PCサイトを見る

大学案内

学長メッセージ

学長対談[能美市長 井出 敏朗氏]

持続可能なまちづくりに大学の存在感を
 2015年に国連採択された、「持続可能な開発目標(SDGs)」に呼応して、国内の企業や自治体はそれぞれの立場で抱える課題に、「持続可能」、「誰一人取り残さない」、といったSDGsの理念に沿った解決策を模索し、取り組み始めています。JAISTの地元、能美市においても市民が幸せに暮らせる持続可能なまちづくりが進められており、本学も産業や教育などで連携し、貢献を目指しています。今回は能美市役所を訪ね、SDGs時代のまちづくりについて井出能美市長と語り合いました。

身近に感じてもらうことから、全市民で取り組むSDGsへ

学長対談(能美市長 井出 敏朗氏)

浅野 本日は能美市と本学との連携などについて井出市長と意見交換ができればと思いますが、能美市ではSDGsに即した取り組みを始められていますので、その活動についてもぜひお聞かせいただきたいです。というのも、先般、市長からお声がかかって話し合いの機会をいただいた際、能美市がSDGsを見据えたまちづくりを始めていると聞きまして、とても感銘を受け、これは大学の方でもやらないといけないと思いを新たにしたという次第です。

井出 SDGsの理念に沿った施策には既に着手していますが、来年度からはしっかりとSDGsを取り込んだ予算編成を組んでいこうと準備しているところです。具体的には「誰一人取り残さないまちづくり」をテーマに、お子さんから高齢者までの全世代、さらに外国人や障害をお持ちの方を含めて皆さんが安全、安心、快適に暮らしていけるまちづくりという課題に、SDGsの17の目標を関連させて組み立てていければと考えています。これを推進するエンジンが、一昨年から国の助成金を受けて進めている「我が事・丸ごと地域づくり推進事業」で、この事業を核にして市民力、地域力を更に強化し、企業や団体を含めた全市民、いわゆるオール能美市で取り組んでいきたいと考えています。

浅野 そういった市の取り組みに我々大学が協力できることがあると思います。例えば、環境の領域ではプラスチックの海洋汚染が問題になっていますが、市で8月に開催されている辰口まつりの「じょんから踊りコンクール」に今年も本学は参加しまして、その際に小さなうちわを作ったんです。うちわの骨組みには一般的なプラスチックが使われていましたが、専門家の先生に聞くとプラスチックも天然成分由来の新しいものが開発されていて、土に埋めると分解されるもの、さらには海水でも分解されるものも既にできているということです。当然普通のプラスチックよりコストはかかりますが、極端に値段が高いわけでもないらしい。ならば、それを使ったうちわを能美市とJAISTが共同で作り、名入れをして環境への能書きも入れてお祭りで配ってみてはどうでしょう。市民の皆さんに、市やJAISTがSDGsに取り組んでいることを啓発でき、意識を高めていってもらうのに役立てられるかもしれません。市と本学で協力して、こんな簡単なところから入っていけば、能美市全体での取り組みが進みやすくなるかもしれません。

井出 それはいいアイデアですね。実際のところ、〝SDGsってちょっと難しい〟と捉えている市民の方も多いものです。そんなに難しくないんだよ、身近でいろんなことができるんですよ、とわかっていただきたいのですが、なかなか周知できないので、そういった親しみやすいことでSDGsへの理解が進めばと思います。

モノサシをどうつくるか、それが現在の課題

井出 持続可能なまちづくりを進める上では、人口を維持することが重要ですが、能美市では近年外国人の方が増え、市の人口約5万人のうち、1、400人を超える外国人の方がお住まいです。これは人口当たりの外国人比率で見ると、石川県の19市町のうちでトップです。この点はまさにJAISTの留学生さんが増えていることが寄与しているわけで、浅野学長が就任以来尽力されてきたことが、キチッと数字になって現れていますね。

浅野 留学生がなぜ増えたのか、この点については実はわからない部分も多いのです。私が闇雲に動いたからということでもなく、もちろん本学の構成員の皆さんが非常に熱心に学生募集に取り組んでくれた結果ではありますが、なぜ増えたのか、その本当のところを突き詰めていくのは、なかなか難しいですね。

井出 それは同感です。今、我々が行っている事業は、すべて人口を増やしましょうという目標が根底にあるのですが、生まれる子供が少ない時代ですから、自然増ではなく他からの移住・定住による社会増を促進していくことになります。そこで、移住を増やしていくのにどんな政策を打っていったら良いのかを考える時、何をモノサシにしたら良いのかが見えないのです。今回、SDGsを取り入れようと思い立った一つには、移住策や定住策を含めてこれまで継続してきた事業が本当に目的通りの成果を出せているか、本当に市民の皆さんに喜んでいただいているのか、それをキチッと測れるモノサシが欲しいという思いもあったんです。ただ、一つひとつの事業の成果を測るためには相当なエネルギーも必要ですから、そのモノサシづくりを学長にも助けていただきたいです(笑)。

浅野 私も学長になって以来、大学運営について様々な評価を受けてきましたが、そこで学んだ一番大事なことは、とにかくPDCAサイクルを作るということです。プランを作って実行し、評価し反省して、また別のアクションを起こすという、このサイクルをあらゆる所に作っておけば持続可能な状態で改善されていくということです。市長がおっしゃったのはまさにその点で、プランを作るまではできても、そのプラン通りに行い、良くなったか悪くなったか、これを評価しないことにはPDCAサイクルが回らないということですね。

IT教育で特色を強め、産業と人を呼び込もう

学長対談(能美市長 井出 敏朗氏)

