分かりました(参考図1)。これから、もともとスムーズであったレーヨンの表面にサクランが存在していることが確認できます。さらに、このサク・レ(0.1%)に水を少量添加したところ水を2.78倍程度吸収することが偏光顕微鏡注5)観察により分かりました。この値はレーヨンのみの観察結果2.16倍と比較すると、サクラン添加により28%程度吸水量が向上したということとなります(参考図2)。
実際に、従来のレーヨン繊維の抱水率を遥かに上回る抱水性・保湿性を持つことが分かりました。またサクランはレーヨン繊維中に練り込まれているためレーヨン繊維の持つ独特なソフトな風合いは損なわれず、かつサクランの超保水機能によって、従来品より遥かにしっとりとした感触が付与され、洗濯耐久性も維持されました。そこで、衣料品製造販売会社のロイネがこのサク・レ30%と綿混紡ベア天竺を混編したところ、その吸放湿性はベア天竺よりも20%高まることが分かりました。
<今後の展開>
この吸放湿性は肌と衣服間の保湿性と関係するため、サク・レを用いることで高い保湿性能を持つ「しっとり」とした下着やベビー服の実用化を目指します。肌と接触する衣類の保湿性は快適な着心地の実現のため非常に重要であるため、サク・レは、今後特に乾燥肌や肌の弱い乳幼児の中でニーズが高まると期待されます。
<参考図>
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サク・レの実体像 |
従来レーヨン | 0.1% サクラン+レーヨン |
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図1 サク・レの走査型電子顕微鏡像 レーヨンのスムーズな表面(左図)がサクランでおおわれている(右図)
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図2 サク・レの偏光顕微鏡像 水添加により繊維の直径が平均約15ミクロン(左図)から平均約25ミクロン(右図)に増加したことが分かる。また、水添加後も分子配向による繊維の着色が維持されていることが分かる。
<用語説明>
注1)バイオマス(例 スイゼンジノリ)
生物資源(bio)の量(mass)を表す概念で、一般的には「再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの」をバイオマスと呼ぶ。本研究で取り扱ったスイゼンジノリ(ラン藻の一種であり学名はAphanothece sacrum)は日本固有のバイオマスの一種であり、世界でも極めて希な食用ラン藻である。また、スイゼンジノリは江戸時代から健康維持のために食され、当時は細川藩および秋月藩における幕府への献上品とされてきた。大量養殖法が確立されている。
注2)サクラン
スイゼンジノリが作る寒天質の主成分である。硫酸化多糖類の一つでスイゼンジノリから水酸化ナトリウム水溶液により抽出される。サクランの重量平均絶対分子量は静的光散乱法で2.0 x 107 g/mol と見積もられている。現実的には原子間力顕微鏡によりサクラン分子が13μm の長さを持つことが直接観察されている。天然分子で10μm 以上の長さにも達するものを直接観察した例はこれが初めてとされる。サクランという名称はスイゼンジノリの種名の語尾を多糖類の意味の "-an" という接尾後に変換したもので、北陸先端科学技術大学院大学の岡島麻衣子によって発見され名付けられた。現在もその金属吸着性や高保水性などに関する研究が進められており、吸水高分子として応用が進められている。
注3)レーヨン
絹に似せて作った再生繊維であり光線(英:ray)と綿 (cotton) を組み合わせた言葉である。パルプなどのセルロースを水酸化ナトリウムなどのアルカリと二硫化炭素に溶かしてビスコースにし、酸の中で紡糸(湿式紡糸)して製造する。ポリエステルなど石油を原料とした化学繊維と異なり、加工処理したあと埋めると土に還る。そのため、レーヨン自体は環境に負荷をかけない繊維とされる。絹に似た光沢・手触りが特徴。洋服の裏地などに用いられる。
注4)走査型電子顕微鏡
