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研究概要(研究室ガイド)やプレスリリース・受賞・イベント情報など、マテリアルサイエンスの研究室により公開された情報の中から、興味のある情報をタグや検索機能を使って探すことができます。高感度新型コロナウイルスの迅速簡便な検査法RICCAの開発に成功 ~高度な機器不要でPCR品質の検査を15~30分で可能に~

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国立大学法人 北陸先端科学技術大学院大学 BioSeeds株式会社 |
高感度新型コロナウイルスの迅速簡便な検査法RICCAの開発に成功
~高度な機器不要でPCR品質の検査を15~30分で可能に~
ポイント
- 41℃でのワンポット等温RNAおよびDNA増幅反応(器具不要)
- 迅速かつ高感度(RT-PCRと同じように検出)
- シンプルで瞬時の検出(ラテラルフローストリップ)
- 非常に費用対効果が高い(テストあたりの推定コスト500円未満)
【概要】
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)とJAIST発のベンチャー企業であるBioSeeds(バイオシーズ)株式会社(石川県能美市)、および複数の研究機関からなる研究者チームは、唾液から直接、極めて微量のSARS-CoV-2を検出できる高度な等温核酸増幅法(RICCAテスト)を開発しました。この方法は、シンプルなワンポット(一つの容器だけを用いる)方式のRNAウイルスの等温核酸増幅検出法で、高度な機器や、特別な実験室・検査室を必要としません。そのため、検査室にサンプルを送る必要が無く、総測定時間15~30分で、その場で即時に検出結果を得られます。これまでに、唾液中の低コピー数のSARS-CoV-2の直接検出に成功しております。研究者チームは、その場検査や、検査設備を簡単に調達できない地域等での検査手段として、実用化を目指しています。 |
【背景・研究成果】
COVID-19の感染を食い止めるための最も効果的な方法は、症状のあるなしにかかわらず、感染の疑いのある人を特定して隔離することです。SARS-CoV-2のアルファからデルタまでの4種の懸念される変異株(VOC:variant of concern)およびイータからミューまでの5種の注目すべき変異株(VOI:variant of interest)が数カ月のうちに世界中に広まったように、新しい感染性ウイルス株が急速に出現しているため、COVID-19の迅速かつ高感度で信頼性の高い検査法の利用は、病気、さらにはパンデミックの制御に不可欠です。現在、世界的に流行しているCOVID-19では、主にRT-PCRによる検査が行われています。しかし、この検査室を必要とする方法は、サンプルの前処理が必要であることや、高価な装置(蛍光光度計付きサーマルサイクラー)が必要なことから、現場での検査は難しく、また短時間での大量検査にも課題があります。PCRに類似した分子検査を行う方法として、LAMP (Loop-mediated Isothermal Amplification) やSDA (Strand Displacement Amplification) などの様々な等温核酸増幅法が現在使用されています。しかし、これらの方法は、PCRと比較して特異性や感度が低いことが報告されています。また、これらの方法の多くは、実験室でのウイルスRNAの分離、溶解、精製、増幅など、面倒な前処理を必要とします。
この問題を解決するために、JAISTのマニッシュ ビヤニ特任教授率いるチームは、ウイルスRNAの標的配列を、特別な装置を必要とせず、現場で正確に検出できる高感度かつ超高速な方法を開発し、この検出法をRICCA(RNA Isothermal Co-assisted and Coupled Amplification)と名付けました。
現在、RICCAを使用して、既にSARS-CoV-2のアルファ株とデルタ株の2つの変異株を検出しており、他の変異株にも適応可能と考えられます。RICCAアッセイに必要なものは、ヒートブロック(恒温槽)と、25種類の試薬を含む混合液があらかじめ入ったチューブだけであり、RNA特異的増幅とDNA特異的増幅を同時に行うことができます。RICCAのコストは現在のRT-PCR法等と比較しても安価であり、より広範囲な用途に適用可能と考えられます。したがって、RICCAにより、COVID-19分子診断の「ラボフリー、ラボクオリティー」のメガテストプラットフォーム(医療検査室レベルの集団検診に向けた基本的な方法)も実現できる可能性があります。また、将来的には、このプラットフォームを使って他の感染性ウイルスを検査することも可能です。
RICCAは、COVID-19の検査に必要な設備を簡単に調達できない発展途上国では特に有用です。ビヤニ特任教授のチームは、その場検査や、検査設備を簡単に調達できない地域等での検査手段として、実用化を目指しています。また、RICCAのロボット化およびモバイルプラットフォームの設計を行っています(卓上プロトタイプはBioSeeds株式会社で開発中)。このプラットフォームが実現すれば、サンプル輸送の負担を軽減し、COVID-19診断を消費者が直接実施することも可能となり、遠隔地や資源の乏しい環境で大規模な集団検査を行うことが可能となります。
この最新の研究成果の一部は、国際的な科学誌(Scientific Reports)において、京都大学(保川清教授)、大阪母子医療センター(柳原格部長)、関西学院大学(藤原伸介教授)、東北大学(児玉栄一教授)、JAIST(ビヤニ特任教授、高木昌宏教授、高村禅教授)の研究者チームと共同で行った研究成果として紹介されています。
図:SARS-CoV-2ウイルスを、直接その場で検査する新規な方法(RICCA)(A)とそれによる熱不活化SARS-CoV-2ウイルスの検出結果(A')。 閉鎖的なサンプル保持容器(B)とそれを用いた、10%ヒト唾液中での熱不活性化SARS-CoV-2ウイルスの検出例 (B')。
【謝辞】
本研究成果の一部は、AMED(日本医療研究開発機構)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 JP20fk0108143、AMEDウイルス等感染症対策技術開発事業 JP20he0622020、JST(科学技術振興機構) 研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラム A-STEP 産学共同 (育成型)JPMJTR20UU の支援を受けたものです。
【参考文献】
論文名 | Development of robust isothermal RNA amplification assay for lab-free testing of RNA viruses |
雑誌名 | Scientific Reports |
著者名 | Radhika Biyani, Kirti Sharma, Kenji Kojima, Madhu Biyani, Vishnu Sharma, Tarun Kumawat, Kevin Maafu Juma, Itaru Yanagihara, Shinsuke Fujiwara, Eiichi Kodama, Yuzuru Takamura, Masahiro Takagi, Kiyoshi Yasukawa and Manish Biyani |
掲載日 | 2021年8月6日 |
DOI | https://doi.org/10.1038/s41598-021-95411-x |
令和3年9月8日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2021/09/08-1.html物質化学フロンティア研究領域の谷池俊明教授の研究課題が科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業に採択
物質化学フロンティア研究領域の谷池俊明教授が代表を務める研究開発課題「材料探索を価値の探索へと変革する超広域反応探索基盤の開発」が、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業(探索加速型)の令和7年度新規本格研究課題(重点公募テーマ「革新的な知や製品を創出する共通基盤システム・装置の実現」)に採択されました。
「未来社会創造事業」は、科学技術により「社会・産業が望む新たな価値」を実現する研究開発プログラムです。経済・社会的にインパクトのある目標を定め、基礎研究段階から実用化が可能かどうか見極められる段階(概念実証:POC)に至るまでの研究開発を実施します。
探索加速型とは、研究開発を探索研究から本格研究へと段階的に進めるもので、谷池教授の研究開発課題は、探索研究を経て、本格研究課題に採択されました。
*詳しくは、JSTホームページをご覧ください。
研究者名:物質化学フロンティア研究領域 谷池 俊明教授
研究課題名:材料探索を価値の探索へと変革する超広域反応探索基盤の開発
研究概要:化学反応を効率的に誘導する触媒は、現代の物質文明を支えるマテリアルです。触媒技術の革新なくしてカー
ボンニュートラル社会の達成はありえません。一方、触媒分野における従来の技術革新は、試行錯誤とその中
で生じる予期せぬ発見によって実現されてきました。本研究開発では、広大な探索空間に探索の網を張る反応
探索基盤を構築し、未知の化学反応と触媒の効率的な発見を目指します。
令和7年3月28日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/03/28-1.htmlJSTのさくらサイエンスプログラムを実施
ナノマテリアル・デバイス研究領域の安東秀准教授のマレーシアとの交流計画が国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の「国際青少年サイエンス交流事業 さくらサイエンスプログラム」に採択されたことを受け、1月9日~1月18日の日程でマレーシア国民大学(UKM)及びマレーシアマラッカ技術大学(UTeM)並びにマレーシアプトラ大学(UPM)から13名の教員・研究者・大学院生を本学に受け入れました。
「国際青少年サイエンス交流事業 さくらサイエンスプログラム」は、産学官の緊密な連携により、諸外国・地域の青少年を我が国に招へいし、我が国の青少年との科学技術分野の交流を行う事業です。これを通して、
①科学技術イノベーションに貢献しうる優秀な人材の養成・確保
②国際的頭脳循環の促進
③日本と諸外国・地域の教育研究機関間の継続的連携・協力・交流
④科学技術外交にも資する日本と諸外国・地域との友好関係の強化
に貢献し、ひいては、日本及び世界の科学技術・イノベーションの発展に寄与することを目的とします。
参考:https://ssp.jst.go.jp/outline/detail/
本学はアジア諸国の大学・研究機関との学術的交流を強く推進しており、将来的に優秀な学生を受け入れるためにマレーシアにおける大学・研究機関においても交流を進めています。
本交流の趣旨は昨年実施された環境・エネルギー分野に続いてナノマテリアル・デバイス・計測分野にて交流を実施し、本学のマレーシアにおける学術的交流活動をより広く促進する効果を狙った計画となりました。また、今回、本学での学位取得者であるAmbri教授(UKM)とAsyadi教授(UTeM)が実施担当者として来日し、本学と各大学の交流基盤を再構築することができました。プログラム期間中には、本学教員による研究指導等を実施し、最終日には成果報告会が行われました。また、金沢のひがし茶屋街での金箔体験や、ゆのくにの森での蒔絵体験を通して日本的な文化や美にも触れ、さらに、中谷宇吉郎雪の科学館、東京の日本科学未来館を訪問して日本の多様な先端科学技術を紹介しました。
本交流プログラムはこれらの経験を通して招聘者の将来の日本への留学を促し、本学が招聘者の母国やアジアの科学技術の進歩や発展に貢献することを目指しています。
■実施期間
令和7年1月9日~令和7年1月18日
■研究テーマ
ナノマテリアル・デバイス・計測に関する技術交流
■本交流について一言
本計画をサポートいただきましたJSTに御礼申し上げます。また、本学受入教員の村田教授、赤堀准教授、高村由起子教授、廣瀬講師、大島教授、松見教授、上田准教授、篠原准教授、長尾教授に御礼申し上げます。また、降雪の中プログラム実施をサポートして下さった長尾教授、青木助教をはじめとする10名以上の教職員や学生の皆様に御礼申し上げます。ありがとうございました。引き続きマレーシアとの交流の発展にお力添えをお願い致します。

