伝統文化の継承とAI

「伝統文化の継承とAI ー 手仕事の技を現代に生かすには」と題した文章を人工知能学会誌 Vol. 32 No. 3 (2017/05)に寄稿した。
人工知能学会誌 2017年第3号(5月号)表紙

「人文科学とAI」という特集の一部として掲載されている。企画した古崎 晃司氏が紹介文を書いて下さった。

「人工知能と人文科学との相補的な関係に焦点を当て,人文科学のいくつかの分野における人工知能研究の位置付けと研究動向を解説するとともに,研究事例を紹介する」

という意欲的な企画である。

本稿ではスキルサイエンスの応用について、編み物を題材に考察する形をとっている。スキルサイエンスの研究では人の巧みさ(動きや感覚など)を調べてきたが、その成果をどのように活かすかという部分がまだ弱い。「達人の技の研究」が一般人にどのような恩恵をもたらすのかを考えてみた。一般人といっても対象は趣味を楽しむ人になるのだが、手仕事が好きな人が趣味をより一層楽しめる方法を提供することで、「すそ野」を広げ、それを生業とする人たち(プロ)の生活を安定させるといったようなことを書いた。現代的な要素を考慮すると、Fab LabとかMake: といった自作を楽しむ活動への貢献を模索することにつながる。(その点については書いていないけど。)伝統工芸を生業としていくのは経済的に苦しい面もあるので、そういったところをどうしたら改善できるのか、人工知能技術がどのように役立てられるのかを考えてみた。

原稿では伝統工芸の「伝統」にも言及した。伝統を担うのは地域、およびそこで暮らす人たちであるが、地域に根ざした組織的な(精神)活動の重要性に触れ、研究対象の核はそこにあるのではないかと指摘した。組織的な活動といってもスキルサイエンスからのアプローチなので、実践的な取り組み、体を動かしての活動に着目している。そういうことを考えるのに編み物というのはよい素材であった。地域ごとに独自の発展を遂げてきているので。地域で受け継がれてきた伝統の技を活かすことを強調した。観光客向けにお土産を売るだけではない、別の活かし方があるはずと思う。

図書館に置かれているかもしれないので見かけたら読んでみてください。注文して買って頂けるとなおありがたいです。(ちょっと高めですが。。)この前の号では特集を担当していたので、結構長い期間(10ヶ月くらい)学会誌に関わることとなりました。(編集委員としての最後の仕事だったのですが、任期終了後の仕事が長かった。)僅かながら反応も聞こえてきており、うれしい限りです。久しぶりに原稿の締め切りがない状態になり、GWは落ち着いて過ごせました。

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