電子顕微鏡の一種。電子線を絞って電子ビームとしてサンプルに照射し、そこから放出される二次電子、反射電子等を検出する事でサンプルの表面の構造を微細に観察できる。細い電子線で試料を走査(scan)し、電子線を当てた座標の情報から像を構築して表示する。観察試料は高真空中(10-3Pa以上)に置かれ、この表面を電界や磁界で絞った電子線(焦点直径1-100nm程度)で走査する。走査は直線的だが、走査軸を順次ずらしていくことで試料表面全体の情報を得る。
注5)偏光顕微鏡
光学顕微鏡の一種。試料に偏光を照射し、偏光および複屈折特性を観察するために用いられる。偏光特性は結晶構造や分子構造と密接な関係があるため、鉱物学や結晶学の研究で多く用いられる。他、高分子繊維の研究などにも用いられる。一般には特定方向に偏波させることのできる二枚のフィルター(偏光板)をお互いに直交させて使用する。これにより光は通らなくなるが、屈折率に方向依存性のある高分子繊維などが二枚の偏光板の間に存在すると、この高分子繊維だけが観察可能となる。さらに、特殊なカラーフィルターを組み合わせることで高分子繊維内部の分子配向の方向を色調変化により判定することが可能となる。
平成29年7月7日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2017/07/07-1.html学生の芳本さんがEM-NANO2017においてポスター賞を受賞
学生の芳本祐樹さん(博士後期課程3年、環境・エネルギー領域・下田研究室)がThe 6th International Symposium on Organic and Inorganic Electronic Materials and Related Nanotechnologies (EM-NANO2017)においてポスター賞を受賞しました。
International Symposium on Organic and Inorganic Electronic Materials and Related Nanotechnologies (EM-NANO) は2、3年に一度開催される「有機・無機電子材料とナノテクノロジーに関する国際シンポジウム」であり、応用物理学会主催の国際会議で、国内外から最先端の研究者・技術者の方々が参加する国際的な研究発表および情報交換の場となっています。ポスター形式の発表ではデザイン、内容、質疑応答などにおいて優れているものに対してポスター賞を進呈しています。
■受賞年月日
平成29年6月21日
■タイトル
Study on low temperature solution processed Indium oxide using ultraviolet annealing
■概要
紫外線照射は酸化物ゲルを固体化させる有効な手段であることがわかっている。液相プロセスによる機能性薄膜を急速に発展するフレキシブルエレクトロニクスへの応用を可能にするために、紫外線照射を用いて機能性酸化物薄膜の低温形成に取り組んだ。また、材料系を低温形成用に設計し紫外線照射による焼成補助プロセス「紫外線照射アニール」を開発した。この最適化した材料系と紫外線照射アニールの組み合わせによりり200℃程度のプロセス温度で高性能なインジウム酸化物薄膜の形成に成功した。
■受賞にあたって一言
この度、EM-NANO2017におきまして、Student Paper Awardを頂き大変光栄に思います。本研究を進めるにあたり熱心にご指導を頂きました下田達也教授にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。また、多くのご助言を頂きましたシングルナノイノベーティブデバイス研究拠点のメンバーおよび研究室のメンバーにも深く感謝いたします。
平成29年7月7日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2017/07/7-1.html環境エネルギー領域の金子教授がドイツ・イノベーション・アワードにおいてゴットフリード・ワグネル賞を受賞
環境エネルギー領域の金子達雄教授がドイツ・イノベーション・アワードにおいてゴットフリード・ワグネル賞を受賞しました。