歓迎ミーティング

初雪体験

金沢で金箔貼体験

ゆのくにの森

研究実施風景

成果報告会、終了式
令和7年1月24日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/01/30-1.html人間情報学研究領域のホ准教授のインタビュー記事がJST「サイエンスウィンドウ」に掲載されました
人間情報学研究領域のホ アン ヴァン准教授のインタビュー記事が、科学技術振興機構(JST)が運営するウェブマガジン「サイエンスウィンドウ」に掲載されました。
ホ准教授が取り組む、シリコンなどの柔らかい素材を使用した"ソフトロボット"の研究内容のほか、研究者としてのキャリアや、本学の研究環境についても紹介されています。ぜひご覧ください。
インタビュー記事はこちら(外部リンク)
JST Science Portal「サイエンスウィンドウ」特集記事【海を越えてきた研究者たち】
柔らかいロボットで人と協働する社会を
https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/sciencewindow/20230215_w01/index.html
「サイエンスウィンドウ」は、科学技術振興機構(JST)が運営する、魅力あふれる科学の取り組みを分かりやすく紹介するWebマガジンです。多くの方にとって科学技術が身近なものになるよう、科学と暮らしの関係にフォーカスした情報をタイムリーに発信しています。
令和5年2月17日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2023/02/17-1.html物質化学フロンティア研究領域の谷池教授の研究課題がJST「未来社会創造事業」に採択
物質化学フロンティア研究領域の谷池 俊明教授らが提案した研究課題が、科学技術振興機構(JST)の「未来社会創造事業」(探索加速型)に採択されました。
「未来社会創造事業」は、探索加速型と大規模プロジェクト型の2つのアプローチで構成され、科学技術により「社会・産業が望む新な価値」を実現する研究開発プログラムです。経済・社会的にインパクトのある目標を定め、基礎研究段階から実用化が可能かどうか見極められる段階(概念実証:POC)に至るまでの研究開発を実施します。
探索加速型は、研究開発を探索研究から本格研究へと段階的に進めるもので、探索ステージ(※)の研究期間は2年6か月となります。
今年度は、221件の応募の中から、26件の採択課題が決定され、谷池教授の提案は、重点公募テーマ「革新的な知や製品を創出する共通基盤システム・装置の実現」において採択されました。
※本事業では、ステージゲート方式を導入しています。これは研究開発を複数のステージに分け、各ステージでの評価に基づいて研究開発課題の続行または廃止を決定する仕組みです。
*詳しくは、JSTホームページをご覧ください。
■研究課題名
超広域材料探索を実現する材料イノベーション創出システム
■研究概要
材料開発にかつてない難度と速度が要求される現在、我が国の研究開発現場は、研究のグランドデザインを見直す基盤技術を欠いており、苦境に立たされています。本研究開発では、ハイスループット実験やデータ科学技術を基盤とし、広大な材料空間から前知見を必要とすることなくシーズを創出する超高効率な方法論、「材料イノベーション創出システム」を開発し、その社会普及やオープンイノベーションを通して我が国のあらゆる材料研究開発現場の生産性・創造性を革新します。
令和4年9月27日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2022/09/27-1.html知能ロボティクス領域のホ准教授の研究課題がJST「研究成果最適展開支援プログラム (A-STEP)」に採択
知能ロボティクス領域のホ アン ヴァン准教授が提案した研究課題が、科学技術振興機構(JST)の「研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)トライアウトタイプ:with/postコロナにおける社会変革への寄与が期待される研究開発課題への支援」に採択されました。
「A-STEPトライアウト」は、大学等の研究成果に基づいた技術の実現可能性を検証する公募型の研究開発費支援制度(研究費支援)と、マッチングプランナーによる産と学のマッチングや事業化に向けての研究開発活動の支援(人的支援)により、本格的な産学共同研究開発への移行へつなぐプログラムです。
今回採択された「トライアウトタイプ:with/postコロナにおける社会変革への寄与が期待される研究開発課題への支援」は、「with/postコロナ社会の変革」や「社会のレジリエンス向上」を含めた社会課題の解決に資する、大学等の研究成果に基づいた、開発ニーズを持つ企業などが着目する技術の実現可能性を検証するための試験研究を、令和3年度公募を前倒しする形で、A-STEPトライアウトの形式を利用し、「トライアウトタイプ」として実施し、民間企業の投資意欲を刺激するとともに、with/postコロナ社会に資する新規性と経済的なインパクトを有する研究開発成果の社会的実装を加速することを目指します。
*詳しくは、JSTホームページをご覧ください。
【研究者名】知能ロボティクス領域 ホ アン ヴァン 准教授
■研究課題名
人手に代わり食品を取扱い可能なユニバーサルロボットハンドの開発
■研究概要
本研究は、様々な食品を、1つのロボットハンドで取り扱うことが可能となることで、設置やメンテナンスのコストを削減し、またロボットの稼働率を高めることを目指しています。そのため、柔らかい指先を模した機構や触覚センシングなどの独自技術を統合し、把持力を発揮する剛性と、壊れやすい食品を傷つけないソフトな接触を両立するロボットハンドを実現します。
令和3年4月13日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2021/04/13-2.html環境・エネルギー領域の桶葭准教授の研究課題がJST「創発的研究支援事業」に採択
環境・エネルギー領域の桶葭 興資准教授が提案した研究課題が、科学技術振興機構(JST)の2020年度「創発的研究支援事業」に採択されました。
「創発的研究支援事業」は、多様性と融合によって破壊的イノベーションにつながるシーズの創出を目指す「創発的研究」を推進するため、既存の枠組みにとらわれない自由で挑戦的・融合的な多様な研究を、研究者が研究に専念できる環境を確保しつつ原則7年間(途中ステージゲート審査を挟む、最大10年間)にわたり長期的に支援するものです。
採択後は研究者の裁量を最大限に確保し、各研究者が所属する大学等の研究機関支援の下で、創発的研究の遂行にふさわしい適切な研究環境が確保されることを目指します。また、創発的研究を促進するため、個人研究者のメンタリング等を行うプログラムオフィサーの下、個人研究者の能力や発想を組み合わせる「創発の場」を設けることで、創造的・融合的な成果に結びつける取組を推進します。
*詳しくは、JSTホームページをご覧ください。
【研究者名】
環境・エネルギー領域 桶葭 興資 准教授
■研究課題名
DRY & WET:界面分割法による多糖の再組織化技術
■研究概要
本研究では多糖の再組織化技術の確立を目指し、独自に見出した「界面分割法」によって物質拡散やエネルギーの方向制御材料を創製します。特に、水との歴史が長い生体高分子「多糖」に着目し、乾燥環境下で形成する幾何学パターンについて系統的に探求するとともに、階層的な秩序化法則を解明します。21世紀のネイチャーテクノロジーを創発するためにも、材料工学、物理、化学、および数理の観点から挑戦します。
令和3年2月3日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2021/02/04-1.html科学技術振興機構(JST)「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)」に3件が採択
科学技術振興機構(JST)の「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)産学共同(育成型)」及び「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)トライアウト」に本学から以下の3件の研究課題が採択されました。
A-STEPは、大学・公的研究機関等で生まれた科学技術に関する研究成果を国民経済上重要な技術として実用化することで、研究成果の社会還元を目指す技術移転支援プログラムで、大学等が創出する社会実装志向の多様な技術シーズの掘り起こしや、先端的基礎研究成果を持つ研究者の企業探索段階からの支援を、適切なハンズオン支援の下で研究開発を推進することで、中核技術の構築や実用化開発等の推進を通じた企業への技術移転を行います。
また、大学等の研究成果の技術移転に伴う技術リスクを顕在化し、それを解消することで企業による製品化に向けた開発が可能となる段階まで支援することを目的とし、研究開発の状況に応じて、リスクの解消に適した複数のメニューを設けています。
*詳しくは、JSTホームページをご覧ください。
「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)産学共同(育成型)」
- 研究課題名:高感度FETと等温増幅法によるウイルス・病原菌センサー開発
- 研究課題名:分離回収可能なタンパク質凝集抑制ナノ構造体
- 研究概要:機能性タンパク質の凝集抑制高分子ナノ構造体を創生し、バイオ医薬品の製造効率の向上を目指すとともに、長期保存、安定化剤としての応用展開を目指す。バイオ医薬品は、製造工程において凝集などによる効率低下や長期保存性が問題となっている。我々は双性イオン高分子がタンパク凝集抑制などの安定化作用を示すことを報告してきている。本申請ではこの化合物の分子設計の最適化を行い、磁性ナノ粒子やナノゲルの様なナノ構造体とする事で、分離回収可能な保護デバイスを創出する。この高分子は、凝集してしまったタンパク質をリフォールディングする事も可能であり、応用面のみならず学術面からの重要性も高い。
- 採択にあたって一言:世界の医薬品の主流が低分子医薬品からバイオ医薬品へシフトしている中で、抗体医薬などの安定性の問題を解決するための凝集抑制高分子の開発を行っています。今回採択された研究課題では、添加した状態でタンパク質医薬品を安定化させ、必要な時には完全に分離回収できる安全かつ高性能な凝集抑制構造体を開発します。この成果により、これまで不安定で産業化できなかった効果の高いバイオ医薬品の開発やその長期保存技術に貢献したいと考えています。
「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)トライアウト」
- 研究課題名:襲雷予測システムのためのグラフェン超高感度電界センサの開発
- 研究概要:雷の事故による世界の死者は年間2万4千人にのぼり、我が国の電気設備における雷被害額は年間2千億円にのぼっている。雷雲の接近により、地表では電界が発生し、変化する。従って、正と負の電界センシングが雷の予測に極めて重要である。既存の超小型電界センサは、極性判定ができないため、これまで、雷に伴う事故について、落雷後の分析はあるが、落雷前の検知は出来ていなかった。グラフェン電界センサは負の電界を検出することができ、超高感度化と正・負が実現できれば、襲雷を予測することができる。
- 採択にあたって一言:襲雷を予測するためには、ピンポイント性、リアルタイム性が要求されます。今回、グラフェン電界センサの超高感度化の研究を進め、音羽電機工業株式会社と共同で、学校、消防、自治体などに襲雷予測システムを設置し、地域社会の持続的な発展に貢献していきたいと思います。
令和2年11月20日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2020/11/20-1.htmlパターン形成:分割現象における「対称性の破れ」を実証

