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学長メッセージ

学長対談[TIS株式会社代表取締役会長 前西 規夫氏]

学長対談(前西氏)
 ビッグデータ、AI、IoTと次々に新しいキーワードを生み出しながら進歩する情報技術は、さらに加速しながら今後の世界に影響を与えようとしています。今回の学長対談では、企業人として日本のIT黎明期から関わってきた前西規夫氏を迎え、情報科学によってこれからの社会にイノベーションを起こしていくための企業と大学とのパートナーシップのあり方、さらにITの世界で活躍できる人材の育成にフォーカスし、その可能性を語り合いました。

「オープン・イノベーション」が求められる時代へ

学長対談(前西氏)

浅野 前西さんとは大阪大学の基礎工学部電気工学科の同級生で、その後前西さんは就職、私は大学院と進路は違いましたが、ともに情報の分野に取り組んだというのも共通しています。大学時代は数学がたいへんできて、我々の間では一種尊敬の眼差しで見ていたものですが、前西さんは大学院なんか行かないよって、さっと就職された。よくできる人は就職するといいますからね。

前西 それはまるで逆ですが(笑)。当時は取り扱うコンピュータのレベルにしても、大学の研究室に比べて実業界の方がかなり進んでいましたので、就職して情報に関わっていきたいと思ったのです。そんな折に東洋情報システム〔現TIS(株)〕という会社ができましたと新聞に出ていて、じゃあ行ってみようかと。できたばかりの新しい会社なら、色んなことができそうというのが入社のきっかけでした。
 今日の対談は産学連携が大きなテーマになろうかと思いますが、長くIT業界に身をおいてきて、我々のビジネスが昔とずいぶん変わってきたと感じています。それはITへのニーズの変化を受けたものであり、主に3点を挙げることができます。まず、サービスの対象が個々の企業ごとではなく業界全体でのプラットフォーム化が求められるようになってきたこと。2つ目はいわゆる第4次産業革命としてIoT、AI、ビッグデータ、ロボットといった技術革新が経済社会に変革をもたらし、企業側はITによる新たなビジネスモデルの創出を迫られていること。そして最後に、ITが「企業課題の解決」から「社会課題の解決」を担うツールとして注目されるようになってきたことです。いま、多くの業界業種では既存のビジネスモデルが飽和状態となり、その危機感を物語るように我々のところにも様々な会社が相談に来られています。いっぽう変革のスピードは加速し、一つの組織がその中だけでイノベーションを起こすのはますます困難な時代となってきました。このような状況からオープン・イノベーションが求められるようになり、大学との共同研究の必要性も高まってきたのだと考えています。

浅野 産学連携を考える時、これまでの大学が弱かったと思うのは、さきほどの「社会課題の解決」にしても、大学は組織としてほとんど応えてこなかったのです。大学は研究者という個人商店の集まりで、各人の意思決定のもとに研究課題が設定され、社会の要請とは関係ないところで研究が進められてきました。しかし、大学も少しずつ変わっていかなければいけない。そこでJAISTでは3研究科の統合という一大プロジェクトに取り組み、新たに9つの領域を設けました。各領域に例えば、「ゲーム・エンタテインメント」といった名前をつけたんです。その理由は、それぞれの領域が“こういう研究を指向するんですよ”と社会へ表明する意識を示したかったわけです。教育体系だけを売り物にすることから、研究による社会貢献のメッセージを込めたつもりです。

企業と大学をどのように結びつけるか

学長対談(前西氏)

前西 オープン・イノベーションを起こしていこうというとき、どのような仕組みで進めていくかが重要になってくると考えます。TISでは、これを大きく2つの枠組みでとらえていて、一つはベンチャー企業との連携であり、もう一つが産学連携です。イノベーションを技術探索・技術開発・事業化という3つの段階に分けると、ベンチャーとの連携はその後半部分、既にある程度開発された技術を用いてビジネスモデルを構築するという、短期間で事業化を目指すものです。いっぽう大学との連携では前半の技術探索から技術開発において共同研究を行い、根本の技術を開発して共同特許をとるなど中期的な取り組みとして位置づけています。これらの連携を実現していく鍵となるのは、いかに連携をマッチングするかという点になると思います。まず、仲立ちをする人材、そのための場所、そしてお互いを理解するイベントが必要でしょう。

浅野 JAISTでは企業と大学、あるいは企業同士を結びつける活動として、「Matching HUB」というイベントを本学の寺野理事が5年ほど前から始めています。これは企業や大学、公的機関、金融機関等に出展を募り、それぞれのブースにパネルを展示する形態で、それだけでしたら一般的な展示会ですが、本イベントでは出展者同士の交流を促進させる意味で、この業種とこの業種なら互いに関心がありそうだと見極めて、展示ブースを隣り合わせにするんです。そこで積極的に情報交換を図ってもらい、互いのシーズやニーズを知ることで、実際にマッチングが生まれています。本学と企業との関係だけでなく、企業同士の連携を強めていこうという場です。

前西 そのような場では、マッチングする人の力量が問われますね。この課題とこの課題が結びつくのではないかという可能性を見極められる人材に負うところが大きいと思います。

浅野 そういった仲立ちの役割を担うのが、URA(University Research Administrator)になるわけですが、本学でもURAの人たちに頑張ってもらっていて、企業を頻繁に訪問し、その日常の中から課題を浮かび上がらせようと努めています。そこで課題が見つかれば、「一緒に解決しませんか」と、本学との連携がスタートするんです。JAISTでは、企業からの課題に取り組んでみようという先生がいた場合には、その時点で企業からは研究費を求めず、大学として一定の経費を負担して、予備的な研究に着手してもらうという新たな制度を開始しました。その結果見込みがありそうならば、URAが再度企業に出向いて正式に共同研究の話を進めて契約に結びつけていくという方式です。企業にとってみれば、一定の成果が期待できますし、大学側もその研究が生み出す効果を考えながら契約金等の条件を設定できるメリットがあるんです。

