税関による妨害

8月26日夜 私からMへ

あぁ、ひどい知らせだ。しばらくの間、ショックで動けなかった。君もショックだったろうね。

そうだな、古いピアノの価値は様々だ。大がかりな修復が必要なものは1000ユーロ以下で売られている。話を作り上げてピアノの売却額を切り下げられないだろうか。君は諦めているみたいだけれど。専門家に頼んで、そのピアノの価値は1000とか2000ユーロくらいのものだと言ってもらったらどうだろう。税関の人たちはそういう作り話を信じたふりをしてくれないほど冷血なのかな?

8月26日夜 Mから私へ

問題はピアノの輸送を請け負った業者がピアノの請求書のコピーを税関に渡してしまったことだ。ピアノに保険を掛けるために必要だというので写しを渡したのだが、それが税関の手にも渡ってしまった。今更金額を変えても信じてもらえないだろう。

とりあえず文化遺産局に行って交渉してみる。というのも、自分の家財道具の一部としてピアノを運んでも、無知な税関職員が税を課す恐れがあるからだ。少なくともそういう事態が起きないようにしないとな。

いっそのことトラックで荷物を運んでやろうかとも思ってる。そうすれば税関の目を逃れて荷物を運べるだろうから。とにかく必死になってこの馬鹿げた問題を解決するよ。

8月27日夜 Mから私へ

文化遺産局に行ったが、どうしようもないと言われた。「1884年に作られたものはアンティーク品です。それ以外の何ものでもありえません。」と事務官が言った。今度は弁護士に相談してみる。状況はこんな感じだ。今夜はよく眠ってくれ。

8月27日夜 私からMへ

連絡ありがとう。そうだな、その事務官の言うことはまったくもって正しい。:-< 弁護士に相談に行くなんて、そんな面倒なことになって申し訳ない。どれほど交渉に時間がかかろうと我慢するよ。先ほど、帰国したところだ。家にいる方が寛げる。怯むことなく困難な状況に立ち向かう君の勇気を賞賛する。

8月28日午前 私からMへ

イギリスでのCITES手続きだけど、Pleyel社の証明書があれば問題ないでしょうとのことだった。

8月28日午後 Mから私へ

要点は、マルタの税関がピアノを楽器としてではなくアンティーク品と見なしていることだ。あのピアノには通関規則92012000項(楽器類に関する規定)が適用されるはずだが、税関は規則9706000090項(美術品、収蔵品、およびアンティーク品)を適用するという。その変更に伴い輸出許可が取り消された。文化財保護税を課すだけじゃない、虚偽の税申請をしたから訴えると言われた。

8月28日夜 私からMへ

深刻だな。そんな非道いことになって申し訳ない。いくつか教えてくれ。

  1. ピアノを自分の家財としてイギリスに運んでも文化財保護税を課せられるのか?
  2. そのピアノをマルタ国内で誰かに売っても文化財保護税を課せられるのか?
  3. 虚偽の税申告を咎められたというが、それはピアノを「間違った」項目で申請したからか?
  4. ピアノを売らず自分の家財として所有しつづけても彼らは虚偽申請で訴えるのか?

「虚偽の税申告につき訴える」のは文化財保護税を払わせるために圧力をかけているのだろう。もし文化財保護税をおとなしく払ったら訴えを取り下げるだろうか?

8月28日夜 Mから私へ

回答は以下のようになる。

  1. No. EU内で自分の家財を動かす分には税がかからない
  2. No. そんなことはないよ
  3. Yes. 税関の言い分は、ピアノが楽器としてではなく美術品として申告されるべきだったというものだ。
  4. Yes. それを防ごうと頑張っている。この騒ぎでピアノを売るのが嫌になったと税務官に言ったが、ひねくれた心を持った彼らはそれを税と罰金を逃れるための言い訳としか受け止めていない。

(圧力について)皆、この国の税関はとんでもなく腐敗していると言っている。(文化財保護税をおとなしく払ったら訴えを取り下げるだろうか?)わからない。彼らは虚偽の申請で訴えることと輸出の話は別と見なしている。あたかも「君は嘘をついただろう、だから罰金を払いなさい」と言っているようなものだ。

カフカの小説みたいだな。でもこれは実際に起きている悪夢だ。

8月28日夜 私からMへ

返信ありがとう。どういう状況なのかよくわかったよ。二つの側面があるわけだな。ひとつはピアノをどうするかという問題、もうひとつは税関からつけられた因縁にどう対応するかという問題だね。引っ越しに関してだけど、ピアノはイギリスまで持って行くんだろう?税関の訴えについては防衛しなければならないわけだな?今の時点ではピアノの輸送より、税関の訴えの方が気がかりだというわけ?

(すぐ後のMからの返事:いずれもYESであった)

8月28日夜 私からMへ

状況がだいぶ明確になった。税関が実際に訴えることはないんじゃないかな。「訴えてやる!」なんていう捨て台詞はドイツに住んでいる時よく聞いたし、言われた。でも実際に訴えた人はいなかったよ。相手を威嚇するための陳腐な台詞だ。

それだけ税関が高飛車に出る背景には、彼らが触れて欲しくない何かがあるからじゃないだろうか。たとえばピアノが楽器なのかアンティーク品なのかということ。その点は大いに議論の余地があるところと思うが、彼らはそれを議論したくないわけだろう?実際に法廷に持っていくには税関は君が意図的に嘘をついたことを証明しないといけない。しかし、ピアノは楽器として使われていたわけだし、それを証言してくれる人は大勢いる。もし法廷で争うことになったら、負けるかもしれないと税関は考えているのではないかな。だからそんなに威圧的な態度をとるんだと思うよ。

無実の市民を訴えて税金を無駄遣いするとはひどい奴らだ。少し痛い目に遭わせてやらないと気が済まない。新聞記者に知り合いはいないのか?その事例を話したらどうだ?税関の態度も変わるだろう。というのが私の意見だが。。確信はないけど彼らも黙るんじゃないか。

8月28日夜 Mから私へ

心強い言葉をありがとう。心に留めておくよ。生徒の父親が有名な弁護士だから電話した。24時間以内に物事はもう少し明確になるだろう。

8月28日夜 私からMへ

経験上、実際に法廷で戦った経験のある人は示談でことを収めようとするものだ。というのも法廷で争うというのは大きなストレスを引き起こすからね。「訴えてやる」なんていう台詞は無知な輩が使う脅し言葉だよ。

(つづく)Mとその家族がマルタを発ちイギリスに向かうまであと6日

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