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北陸先端科学技術大学院大学 科学技術振興機構(JST) |
パターン形成:分割現象における「対称性の破れ」を実証
【ポイント】
- 水の蒸発によって現れるパターン形成「界面分割現象」の新たな特徴を発見
- ポリマー分散液の蒸発界面が複数に分割するとき、「対称性の破れ」が現れることを実証
- 生体組織など自然界に見られる非対称なパターン形成の理解に有用
北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野稔、石川県能美市)サスティナブルイノベーション研究領域のグエン チキムロク大学院生(博士後期課程)、桶葭興資准教授らは、ポリマーが水に分散した粘性流体から現れる散逸構造[用語解説1]「界面分割現象」において、対称性の破れ[用語解説2]を実証した。これまで、界面[用語解説3]で起こる幾何学変形が、時間とともにどう進んでいくかは、不明な点が多かった。今回、明確な境界条件のもと、確率統計を通した解析を進めた結果、分割時に現れる核の位置に、空間的な「対称性の破れ」が生じることが明らかになった。これは、生体組織など自然界に見られる非対称なパターン形成の理解に有用である。 |
【研究概要】
自然界には様々な幾何学パターンがあり、例えば雪の結晶の形は、気温と水蒸気の量で多様に変化する。また、乾燥環境は水の蒸発を引き起こし、生物であればその成長過程で非対称なパターンをつくる。これまで、この幾何学性や非対称性について、数理的な解釈がなされてきたものの、物理化学的実験に基づいた再現はなされてこなかった。一方、桶葭准教授らの研究グループはこれまでに、ポリマー水分散系の蒸発界面に着目し、散逸構造「界面分割現象」を報告してきた (※1)。これは、ポリマー水溶液などの粘性流体を明確な境界のある有限空間から乾燥環境下におくと、一つの蒸発界面が複数の界面に分割される幾何学化現象である。ここで、空間軸の一つを1ミリメートル程度の隙間にすることで毛管現象[用語解説4]の物理条件が制御された空間となる。さらに、一定温度下で水の蒸発を一方向になるよう設定すると、蒸発界面直下の濃密なポリマーの密度がゆらぎ、複数の特異的位置でポリマーが析出して界面分割する。具体的には、多糖[用語解説5]の水溶液を乾燥環境下におくと、まるで界面から芽が出るようにセンチメートル単位で多糖が析出し界面が複数に分割される。ここでは、ミクロ構造の秩序化と同時に、マクロなパターンが現れることが分かっていた。しかし、非平衡で開放的な蒸発界面から引き起こされる実際の分割現象は、核形成位置の平均的情報は得られるものの、その不確定さのため複数の核形成メカニズムについては未解明な特徴が多かった。
※1. https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2023/09/22-1.html
図. 界面分割現象における「対称性の破れ」: A. 空間軸の一つとしてセル幅を大きくしていくと、分割現象の特徴が現れる概念図。界面がゆらぎ、対称性が破れ、そして水中に分散していたポリマーが析出する核を非同期に形成する。B. 同一条件で得られる異なる分割(二分割、もしくは三分割)と、セル幅に対する核形成位置のデータ。C. 対称性の破れを加味した分岐モデル。核1と核2とは、タイミングがずれて発生する(時間的に同期していない)。 |
そこで今回、ポリマー分散液の一つの蒸発界面が、二つ、もしくは三つに分割される空間条件に焦点をあて、その核形成位置を詳細に検討した(図A)。確率統計論を通した界面科学的な解析から、それぞれの分割数に対して、「対称性の破れ」と「非同期性」が現れ、相互に関係し合う特徴であることが分かった。核の位置については平均化による統計評価ではなく、結果に対する場合分けを通し、特徴的な「ずれ」を評価した(図B)。すると、分割点の位置には偏りがあり、セル幅に対して均等に半分、もしくは均等に三分の一に分割するわけではない、という基本原理が明らかになった。実際、二分割される場合、核はセル幅の中心ではなく、中心からずれた位置に形成される傾向となった。この「ずれ」は、セル幅を少しずつ大きくすると顕著に現れ、三分割される場合、2番目の核形成が起こるタイミングや位置に大きく影響し、非同期性として現れた。この「対称性の破れ」と「非同期性」は、時間発展の現象理解に重要である(図C)。
また、この核間隔は、ポリマー水溶液の液相と空気の界面における毛管長が影響する。今回の実証実験では、粘性流体として多糖キトサン[用語解説6] の水分散系を用いており、5~8ミリメートル程度の間隔であった。これまでにいくつかの多糖でも分割現象は実証されており、研究グループは現在、様々な化学種・物質群への拡張や現象の特徴的メカニズムの解明を進めている。これらを通して、自然界にも通ずるパターン形成の普遍的理解が期待される。
本成果は、2025年6月4日に科学雑誌「Advanced Science」誌(WILEY社)のオンライン版で公開された。なお、本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 創発的研究支援事業(JPMJFR201G)、日本学術振興会科研費 基盤研究B(JP23K21136)、日本学術振興会科研費 新学術領域研究(JP22H04532)、および公益財団法人旭硝子財団 若手継続グラントの支援のもと行われた。
【今後の展開】
生物を含め自然界には多様な散逸構造が在り、対称性の破れを明確に扱うことは重要である。パターン形成に関する歴史的研究にはチューリングパターン[用語解説7]などがあり、ソフトマテリアルを題材とした研究例も多い。これは、生物における自己組織化の理解や実空間におけるマテリアル設計に重要なテーマと認識されているためでもある。今回のような実検証を通じたパターン形成の理解が進めば、今後、高分子科学、コロイド科学、界面科学、材料科学、流体力学、非平衡科学、生命科学などの分野への進展に留まらない。実時空間と仮想時空間を通した数理科学、シミュレーション、データサイエンスなどとの融合によって、パターン形成の理解と材料設計に有用と期待される。
【論文情報】
掲載誌 | Advanced Science (WILEY) |
題目 | Symmetry breaking in meniscus splitting: Effects of boundary conditions and polymeric membrane growth |
著者 | Thi Kim Loc Nguyen, Taisuke Hatta, Koji Ogura, Yoshiya Tonomura, Kosuke Okeyoshi* |
DOI | 10.1002/advs.202503807 |
掲載日 | 2025年6月4日 |
【用語解説】
令和7年6月4日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2025/06/04-1.html二次元格子をひねって重ねると一次元超格子が出現 ――二次元原子層物質が一次元物性研究の新しいプラットフォームに――