ドイツ・イノベーション・アワード「ゴットフリード・ワグネル賞」は、2008年、日本の若手研究者の支援と日独間の産学連携を進めることを目的として、技術革新を重視するドイツ企業と在日ドイツ商工会議所により創設されました。この賞は 1868年に来日し、日本の科学界と教育界に大きな足跡を残したドイツ人科学者、ゴットフリード・ワグネル(1831-1892)にちなんで始まりました。本賞は、スポンサーのドイツ企業と在日ドイツ商工会議所が共催し、日独の多くの研究 ・助成機関および政府機関による協力と後援に支えられています。また、ドイツ連邦共和国大使館、ドイツ連邦教育研究省をはじめ、ドイツ科学・イノベーションフォーラム東京、ドイツ学術交流会、ドイツ研究振興協会、フラウンホーファー研究機構、国立研究開発法人科学技術振興機構、独立行政法人日本学術振興会からの支援を受けています。
本賞の受賞者は、共催企業の技術専門家による予備審査の後、大学学長レベルの常任委員と専門委員から構成される選考委員会において審査し、決定しています。 創設以来、8年間で36件の日本の大学・研究機関に所属する45歳以下の研究グループに授与されました。材料、デジタル化とモビリティ、エネルギー、ライフサイエンスの分野における革新的で創造的な解決策を提案する応用研究を対象としています。
今回は、全国の大学・研究機関から、合計68件の応募がありました。企業及び大学関係の専門家による書面審査で7名の最終候補者の絞り込みが行われ、2017年5月17日に開催された最終審査会でインタビューによって、各研究領域から1人、合計4人の受賞者が決定されました。
■受賞年月日
平成29年6月19日
■研究テーマ
エキゾチックなアミノ酸を用いた高熱力学性能を持つ透明バイオプラスチックの開発
■研究概要
輸送機器インフラの部品軽量化に、軽くて強く、耐熱性も高い新素材が待望されている。持続可能な社会を構築するため、天然分子から作る安価なバイオプラスチックへの期待は大きいが、通常は軟らかくて分解しやすく、使い捨て製品など、用途は限られている。また、強化剤の添加などで白濁化が進み、透明にならない弱点もある。これらの課題を解決するため、受賞者らは天然分子の特徴を生かす新しい「バイオマス高分子科学」を展開した。堅い化学構造を持つ香辛料のシナモンに似たエキゾチック(風変わり)なアミノ酸の4-アミノ桂皮酸に注目して、高熱力学性能と透明性が両立するように分子設計をした。まず、このアミノ桂皮酸の合成遺伝子を大腸菌に組み込み、安価に大量生産できることを示した。それから光反応と重縮合で、シクロブタン環が2つのベンゼン環で挟まれたトルキシル酸という骨格を形成した。この骨格は、剛直性を保ちながらも、シクロブタン環のわずかな屈曲部位が「分子バネ」として働き、強度が飛躍的に向上した。この骨格からなる高分子のバイオプラスチックは透明で、ガラスの3倍の強度を示した。透明樹脂の中では最も高い強度と考えられる。さらに、熱分解温度もセ氏425度と高かった。これを用いた透明メモリー素子も作製した。
■受賞にあたって一言
若手中堅研究者の登竜門とも言えるGerman Innovation Awardの受賞に驚きと喜びが入り混じっています。これは生物学者である筑波大学の高谷教授のご支援無くしては成しえなかったことですのでこの場を借りて御礼申し上げます。また長年ご支援と叱咤激励いただきましたJST ALCAの関係者の皆様方にも感謝申し上げます。さらに、共に分子設計に取り組んできた連名受賞者の立山博士および本学の宮里技術職員に感謝申し上げます。バイオプラスチックの分野は社会的意義は既に認められていますし、ドイツをはじめ欧州では特に重要視されています。しかし、日本ではその価値は思いのほか低く見なされているのが現状です。今回の権威あるアワードを通じてバイオプラスチックがinnovativeな新機能物質を創出するための重要な概念であることが日本で再認識されればと思っております。さらに、世界中で安全なプラスチックが生産されつづけることを期待いたします。最後に常にサポートして下さった本学のスタッフの方々ならびに諸先生方、また研究室の学生・スタッフの皆様方に心より感謝申し上げます。


平成29年6月20日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2017/06/20-1.html環境・エネルギー領域の桶葭助教らの開発した技術が米国ビデオ誌JoVEにて紹介

環境・エネルギー領域の桶葭興資助教らの開発した技術が米国ビデオ誌JoVEにて紹介されました。
■掲載誌
Journal of Visualized Experiments (JoVE) 2017, 122, e55274.
