Daily Archives: 2013年11月22日

a cold front

One good thing to be on top of the hill is that you can observe how a cold front approaches from north to south. Another good thing is that you can observe thunders. We are unlucky today as there is no thunderstorm.

a view from JAIST

a view from JAIST

出会い

最初にMに会ったのは2011年3月末、マルタ大学にて講義を担当した時だった。その時はサンバ演奏や陶芸の菊練りなど身体知の研究を概説した。Mは教室の隅に座って熱心に私の話を聴いており、講義終了後に近寄ってきてサンバの演奏分析についてコメントしてくれた。ジャズドラマーであること、音楽学部で講師を務めていることなどがわかった。リズム演奏の熟練者である彼の意見は非常に興味深く、ぜひまた会って話したいと思った。

次に彼に会ったのは、一年後の2012年3月末である。マルタ滞在中に少し時間がとれたので連絡を取ったところ、自宅に招いてくれた。訪ねたのは3月30日金曜日の午後だった。Mの家は築後100年ほど経っている邸宅で、湾が見える高台にあった。家の中に案内されて、入り口すぐ横の部屋にピアノがあった。

明るい色調で木目が綺麗なグランドピアノだったので興味を持ち、近づいてみるとかなり古いものであることがわかった。許可を得て鍵盤に触ってみるとタッチが独特で弾くのが難しい。試しにショパンのバラードを弾いてみたが、指が滑らかに動かず戸惑った。弾きこなすのが難しそうだったが、寄せ木細工の美しい筐体が印象に残った。

また一年後、2013年4月下旬から3ヶ月マルタに滞在することとなる。マルタ滞在中、何度かMに連絡をとったが、彼の授業を一度聴講できただけだった。そうこうするうちに引っ越しの予告と不要な家財を売る旨が彼のfacebookに掲示される。引っ越しの準備で忙しいとわかった。そうであれば彼が引っ越してしまう前に会っておきたい。

結局、Mの家を訪れたのは6月30日だった。マルタに来て既に二ヶ月が過ぎている。そして帰国まで一月を切っていた。娘の教育のため家族と共にイギリスに渡るのだという。引っ越し準備で家は入り口すぐのところから廊下に段ボールが積み上げられている。ピアノは同じところに置かれていた。ピアノの行く末が気になったので尋ねてみたところ、フランスの業者に連絡をとったとのこと。それ以上は聞かず、二時間ほど研究の話をして帰った。

その後7月初旬はスロヴェニアに行く用事があり、一週間ほどマルタを離れた。会議を終えてマルタに戻ったのは7月5日金曜日の夜だった。しばらくマルタを離れていたら海が恋しく、妻を誘って外に出た。自分たちのアパートから海岸まで徒歩で一分。週末の夜だからであろう、大勢の人が遊歩道を歩いている。アパートから表通りに出て左に折れ、右手に海を見ながら歩いていくと、どこかから誰かが喚いているのが聞こえた。「オーイ、ソコノニホンジン!オーイ」

振り返ってみるとMだった。奥様と二人で犬の散歩のようだ。「フジナミサン、オゲンキデスカ」と話しかけてきた。彼は日本を何度か訪れており、親日家である。家においでよ、ディナーを一緒にどうだと誘ってくれた。いつ日本に帰る?と聞かれて17日と答える。あと10日ほどだ。わかった、また連絡しあおう、良い夜を!と言葉を交わして別れた。(進行方向が逆だったので。)

そこから逡巡が始まる。ピアノはフランスに行くらしいが、まだ売るとは決めていない。としたらそれを手に入れられる可能性があるだろうか。しかし古いピアノだ、そう簡単には持ってこられない。少なくとも鍵盤に使われている象牙は輸入禁止のはず。そこのあたりの規制はどうなっているのか。それから輸送は?費用はどのくらいかかるのか。日本まで小包を送ろうとしたら航空便しか取り扱いがなかった。船便はない。ピアノも日本まで飛行機で運ぶことになるのか。とてつもない送料がかかるんじゃないか。

そんなことを土曜日、日曜日、月曜日、火曜日、水曜日と五日間考え続けた。調べてみたところ、象牙の方はなんとかなるらしい。ワシントン条約によって規制されているが、条約が施行される前に製造されたものは例外として扱われ、輸出入できるとわかった。ワシントン条約ができたのは1970年代からだから、1884年製造のピアノは何ら問題なく例外扱いだ。そこは問題ないとして、あとは。。。。

あとは現物に触って確かめてから考えることにした。もし年代物のピアノを手に入れるとしたら今がその機会だ。この機会を逃したら次はもうないだろう。そう思うと、是が非でもあのピアノに触れなければならないという思いが強くなった。気持ちはほぼ固まっている。あとは確認するだけだ。

10日水曜日夜にMに連絡をとり、ピアノを弾いてみたい旨伝えた。ところが引っ越し準備で忙しいようでなかなか会えない。スケジュール調整だけで無為に日が過ぎていった。もう機会はないかと諦めかけたが、15日月曜日にMから電話がかかってきてピアノに触れられることになった。マルタを発って帰国するまで、残り二日だった。