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東京大学 北陸先端科学技術大学院大学 大阪大学 科学技術振興機構(JST) |
二次元格子をひねって重ねると一次元超格子が出現
―― 二次元原子層物質が一次元物性研究の新しいプラットフォームに ――
【ポイント】
- シート状の原子層二枚を、特定の角度に向きをずらして重ねると、一方向に縞模様を持つ一次元モアレ超格子構造が形成できることを発見しました。
- 従来のモアレ超格子は原子層の構造と類似の二次元の周期性を持ちますが、本研究では、一次元の周期性しか持たない新しいコンセプトのモアレ超格子を提案・実証しました。
- モアレ超格子による原子層の性質の人工制御物性変調や、一次元性ならではの異方性の高い新奇物性研究の新しいプラットフォームになることが期待されます。また、素子応用に向けた研究の発展にも寄与することが期待されます。
二次元原子層WTe2のツイスト積層による一次元モアレ超格子の形成
東京大学 生産技術研究所の張 奕勁 助教と町田 友樹 教授らの研究グループは、北陸先端科学技術大学院大学 ナノマテリアル・デバイス研究領域の大島 義文 教授および高村 由起子 教授の研究グループ、大阪大学大学院 理学研究科の越野 幹人 教授の研究グループと共同で、原子層物質(注1)の人工ツイスト二層構造(注2)において一次元の周期性を持つモアレ超格子(注3)が実現できることを明らかにしました。 本研究では、二テルル化タングステン(WTe2)の原子層二枚を使用し、それぞれの結晶方位に角度差(ツイスト角)を付けた状態で人工的に重ね合わせた構造(ツイスト二層構造)を作製し、透過型電子線顕微鏡(TEM)を用いて原子の配列パターンを直接観察しました。一般的にツイスト二層構造で出現するモアレ超格子内の原子配列パターンは二次元の周期性を持って変化しますが、本研究では特定のツイスト角において配列パターンの変化が一次元的になる、すなわち周期性が一方向のみになることを世界で初めて示しました(図1)。また、本モアレ超格子が従来のモアレ超格子とは異なる原理で形成されていることを理論的に突き止めました。一次元性による母物質の物性変調に伴う新奇物性探索の新しい舞台になることが期待されます。 |
図1:透過型電子線顕微鏡を用いたツイスト二層WTe2の原子像観察。
(a)WTe2原子層の模式図。a軸方向とb軸方向で周期性が異なる。(b,c)WTe2原子層二枚をツイスト角62度(b)および58度(c)でツイスト積層させた構造。単独の原子層が持つ周期性と異なる一次元的な周期性が出現する。(d) 試料構造および実験の模式図。h-BNは試料の保護層。(e,f)ツイスト角62度(e)および58度(f)で作成したツイスト二層WTe2試料の原子像。白いスケールバーは10 nm(ナノメートル)。(g,h)62度(g)および58度(f)ツイスト試料の電子回折像。緑と茶色の点がそれぞれの原子層の構造の周期性を示す回折スポット。赤枠(e)と青枠(f)で示された回折スポットのペアがモアレ超格子の周期性を表す。どちらの場合も回折スポットのペアが平行に並んでいることから、モアレ超格子が一方向のみに周期性を持っていることがわかる。青いスケールバーは2 nm-1(ナノメートルインバース)。 |
【発表者コメント:張 奕勁助教の「もしかする未来」】
本研究は偶然の発見から始まりました。パワーポイントの上で結晶構造を二つ重ね、片方をぐるぐる回転させていたところ一瞬縞模様が見えたのがきっかけです。モアレ超格子の原子配列を実際に観察し、また、理論的にその起源と一次元性を示すことができました。カーボンナノチューブなどの一次元物質は低次元特有の現象を示しますが、その特性を残したまま大面積化することは困難でした。今回、ナノチューブよりも面積の大きい原子層物質を用いて一次元構造が作製できたので、今後は一次元性を反映した物性の探索を進めていきたいと思います。
【発表内容】
原子層物質の人工ツイスト積層構造技術は、現在の原子層物質を用いた基礎物性研究の中心的な技術の一つです。異なる原子層物質を積層する場合だけでなく、同一の原子層物質を積層する場合であっても、それぞれの結晶方位をずらして積層(ツイスト積層)すると、元の物質の持つ周期性よりも大きな周期性を持つモアレ超格子が出現します。モアレ超格子が出現することで、元の原子層物質の物性を大きく変調し、新奇物性を誘起することが可能になります。例えば、単層グラフェンをツイスト角1.05度でツイスト積層すると、低温で超伝導転移を誘起できることが知られています。一般的に、モアレ超格子の大きさはツイスト角の増加とともに小さくなるため、これまでの研究は低ツイスト角領域(0度付近)を中心に行われてきました。
この度、本研究チームは、原子層物質二テルル化タングステン(WTe2)を用いた研究から、高ツイスト角でもモアレ超格子が出現し、さらに、特定の角度(62度と58度付近の二点)では一次元的なモアレ構造が出現することを発見しました。WTe2の特徴は、結晶構造が異方的、すなわち、結晶方位によって周期の大きさが異なることです(図1a)。代表的な原子層物質であるグラフェンや二セレン化タングステン(WSe2)は等方的(物理的な性質が方向によって異ならないこと)な結晶構造を持っており、高ツイスト角ではモアレ超格子は出現しません。本研究では、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてツイスト二層WTe2の原子配列パターンを直接観察することで高ツイスト角領域における一次元モアレ超格子を実験的に示しました(図1c,d)。また、構造の周期性を示す電子回折パターン(注4)において、モアレ超格子の周期を示す回折スポットのペアが全て平行になるという特徴を観測しました(図1e,f)。
モアレ超格子の周期性は元の原子層の持つ周期性から説明できますが、従来のモデルでは高ツイスト角領域におけるモアレ超格子を説明できません。本研究では従来のモデルを拡張することで、高ツイスト角領域においてモアレ超格子が出現し、さらに、62度と58度付近でモアレ超格子が一次元になる、すなわち、周期性が一方向のみになることを理論的に示すことに成功しました(図2)。加えて、電子回折パターンのシミュレーションから、実験的に観測された回折スポットペアの特徴(図1e,f参照)が一次元性を示す証拠になっていることを理論的に示すことにも成功しました(図3)。また、一次元モアレ超格子の出現はWTe2に特異な現象ではなく、異方的な結晶構造を持つすべての原子層物質で起こりうる普遍的な現象であることも明らかになりました。
一次元的なモアレ超格子を形成することで、従来の二次元的なモアレ超格子で誘起された物性変調とは異なる変調効果が期待されます。従来、カーボンナノチューブなど一次元物質の持つ物性の研究や素子応用には、無数のチューブを配向させた膜の形成という技術的な障壁がありましたが、人工ツイスト積層構造の一次元モアレ超格子ではマイクロメートルスケールで一次元構造が広がるため、基礎研究のみならず素子応用に向けた研究の発展にも寄与することが期待されます。
図2:近似三角格子モデルを用いた一次元モアレ超格子の再現。
(a)WTe2原子層の結晶構造。格子ベクトルa1、a2で囲われた長方形がユニットセル(周期一つ分の構造)。W原子とTe原子を区別せず原子位置に多少の動きを許容すると、格子ベクトルl1、l2で定義された三角格子(灰色点線)で近似できる。近似された格子は正三角形ではなく二等辺三角形になっている。(b)近似三角格子をツイスト積層した場合のモアレ超格子。一次元構造が再現されている。 |
図3:人工ツイスト二層WTe2の電子回折パターンのシミュレーション。
従来の低ツイスト角の場合と本研究における高ツイスト角の場合の比較。ベクトルb1、b2はそれぞれ格子ベクトルa1、a2(図2a参照)の周期を示す逆格子ベクトル。黒点と赤点がそれぞれの原子層に由来する原子回折スポット。黒矢印で示された解析スポットのペアがモアレ超格子の周期性(大きさおよび方向)を決定する。低ツイスト角の場合モアレ超格子の周期は様々な方向を向くため、二次元の超格子となる。一方62度と58度付近ではすべて平行になり一方向にしか周期性が存在しないため、一次元の超格子となる。 |
【発表者・研究者等情報】
張 奕勁 助教
町田 友樹 教授
大島 義文 教授
高村 由起子 教授
越野 幹人 教授
【論文情報】
雑誌名 | ACS Nano |
題名 | Intrinsic One-Dimensional Moiré Superlattice in Large-Angle Twisted Bilayer WTe2 |
著者名 | Xiaohan Yang, Yijin Zhang*, Limi Chen, Kohei Aso, Wataru Yamamori, Rai Moriya, Kenji Watanabe, Takashi Taniguchi, Takao Sasagawa, Naoto Nakatsuji, Mikito Koshino, Yukiko Yamada-Takamura, Yoshifumi Oshima & Tomoki Machida* |
DOI | 10.1021/acsnano.4c17317 |
URL | https://doi.org/10.1021/acsnano.4c17317 |
【研究助成】
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「トポロジカル材料科学と革新的機能創出(研究総括:村上 修一)」研究領域における「極性二次元物質とそのヘテロ構造におけるバルク光起電力効果(JPMJPR20L5)」、さきがけ「新原理デバイス創成のためのナノマテリアル(研究総括:岩佐 義宏)」研究領域における「顕微分光による二次元物質デバイスの物性開拓(JPMJPR24H8)」、同 戦略的創造研究推進事業 CREST「原子・分子の自在配列・配向技術と分子システム機能(研究総括:君塚 信夫)」研究領域における「原子層のファンデルワールス自在配列とツイスト角度制御による物性の創発(JPMJCR20B4)」、日本学術振興会 科学研究費助成事業 学術変革領域(A)「2.5次元物質科学:社会変革に向けた物質科学のパラダイムシフト」(課題番号:JP21H05232, JP21H05233, JP21H05234, JP21H05235, JP21H05236)、および文部科学省 マテリアル先端リサーチインフラ事業(課題番号:JPMXP1223JI0033)の支援により実施されました。
【用語解説】
原子層物質とは、原子1個または数個分の厚みしかない層状の物質。原子間力で層間が弱く結合しており、二次元物質とも呼ばれる。層状構造を持つ単結晶から、スコッチテープなどの粘着性のテープを貼り付けて剥がすことで得られる(テープに付着している)、数ナノメートル以下まで薄くした二次元シート状の薄膜として作製する。代表例としてグラフェン、二硫化モリブデンなどが挙げられる。
原子層を二つ用意し、それぞれの結晶方位の間に相対的な角度差をつけて人工的に重ねた構造。
複数の原子層物質を重ねた際に出現する新たな周期構造。元の原子層物質の構造が持つ周期とは異なる周期性を持つ。
物質に電子線を照射した際に観察される干渉パターン。物質の構造の持つ対称性や周期性を反映したパターンが出現する。
令和7年3月28日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2025/03/28-1.html夢のマイホームを細菌が手に入れたら・・・細菌の抗がん性能が劇的に向上することを発見