■著者
Kosuke Okeyoshi*, Kensuke Osada, Maiko K. Okajima, Tatsuo Kaneko
■タイトル
Methods for the self-integration of megamolecular biopolymers on the drying air-LC interface
■概要
米国マサチューセッツ州のビデオ誌において、著者らが開発した偏光システム導入型の光学的観察法が取り上げられた。実験デモンストレーションとして、乾燥環境下にある生体高分子の水溶液が気液界面で自己配向・自己集積する様子が紹介されている。液晶性を示す生体高分子(天然多糖類、骨格タンパク質、DNAなど)水溶液の蒸発面と垂直な方向から光学的に観察する技術を構築することで、集積の経時変化を可視化することに成功している。この技術によって、生体高分子の乾燥環境下にあるユニークな振る舞いを理解できるだけでなく、人工的な材料の設計指針が得られると期待される。
参考: https://www.jove.com/video/55274/methods-for-self-integration-megamolecular-biopolymers-on-drying-air
平成29年5月25日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2017/05/25-2.html環境・エネルギー領域の桶葭助教、金子教授らの研究成果が米国化学会刊行Langmuir誌の表紙に採択

環境・エネルギー領域の桶葭興資助教、金子達雄教授らの研究成果が米国化学会刊行Langmuir誌の表紙に採択されました。
■掲載誌
American Chemical Society, Langmuir 2017, 33, 4954 - 4959.
■著者
Kosuke Okeyoshi*, Gargi Joshi, Sakshi Rawat, Saranyoo Sornmkamnerd, Kittima Amornwachirabodee, Maiko K. Okajima, Mayumi Ito, Shoko Kobayashi, Koichi Higashimine, Yoshifumi Oshima, Tatsuo Kaneko*
■論文タイトル
Drying-induced self-similar assembly of megamolecular polysaccharides through nano and submicron layering
■論文概要
超高分子量の天然多糖類水溶液を乾燥させると、気液界面を利用してナノメータースケールとサブミクロンスケールで自己相似的に層構造を形成することが立証された。ここでは、分子スケールからミリスケールに至る階層的な構造形成が面状の気-液晶界面で誘起されることが電子顕微鏡観察法と偏光観察法により明らかになった。今回解明された多糖類サクランの階層構造を活用することで、電気、光学、細胞工学など多分野における新規材料の創製が期待される。
■採択にあたって一言
本研究を遂行するにあたり、応用物理学領域の大島義文准教授はじめ、ナノマテリアルテクノロジーセンター伊藤真弓研究員、小林祥子研究員、東嶺孝一技術専門員に大変お世話になりました。この場をお借りして心より感謝の意を表します。
参考: http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.langmuir.7b00107
平成29年5月25日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2017/05/25-1.html学生のGargi Joshiさんが、The 11th International Gel Symposium (GelSympo2017)においてポスター賞を受賞
学生のGargi Joshiさん(博士後期課程1年、環境・エネルギー領域・金子研究室)が、The 11th International Gel Symposium (GelSympo2017)においてポスター賞を受賞しました。
■受賞年月日
平成29年3月8日
■タイトル
Directional Control of Diffusion and Swelling in Hydrogels Prepared from Cyanobacterial Exopolysaccharide
■論文概要
With the goal of constructing novel biomaterials, we have studied the LC hetero-polysaccharide, sacran extracted from the extracellular matrix of the freshwater cyanobacteria, Aphanothece sacrum. It demonstrated a high potential for significant water retention and had a liquid crystal nature at a critical concentration of ~ 0.3 %. In the present work, by investigating the swelling ratio and swelling kinetics three-dimensionally, the effects of the thickness of precursor films with LC orientation on diffusion are discussed. The thinner films swelled to a larger extent than their thicker counterparts. The dried films were analyzed using TEM and SEM techniques at nano- and sub-micron scale, respectively. It was observed that sacran fibers arrange in nano-platelets during the drying process and form oriented structure via nano layering and sub-micron layering. Due to the presence of this layered structure, we have successfully controlled the diffusion parallel to the planar direction and swelling in the lateral direction. We believe that these hydrogels will be useful for dynamic control in biomedical applications such as engineering replacement tissues, reconstructive surgeries, and the design of sustained drug delivery devices.