井出 住み続けたいと思われるまちづくりのために、能美市では人間同士の関わり、互助、共助という部分をしっかり作っていきたいと考えています。冒頭申し上げた「我が事・丸ごと地域づくり推進事業」では、他人のことも我が事のように一生懸命やりましょうという方針で進めていて、能美市に住めば困った時に誰かが助けてくれるとか、温かさが感じられるとか、そんな雰囲気を作り出していけば、たとえ賑やかな都市ではなくても、ずっと住んでいたいまちになれるのではと考えています。それと同時に働く場所も大切で、現在はいわゆるものづくり企業が中心ですが、女性や障がいのある方も働ける場所をもっと充実させたい。魅力ある職場を増やすための企業誘致や産業振興ではJAISTの力もお借りしたいところです。

浅野 私は常々、当地の人口増にも寄与する産業振興にはIT分野が適しているのではないかと思っているんです。製造業など重厚長大な産業を誘致したとして、肝心の雇用はさほど増えない場合もあるし、能美市以外に住んで通ってくることもあるでしょう。そこで、ITなんですが、これを教育との関わりの中で考えていくと、能美市がIT教育に力を入れて、市民が平均的にこの分野との親和性が高いと評判になれば、IT企業側もあそこの人を採用すればけっこうな戦力になりそうだと、サテライトオフィスを能美市に作ろうという動きになるかもしれない。こういう形で能美市民であることにメリットがあれば移り住んでくるきっかけにもなるでしょう。

井出 その教育の部分でJAISTが担い手となってもらえるわけですね。

浅野 地域ぐるみでIT産業を誘致するならば、我々の大学が核となって社会人向けのリカレント教育を積極的に提供していくことで、能美市に対して恩返しができたらという思いも持っています。

井出 IT関連では、5Gを推進するためにも自治体のサポートは欠かせないですから、そのための環境を整備していきたいとも思いますし、こういったことで能美市はちょっと違うな、とIT産業の人たちに感じてもらえればと思います。

浅野 そうですね。例えば農業分野も今後IoTや5Gの技術による進歩が期待されていますが、初めから広域でやるには相当な設備投資が必要です。まず一定の限られた空間に5Gのアンテナをたくさん立てて実験的に行うといった時には、能美市くらいのスケールの自治体と協力体制を組んで実施するのが有効でしょう。

学生が地域に溶け込み、いずれは地域を支える道筋を

学長対談(能美市長 井出 敏朗氏)

浅野 人口増に関連して言えば、能美市は東洋経済新報社の「住みよさランキング」でここ数年ずっと10位以内に入っていて、人口もコンスタントに伸びている。こんなまちは滅多にないと思いますが、高評価を受けていることについて、どう分析されていますか?

井出 今年は能美市が全国で8位、近隣の自治体でも白山市が1位で、野々市市が3位と高い水準ですが、このランキングは評価の指標次第なので、あまり一喜一憂したり声高にアピールしたりせず、地道に市民の皆さんに満足いただける施策を行っていくことを心がけています。その結果がランキングの維持にもつながっているのではないでしょうか。

浅野 近年は降雪も少なく、冬の雪かきから解放されて暮らしやすくなったことも人口増に一役買っているのでしょう。

井出 そうですね。ただ私など雪を地域の魅力に変えてしまって、四季折々を楽しめる、雪が降るからお酒もうまいし、お米もうまいと宣伝しています。

浅野 不利と思えることを有利に捉えるというのは大切ですね。私も学長就任当初は学生が集まらないことについて、この場所に立地していることが良くないという話を随分聞きました。しかし、ここには都市部にない良さがたくさんあって、大学に隣接した寮を完備でき、生活費も交通費もかからない、アルバイトの必要はないし、したくてもするところがない(笑)。学業に専念できる環境があります。修士ならば2年間死にものぐるいで勉強すれば、その頑張りで得たものをバネにしてその後の人生を生きていくことができますよ、と大学生に訴えているんです。これに共鳴する人が大多数でなくてもいい、10%でもいれば本学の定員が確保できます。そんな考えでターゲットを絞ってやってきて、それなりに成功していると感じています。

井出 大学運営を維持するには海外から学生を呼び込む必要も高まっていますが、その時に、東京に一極集中でいいのか、地方にも魅力ある大学があるべきではないかと思っています。

浅野 留学生は日本の伝統や文化を知りたいという方も多いですが、東京のような国際都市では他国の大都市とあまり変わらず、日本の伝統を知る機会も少ないと思います。その点で地方には日本古来のものがたくさん残っている。本学の周りの地区からもお祭りなどのイベントに学生を招待していただくのですが、参加する学生の多くは留学生です。そういう場を提供できるのも地方大学ならではの魅力だと思います。

井出 我々もそんな留学生の皆さんに安心・安全・快適に暮らしてもらえるよう、国際交流協会という組織を発足させて、悩み事のある外国の方が気軽に相談できるような環境を整備しています。外国から来て、勉強もしっかりできるし、住んでみて周りの人も温かいし、いろいろ相談もできる、そう感じてもらい口コミやSNSで広げてもらえればさらにJAISTの学生も増えるでしょうし、卒業生が能美市の会社に勤めたいとか、住み続けたいという方が多くなるといいなと思います。

浅野 本学の博士課程には奥様や子供さんを連れて来日している男子学生も多いですから、学生本人はもちろん、その家族を含めて国際交流協会からサポートしていただき、時には逆に英語の先生となって市の教育などに貢献もしながら、地域との交流が深まっていくと良いですね。こういった活動もSDGsのテーマである誰一人取り残さないまちづくりに他ならないことと思います。本日は今後につながる興味深いお話をありがとうございました。

令和元年11月掲載

PAGETOP