夢のマイホームを細菌が手に入れたら・・・
細菌の抗がん性能が劇的に向上することを発見
【ポイント】
- 水槽用ろ過材を使って細菌を培養すると細菌の薬剤耐性乳腺がんモデルマウスに対する抗がん活性と生体適合性が劇的に向上することを発見
- ろ過材に含まれる微量の光触媒(酸化チタン)が細菌の抗がん性能を高めることを発見
- 酸化チタンを内包した多孔質高分子複合材料を基材とするAUNの簡便な培養方法の樹立に成功
- 大動物を用いた安全性評価によってAUNの高い生体適合性を実証
北陸先端科学技術大学院大学(学長・寺野 稔、石川県能美市)物質化学フロンティア研究領域の都 英次郎教授と宮原 弥夏子大学院生(博士後期課程、JAIST SPRING研究員)らは、ろ過材を使って培養した細菌の薬剤耐性乳腺がんモデルマウスに対する抗がん活性と生体適合性が向上することを発見した。また、ろ過材に含まれる微量の光触媒(酸化チタン)が細菌の抗がん性能を高めるというメカニズムを見出したことで、酸化チタンを内包した多孔質高分子複合材料を基材とするAUNの簡便な培養方法の樹立に成功した。さらに、大動物を用いた安全性評価によってAUNの高い生体適合性を実証した。 |
【研究背景と内容】
人生で一番大きな買い物といえば、家を思い浮かべる方が多いだろう。もしこの夢のマイホーム(水槽用ろ過材)を細菌に与えてみると抗がん作用がどうなるのか、本研究は、そんな遊び心からスタートした。
アクアリウム愛好家の間では、金魚や熱帯魚の飼育における水槽内の水質浄化にろ過材を使用することが多い。ろ過材の役割とは、水質を汚染するアンモニアを分解する細菌の繁殖を助ける"住処(家)"を提供することであり、様々な形や種類のろ過材がペットショップ等で安価に入手することができる。なお、これまでろ過材を使用して培養した細菌を水質浄化以外の目的で利用されることは本研究を除いて未だかつて報告がない。
近年、低酸素状態の腫瘍内部で選択的に集積・生育・増殖が可能な細菌を利用したがん標的治療に注目が集まっている。都教授の研究グループは、腫瘍組織から強力な抗腫瘍作用のある複数の細菌[A-gyo(阿形)、UN-gyo(吽形)、AUN(阿吽)と命名]の単離に世界にさきがけて成功している[プレスリリース(阿吽の呼吸で癌を倒す!-灯台下暗し:最強の薬は腫瘍の中に隠されていた-)https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2023/05/08-1.html]。なかでもAUN(A-gyoとUN-gyoからなる複合細菌)は、様々ながん腫に対して高い抗腫瘍活性を示すことを見出している。将来の臨床試験を見据えて、当該複合細菌AUNの簡便な培養方法の構築が必要不可欠である。
本研究では、当該腫瘍内複合細菌AUNの抗がん性能を高めるべく、異なる表面構造を有する複数の多孔質ろ過材[セラミック、ガラス、麦飯石、ポリプロピレン(PP)]を使用した細菌培養を試みた。なお、AUNの培養には、構成細菌の一つであるUN-gyoが光合成細菌であるため、ハロゲンランプ等を用いる光照射が必須である。
各種ろ過材を用い、光照射下で培養したAUNを、薬剤耐性乳腺がん細胞株(EMT6/AR1)を背面に移植したマウスの尾静脈に投与したところ、セラミックス製ろ過材で培養したAUNが顕著な抗がん作用と有意なマウス生存率を示すことがわかった。一方、他のろ過材(麦飯石、ガラス、PP)で培養したAUNとろ過材を用いない従来のAUNでは、3日以内にマウスが死亡した。また、コントロール群(AUN未投与群)は経時的に明らかな腫瘍体積増加を示し、すべてのマウスが13日以内に死亡した。
材料表面上の材質や多孔質構造が、細菌の活動を含む細胞生理機能に影響を与えることがよく知られているものの、「いったい何故、セラミックス製ろ過材だけがAUNの抗がん作用や生体適合性を高めるのか」、本研究では、その謎の解明に迫った。
まず、4種類のろ過材の元素分析を行ったところ、無機材料で構成されるろ過材(セラミックス、麦飯石、ガラス)では、元素組成が良く似ており、主成分が二酸化ケイ素(SiO2)であることがわかった。一方、PP製のろ過材は91%割合のPPで構成されていた。また、セラミックス製のろ過材と麦飯石には、細菌やウイルスといった病原性微生物を排除するのによく利用される光触媒[酸化チタン(TiO2)]が微量に含まれていることがわかった。従って、「このTiO2がAUNの抗がん性能の向上に寄与しているのではないか」、という仮説を立てた。
本仮説を検証するために、TiO2を内包する多孔質のポリジメチルシロキサン(PDMS)(TiO2-PDMS)から成るろ過材を調製した。予想した通り、TiO2-PDMSろ過材を用いて培養したAUN(AUN@TiO2-PDMS)は、セラミックス製ろ過材を用いて培養したAUNと同様に単回投与で腫瘍が完全に消失した(図1A、1B)。比較対象として TiO2を含有していないPDMS 製の足場材料で培養した AUN では、2日以内にマウスが死亡することがわかった。一方、コントロール群(AUN未投与群)は腫瘍退縮や生存率の改善に全く効果が見られなかった。また、AUN@TiO2-PDMSの優れた抗がん作用により、マウスの生存率も有意に延長された(図1C)。以上の結果から、光触媒TiO2を内包した多孔質高分子複合材料によってAUNの抗がん性能を大幅に改善できることがわかった。
図1.AUN@TiO2-PDMSの抗腫瘍効果に係る写真(腫瘍が完全消失)(A)、
腫瘍体積の経時変化(B)、ならびにマウス生存率(C)。
次に、何故、TiO2-PDMS複合材料がAUNの治療機能を向上できるのか、そのメカニズムを明らかにするために各種ろ過材でAUNを培養した後の細菌濃度を比較検証した(図2A)。この結果、TiO2-PDMSは、5日間培養した後のAUNの濃度を有意に減少させた。実際、TiO2を含有する3種類のろ過材(TiO2-PDMS、セラミックス製ろ過材、麦飯石)は、ハロゲンランプの光を3時間照射したところ細菌を弱体化させる効果のある活性酸素種(ROS)を検出した(図2B)。以上の結果をまとめると、光照射したTiO2-PDMS複合材料から発生するROSは、AUNの生体機能に影響を与えるため、毒性の低減化を引き起こしていると考えられる。
図2. 各種ろ過材で培養した5日後の細菌濃度(A)と各種ろ過材から発生したROS(B)