■受賞にあたって一言
I'm very grateful to Polymer Gel Research Group for presenting me with the Best Student Soft Matter Poster Award (Gel Symposium, Chiba 2017). It was an inspiring event to interact with researchers from the same field. I'm indebted to Prof. Tatsuo Kaneko and Asst. Prof. Kosuke Okeyoshi. I have been able to get this award all because of their constant guidance and constructive criticism. Also, Dr. Okajima and Dr. Asif Ali for the support and care. Big thanks to all Kaneko lab members for being cooperative, kind and fun to be with.
平成29年3月13日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2017/03/13-1.html環境・エネルギー領域の江東林教授が日本化学会において学術賞を受賞
環境・エネルギー領域の江東林教授が日本化学会において学術賞を受賞しました。
学術賞は、化学の基礎または応用のそれぞれの分野において先導的・開拓的な研究業績をあげた者で、優れた業績をあげた日本化学会会員に授与されるものです。今回は「2次元共有接合によって形成される有機骨格構造材料の設計と機能開拓」の業績が評価されての受賞となります。江教授の研究は、独創性が極めて高く、その業績は国際的にも高く評価されています。
表彰式は、日本化学会の第97春季年会会期中の3月17日、慶應義塾大学日吉キャンパスで行われます。また、江教授による受賞講演が年会中の3月18日に行われます。
■受賞年月日
平成29年1月17日
■タイトル
「2次元共有接合によって形成される有機骨格構造材料の設計と機能開拓」
■概要
2次元有機高分子は、共有結合で有機ユニットを連結し、結晶性原子層を生成し、積層して共有結合性有機骨格構造を形成します。2次元共有結合性有機骨格構造は、これまでに困難であった合成高分子の高次構造制御を可能とする新型高分子として、また、規則正しく並んだナノ細孔が内蔵されているため、設計可能な多孔材料としても大いに注目されています。江教授は、世界に先駆けて設計原理を確立するとともに、合成反応の開拓と材料の創製を通じて、この分野の基礎を築き上げました。周期的な骨格配列および規則正しい1次元多孔構造を持ち合わせているという構造特徴を明らかにし、骨格および細孔構造を精密制御できる手法を開拓しました。特異な分子空間における光子、エキシトン、電子、ホール、スピン、イオンおよび分子との相互作用をいち早く解明し、それらに基づいた機能開拓を行い、世界で分野の発展を先導しました。これまでに、半導体や発光、光電導、光誘起子移動、電荷分離、光電変換、エネルギー貯蔵、不斉触媒、二酸化炭素吸着など2次元ならではの様々な優れた機能を開拓しました。これらの成果は、2次元共有結合性有機骨格構造が環境・エネルギー問題に挑戦できる次世代革新材料としての高い潜在能を示唆しております。
参考: http://www.jaist.ac.jp/ms/labs/jiang/
■受賞にあたって一言
長年にわたる基礎研究の斬新さ、重要さが評価されてうれしい。私一人の研究でなく、日々一緒に頑張ってくれた院生や共同研究者に深く感謝を伝えたい。これからも学生とともに2次元物質に秘められている世界を開拓していきたい。
平成29年1月25日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2017/01/25-1.html学生のGargi Joshiさんと博士研究員のSumant DWIVEDIさんがIPC2016においてポスター賞を受賞
学生のGargi Joshiさん(博士後期課程1年)と博士研究員のSumant DWIVEDIさん(環境・エネルギー領域・金子研究室)がthe 11th SPSJ International Polymer Conference (IPC2016)においてポスター賞を受賞しました。
■受賞年月日
平成28年12月26日
【Gargi Joshiさん】
■タイトル
Directional Control of Diffusion and Swelling in LC Polysaccharide Hydrogels with Laminated Structure for Developing Anisotropic Soft Materials
■論文概要
With the goal of constructing novel biomaterials, we have studied the LC hetero-polysaccharide, sacran extracted from the extracellular matrix of the freshwater cyanobacteria, Aphanothece sacrum. It demonstrated a high potential for significant water retention and had a liquid crystal nature at a critical concentration of ~ 0.3 %. In the present work, by investigating the swelling ratio and swelling kinetics three-dimensionally, the effects of the thickness of precursor films with LC orientation on diffusion are discussed. The thinner films swelled to a larger extent than their thicker counterparts. The submicron-layer thickness was estimated to be 0.1--0.2 µm on average, and the number of layers in a film with 25-µm-thickness was more than 100 layers. Due to the presence of a layered structure, we have successfully controlled the diffusion parallel to the planar direction and swelling in the lateral direction. We believe that these hydrogels will be useful for dynamic control in biomedical applications such as engineering replacement tissues, reconstructive surgeries, and the design of sustained drug delivery devices.