前西 企業にとっては、事前の研究で「こんな仮説で試してみたけれどもダメだった」というレポートだけでもかなり価値があると思います。

浅野 そうですね。大学の先生が課題に取り組んだけれどもうまくいかなかった、という結果は残るわけで、企業にとってはそれも貴重なデータとして蓄積されて、次のステップに活かすことができるわけです。

技術者にマネジメント能力が求められる理由

浅野 イノベーションを起こしていくために、大学は企業と共同研究を行っていくとともに、教育の中でそれを担っていく人材を育てることも重要な役割です。しかし、既定路線の教育方針のもとで忠実に歩んできたという人からはイノベーションを起こしにくいのではないでしょうか。以前インドのIIM(インド経営大学院)というマネジメントの大学院を訪問した時に、どういう大学から学生が来るのかと聞いたところ、IIT(インド工科大学)という技術中心の大学からがほとんどだというんです。テクノロジーを学んできた学生がマネジメントの大学院に来るのかとビックリしたのですが、言われてみれば確かに、この両方の分野に通じている人でないと大きなプロジェクトのリーダーになれない。イノベーションの先頭に立って新しいモノを作り出して行くにはこの2つが必要です。若いときにテクノロジー、その後にマネジメントを学ぶといった、新しいカリキュラムの考え方をとり入れていくことも重要ではないかと思います。

前西 そうですね。それに関連していえば、いま企業はITを駆使してまだカタチの見えていない、新しいビジネスやビジネスモデルをつくろうとしています。つまり需要創造型の市場に変わってきたといえるでしょう。ですからお客様に技術を売るのではなく、技術をビジネスモデルに変換して提示していかなくてはならないのです。そのためには技術の細部を理解するだけでなく、全体の鳥瞰図が描けて構想力を持てることが必要です。そしてまた、ある程度のユニットを率いてリーダーになっていくとすれば、マネジメント能力も求められます。こういった側面から、理系的要素、文系的要素をともに拒否反応なく勉強していくことは大切だと思います。

浅野 そういった教育が日本ではどこでできるかというと、これはもうJAISTしかないと(笑)。本校では研究科の壁をなくし、学生がキャリア目標に応じて異分野融合分野を履修できる体制を構築していますし、MOT(技術経営)を学ぶこともできます。

前西 異分野に接したり、様々な経験を積むことは企業においても大切ですね。私も最初は技術者で入社したのですが、途中で人事や経営企画部門を担当したりと、様々な仕事をしてきまして、特にスタッフ部門の経験は自分の会社を鳥瞰的に見るチャンスになり、それがビジネスにおいて視点をニーズ側に転換する時に活かされたと思います。博士人材を採用して将来活躍していただくことを考えても、年経って自分の研究分野がそのままということは絶対にないです。だとすれば、自分の中に広がりを持っておかないといけないし、やはりマネジメントする立場にもなるでしょう。その時、過去の多様な経験によって培われた、俯瞰できる力が役立ってくるのです。ある分野を極めると同時に全体を見ることができるようなスーパー人材を、ぜひ我が社にお願いしたいですね(笑)。

社会人教育に活かされるMOTプログラム

学長対談(前西氏)

浅野 先ほどMOTに触れましたが、本学の東京サテライトでは社会人に向けたMOTプログラムを設けています。ここに毎年、某メーカーから社員が送られて来ているのですが、その多くが情報系で修士をとって社会人となり、研究開発部門に配属されて何年か経験を積んだ人たちです。会社からの補助はあるものの、自分でも学費を負担し、土日などの休みを利用して通学していますので大変だいうチャレンジの仕方もあるのではないでしょうか。

前西 我々のところでは、例えば外部から講師を招いて最初の半年はケーススタディを行って、残りの半年で実際の経営課題をチームで議論させ、社長以下役員が揃った場でプレゼンさせるなど、いくつかの形式で研修を行っていますが、外部でMOTを学ばせるといった実績はまだ少ないですね。

浅野 JAISTのMOTが注目されているのは、異なる企業から集まってきた人たちが、自身の会社の現実を反映した意見をぶつけ合うという面があると思います。それが非常に刺激的であり、ためになるという話を聞きます。今後の社会人教育にはこういう環境も大切ではないでしょうか。

前西 我々の産業にとっては人材の育成が非常に大きく関わってくると考えます。今後、と思いますが、この学生さんたちが必死で勉強するんですね。3年で必ず博士をとりなさいといったプレッシャーもあるようですが、このような形で、企業は将来を支えてくれる人材の可能性を伸ばすと事業ドメインを変えていく際には、専門性に加えて、新しい技術で市場を創造する力が求められるでしょう。現在当社では20~25%くらいの割合で修士を採用していますが、大学院で情報科学を学ぶ学生さんには、そのような創造する力、転換する力を期待したいです。それは難しいことですが、ITに地球規模で社会課題の解決が求められる時代になり、力のある人には活躍できるフィールドが広がっていることも確かでしょう。

浅野 共同研究や人材育成において企業との関わりをもっと深めていければと思います。さらに今後は、大学の教員が企業にも籍をおいて結びつきを強めていくなど、産学連携を飛躍的に発展させる新たな可能性を探っていきたいと考えています。本日は示唆に富んだお話をありがとうございました。

平成29年10月掲載

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