次に、このようなAUNの高い抗腫瘍メカニズムを解析するために定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)アッセイ、フローサイトメトリー解析、および免疫組織化学(IHC)染色を用いてAUN@TiO2-PDMSを静脈内投与した24時間後の固形腫瘍内の免疫細胞やサイトカインの挙動を調査した。この結果、AUN@TiO2-PDMSを投与すると腫瘍内の炎症性サイトカインTNF-αが増加し、T細胞、NK細胞、およびマクロファージが活性化されることが明らかになった(図3A、3B)。また、ヘマトキシリンとエオシン(H&E)染色では、非治療群と比較して、AUN@TiO2-PDMSの強力な抗がん効果による腫瘍組織の破壊も確認された(図3C)。さらに、AUN@TiO2-PDMS投与後の腫瘍切片におけるアポトーシスマーカー(カスパーゼ-3および末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ[TdT]を介した2'-デオキシウリジン、5'-三リン酸[dUTP]ニックエンドラベリング[TUNEL])およびTNF-α染色により、腫瘍内では大規模なアポトーシスが発現しており、強い炎症反応が誘発されていることもわかった(図3C)。以上の結果より当該薬効メカニズムを図3Dにまとめる。最後に、大型動物モデル(ビーグル犬)を用いたAUN@TiO2-PDMSの安全性評価(血液学的、組織学的検査)を実施したところ、複合細菌AUN投与による重篤な副作用は無いことがわかった。
図3. 免疫細胞と炎症系サイトカインの発現挙動に係るqPCRの結果(A)と
フローサイトメトリーの結果(B)、ならびに組織学的染色の結果(C)。(D)薬効メカニズム。
本研究は、将来の悪性乳癌の臨床治療に向けて光触媒を内包したろ過材がAUNの機能増強のための有望な材料の一つに成り得ると期待している。
本成果は、2024年10月7日に生物・化学系のトップジャーナル「Chemical Engineering Journal」誌(エルゼビア社発行)のオンライン版に掲載された。なお、本研究は、文部科学省科研費 基盤研究(A)(23H00551)、文部科学省科研費 挑戦的研究(開拓)(22K18440)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 研究成果最適展開支援プログラム (A-STEP)(JPMJTR22U1)、JST次世代研究者挑戦的研究プログラム(未来創造イノベーション研究者支援プログラム)(JPMJSP2102)、公益財団法人発酵研究所、公益財団法人上原記念生命科学財団、ならびに本学超越バイオメディカルDX研究拠点、本学生体機能・感覚研究センターの支援のもと行われたものである。
【論文情報】
掲載誌 | Chemical Engineering Journal(エルゼビア社発行) |
論文題目 | Photocatalytic scaffolds enhance anticancer performances of bacterial consortium AUN |
著者 | Mikako Miyahara, Yuki Doi, Naoki Takaya, Eijiro Miyako* |
掲載日 | 2024年10月7日にオンライン版に掲載 |
DOI | https://doi.org/10.1016/j.cej.2024.156378 |
令和6年10月9日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2024/10/09-1.html大学見本市2024~イノベーション・ジャパンに本学が出展
8月22日(木)・23日(金)の2日間、東京ビッグサイト(東京都江東区有明)で国内最大規模の産学マッチングイベントである「大学見本市2024~イノベーション・ジャパン」が開催されます。
本学からは大学等シーズ展示に松見教授、JST採択課題出展ブースに栗澤教授が出展します。
ご来場の際にはぜひお立ち寄りください。
日 時 | 8月22日(木) 10時00分~17時00分 8月23日(金) 10時00分~17時00分 |
会 場 | 東京ビッグサイト 南展示棟 南1ホール(東京都江東区有明3丁目11番1) |
大学等 シーズ展示 |
先端科学技術研究科 融合科学共同専攻 松見 紀佳 教授 【小間番号】 C-024 |
JST採択課題 出展ブース (A-STEP) |
先端科学技術研究科 物質化学フロンティア研究領域 栗澤 元一 教授 【小間番号】J-019 |
詳細はこちらをご覧ください。
・大学見本市2024~イノベーション・ジャパン公式サイト
https://innovationjapan.jst.go.jp/
科学技術振興機構のさくらサイエンスプログラムを実施
物質化学フロンティア研究領域の長尾祐樹教授のマレーシアとの交流計画が科学技術振興機構(JST)の「国際青少年サイエンス交流事業 さくらサイエンスプログラム」に採択されたことを受け、10月5日~10月14日の日程でマレーシア工科大学本校、マレーシア日本国際工科院(MJIIT)、マレーシア工科大学マラッカ校及びマレーシアパハン大学から12名の教員・研究者・大学院生を本学に受け入れました。
「国際青少年サイエンス交流事業 さくらサイエンスプログラム」は、産学官の緊密な連携により、諸外国・地域の青少年を我が国に招へいし、我が国の青少年との科学技術分野の交流を行う事業です。これを通して、
①科学技術イノベーションに貢献しうる優秀な人材の養成・確保
②国際的頭脳循環の促進
③日本と諸外国・地域の教育研究機関間の継続的連携・協力・交流
④科学技術外交にも資する日本と諸外国・地域との友好関係の強化
に貢献し、ひいては、日本及び世界の科学技術・イノベーションの発展に寄与することを目的とします。
参考:https://ssp.jst.go.jp/outline/detail/
本学はアジア諸国の大学・研究機関との学術的交流を強く推進しているところであり、将来的に優秀な学生を受け入れるためにマレーシアにおける大学・研究機関においても交流を進めています。
本交流の趣旨はマレーシアの環境・エネルギーに関する技術交流を核に、国際共著論文成果に繋がる大学間連携を強化することができるように計画されました。本学教員による研究指導等を実施し、最終日には成果報告会が行われました。また、金沢のひがし茶屋街での金箔体験や、ゆのくにの森での蒔絵体験を通して日本的な文化や美にも触れ、さらに、東京の日本科学未来館を訪問して日本の多様な先端科学技術を紹介しました。
本交流プログラムはこれらの経験を通して招聘者の将来の日本への留学を促し、本学が招聘者の母国やアジアの科学技術の進歩や発展に貢献することを目指しています。
■実施期間
令和5年10月5日~令和5年10月14日
■研究テーマ
環境・エネルギーに関する技術交流
■本交流について一言
本計画をサポートいただきましたJSTに御礼申し上げます。また、本学受入教員の松見教授、前園教授、西村准教授、本郷准教授、実験や事務手続等をサポートして下さった安准教授をはじめとする10名以上の教職員や学生の皆様に御礼申し上げます。ありがとうございました。引き続きマレーシアとの交流の発展にお力添えをお願い致します。