■受賞にあたって一言
It is a blessing to have been selected for the Young Scientist Award by The Society of Polymer Science (IPC, Fukuoka 2016). This provides the impetus to keep working hard in the research field. I'm very grateful to Prof. Tatsuo Kaneko and Asst. Prof. Kosuke Okeyoshi for their persistent guidance and constant motivation. Also, Dr. Okajima and Dr. Asif Ali for the support and care. Big thanks to all Kaneko lab members for being cooperative, kind and fun to be with. Research is a team work and everyone plays a part.
【Sumant DWIVEDIさん】
■タイトル
Conductive, transparent, flexible films: bio-nanohybrids of amino acid-derived polyimides with ITO
■論文概要
Deposition of conducting metal oxides on organic substrates, particularly on transparent polymeric surfaces has been gathering great researchers attention due to its potential applications in the field of flexible micro-electronics, circuit board optics, sensors, etc. We recently developed transparent polyimides with a high thermal resistance, from biologically derived exotic amino acid, 4-aminocinnamic acid (4ACA), which shows softening temperature high enough to compatible with some metal oxides.In order to surface conductive flexible films with high transparency, indium tin oxide (ITO) have been grown by chemical vapor deposition on flexible transparent biopolyimide derived from 4ACA (Figure 1) as a polymeric substrates. The composition, microstructure, surface morphology, electrical, and optical properties have been characterized by FT-IR, XPS, UV-Vis, X-ray diffraction, and SEM respectively. The results have been compared with the commercially available polyimide substrate such as KaptonTM. It was found that the biopolyimide exhibits greater transparency, smoother surface, and lower resistivity as compared to the KaptonTM.
■受賞にあたって一言
This achievement of our research is because of Kaneko sensei consistent guidance and support.
平成29年1月12日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2017/01/12-1.html学生の乾さんが第21回(2016年度)応用物理学会 北陸・信越支部において発表奨励賞を受賞
学生の乾京介さん(博士前期課程1年、環境・エネルギー領域・下田研究室)が第21回(2016年度)応用物理学会 北陸・信越支部において発表奨励賞を受賞しました。
応用物理学会は、半導体、光・量子エレクトロニクス、新素材など、それぞれの時代で工学と物理学の接点にある最先端課題、学際的なテーマに次々と取り組みながら活発な学術活動を続けております。この発表奨励賞は、北陸・信越支部が毎年開催する学術講演会において、応用物理学の発展に貢献しうる優秀な一般講演論文を発表した若手支部会員に対し、その功績を称えることを目的としています。
■受賞年月日
平成28年12月10日
■講演題目
「感光型シルセスキオキサンを用いたTFT用ゲート絶縁膜の低温形成」
■講演概要
二段階UV照射という方法を考案し、優れた絶縁膜として知られる熱酸化SiO2膜に相当する絶縁性を持つ膜の低温形成に成功した。さらに、その絶縁膜をTFTの絶縁膜に用いることで低リーク特性の低温酸化物TFTの作製にも成功した。この成果により高絶縁性膜の低温形成が可能となり、フレキシブルな基板への高絶縁膜の応用が可能となった。
■受賞にあたって一言
この度、応用物理学会北陸・信越支部学術講演会におきまして、発表奨励賞を頂けたことを大変光栄に思います。本研究を進めるにあたり材料を提供いただきましたメルク株式会社様に深く感謝いたします。また、ご指導頂きました下田達也教授、井上特任教授、ならびに研究室のメンバー及びスタッフの方々にも深く感謝いたします。
平成28年12月19日
出典:JAIST 受賞https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/award/2016/12/19-1.html