金沢で金箔体験

ゆのくにの森での蒔絵体験

計算科学チュートリアル

日本科学未来館を訪問
令和5年10月17日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2023/10/17-1.html物質化学フロンティア研究領域の都教授らの総説論文がCell Biomaterialsに掲載
物質化学フロンティア研究領域の都 英次郎教授らの総説論文「生きた医薬(リビングドラッグ):治療応用における素晴らしい進化(Living Drugs: A Wonderful Evolution for Therapeutic Applications)」が、国際学術誌 Cell Biomaterials(Nature姉妹誌と同等レベルに格付けされているCell Pressの新興フラッグシップジャーナル)に掲載されました。
なお、本研究は、文部科学省 科学研究費補助金 基盤研究A(23H00551)、同 挑戦的研究(開拓)(22K18440、25K21827)、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)(JPMJTR22U1)、同 大学発新産業創出基金事業 スタートアップ・エコシステム共創プログラム(JPMJSF2318)、同 次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)未来創造イノベーション研究者支援プログラム(JPMJSP2102)、本学超越バイオメディカルDX研究拠点ならびに生体機能・感覚研究センターの支援のもと行われたものです。
掲載誌 :Cell Biomaterials
論文題目:Living Drugs: A Wonderful Evolution for Therapeutic Applications
著者 :Soudamini Chintalapati, Nina Sang, Mikako Miyahara, Seigo Iwata, Kei Nishida, Eijiro Miyako*
掲載日 :2025年9月8日にオンライン版に掲載
DOI :https://doi.org/10.1016/j.celbio.2025.100193
■論文概要
本総説では、細菌・ウイルス・ファージなどの「生きた医薬(Living Drugs)」が持つ治療応用の最前線と将来展望について包括的に解説しています。特に、がんや多剤耐性菌感染症において、これらの生物を利用した革新的治療法が急速に進展しており、免疫応答の回避、標的精度の向上、複合療法モデルの構築など、多様な技術的ブレークスルーが紹介されています。さらに、臨床応用に向けた課題として、投与方法や安全性評価、規制面での対応などが議論され、治療カテゴリーごとの将来方向性や研究優先課題についても提案しています。
本総説では、都研究室が開発を進めている2種の細菌による新たながん治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」(プレスリリース参照)を用いた新規がん療法についても取り上げています。AUNは低酸素性腫瘍微小環境に選択的に集積・増殖し、免疫依存性と免疫非依存性の両経路を介して腫瘍を攻撃する自然由来の細菌療法です。特に、免疫不全状態でも効果を発揮し、腫瘍内血管の選択的破壊や細菌変形などによる直接的な腫瘍壊死誘導が確認されています。遺伝子改変を必要とせず高い安全性を維持できることから、臨床応用への展望が広がっています。
本総説は、Living Drugs研究の現状と課題、そして都研究室発のAUN療法を含む次世代治療の可能性を示す重要な指針となるものです。
プレスリリース詳細:2種の細菌による新たながん治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」を開発 ―免疫不全状態でも機能が期待されるがん治療に向けて―
令和7年9月9日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/09/09-1.html人と安全に協働できる"ソフトロボットリンク"を開発 触れてわかる、近づいて感じる-近接覚と触覚のハイブリッドセンシング技術「ProTac」

人と安全に協働できる"ソフトロボットリンク"を開発
触れてわかる、近づいて感じる-近接覚と触覚のハイブリッドセンシング技術「ProTac」
【ポイント】
- 透明・不透明を切り替えられるソフトスキンと視覚センサーを用い、近接センシングとスキン変形の解析による触覚センシングを備えたマルチモーダルソフトセンシング技術「ProTac」を開発
- 市販ロボットアームにも取り付け可能
- 従来の剛体リンクでは困難とされる、接触の多い環境下での動作制御が可能
- 農業や介護など、人とロボットが協働する作業への応用に期待
- AI駆動型センシングフュージョン技術
北陸先端科学技術大学院大学 ナノマテリアル・デバイス研究領域のクアン・ハン・ルウ研究員、ホ・アン・ヴァン教授らの研究チームは、透明・不透明を電圧により切り替えられるソフト素材と視覚センシング技術を融合し、近接・触覚の両モードを切り替えて検知できるマルチモーダルソフトセンシング技術「ProTac」を世界で初めて開発しました。ProTacを用いたソフトロボットリンクは、周囲の物体を検知する近接センシングとマーカー画像の変化から触覚情報を読み取る触覚センシングを一台で切り替えて行うことができ、人との接触が多い環境で安全に動作制御が可能です。なお、本研究成果は、2025年7月28日にIEEE Transactions on Robotics(T-RO)に掲載されました。 |
【研究概要】
近年、人と同じ空間で安全かつ柔軟に作業できるロボットのニーズが高まっています。これに応えるため、私たちの研究チームは、ソフト機能材料と画像や映像から情報を取得・解析する技術である視覚センシング技術を融合した新しいマルチモーダルソフトセンシング技術「ProTac」(図1)を開発しました。
ProTacは、電圧をかけることで透明・不透明を切り替えられるポリマーディスパースド液晶(PDLC)フィルム注1)と内蔵カメラを組み合わせています。透明時には視界を活用して周囲の物体の近接を検知し、不透明時にはマーカー画像の変化から触覚情報の取得を実現します。また、最新の深層学習ベースの視覚アルゴリズムを用いることで、安定したリアルタイムセンシングが可能です。
図1:ProTacのイメージ図
この技術を用いたソフトロボットリンクは、市販のロボットアームやカスタム製作されたソフトロボットにも取り付け可能で、障害物検知に基づく速度調整や接触時の反射動作など、多様な制御戦略を実現します。ProTacを備えたソフト多機能センシングアームは、人とロボットが密に連携する場面や、従来の剛体リンクでは困難な動作制御において高い性能を示しました。
今後は、この技術を手足や胴体などロボットの各部位に応用し、高機能なマルチモーダルスキンを備えたヒューマノイドロボットの実現が期待されます。また、農業、家庭サービス、介護分野など、幅広い分野での応用も見込まれます。
【研究資金】
本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金 特別研究員奨励費(24KJ1203)、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)さきがけ(JPMJPR2038)による財政的支援を受けて実施されました。
【論文情報】
掲載誌 | IEEE Transactions on Robotics |
論文タイトル | Vision-based Proximity and Tactile Sensing for Robot Arms: Design, Perception, and Control |
著者 | Quan Khanh Luu, Dinh Quang Nguyen, Nhan Huu Nguyen, Nam Phuong Dam, Van Anh Ho |
掲載日 | 2025年7月28日 |
DOI | 10.1109/TRO.2025.3593087 |
【用語説明】
電圧により透明・不透明を切り替えられる液晶材料。柔軟であり、ディスプレイやスマートウィンドウなどの光の透過を制御する用途に使用される。
令和7年8月22日
出典:JAIST プレスリリース https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2025/08/22-1.html物質化学フロンティア研究領域の都教授らの論文がSpringer Nature Research CommunitiesのBehind the Paperで紹介
物質化学フロンティア研究領域の都 英次郎教授らの最新の論文「2種の細菌による新たながん治療へのアプローチ『AUN(阿吽)』を開発―免疫不全状態でも機能が期待されるがん治療に向けて―」が、Springer Nature Research CommunitiesのBehind the Paperにて紹介されました。研究開発の発端、裏話などが紹介されています。なお、本研究は、文部科学省 科学研究費補助金 基盤研究A(23H00551)、同 挑戦的研究(開拓)(22K18440、25K21827)、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST) 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)(JPMJTR22U1)、同 大学発新産業創出基金事業 スタートアップ・エコシステム共創プログラム(JPMJSF2318)、同 次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING) 未来創造イノベーション研究者支援プログラム(JPMJSP2102)、公益財団法人 発酵研究所、公益財団法人 上原記念生命科学財団、本学超越バイオメディカルDX研究拠点、本学生体機能・感覚研究センターならびに第一三共株式会社の支援のもと行われたものです。
■論文概要
本研究では、2種類の細菌がまるで"阿吽の呼吸"のように精緻に連携しながら、がん細胞を選択的に攻撃するという新たな治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」の開発に成功しました。
研究チームが用いたのは、"AUN(阿吽)"と名付けられた2種の天然細菌:腫瘍内に常在するProteus mirabilis[阿形(A-gyo)]と、光合成を行うRhodopseudomonas palustris[吽形(UN-gyo)]です。この互いに異なる機能を持つ2種の細菌が、それぞれの役割を果たしながら、以下の一連のプロセスを協調的に引き起こし、抗腫瘍効果を示すことが確認されました。まず、がん特有の環境に誘導されて、両細菌はマウス皮下腫瘍モデルにおいて腫瘍の血管やがん細胞を選択的に破壊。これにより、正常組織への影響を最小限に抑えつつ、がん組織だけを効果的に抑制する可能性が示唆されました。さらに、がんが産生する特異的な代謝物の存在下で、片方の細菌(A-gyo)は線維状の構造へと変化。この形態変化により抗腫瘍効果が一段と強化されることが判明しました。興味深いのは、経時的に両細菌の集団構成(ポピュレーション)も動的に変化し、最適な役割分担が自然に形成される点です。加えて、病原性を抑制しながら、重篤な副作用の原因となるサイトカインストームの発生も回避できる可能性があるという点も特徴です。
本研究は、2種の細菌の持つ自然な"協調戦略"を巧みに活用することで、安全かつ効果的ながん治療の新たな道を拓くものです。今後、このメカニズムを応用した新しいがん治療法の社会実装に向けて、スタートアップ創業を計画しています。
プレスリリース詳細:2種の細菌による新たながん治療へのアプローチ「AUN(阿吽)」を開発 ―免疫不全状態でも機能が期待されるがん治療に向けて―
令和7年8月7日
出典:JAIST お知らせ https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/info/2025/08/07-2.html